[7月18日12:00.長野県某所にあるマリアの屋敷・応接室 イリーナ・レヴィア・ブリジッド&ポーリン・ルシフェ・エルミラ]
「あの男をあなたの弟子にですって?」
ロングのウェーブの掛かった金髪に碧眼の魔道師は、妹弟子を見据えた。
赤毛のセミロングで緑色の瞳をしている。
「そ。私の見立てでは、高僧の生まれ変わりよ。生まれつきの霊力も備わってる。あのまま埋もれさせるには惜しいわ」
姉弟子に見据えられたイリーナは、スマイルを浮かべて弟子が出した紅茶を口に運んだ。
「男が魔道師なんて……!」
「あら?“ハリー・ポッター”知らないの、姉さん?」
「姉さん言うなって言ってるでしょ!……ホグワーツ魔法学校みたいなのが作れたら、師匠だって苦労しないよ」
「知ってんじゃん!今度USJ行ってみたいね」
「無理に決まってるでしょ!」
「作者が西日本に行こうとすると、決まって台風直撃か豪雪で鉄道がストップするもんね」
「何の話!?」
「まあまあ。先生(大師匠)だって、『男手が必要だ』って仰ってたじゃない!」
「それは本当に男の弟子が欲しいという意味で仰ったのかしら?」
「『推して知るべし』がモットーだもんね、あの先生」
「それを自分の都合のいいように解釈して、あんたは勝手なことを散々……」
「あー、はいはい。そのお説教なら、もう359回聞いてるから」
「数えてるんかい!」
「とにかく、魔道師が女だけってのも寂しいからね。“ハリー・ポッター”だって、主人公が男の子だから面白かった部分もあるわけだし……」
「関係あるの、それ?“魔女の宅急便”の主人公は女だよ?」
「姉さんは魔女っ子みたいなコを育てた。その結果がエレーナなら、全然オッケーじゃない」
「子供番組向けの魔女っ子だと思ってナメると痛い目……どころか、命が無くなるほどにね」
ポーリンはニヤリと笑った。
「ま、現実はそんなもんよ。とにかく、私は私の考えがあるから」
「だから邪魔するなとでも?」
「ダメ?」
「フザけるなよ」
[同日21:40.JR大宮駅西口 稲生ユウタ&威吹邪甲]
「フザけるなよ」
大宮駅西口のバスプール内に進入した路線バス。
その車窓から外を眺めた威吹は憎たらしそうな顔で呟いた。
「まあ、しょうがない」
ユタは半ば諦めといった感じだった。
窓の外は豪雨が降っていた。
「はい、威吹。傘持ってー」
「分かったよ」
バスは幸い駅舎に1番近い階段の前で止まった。
降車用の前扉が開き、そこに近づく度に湿っぽい臭いが威吹の鼻をつく。
「わっ!」
バスを降りると同時に、近くで落雷があり、大きな爆発音のような音が響いた。
「いい加減にしろよな……!とんだ嫌がらせだぜ」
何故、威吹が苛立つのか。
話は数時間前に遡る。
[同日15:00.埼玉県さいたま市中央区 ユタの家 稲生ユウタ]
ユタは自宅でマリアからの電話を受けていた。
「え?ポーリン師が?」
{「ああ。ユウタ君が私達と仲良くしているのを快く思わないみたい」}
「何で!?」
{「ほら、うちの師匠があなたを魔道師にしたがってるっていう話はしたでしょう?ポーリン師はそれに反対なのよ。どういうわけだか……」}
「へえ……」
{「私と会うということは、必然的に師匠とも会うことになるわけだから、その時にユウタ君が弟子入りしないか気が気でないみたいなんだ」}
「ポーリン師はポーリン師で、僕を狙ってるということですか?」
{「いや、そうじゃないみたい。私も理解できない考えがあるらしい」}
「ふーん……?よく分かりませんね」
{「それでいい。とにかく、私の家に来るに当たって、ポーリン師からの妨害があるだろうから気をつけてほしい」}
「まさか、大地震を起こすとか?」
{「それはさすがに無いと思う。大師匠からも禁忌とされた魔法で、師匠クラスでも強さや範囲の調節が難しい魔法だ。一応は真面目なポーリン師が、そんなリスクのある魔法を使うとは思えない」}
「……まさか東日本大震災も、それでしたってオチじゃないでしょうね?」
{「それは無い」}
ユタの疑問に、マリアはぴしゃりと否定した。
{「秘密だから詳しくは話せないが、魔界の負の力が作用したとでも言っておく。あれは気の毒だが、私が見ている限りでもどうしようも無かった」}
「そうですか……」
{「何しろ悪魔達が責任を押し付け合う程の騒ぎだったって話だ。普通なら、『オレがやったんだ』と自慢げに話すらしいが、あの震災だけは何故か全員が『オレじゃない、オレじゃない』ばっかりだそうだ」}
(魔界で何が……?)
