[時期不明 時刻不明 場所不明 マリアンナ・スカーレット]
死屍累々のスクールメイト達。
全員がマリアの復讐劇によって、地獄界に叩き落とされた者達だ。
茫然とするマリアの後ろから、黒い影が話し掛けてくる。
「これで復讐は全て完了した」
「ベルフェゴール……」
それは7つの大罪のうちの1つ、“怠惰”を司る悪魔、ベルフェゴールだった。
「この復讐の成功は、私の力添えによるものが大きいと見るが……どうかな?」
「……分かってる。あなたは私の何が欲しいの?何でもあげるわ」
マリアは悪魔と契約し、それで計画を全て成功させることができた。
だから魂でも血でも肉体でも、全てを捧げる覚悟をしていた。
地獄の業火の苦しみを味わえというのならそれでもいい。
「殊勝だな。最初に言ったはずだ。『契約者に無理な報酬は請求せぬ』と」
「何が欲しいの?」
ベルフェゴールは黒い唇を歪ませ、牙を覗かせて言い放った。
「では、魂を頂こう」
(やっぱり……)
ベタな悪魔の契約の法則だとマリアは思った。
無論そんなこと想定済みで、目の前に回った悪魔と契約したのだ。
だがその直後、悪魔は耳を疑うようなことを言った。
「但し、お前のではない」
「は?」
「アンジェラ・ヒロタの魂を頂こう!なに、心配いらん。お前が首を縦に振れば、自動的に魂は抜けるようにしてある!お前にとっては痛くも痒くも無いことだ。契約者の命を請求することは、『無理な報酬の請求』に相当する。従って、他人の魂を頂こうというのだ。これほどの好条件があるか!?」
「ちょ、ちょっと待って!何でアンジェラなの!?どうして私じゃダメなの!?私は自分の魂を取られることはいいの!別にムリだとは思ってない!」
「理由は述べる必要は無い。そして、報酬の支払い方法の指定権は我にある。契約者には無い」
「そんなの聞いてないよ!?」
「お前、『報酬は何でも払う』と言ったではないか?」
「言ったけど……」
「ならば、従え」
「お願い!アンジェラだけはやめて!アンジェラは……アンジェラだけは、私の味方になってくれたコなの!」
「では……お前は支払いを拒むというのかね?」
「他のもの!私の魂でも血でも体でも、私のものなら何でも払うわ!だからアンジェラの魂はやめて!」
「ふむ……」
悪魔は右手を顎にやり、しばし考え込んだ。
そして、
「ダメだ」
……ドシャッ!!
「!!!」
背後から何かが落ちて来た音がした。
急いで音がした方を見ると、そこには……。
「アンジェラ!?」
アンジェラ・ヒロタの転落死体があった。
「愚かな娘よ。首を縦に振れば、せめて眠っている最中に苦しまずに魂だけ抜き取り、遺体はきれいなままだったものを……。契約満了。では、さらばだ!」
[7月3日06:00.長野県内某所にあるマリアの屋敷 マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]
「……!!」
そこで目が覚めた。
(またあの夢か……)
契約が満了しても悪魔に取り憑かれていた頃の後遺症は抜けない。
大抵は精神がやられるそうだ。
マリアは自分の復讐劇の為に悪魔と契約してしまい、最終的には親友を悪魔に殺された自責の念に苛まされ、飛び降り自殺を図った。
そして地面に激突死する直前、弟子候補を探していたイリーナの魔法によって救い出され、そのままイリーナに弟子入りした。
「ああ、ミカエラ。いや……大丈夫だから」
ミク人形が心配そうに女主人たるマリアの顔を覗き込んできたので、マリアは頭を撫でてやりながら答えた。
「……そうか。昨夜から師匠が泊まってるんだったね。どうせまた『あと5分』を1時間以上繰り返すだろうから、無理に起こさなくていいよ。私は起きるけど……」
[同日08:00.同場所・ダイニング マリアンナ・スカーレット&イリーナ・レヴィア・ブリジッド]
「また昔の夢を見たの?」
「えっ?」
一緒に朝食を取っていると、イリーナが話し掛けて来た。
「昨夜、うなされてたみたいだよ?」
「ええ、まあ……。ベルフェゴールのヤツ、卑怯ですよ。他人の魂を狙うなんて……!」
「まあ、悪魔って大概そういう仕掛けを施してくるからねぇ……。どうせ突っ込まれないように、最初からマリアの魂が欲しいなんて言わなかったでしょ?」
「そりゃそうですけど……」
「悪魔ほど交渉に長けたビジネスマンはいないからね。奴らがタッグを組んだら、世界中の契約書が集まるわよ」
「私が魔道師になってから取り憑いたヤツは、随分と腰が低かったですけど……」
