報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「長野新幹線最終便」

2014-07-25 19:29:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月25日22:20.長野新幹線“あさま”554号7号車内 ユタ、マリア、威吹、イリーナ]

 まもなく北陸へ延伸されようとしている新幹線。
 しかし当の主人公達は、逆方向に向かっている。
 車窓に広がるは真っ暗な闇。
 冥界鉄道公社の自社路線のようだ。
 第2種鉄道事業者としての冥鉄は人間界や魔界の他社線の上を借りて走るが(リアルで言えばJR貨物が代表例)、第1種鉄道事業者としての冥鉄はほぼ全線が専用トンネルとなっている。
 しかし、ここはれっきとした新幹線であり、さしもの冥鉄も新幹線車両は持って……。

 ゴォッ!(←対向列車とすれ違う)

 ……今、200系とすれ違ったような???
 まあ、気のせいということにしておこう。

「えっ、東海道新幹線に?」
「そうなのよ。1990年代……特に前半は魔界の出入口が活発化した時でね、冥鉄も景気が良かったせいなのか、調子に乗って廃車になった古い車両の……」
「0系ですか?」
 ユタはスマホで0系の画像を出した。
 東海道・山陽新幹線、開業当時の車両である。
「そう、それ。それを手に入れて、東海道新幹線の上まで走るようになったの」
「葛西会長が嫌がりそうな話ですね」
「まあ、大丈夫でしょう。当時の社長は須田寛氏だから
「その幽霊0系がどうかしたんですか?」
「冥鉄の連中、新幹線なんて初めて手を出すものだから、0系を制御しきれなくてね。何でも、指令センターからの信号?を送る方式ってのに慣れてなくて……」
「ATC(自動列車制御装置)だ!」
「暴走して、本来は最終列車が走り終えてから走るはずの“幽霊電車”がまだ終電前に走るようになっちゃって、夜の新幹線のダイヤがメチャクチャになったことがあったの」
「へえ……。そんなことあったかなぁ……???」
 ユタは首を傾げた。
「私が対応に当たったんだけど、その時、やっぱり仲間がいた方がいいなって思った。それで弟子を探すことにしたの」
「それがマリアさんでしたか。でも、日本からヨーロッパまで探しに行くの大変だったでしょう?」
「まあね。闇雲に探し回ったんじゃ、私のこの体の耐用年数の方が先に来ちゃうからね。しょうがないから、裏ワザを使うことにしてね」
「裏ワザって?」
「私と契約してる悪魔。こいつに聞いて、他に手の空いている悪魔で、いま人間と契約してるヤツはいないかって。悪魔と契約するには、それなりの高い霊力が必要になるからね」
「えっ?じゃあ、僕も?僕は悪魔と契約するのは嫌だなぁ……」
「大丈夫。もうしてるじゃない」
「オレかよ!?」
 威吹は心外だという顔をした。
「狐は、西洋では強欲の悪魔マモンの化身とされてるわ。事実、威吹君と契約してからお金に困ることはなくなったでしょう?」
「た、確かに……」
 稲荷大明神は商売繁盛への利益があるとされるが、日蓮正宗系統から見れば謗法の1つだ。
 イリーナは魔道師の観点から、そこへの参拝は意味が無いと言ったのである。
 なぜなら、直接契約していないからという、これまた魔道師ならではの発言。
(あれ?もしかして僕、威吹と“盟約”している時点で謗法なんじゃ……?)
 という疑問が湧いた。
「えー、酒を1つ」
「はい、ありがとうございます」
 威吹はやってきた車内販売を呼び止め、そこから純米酒のワンカップを買い求めた。
 懐から小銭入れを出して支払う。
 飲み慣れているのか、パカッと蓋を開けてから、
「ユタ、心配無いよ。ボクん所は、勝手に『稲荷大明神の御使い』を僭称していただけだから」
 と、言った。
「えっ?」
「ボクが封印される前は、今よりもずっと迷信深い時代でね。そうした方が人間を油断させやすかったんだよ。だから、『化け物』と言われても仕方が無いが、神や仏からは遠い存在だ。だから、大丈夫だよ」
「そうかぁ……。何となくスッキリ」
「素直な人間大好きー」
「仲がいいわねぇ……」

[同日23:15.埼玉県さいたま市中央区 ユタの家 威波莞爾]

「お、来たか……」
 ユタの家で留守を預かっていたカンジ。
 家の表に1台のタクシーが到着したのに気づいて、急いで出迎えに行った。
 外に出ると、先ほどまで降り続いていたゲリラ豪雨の後の湿った臭いが鼻をついた。
 今ではウソみたいに雨は止んで、空には月が見えているくらいだ。
「先生、お帰りなさい!」
「おう、カンジ。出迎え御苦労」
 威吹が降りてきた。
「荷物を降ろすの手伝ってくれ」
「ハイ」
 助手席で料金の支払いをしていたユタは最後に降りて、
「あ、ごめんごめん」
 カンジにトランクから降ろされた自分の荷物を取った。
「さあ、どうぞ。中へ」

 蒸し暑い外から家の中に入る。
「はー、涼しい」
「長野ではお世話になりましたので、ここではイリーナさん達も寛いでください」
「すまないねぇ」
「それより、ユウタ君。明日はどこに連れて行ってくれるのか、教えてくれてもいいんじゃない?」
「おっ、そうでした。明日はですね、花火を見に行こうと思います」
「花火!?」

[7月26日00:00.同場所・リビングルーム ユタ、威吹、マリア、カンジ]

「イリーナさん、休んじゃいました?」
「若作りしているが、やっぱり体の交換時期が迫っているらしいね」
 と、マリア。
 ポーリンは無理せず、普段は老婆の姿をしているが、本来はイリーナもそうすべき状態なのである。
 何しろ魔法で若作りしてアラサーなのだから、やはり耐用年数が迫っているのは事実だろう。
「明日……といっても、もう日付変わっちゃったか。隅田川の花火大会に行こうかと。威吹は知ってるかい?江戸時代からある伝統的な花火大会らしいんだけど……」
「いや、知らないな」
 威吹は首を傾げた。
 カンジがフォローするように言う。
「稲生さん、隅田川花火大会のルーツは、遡って1700年代前半です。あいにくと先生はその100年前に封印されてしまいました。先生がご存知無いのも無理ありません」
「それもそうか。とにかく、会場の近くに藤谷班長が住んでいるので、そこへお邪魔して間近で花火を見せてもらうことになりました」
「ユウタ君、そんなツテがあったのか」
 マリアが驚いた顔をした。
「何事も、普段の付き合いですからー」
 したり顔して答えるユタに、
(ベルフェゴールみたいなこと言って……)
 と、おかしくなった。
 かつて復讐劇の手伝いのため、人間だった頃に契約した“怠惰の悪魔”ベルフェゴール。
 魔道師になってから、再び見習に格下げされるまで契約していた。
 今でも時々営業に来ては、『普段の付き合い』を理由に契約を勧めてくる。
 もっとも、それは一化身であって、本体は魔界の王国、魔王城の地下深くに封印されている。
「会場には栗原さんやキノも来るみたいなんで、よろしくお願いします」
 と言うと、
「そうか……。あの鬼族も来るのか……」
 と、マリアは複雑な顔をした。
「マリアさん。一応、表向きには仲直りしたことになってるんですからケンカは無しですよ?キノの方にも、それは強く言ってありますから」
「分かってる」
「しかしユタ、珍しいな。キミ、今まで花火に興味あったっけ?」
 威吹がほろ酔い加減で聞いて来た。
「うーん……。まあ、今回は藤谷班長がせっかく誘ってくれたこともあるからね。ちょうどマリアさん達にも、日本の文化ってのを見てもらうチャンスだ」
「私はともかく、師匠は花火くらい見てると思うが……」
 と、マリアは口を開いたが、
「まあ、楽しみにしてるよ」
 とのことだ。
「明日……というか、もう今日か。晴れるといいね」
「うん」
「そうだね」
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“ユタと愉快な仲間たち” 「いざ関東へ」

2014-07-25 15:13:48 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月25日05:00.長野県某所にあるマリアの屋敷 イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

