報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「家電の町の魔道師たち」

2016-01-01 21:00:32 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月28日08:00.天候:晴 東京都千代田区外神田(ドーミーイン秋葉原) 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 1階の食事処で朝食を取る稲生。
「和食でお願いします」
 適当に空いている席に座り、和定食か洋定食が選べる中、稲生は和食をチョイスした。
 やはりマリアの屋敷に住み込みをしていると、食事は概ね洋食が多いからだ。
 今ではすっかりパン食派になってしまったが、こういう時には和食を食べたいと思う。
 と、そこへマリアが隣に座った。
「おはよう」
「おはようございます」
 マリアは店員に食券を渡した。
「Western style,please.」
 英語で店員に言うが、この程度の英語なら日本人店員も理解できる。
(トイレの洋式だけじゃないんだな。“Western style”って……)
 と、思った稲生だった。
 もっとも、マリアがそう言っているだけで、他の英語圏の国の人間が洋食を同じ言葉で言うとは限らない。
「えーと、イリーナ先生は……あれですか?『あと5分』を1時間以上繰り返していたので、放っておきましたか?」
「『あと5分』を1時間以上繰り返していたので、放っておいた」
「やっぱり……」
 稲生とマリアは顔を見合わせて笑みを浮かべた。
 と、そこへ、
「うぃー……。勝手に先生をおねぼすけさんにするなよー」
 イリーナが寝ぼけた顔でやってきた。
「あ、先生。おはようございます」
「おーはよー」
「私があれだけ叩き起こしても、起きなかったじゃないですか」
 マリアが呆れた顔をした。
(叩き起こしたの!?)
 稲生は目を丸くした。
「いやー、先生をマジ叩きして起こす弟子は、ダンテ一門でもマリアが初めてだよ、うん」
(そうでしょうね!)
 と、稲生。
「あ、洋食ください」
「はい、ありがとうございます」
 イリーナは普通に、日本語で店員に注文した。
 もっとも、本人が喋っている言葉はロシア語なのだが、魔法で日本人には日本語に聞こえるように翻訳されている。
「先生はもっと優しく起こしなさいって言ったでしょ?」
「師匠の場合、マジ叩きしないと起きないからです。……ってか最近、それでも起きませんよね?」
「いやー、アタシも歳かねぇ……」
「早いとこ、体を交換なさった方がいいですよ?」
「代わりの体が見つからないのよ。それに、この体、結構気に入ってるし」
「確かに、モデルみたいに美人ですもんね」
 と、稲生は言った。
「そういえば昨日も、お集まりになった魔道師の先生方で、女性は美人揃いなのはその為ですか?」
「ただ単に、見た目がきれいなだけではダメなのよ。ちゃんと強い魔力を備えているか、修行すればそれが身に付く素質を持っているかのいずれかでないとね」
「なるほど……」
 ダンテ一門における魔道師の男女の比率であるが、どう見ても女性の方が多い。
 “魔女”と呼ばれるだけのことはある。
 稲生が珍獣扱いされたのも、ただ単に日本人だからというだけでなく、これまた一門では珍しい男性だからというのもあるだろう。
 もっとも、ハリー・ポッターのように、男性であっても強大な魔道師(魔法使い)になれる者もいるから、男性だからダメというわけではない。
「ユウタ君も、いい体見つけたら教えてね」
「はあ……」
「ユウタ、本気にしなくていいぞ」
 マリアは眉を潜めて言った。

[同日10:00.天候:晴 ヨドバシAkiba・1F 稲生勇太]

