廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

V.Aは面白い

2020年08月06日 | Jazz LP (Decca / Coral)

V.A / Jazz Studio 2 From Hollywood  ( 米 Decca DL 8079 )


西海岸のジャズメンによるスタジオ・セッションで、リーダー名義のない形でアルバム化されている。ハーブ・ゲラー、ドン・ファガーキスト、マーティー・ペイチ、
カーティス・カウンスなどお馴染みの面々で、どういう演奏なのは聴く前から想像がつく。ガチガチのアレンジが効いたいつもの感じならスルーだなと
思ったが、これがちょっと違う雰囲気だった。

穏やかで高級な生地のような柔らかく上質な肌触りが心地よい。セッション系の演奏にありがちな自分の持ち場が来るとバリバリと演奏するような人は
誰もおらず、みんなが上品な演奏に終始している。このメンツによる演奏では、これまで聴いたことがことがないような優美なムードだ。

こういうのはやはりレーベルの違いによる影響だろうと思う。ベツレヘムなんかだどこうはならなかったんじゃないだろうか。アレンジがペイチではなく、
ジョン・グラースが担当していることも違いを生んでいるのかもしれない。フレンチ・ホルン奏者ならではの柔らかい音の響きを全体に求めたような感じだ。

ハーブ・ゲラーのアルトがアート・ペッパーを思わせる仕上がりで、吹き過ぎず、明るく艶のある音色で、今まで聴いた中では1番いい演奏じゃないかと思う。
トロンボーンのミルト・バーンハートもよく歌っているし、どの奏者もいい演奏をしている。

デッカにはこの "Jazz Studio" シリーズは他にもあったと記憶する。確か違うメンツによるセッションだ。メンバーが違えば当然内容も変わってくるので、
聴いてみなければわからないけれど、少なくともこのアルバムは大当たりといっていい。V.A のアルバムも聴く価値は十分ある。


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ジャズが本当に好きな人が作ったアルバム

2020年08月04日 | Jazz CD

Kurt Rosenwinkel / Angels Around  ( 日本 Heartcore Records MOCLD-1028 )


この何年か聴くこともなく過ごしていたら、いつの間にか "ジャズ・ギターの皇帝" なんて呼ばれるようになっているらしい。何だかなあ。

コロナの第一波時は新譜CDの店頭試聴ができなくなったのでCDを手に取ることもない日々だったけれど、最近は店頭でも試聴できるようになったので、
気になるものは聴くようにしている。いろいろ聴いた中ではこれがよかったので、久し振りにこの人を聴いている。

私の好きなモンクの "Ugly Beauty" で始まる時点で合格なんだけど、そういう個人的な嗜好を除いても、このギター・トリオのいい意味でざっくりとした、
荒々しさを上手く演出したような上質さはなかなか得難いんじゃないかと思う。ギター、ベース、ドラムという3人の演奏を聴いていると、東京ドームで観た
ザ・ポリスの再結成コンサートを思い出す。アンディ・サマーズが独特な音色で一生懸命ギターを弾いていて、ちょうどこういう感じだった。

これを聴いていて感じるのは、意外なくらいオーソドックスなジャズの質感だ。外見的にはジョン・スコフィールドなんかに近いのかもしれないけれど、
そういう先人たちはもっと意図的に捻じれていたのに対して、カートの方はもっと自然なジャズのフィーリングが漂っている。イマドキのジャズは、
何と言うか、ジャズという音楽を肯定的に捉えているように感じる。

私にはラップと融合することにジャズの明るい未来があるとは思えないし、他のどのジャンルへの接近も同様だ。いろんなヴァリエーションがあるのは
いいと思うけれど、それらはあくまでも周辺の出来事であって、ジャズはあくまでもジャズとして発展していくんだろう。

その際に、こういうジャズ固有のフィーリングみたいなものは必要なんじゃないだろうか。この人の音楽に特に精通しているわけではないけれど、
このアルバムにはケニー・バレルがヴィレッジ・ヴァンガードでクールにキメていたあの頃の音楽と変わらない何かがあると思う。