「……!」
 イリーナは変な夢を見て目が覚めた。
 最近よく見る、大昔の夢ではない。
 マリアも実感していることだが、ユタがここに来てから、マリアも過去の辛い事が夢に出てこなくなったそうだ。
 そうではなくて、イリーナが見たのは、久方ぶりの予知夢。
 登場人物や背景が断片的に、静止画像のように現れては消えて行くだけの夢。
 それを見る限りでは、大災害の予知夢というわけではいようだ。
 本当に身近な人物達に起こり得る災厄とでも言うのだろうか……。
(まだ朝早いし、二度寝するか……。でも、その前にちょっとトイレ)
 イリーナは隣で寝息を立てている弟子のマリアを起こさぬよう、そっと部屋を出た。
 あいにくと客室と違って、“主人の部屋”にトイレは付いていない。

「……今者捨我・遠喪他国・自惟孤露・無複恃怙・常懷悲感・心遂醒悟・乃知此薬・色香味美・卽取服之・毒病皆愈・其父聞子・悉巳得差・尋便來歸……」
 2階に登る階段の上を見ると、ユタが朝の勤行をやっているのか、読経の声が聞こえた。
 それを聞いて溜め息を吐くイリーナ。
(……師匠が『東方の国に多くの人材が眠っている』って昔言ってたけど、あの人もそうだったのかしら。中には宗教を開いた者もいるってことだけど……)

[7月25日08:00.同場所・ダイニングルーム 稲生ユウタ、威吹邪甲、マリアンナ・スカーレット、イリーナ]

「それじゃ、今日でマリアさんの泳ぎは仕上げますので」
「ありがとうね。このお礼は必ずするからね」
 ユタの言葉にニッコリ笑って答えるイリーナだった。
「今日の夕方、出発ですか」
「そう。慌ただしくて、申し訳無いね。最終のバスに乗って、夕食は駅前で取りましょう」
「“瞬間移動”で飛んだ方が早いんじゃないのか?」
 と、威吹。
「まあまあ、威吹。イリーナさん達のマジックポイントもタダじゃないんだよ」
 ユタは意地悪く言う威吹をたしなめた。
「……お金は掛からないんだけどね。私達の側の都合で申し訳無いんだけど、なるべく魔力……まあ、そのマジックポイントね、それは極力温存しておきたいのよ。ほら、またポーリンが嫌がらせしてくるとアレだし」
「そのポーリン師が、長野県内では手を出してこないというのが驚きです」
「さすがに師匠……大師匠ね、だいぶシボられたらしいから」
 長野県北部に構えていた屋敷を“メテオ・シューティング”で破壊した時のことだ。
「それ以来、長野県全域には手を出せなくなった。……代わりに、首都圏を押さえられたけどね」
「ええっ?」
「エレーナを東京に送り込んだ時点で、そうなったね。埼玉県はさすがに緩衝地域にはならなかったみたいね」
「要は、アレか。ポーリンとやらは、武州のどこかに魔界の入口があると見ているか」
 威吹は食後の緑茶を啜って言った。
「まあね。実は、威吹君を締め上げればすぐに場所が分かるという……」
「オレは何も喋らんぞ!てか知らん!」

[同日10:00.東京都墨田区菊川 ㈱藤谷組・東京本社 藤谷春人]

 藤谷は勤務先の役員室で、ユタに電話していた。
「明日の件な。心配要らんよ。マンションのオーナーに金を積み……もとい、日頃の付き合いの成果でよ、眺望のいい場所を確保してもらったぞ」
{「どうもすいません」}
「いいってことよ。会費だけ忘れるなよ?なーんちゃって!まあ、会費は当日もらうから。まだ長野にいるのか?いいなぁ。そっちは涼しいだろ?」
{「いや、それなりに暑いですよ。ただ、マリアさんの家の中は涼しいですけど……」}
「そうかい?まあ、こっちも俺の会社は涼しいんだがな……。特に、今いる専務室……」
 藤谷はチラッと自分の椅子の横を見た。
 何と、氷のオブジェが立っている。
 しかもハート形だ!
「寒いくらいだよ。色んな意味で」
{「はあ……」}
「交通規制とかあるから、気をつけてな」
{「はい。じゃ、明日よろしくお願いします」}
「おーう」
 藤谷は自分の個人携帯を切った。
 と、その時、今度は机の上の固定電話が鳴った。
「もしもし?……ああ、そうかい。じゃ、繋いでくれ。……おい、会社に電話すんなって言っただろ。……ああ。おかげさんで、寒いくらいだよ。……は?何だって?……ダイヤとスペード、クラブも作っただぁ!?トランプか!だいたい、専務室にそんなもん4つも置いたら……あ」
 そこで藤谷、ピンときた。