〔まあるい緑の山手線♪真ん中通るは中央線♪……〕

 稲生はPC売り場で、最新機種の目利きをしていた。
(うーん……。Windows10も出るから、これを気にそろそろ新調したい所なんだけど、今の8.1でも、そんなに使い勝手に影響は無いんだよなぁ……)
 とても、見習いとはいえ魔道師には見えない。
 魔道師の世界において、見習い弟子は師匠から生活面の全てにおいても指導を受けることとなっている。
 どのような指導をするかは目指す魔道師のジャンルによっても違うし、更に師事する師匠によっても違う。
 ダンテ一門において、多くは師匠が弟子に小遣いを渡す方式が一般的である。
 但し、エレーナのように、修行先のホテル住み込みで働いて得る賃金を生活費に充てている者もいるし、ダンテ一門の中で1番多くの弟子を抱えるアナスタシアは、各弟子達の持ち味を生かした稼ぎ方を伝授し、それで普段の生活をさせているとのことだ。
 稲生の場合は小遣い制。
 しかも何故か、手持ちのSuicaに毎月限度額振り込まれる仕組み。
 ただ、白馬村では駅でSuicaは使えないので、コンビニなどで使うのみだ。
 どうしても現金が欲しい場合は、そのSuicaに入っている分をイリーナに頼んで換金してもらう。
 で、余った額は繰り越され、現金化して自分の財布に入れたり、銀行口座に入れたりする。
 あくまでもイリーナが渡す小遣いがそれだというだけであって、弟子達が他から収入を得た場合はノータッチである。
 マリアは魔法を込めていない人形をタチアナに卸したり、稲生がネットオークションで売ったりして収入を得ることもある。
 あとは魔界で、ならず者モンスターを倒して賞金を得るということも可能。
 因みに今回の場合、稲生は“魔の者”関連でアルカディア政府から賞金と賠償金を得ている。
 それをPCの買い替え費用に当てようかと思ったのだ。
 もちろん、全額が稲生の懐に入ったわけではない。
 あくまでイリーナに渡された金であるため、そこから稲生達に分配されただけだ。
(奮発すれば、デスクトップが買えるんだよなぁ……。持ち運び用には今のノートのままでWindows10をアップデートするだけにしておいて、マリアさんの屋敷ではデスクトップにしようかなぁ……)
 マリアの部屋やイリーナが寝泊まりする際には、水晶球が置いてあるというのに、稲生の部屋にはPCが置いてあるのだ。
(先生と相談してみるか……)
 弟子達が自分の財布をどうしようが、師匠はタッチしないことになっている。
 相談したところで、
「自分で決めな」
 と言われるのがオチであろうが、一応聞くだけ聞いてみようと思った稲生だった。
「あっ、マリアさん」
 下りエスカレーターで、上階から降りてきたマリアと再会した。
 確か、上の階で本を見ていたはずだ。
 何冊か購入したらしい。
 魔道師が読むのは、何も魔道書だけではないということだ。
 中には、民俗学者や宗教学者が書いたと思われる、魔道師についての考察が書かれた本まであった。
「買いたいもの、決まったか?」
「いえ、それが迷ってるんです。先生に相談しようかと思って」
「費用が足りないのなら、私が少し出すよ?」
「あ、いえ、お金のことじゃないんです。デスクトップPCを僕の部屋に設置してもいいかなーなんて……」
「ダメと言われることはないと思うが……まあ、微妙だな」
「ですよねぇ……。イリーナ先生はどちらに?」
「5階の白物家電売り場で、マッサージチェアに座ってる」
「あー、なるほど……」
 稲生には、展示品のマッサージチェアに腰掛けて、ウトウトしているイリーナの姿が目に浮かんだ。
 もしかして、本当に購入するかもしれない。
 屋敷ではマリアの人形達にマッサージしてもらっているし、昨夜なんかも、大浴場上がりにマッサージチェアを独占していたということだ。
「ちょっと、行ってみます」
「私も行く。そろそろ店員に目を付けられる頃だから」
「ええーっ!?」
「一緒に師匠をチェアから引きずり降ろすんだ」
「は、はい!」
「『日本のマッサージチェアは高性能だねぃ』なんて言ってやがるし」

 ……金を持っているのなら、いっそのこと購入した方がいいと思うのだが。
コメント (9)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする