Thelonious Monk / The Unique ( 米 Riverside RLP 12-209 )
セロニアス・モンクを世間に再発見させるためにキープニューズが最初にやったのは、「わかりやすいモンク」のアルバムを制作することだった。
ところが、結果から見ると、これはあまり上手くいかなかった。 エリントン集が大人し過ぎる演奏に終始したからか、第2作のこのスタンダード集では
モンク本来の個性がフルに発揮された演奏の側に倒されていて、スタンダード集としては却ってわかりにくい内容になっている。
モンクはかなりやりたい放題の演奏をしているけれど、それと同時に細心の注意を払って音階を丁寧に外しているのもよくわかる。 ピアノの弾き方がどことなく
たどたどしく聴こえるのは下手だからではなく、常に意識的に音階を外しているからどうしても流暢な弾き方にはならないのだ。 それにしても、徹頭徹尾、
破たんすることなく音を外していくその集中力は素晴らしい。 それに、よく聴けば細かいところに色んなこだわりも見て取れる。
例えば、インストの演奏で "Tea For Two" をヴァースから始めるのは珍しい。 この曲はヴァースのメロディーが本編よりも美しいという、ちょっと変わった
構造をしているけど、そういうところをきちんと取り込んでいる。 また、ここで選ばれた曲はどれも旧い時代の曲ばかりで、ちょっとでも手を抜くと全体が
退屈な雰囲気に堕してしまうけれど、ここにはそういうところは微塵もなく、非常に新鮮な音楽に化粧直しされている。 そういうグリップの仕方も上手い。
モンクの作品の中ではあまり評価されているとは言えないけれど、私にはかなりよくできた演奏に思える。 第一、モンクがピアノトリオという形式で臨んだ
完全スタンダード集はこれ1枚だけなのだ。 そういう意味でも、このアルバムは "ユニーク" だと言える。
尚、このレコードも先のエリントン集と同じく、ヴァン・ゲルダー・スタジオで録音されたにもかかわらず、RVGはカッティングしていない。 音の傾向は
エリントン集と同じで、ピアノはピアノ本来の音の自然な色合いと響きを放っていて、私にはこのほうが好ましい。 この音のほうが音楽により没頭できる。
Prestige、Riversideのモンクを論じた評論はたくさんありますが、一連の評論はピカイチですね。とても参考になります。
こうやってまるまるスタンダードをやると、他のピアニストとの比較が容易になります。 よく聴くと、モンクのピアノ弾きとしての力量がわかります。 もっとそういうところに気付いてあげたらいいのに、と寂しい気がします。