[同日18:00.長野県内某所のとある山道のバス停 ユタ、マリア、威吹、イリーナ]

 山道の途中のバス停でバスを待っていると、山の向こうの集落からやってきた。
 今日の最終便である。
 夏場だからまだ比較的明るいが、冬なら真っ暗で、天候によっては雪に閉ざされるような場所だろう。
 こんな所から乗って来る乗客はほとんどいないと思われ、カーブの途中にあるだけに、危うく通過されるところだった。
 バス停が古いタイプだけに、ややもすると冥鉄バスがやってくるのではないかと思ったが、そのバス会社でまだノンステップバスは導入されていないはずなので、ユタ達の前で止まったバスで間違いない。
 こんな時間に市街地まで行く乗客はおらず、しかもこれが最終便ということもあっては、車内に乗客はいないという有り様だ。
 集落から街へ戻るのに回送にするくらいならと、一応は営業している間合い運用の一環かもしれない。
「師匠。今日の夕方のニュース、見ましたか?」
 1番後ろの座席に座って少ししてから、マリアがイリーナに話し掛けた。
「いや、見てないわね。色々、出発準備が忙しくて……」
「そうですか。エキサイティングなことがあったんですが……」
「何か放送事故でもあったの?」
「いえ。終始、リポーターの後ろでラジオ体操をしているオジさんがいまして、あれは何気にエキサイティングでした」
「……どうしてそこでエキサイトしちゃったかねぇ、このコは……」
「はは……」
 苦笑するユタ。
「…………」
 窓側に座って、どうでもいいといった顔をしている威吹だった。

[同日21:30.JR長野駅新幹線ホーム ユタ、威吹、マリア、イリーナ]

〔まもなく13番線に、21時46分発、“あさま”554号、東京行きが8両編成で参ります。この電車は途中、上田、佐久平、軽井沢、高崎、大宮、上野に止まります。……〕
〔「今度の長野新幹線“あさま”号、東京行きは13番線から発車致します。本日の長野新幹線上り最終列車です。ご利用のお客様は、お乗り遅れの無いようご注意ください。……」〕

「師匠、首都圏でゲリラ豪雨が降っているようです。大宮から南です」
「あら、そう。ポーリンが一応、私達の動きを把握してるぞっていう主張かもね」
「めんど臭いことこの上ない。だが……」
 威吹は腕組みしながら外を見た。
 そこへ8両編成のE2系が入線してくる。長野新幹線開業当時の車両だ。
 時刻表には、8月8日から北陸新幹線開通を見越して先行的に運行されているE7系12両編成に取って代わる旨の記載がある。
 なので、今が乗り納めの時期なのだろう。
 その旧型車両がずぶ濡れで入線してきた。
「ここも嵐なのはどういうことだ?」
 長野駅周辺もゲリラ豪雨だった。
「これは私達は関係無い」
「そう。ただの自然現象よ」
 魔道師2人は否定した。
 あくまで魔法によって引き起こされたゲリラ豪雨は、いま首都圏で降っているものだけだと……。
「確かにスマホの天気予報だと、長野市内は夜、ゲリラ豪雨に注意とありますが……」
「でしょでしょ?」
「問題はちゃんと走れるかどうかだな……」

〔「13番線、お待たせ致しました。まもなくドアが開きます。乗車口までお進みください。……」〕

「落雷とか、豪雨による河川増水でダイヤが乱れるのはなぁ……」
 ドアが開いて列車内に乗り込む。
「大丈夫よ。そこまではできないから」
 イリーナはユタを安心させるように言った。

 バスも最終なら新幹線も最終。
 さすがに大宮駅から家までは、バスは無いし、荷物が大きいのでタクシーになりそうである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“ユタと愉快な仲間たち” 「最後の晩」

2014-07-25 02:17:56 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月23日18:00.長野県某所 マリアの屋敷・ダイニング マリア、ユタ、威吹、イリーナ]

