廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

見た目はイケてないのに名盤になった作品 ~その2~

2020年03月22日 | Jazz LP (United Artists)

Art Farmer / Brass Shout  ( 米 United Artists UAL 4047 )


酷いジャケットである。あまりに酷い。なんで金粉ショーなんだ? 金管楽器が叫んでいるつもり? ファーマーのジャケットは酷いものが多いが、
これはその中でも際立っている。これじゃ、誰も買うわけない。ファーマーはツイてない。本人の能力とは関係ないところで足を引っ張られている。

でも、これはベニー・ゴルソンの劇的なアレンジを愉しむためのアルバムで、実に素晴らしい内容だ。冒頭の "Nica's Dream" のカッコよさは筆舌に
尽くし難い。ゴルソンの編曲はどうすれば原曲がより魅力的にレベルアップするかに腐心していて、彼から見て不十分に思える原メロディーの箇所に
新しい旋律で上書き補充しているようなところがある。それが原曲にダブル・ミーニングを持たせる効果をもたらしている。そういうメロディーを
最重視するスコアだから、ファーマーのようなリード奏者にはうってつけだと思う。

リー・モーガンやカーティス・フラーがリードを取る箇所もあって、豪華な顔ぶれによるジャズのフィーリングに満ち溢れたサウンドが素晴らしい。
アンサンブルにはアラも見られるけれど、常設のバンドではないんだから当たり前の話だろう。重要なのは全体を覆うマイナー・ムードである。

小編成のコンボでは決して出せない、ラージ・アンサンブルだけに許された重層的な快楽を与えてくれる。ギル・エヴァンスの抽象性とは違い、
ゴルソンのわかりやすさには普遍性があり、誰にでも受け入れられる。簡単なようで、これができる人は多くない、稀有な才能だ。

ファーマーのソロのスペースはさほど多くはないが、これはそこにこだわる必要はなく、全体観を愉しむ内容だ。ジャズが如何にもジャズらしい
雰囲気を持っていた時代の空気をたくさん吸った素晴らしい音楽が鳴り始めると、ジャケットのことは忘れてしまう。

コメント
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