{「まあ、とにかくうちの師匠の見立てではゲリラ豪雨ではないかと言ってる」}
「ゲリラ豪雨?」
{「ああ。台風だと、発生させてから日本に直撃させるまでブランクがある。しかしゲリラ豪雨なら、師匠クラスであれば割と簡単にその場でできる魔法だそうだ。だから、それに注意してくれ」}
「分かりました」
[同日同時間帯 JR大宮駅埼京線ホーム 稲生ユウタ&威吹邪甲]
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の20番線の電車は、21時49分発、通勤快速、新宿行きです〕
「地下に入るとゲリラ豪雨が嘘みたいだね」
しかし閉じた傘から滴り落ちる水滴が、外の雨の強さを物語っていた。
「ボクにとっては、魔道師同士のケンカにユタが巻き込まれたみたいで、納得行かないんだ」
「まあまあ。何があっても大丈夫。その為に僕は仏法をやってるんだからね」
「お気楽だねぇ……」
「そんなことは無いさ。だいたい、今度乗る電車で行っても、実はバスターミナルにはバスの発車の1時間前くらいには着いちゃうんだ」
「そんなに早く!?そんなに早く着いてどうするの?」
「どうもしないさ。『戦いとは常に二手三手先を読むもの』って、威吹、カンジ君に言ったそうじゃないか」
「まあね」
「これも戦いさ。1時間前に着くようにすれば、例え妨害があって……」
〔「埼京線ご利用のお客様にお知らせ致します。今度の21時49分発、通勤快速の新宿行きですが、川越線内での集中豪雨の影響により、電車が徐行運転を行ったため、遅れております。只今、電車……えー、お隣の日進駅に到着した所でございます。到着までもうしばらくお待ちください。……」〕
「……このように遅延食らったとしても、このくらいならまだ大丈夫!ああ、大丈夫だとも!」
「う、うん。そうだね。頑張ろう!」
ユタと威吹は手を取り合った。
傍から見ればBLだ。アッー!!
[同日21:55.JR埼京線2154S電車10号車内 稲生ユウタ&威吹邪甲]
〔「遅れておりました21時49分発、通勤快速の新宿行き、まもなく発車致します。ドアが閉まります」〕
ようやくユタ達を乗せた通勤快速は、大宮駅の地下ホームを発車した。
「た、多分これで大丈夫……」
「あ、ああ」
〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は埼京線、通勤快速、新宿行きです。停車駅は武蔵浦和、赤羽、十条、板橋、池袋、終点新宿です。次は、武蔵浦和です〕
〔「お客様にお知らせ致します。只今この電車、川越線内におきまして集中豪雨のため、徐行運転を行っておりました。その関係で大宮の駅を6分ほど遅れて発車しております。お急ぎのところ、大変ご迷惑をお掛けしております。……」〕
地上に出た通勤快速を待ち受けていたのは……。
「これ……夕立じゃないよね?」
「う、うん……」
普通、ゲリラ豪雨というのは短時間で発生する強い雷雨のことであるはずだ。
ユタ達がバスに乗って駅に向かって、この電車に乗ってから40分以上経っているのだが、全く止む気配が無かった。
まるで積乱雲がユタ達を追っているかの如くである。
ポロロロ〜ン♪
『川越線 運転見合わせ。川越線は河川増水の影響で、大宮〜川越間の上下線で運転を見合わせております。埼京線との直通運転を中止しております』
「ゆ、ユタ、あれ見て」
威吹が電車の窓の外を指さす。
「え?あれ……?何でそこに止まってんの?新幹線……」
いつもなら埼京線などアウトオブ眼中で追い抜くはずの新幹線が途中で停車しており、埼京線が悠々と追い抜いていった。
ポロロロ〜ン♪
『東北新幹線 運転見合わせ。東北新幹線は21時40分頃に発生した落雷の影響で、上下線で運転を見合わせております』
『上越新幹線 運転見合わせ。上越新幹線は21時40分頃に発生した(ry』
『山形新幹線 運転見合わせ。山形新幹線は21時40分頃に(ry』
『秋田新幹線 運転見合わせ。秋田新幹線は(ry』
『長野新幹線 運転見合わせ。(ry』
「うわ、大変なことに……」
「着いたら、魔道師共に文句言ってやろう」
威吹は右手だけでパキッと骨を鳴らした。
「あの男をあなたの弟子にですって?」
ロングのウェーブの掛かった金髪に碧眼の魔道師は、妹弟子を見据えた。
赤毛のセミロングで緑色の瞳をしている。
「そ。私の見立てでは、高僧の生まれ変わりよ。生まれつきの霊力も備わってる。あのまま埋もれさせるには惜しいわ」
姉弟子に見据えられたイリーナは、スマイルを浮かべて弟子が出した紅茶を口に運んだ。
「男が魔道師なんて……!」
「あら?“ハリー・ポッター”知らないの、姉さん?」
「姉さん言うなって言ってるでしょ!……ホグワーツ魔法学校みたいなのが作れたら、師匠だって苦労しないよ」
「知ってんじゃん!今度USJ行ってみたいね」
「無理に決まってるでしょ!」
「作者が西日本に行こうとすると、決まって台風直撃か豪雪で鉄道がストップするもんね」
「何の話!?」
「まあまあ。先生(大師匠)だって、『男手が必要だ』って仰ってたじゃない!」
「それは本当に男の弟子が欲しいという意味で仰ったのかしら?」
「『推して知るべし』がモットーだもんね、あの先生」
「それを自分の都合のいいように解釈して、あんたは勝手なことを散々……」
「あー、はいはい。そのお説教なら、もう359回聞いてるから」
「数えてるんかい!」
「とにかく、魔道師が女だけってのも寂しいからね。“ハリー・ポッター”だって、主人公が男の子だから面白かった部分もあるわけだし……」
「関係あるの、それ?“魔女の宅急便”の主人公は女だよ?」
「姉さんは魔女っ子みたいなコを育てた。その結果がエレーナなら、全然オッケーじゃない」
「子供番組向けの魔女っ子だと思ってナメると痛い目……どころか、命が無くなるほどにね」
ポーリンはニヤリと笑った。
「ま、現実はそんなもんよ。とにかく、私は私の考えがあるから」
「だから邪魔するなとでも?」
「ダメ?」
「フザけるなよ」
[同日21:40.JR大宮駅西口 稲生ユウタ&威吹邪甲]
「フザけるなよ」
大宮駅西口のバスプール内に進入した路線バス。
その車窓から外を眺めた威吹は憎たらしそうな顔で呟いた。
「まあ、しょうがない」
ユタは半ば諦めといった感じだった。
窓の外は豪雨が降っていた。
「はい、威吹。傘持ってー」
「分かったよ」
バスは幸い駅舎に1番近い階段の前で止まった。
降車用の前扉が開き、そこに近づく度に湿っぽい臭いが威吹の鼻をつく。
「わっ!」
バスを降りると同時に、近くで落雷があり、大きな爆発音のような音が響いた。
「いい加減にしろよな……!とんだ嫌がらせだぜ」
何故、威吹が苛立つのか。
話は数時間前に遡る。
[同日15:00.埼玉県さいたま市中央区 ユタの家 稲生ユウタ]
ユタは自宅でマリアからの電話を受けていた。
「え?ポーリン師が?」
{「ああ。ユウタ君が私達と仲良くしているのを快く思わないみたい」}
「何で!?」
{「ほら、うちの師匠があなたを魔道師にしたがってるっていう話はしたでしょう?ポーリン師はそれに反対なのよ。どういうわけだか……」}
「へえ……」
{「私と会うということは、必然的に師匠とも会うことになるわけだから、その時にユウタ君が弟子入りしないか気が気でないみたいなんだ」}
「ポーリン師はポーリン師で、僕を狙ってるということですか?」
{「いや、そうじゃないみたい。私も理解できない考えがあるらしい」}
「ふーん……?よく分かりませんね」
{「それでいい。とにかく、私の家に来るに当たって、ポーリン師からの妨害があるだろうから気をつけてほしい」}
「まさか、大地震を起こすとか?」
{「それはさすがに無いと思う。大師匠からも禁忌とされた魔法で、師匠クラスでも強さや範囲の調節が難しい魔法だ。一応は真面目なポーリン師が、そんなリスクのある魔法を使うとは思えない」}
「……まさか東日本大震災も、それでしたってオチじゃないでしょうね?」
{「それは無い」}
ユタの疑問に、マリアはぴしゃりと否定した。
{「秘密だから詳しくは話せないが、魔界の負の力が作用したとでも言っておく。あれは気の毒だが、私が見ている限りでもどうしようも無かった」}
「そうですか……」
{「何しろ悪魔達が責任を押し付け合う程の騒ぎだったって話だ。普通なら、『オレがやったんだ』と自慢げに話すらしいが、あの震災だけは何故か全員が『オレじゃない、オレじゃない』ばっかりだそうだ」}
(魔界で何が……?)
{「まあ、とにかくうちの師匠の見立てではゲリラ豪雨ではないかと言ってる」}
「ゲリラ豪雨?」
{「ああ。台風だと、発生させてから日本に直撃させるまでブランクがある。しかしゲリラ豪雨なら、師匠クラスであれば割と簡単にその場でできる魔法だそうだ。だから、それに注意してくれ」}
「分かりました」
[同日同時間帯 JR大宮駅埼京線ホーム 稲生ユウタ&威吹邪甲]
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の20番線の電車は、21時49分発、通勤快速、新宿行きです〕
「地下に入るとゲリラ豪雨が嘘みたいだね」
しかし閉じた傘から滴り落ちる水滴が、外の雨の強さを物語っていた。
「ボクにとっては、魔道師同士のケンカにユタが巻き込まれたみたいで、納得行かないんだ」
「まあまあ。何があっても大丈夫。その為に僕は仏法をやってるんだからね」
「お気楽だねぇ……」
「そんなことは無いさ。だいたい、今度乗る電車で行っても、実はバスターミナルにはバスの発車の1時間前くらいには着いちゃうんだ」
「そんなに早く!?そんなに早く着いてどうするの?」
「どうもしないさ。『戦いとは常に二手三手先を読むもの』って、威吹、カンジ君に言ったそうじゃないか」
「まあね」
「これも戦いさ。1時間前に着くようにすれば、例え妨害があって……」
〔「埼京線ご利用のお客様にお知らせ致します。今度の21時49分発、通勤快速の新宿行きですが、川越線内での集中豪雨の影響により、電車が徐行運転を行ったため、遅れております。只今、電車……えー、お隣の日進駅に到着した所でございます。到着までもうしばらくお待ちください。……」〕
「……このように遅延食らったとしても、このくらいならまだ大丈夫!ああ、大丈夫だとも!」
「う、うん。そうだね。頑張ろう!」
ユタと威吹は手を取り合った。
傍から見ればBLだ。アッー!!
[同日21:55.JR埼京線2154S電車10号車内 稲生ユウタ&威吹邪甲]
〔「遅れておりました21時49分発、通勤快速の新宿行き、まもなく発車致します。ドアが閉まります」〕
ようやくユタ達を乗せた通勤快速は、大宮駅の地下ホームを発車した。
「た、多分これで大丈夫……」
「あ、ああ」
〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は埼京線、通勤快速、新宿行きです。停車駅は武蔵浦和、赤羽、十条、板橋、池袋、終点新宿です。次は、武蔵浦和です〕
〔「お客様にお知らせ致します。只今この電車、川越線内におきまして集中豪雨のため、徐行運転を行っておりました。その関係で大宮の駅を6分ほど遅れて発車しております。お急ぎのところ、大変ご迷惑をお掛けしております。……」〕
地上に出た通勤快速を待ち受けていたのは……。
「これ……夕立じゃないよね?」
「う、うん……」
普通、ゲリラ豪雨というのは短時間で発生する強い雷雨のことであるはずだ。
ユタ達がバスに乗って駅に向かって、この電車に乗ってから40分以上経っているのだが、全く止む気配が無かった。
まるで積乱雲がユタ達を追っているかの如くである。
ポロロロ〜ン♪
『川越線 運転見合わせ。川越線は河川増水の影響で、大宮〜川越間の上下線で運転を見合わせております。埼京線との直通運転を中止しております』
「ゆ、ユタ、あれ見て」
威吹が電車の窓の外を指さす。
「え?あれ……?何でそこに止まってんの?新幹線……」
いつもなら埼京線などアウトオブ眼中で追い抜くはずの新幹線が途中で停車しており、埼京線が悠々と追い抜いていった。
ポロロロ〜ン♪
『東北新幹線 運転見合わせ。東北新幹線は21時40分頃に発生した落雷の影響で、上下線で運転を見合わせております』
『上越新幹線 運転見合わせ。上越新幹線は21時40分頃に発生した(ry』
『山形新幹線 運転見合わせ。山形新幹線は21時40分頃に(ry』
『秋田新幹線 運転見合わせ。秋田新幹線は(ry』
『長野新幹線 運転見合わせ。(ry』
「うわ、大変なことに……」
「着いたら、魔道師共に文句言ってやろう」
威吹は右手だけでパキッと骨を鳴らした。