「まあ、同じ悪魔でも、相手が人間と魔道師じゃ全然違うからね。人間に対しては、いかに騙して自分が得するかが勝負だけど、魔道師だと使われてナンボだからね。つまり人間なら『契約してやる』って上から目線だけど、魔道師なら『是非、私と契約を!』だからね。ベルフェゴールがあなたから離れた今、他の悪魔があなたとの契約を手ぐすね引いて待ってるよ」
「師匠、もし私が正式に免許皆伝になったら、今度は別の悪魔を?」
「いや……。1番あなたと相性がいいのは、やっぱりベルフェだから。人間だった頃にそいつと契約したってのは大きいよね」
「エレーナは何になるんでしょう?」
「一応、“強欲”の悪魔、マモンで話を進めてるみたいよ。だから今、こっちに売り込みに来てるのはそれ以外の悪魔だね」
「へえ……」
「まあ、ポーリンも気難しいヤツだから。免許皆伝はまだ先の話じゃない?悪魔にとっては不景気だから、内々定でも魔道師との契約が取れれば大きいのよ」
「そうなんですか」
「そうなの。私なんか“嫉妬”の悪魔と契約してるわけだけども、おかげでそいつ、魔王城の地下で優雅な暮らしをしてるみたいよ」
「封印されてるんじゃ……?」
「まあ、人間界での封印と魔界での封印は意味合いが違うから……」
「そうですか。あの、それより、もう7月になったことですし、謹慎は……」
「慌てない慌てない。ユウタ君が夏休み初日に遊びに来るでしょう?これを以て、あなたの謹慎は解除にするから。ユウタ君の合図を待ちなさい」
禁忌の魔法を使ったのに寛大な処分だと思うが、一応表向きの理由として、
『必要に迫られたとはいえ、処分を下した師匠イリーナもその後、禁忌の魔法を使ったこと』
『反発せずに神妙に処分を受け入れる姿勢を取ったことで、反省の念があると見られたこと』
『大師匠からの処分(1人前の証であるミドルネームの剥奪、即ち見習への降格)も素直に受けたこと』
が挙げられる。
本来なら、ユタが生きている間ずっと屋敷に閉じ込める処分でもいいくらいなのだ。
「はい……」
「うん、マリアは素直でいいコだね」
イリーナは大きく頷いた。
(ヘタすりゃ、私も大師匠から処分されるところだったし)
必要に迫られたとはいえ、イリーナもまた禁忌の魔法を使ったことは大師匠の目にも留まっていた。
が、大師匠の審判は、
『それによる不都合が発生した場合、全て自己責任で対処すること』
であった。
「ほんと、人間界って退屈しない所だわ」
「? はあ……」
ユタが夏休みに入るまで、あと【作者、低学歴のため、お察しください】。
死屍累々のスクールメイト達。
全員がマリアの復讐劇によって、地獄界に叩き落とされた者達だ。
茫然とするマリアの後ろから、黒い影が話し掛けてくる。
「これで復讐は全て完了した」
「ベルフェゴール……」
それは7つの大罪のうちの1つ、“怠惰”を司る悪魔、ベルフェゴールだった。
「この復讐の成功は、私の力添えによるものが大きいと見るが……どうかな?」
「……分かってる。あなたは私の何が欲しいの?何でもあげるわ」
マリアは悪魔と契約し、それで計画を全て成功させることができた。
だから魂でも血でも肉体でも、全てを捧げる覚悟をしていた。
地獄の業火の苦しみを味わえというのならそれでもいい。
「殊勝だな。最初に言ったはずだ。『契約者に無理な報酬は請求せぬ』と」
「何が欲しいの?」
ベルフェゴールは黒い唇を歪ませ、牙を覗かせて言い放った。
「では、魂を頂こう」
(やっぱり……)
ベタな悪魔の契約の法則だとマリアは思った。
無論そんなこと想定済みで、目の前に回った悪魔と契約したのだ。
だがその直後、悪魔は耳を疑うようなことを言った。
「但し、お前のではない」
「は?」
「アンジェラ・ヒロタの魂を頂こう!なに、心配いらん。お前が首を縦に振れば、自動的に魂は抜けるようにしてある!お前にとっては痛くも痒くも無いことだ。契約者の命を請求することは、『無理な報酬の請求』に相当する。従って、他人の魂を頂こうというのだ。これほどの好条件があるか!?」
「ちょ、ちょっと待って!何でアンジェラなの!?どうして私じゃダメなの!?私は自分の魂を取られることはいいの!別にムリだとは思ってない!」
「理由は述べる必要は無い。そして、報酬の支払い方法の指定権は我にある。契約者には無い」
「そんなの聞いてないよ!?」
「お前、『報酬は何でも払う』と言ったではないか?」
「言ったけど……」
「ならば、従え」
「お願い!アンジェラだけはやめて!アンジェラは……アンジェラだけは、私の味方になってくれたコなの!」
「では……お前は支払いを拒むというのかね?」
「他のもの!私の魂でも血でも体でも、私のものなら何でも払うわ!だからアンジェラの魂はやめて!」
「ふむ……」
悪魔は右手を顎にやり、しばし考え込んだ。
そして、
「ダメだ」
……ドシャッ!!
「!!!」
背後から何かが落ちて来た音がした。
急いで音がした方を見ると、そこには……。
「アンジェラ!?」
アンジェラ・ヒロタの転落死体があった。
「愚かな娘よ。首を縦に振れば、せめて眠っている最中に苦しまずに魂だけ抜き取り、遺体はきれいなままだったものを……。契約満了。では、さらばだ!」
[7月3日06:00.長野県内某所にあるマリアの屋敷 マリアンナ・
「……!!」
そこで目が覚めた。
(またあの夢か……)
契約が満了しても悪魔に取り憑かれていた頃の後遺症は抜けない。
大抵は精神がやられるそうだ。
マリアは自分の復讐劇の為に悪魔と契約してしまい、最終的には親友を悪魔に殺された自責の念に苛まされ、飛び降り自殺を図った。
そして地面に激突死する直前、弟子候補を探していたイリーナの魔法によって救い出され、そのままイリーナに弟子入りした。
「ああ、ミカエラ。いや……大丈夫だから」
ミク人形が心配そうに女主人たるマリアの顔を覗き込んできたので、マリアは頭を撫でてやりながら答えた。
「……そうか。昨夜から師匠が泊まってるんだったね。どうせまた『あと5分』を1時間以上繰り返すだろうから、無理に起こさなくていいよ。私は起きるけど……」
[同日08:00.同場所・ダイニング マリアンナ・スカーレット&イリーナ・レヴィア・ブリジッド]
「また昔の夢を見たの?」
「えっ?」
一緒に朝食を取っていると、イリーナが話し掛けて来た。
「昨夜、うなされてたみたいだよ?」
「ええ、まあ……。ベルフェゴールのヤツ、卑怯ですよ。他人の魂を狙うなんて……!」
「まあ、悪魔って大概そういう仕掛けを施してくるからねぇ……。どうせ突っ込まれないように、最初からマリアの魂が欲しいなんて言わなかったでしょ?」
「そりゃそうですけど……」
「悪魔ほど交渉に長けたビジネスマンはいないからね。奴らがタッグを組んだら、世界中の契約書が集まるわよ」
「私が魔道師になってから取り憑いたヤツは、随分と腰が低かったですけど……」
「まあ、同じ悪魔でも、相手が人間と魔道師じゃ全然違うからね。人間に対しては、いかに騙して自分が得するかが勝負だけど、魔道師だと使われてナンボだからね。つまり人間なら『契約してやる』って上から目線だけど、魔道師なら『是非、私と契約を!』だからね。ベルフェゴールがあなたから離れた今、他の悪魔があなたとの契約を手ぐすね引いて待ってるよ」
「師匠、もし私が正式に免許皆伝になったら、今度は別の悪魔を?」
「いや……。1番あなたと相性がいいのは、やっぱりベルフェだから。人間だった頃にそいつと契約したってのは大きいよね」
「エレーナは何になるんでしょう?」
「一応、“強欲”の悪魔、マモンで話を進めてるみたいよ。だから今、こっちに売り込みに来てるのはそれ以外の悪魔だね」
「へえ……」
「まあ、ポーリンも気難しいヤツだから。免許皆伝はまだ先の話じゃない?悪魔にとっては不景気だから、内々定でも魔道師との契約が取れれば大きいのよ」
「そうなんですか」
「そうなの。私なんか“嫉妬”の悪魔と契約してるわけだけども、おかげでそいつ、魔王城の地下で優雅な暮らしをしてるみたいよ」
「封印されてるんじゃ……?」
「まあ、人間界での封印と魔界での封印は意味合いが違うから……」
「そうですか。あの、それより、もう7月になったことですし、謹慎は……」
「慌てない慌てない。ユウタ君が夏休み初日に遊びに来るでしょう?これを以て、あなたの謹慎は解除にするから。ユウタ君の合図を待ちなさい」
禁忌の魔法を使ったのに寛大な処分だと思うが、一応表向きの理由として、
『必要に迫られたとはいえ、処分を下した師匠イリーナもその後、禁忌の魔法を使ったこと』
『反発せずに神妙に処分を受け入れる姿勢を取ったことで、反省の念があると見られたこと』
『大師匠からの処分(1人前の証であるミドルネームの剥奪、即ち見習への降格)も素直に受けたこと』
が挙げられる。
本来なら、ユタが生きている間ずっと屋敷に閉じ込める処分でもいいくらいなのだ。
「はい……」
「うん、マリアは素直でいいコだね」
イリーナは大きく頷いた。
(ヘタすりゃ、私も大師匠から処分されるところだったし)
必要に迫られたとはいえ、イリーナもまた禁忌の魔法を使ったことは大師匠の目にも留まっていた。
が、大師匠の審判は、
『それによる不都合が発生した場合、全て自己責任で対処すること』
であった。
「ほんと、人間界って退屈しない所だわ」
「? はあ……」
ユタが夏休みに入るまで、あと【作者、低学歴のため、お察しください】。