何より、このアルバムはジャズメンたちの知られざるオリジナル曲をメインに置いているのがいい。
ジャズを聴くのが本当に好きな人しか知らないような楽曲だけが並んでいるのがカッコイイと思う。


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クオリティーの高さに驚かされる

2020年08月02日 | Jazz LP (Vanguard)

Bill English / S/T  ( 米 Vanguard VRS-9127 )


ビル・イングリッシュと言われても、ケニー・バレルの "ミッドナイト・ブルー" でドラムを叩いていた人、くらいの知識しかない。ジャズのドラムは他の楽器と
比べて個性の出にくい楽器なので、ドラマーのリーダー作は結局のところはドラムをメインで聴くというよりはバンド全体で聴くことになる。そうなると、
参加しているメンバーによって内容が左右されることになるが、このアルバムは地味ながらも実力派が揃っているので問題ない。

その中でも、セルダン・パウエルの好演が圧倒的で、これは彼の代表作と言ってもいいのかもしれない。ヴァンガードの中間派というイメージとは違う
正統派のメインストリームを行く演奏で、デイヴ・バーンズの控えめなサポートのおかげもあって彼のテナーが非常に映える内容になっている。
引き締まった魅力的な音色、適切なフレージングで強い知性を感じる。

楽曲も翳りのあるいい物が揃っていて、音楽的な満足感が高い。ビル本人やセルダン・パウエルが書いたオリジナル曲の出来が良く、それをしっかりした
演奏力が支えているので、聴いていてこれは何気にすごいぞ、と感心してしまう。ヴァンガードは音質もいいので、演奏が前に飛び出してくる感じがあり、
演奏が非常に生々しい。

ビルのドラムも控えめながらキレのいいリズムを刻んでいて、音楽が活き活きしている。63年の制作なので、ありふれたハード・バップからは一皮剥けた
洗練さがあり、ジャケットから受ける印象よりはもっとみずみずしい。お世辞にもよく知られたアーティストとは言えないにもかかわらず、こんなにも
クオリティーの高いアルバムを残しているところに、この音楽の強い力を感じてしまう。


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"ジャズの街" に集まった Various Artists

2020年08月01日 | Jazz LP (Bethlehem)

V.A / Jazz City Presents・・・・・  ( 米 Bethlehem BCP-80 )


エサ箱のアーティスト名を書いた仕切りはたいていアルファベット順に並んでいるけれど、その末席に "V.A" というのがある。これは Various Artists の略で、
誰かのリーダー作ではなく、複数のアルバムからの寄せ集めだったり、ベスト盤のようなアルバムがここには入れられることになるんだけれど、その性格上、
再発盤が多いことや作品としての統一感がないことから、マニアからは相手にされない一画になっている。

でも、それにしか収録されていない楽曲ばかりで構成された立派なオリジナル作品も中にはあって、それはそれで面白い。人気がない分野だからレコードが
出回ることが少なく、今度いつ出会えるかわからなかったりするものだから、見かけたらこうして拾うことになる。

これはベツレヘムと契約していたアーティストたちが一堂に会して、ジャム・セッション的に録音した楽曲で構成されたアルバムで、珍しい顔ぶれとなっている。
セールスなど気にすることなく、やりたいことをやりたいようにやった感があって、これがなかなかいい。

冒頭、ドン・ファガーキストがラッセル・ガルシア指揮の弦楽四重奏団をバックにワンホーンで歌う "I'm Glad There Is You" で始まる。ファガーキストは一流とは
言えないトランペッターかもしれないが、これが大変味のある演奏をしていて、心に刺さるのだ。ビッグ・バンドでの活動がメインだったのでリーダー作は少ない
けれど、ワンホーンのアルバムを聴いてみたかったと思わせるとてもいいプレイだ。こういうアルバムでしかその実像を覗くことはできないのかもしれない。

チャーリー・マリアーノとフランク・ロソリーノのクインテット、ペッパー・アダムスとハービー・ハーパーのオクテットなどが続くが、どれもその場の即席チーム
ながら、ゆるくも朗らかな演奏をしており、なぜかすべてが心に残る。不思議なものだ。

名も無きレコードだけど、聴くことが出来てよかったな、と思わせてくれる。こういうのが拾えてラッキーだった。


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