「はい、お待たせ。夕食の時間だよー」
「おおー」
 ダイニングに行くユタと威吹。
 椅子に座った後で、
「前々から思っていたんだが、こういった食料はどこで手に入れてくるんだ?」
 威吹が食べ物を口にする前に、疑問を口にした。
 するとイリーナは、
「もちろん、街の方まで行って買い物してくるよー」
 とのこと。
「いつの間に出かけてるんだ?」
「威吹君が目を放した隙かな」
「嘘つけ!そんな一瞬……」
「まあ、信じるか信じないかはあなた次第ってとこかな」
「何か、どこかで聞いた言葉ですね」
「まあまあ。とにかく食べよう。しばらくここを留守にするんだから、食糧庫も一掃しておかないとね」
 イリーナは片目を瞑った。

 それから1時間後……。

「マリアの泳ぎは、だいぶ上達してるようね?」
「ええ、おかげさまで。明日には完全に仕上げることができるかと……」
「御苦労さま」
「いえいえ。僕も、マリアさんと一緒に泳げて楽しいです」
「これなら海に行っても大丈夫だね?」
「ええ……」
 マリアは小さく頷いた。
「やはり、湖ではなく海が目的だったか?」
 威吹が話に入って来た。
「実はそうなの。海に入りたくても、泳げず、入れなかったらアレじゃない?」
「うーむ……。だが、残念なことに、武州・大宮には海が無い」
「いや、電車で行けばいいさ」
 ユタは変な顔をした。
「それより、ユウタ君が面白い所に連れてってくれるっていうから、そっちが楽しみね」
「そうでしょう。天候に恵まれればいいんですが……」
「ということは、屋外で何かやるんだ。フムフム。何となく想像はついたけど、その時まで黙ってておきましょう」

[同日22:00.同場所・リビングルーム ユタ、マリア、イリーナ、威吹」

「外が湿っぽくなってきている。今夜遅くに掛けて、ゲリラ豪雨があると思う」
 カンテラ1つで外を回って来たマリアが言った。
 屋敷の周りを見回るのも、マリアの役目である。
 一応、屋敷の女主人ということにはなっているが、実質的オーナーはイリーナで、マリアは管理人というのが実態かもしれない。
「天気を言い当てられるようになれば上出来だね。魔道師の基本だもんね」
 イリーナはにこやかな顔をしていた。
「でも、大丈夫ですか?」
「何が?」
「その……ゲリラ豪雨で道が土砂崩れなんて……」
「それなら大丈夫。ユウタ君達も最初ここに来る前の夜、凄い豪雨だったでしょ?その時も大丈夫だったんだから」
「なるほど」
 ユタはころっと騙されたが、威吹は、
(おおかた、こいつらが魔法でどうにかするってことだろ)
 と、だいたい予想した。

[7月24日02:00.同場所2F客室 ユタ&威吹]

 今さらだが、ユタは当然マリアとは部屋が別だ。
 イリーナだけ、マリアと同室らしい。
 で、こんな真夜中にユタは目が覚めた。
 窓に叩き付ける大きな雨音と時折轟く雷鳴、そして稲光。これのせいだ。
 隣のベッドではその程度では動じないのか、威吹が軽い寝息を立てて寝ていた。
 油断しない為なのか、枕元には短刀を置いている。
 ユタの家では和室に布団敷きで、そこでは短刀ではなく愛用の妖刀(長刀)を置いていた。
(ってか、トイレ……)
 こういう時、トイレが部屋備え付けだと助かる。
 もうこの屋敷がどういう所なのか分かっているつもりだが、それでも消灯時間の廊下とかは不気味なものがある。
 まだ、病院の廊下の方が怖くないくらいだ。
 さすがにそっちは、廊下で人形が寝ていることはないから。

 それでも、何故か廊下で何人かが歩く音がする。
 怖いもの見たさというもので、ユタがそっとドアを開けると、何のことはない。
 人形達が隊列を組んで、ズチャラズチャラと体の大きさの割に不釣り合いのスピアやサーベルを手に市中夜回り館内を巡回していたのだった。
 この屋敷がもっと長野県南部にあった頃は、人形達は適当に寛いでいたのだが、あの時は数が爆発的に多く、マリア自身が御しきれない人形も多々あったからだろう。
 今では(半強制的とはいえ)数を大幅に減らし、また、マリア自身の魔力も向上したということで、ヒマを持て余す人形もいなくなったのであろう。
 多くは屋敷の主人達が留守の間、それを預かることになるのだろう。

(あー、嵐の音うるせー、外の人形達の気配がウザい、ユタの厠の音が……)

 因みに威吹もまた、熟睡していたわけではないようである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする