報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「功徳の現証と魔の通力は紙一重だと思う」

2016-01-07 20:39:43 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月5日12:33.天候:晴 JR新宿駅 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

〔まもなく9番線に、当駅止まりの列車が参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。この列車は折り返し、13時ちょうど発、特急“あずさ”17号、松本行きとなります〕

 稲生は新宿駅中央本線ホームで、特急の到着を待っていた。
 これからその特急に乗るのではない。
 その特急に乗って来る者を迎えに来たのだ。

〔「9番線、ご注意ください。松本からの特急“あずさ”12号の到着です。お下がりください。折り返しは13時ちょうど発の特急“あずさ”17号、松本行きとなります。……」〕

 ゆっくりと“あずさ”が入線してくる。
 車両は昨年末に稲生とマリアが乗ったのと同じだった。

〔しんじゅく~、新宿~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 ドアが開いて、ぞろぞろと大勢の乗客達が降りてくる。
 その中にマリアの姿があった。
「ああ、お疲れさまです。マリアさん」
 グリーン車から降りてきたが、その券はイリーナに寄越されたか、或いは藤谷が送り付けたか……。
 いずれにせよ、見ず知らずの男性と隣り合わせは避けられたようである。
「何か師匠の思いつきで、振り回されてるなぁ」
「まあ、僕達、弟子ですから、しょうがないですけど……」
「で、ここからどこへ行けばいい?」
「ご案内します。まずは丸ノ内線へ」
 稲生はマリアに手を差し出した。
 マリアは手袋をしたまま、稲生の手を掴んだ。

[同日12:49.東京メトロ新宿駅丸ノ内線ホーム 稲生&マリア]

「地下鉄で?藤谷氏は競馬場へ行くと言ってたが……」
「ええ。何でも、中山金杯の予想をマリアさんがしたということなんで、お得意さんを中山競馬場にて接待すると聞いたんですが……」
 それは数時間前のこと。
『悪い!急にお得意先が行けなくなっちまったんだ。しかし、これも何かの縁だ。このままやっちゃおうぜ。しょうがないから、いつもの“街頭折伏”先で待ってるからな!』
「……とのことです」
「接待とやらは、ウソのような気がする」
「まあ、そこは【お察しください】」

〔お待たせ致しました。まもなく2番線に、池袋行きが参ります。乗車位置でお待ちください。ホームドアから手や顔を出したり、もたれかかるのは危険ですからおやめください〕

 引き上げ線から当駅始発の電車がやってきた。
「どこまで行くの?」
「銀座です。銀座」
 ホームドアと電車のドアが開いて、2人は車中の人となった。

〔ご案内致します。この電車は赤坂見附、銀座、大手町方面、池袋行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 マリアは座席の端に座らせて、トラウマに対処する稲生。
 更にスマホを用意して、銀座のウインズで既に戦っている藤谷に連絡。
『何だか、学会員の予想屋みたいなのがいて、非常にウザいぜ。早く来てくれ』
 とのこと。
(まあ、学会員でも競馬好きはいるだろうからな……)
 稲生は暢気にそんなことを考えていた。

 そんなやり取りをしているうちに発車時間になり、電車は車内搭載の発車メロディ(発車サイン音)を流してドアを閉めた。
 因みに今、丸ノ内線では支線だけでなく本線においてもワンマン運転が行われている。
 魔界アルカディアシティにおいては、インフェルノ・アヴェニューと称される新宿駅を発車した。

〔東京メトロ丸ノ内線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は赤坂見附、銀座、大手町方面、池袋行きです。次は新宿三丁目、新宿三丁目。乗り換えのご案内です。副都心線、都営新宿線はお乗り換えください〕

 マリアは魔道書を開いた。
 ダンテ著の場合はラテン語を翻訳する為、専用の眼鏡を掛ける。
(僕も、いずれはこういう本を読むことにはなるんだろうか……)
 マリアがここまで成長したのには、偏に人間時代の不遇によるハングリー精神がある。
 魔道師には往々にして、そのような境遇を送った者が少なくない。
 元々魔法使いの家系というサラブレッド的なものや、稲生のように前世が高僧(イリーナの見立てでは、天台宗の天海僧正)で、その霊力を今生でも引き継いでいる場合などは特別な例とされる。
 女性魔道師でそのような特別な例でない場合は、多くの場合、マリアのように何らかの性被害に遭っている場合が多い。
 ただ、マリアのような過酷な被害者が、ここまでなるというのもそれはそれで珍しいようだ。
 彼女自身の性格によるものも大きいと言われる理由である。
「マリアさん、これから行く所は、少し怖い所かもしれません。無理はしなくていいですから」
「ああ。分かった」

[同日13:15.天候:晴 東京都中央区銀座 JRAウインズ銀座 稲生、マリア、藤谷春人]

 銀座駅から徒歩でやってきた稲生達。
「藤谷班長!」
「ん?おお、やっと来てくれたか」
 にこやかに出迎える藤谷。
 しかしいくら藤谷であっても、稲生よりは信用しにくいのか、近づこうとすると離れようとするマリア。
「私は予知しかしていない。あとのことは知らない」
「僕も競馬のことはよく知らないので、馬券の購入は班長がしてくださいよ」
「ああ、分かってる。まずは単勝の予想から」
「僕がもう作成しておきましたから」
 稲生は藤谷にA4の用紙を渡した。
 PCで作成した辺り、稲生らしい。
「マリア先生の予想と合っているか、照合してみていいっスか?」
「時間は大丈夫なのか?」
「大丈夫っス。お昼はまだですか?もし何なら、向かいのマックで奢りますよ。稲生君も」
「ど、どうも……。(何かセコいな……)」

 一旦外に出て、向かいのマクドナルドに入る稲生達。
「確か、金杯って夕方でしたよね?」
「夕方ってほどの時間でも無いよ」
 テーブル席を確保して、そこで話す。
「いや、実はここには避難してきたんだ」
「避難?まさか、学会の予想屋?」
「いや、ソッカーの予想マンは今さらどうでもいいんだ。確かに、俺みたいな法華講員もカモりたいみたいなんだが、1番のカモまでいやがるからな」
「ま、まさか……」

 藤谷の言葉に、稲生とマリアは顔を青ざめさせて、ある人物の姿を思い浮かべた。
 その人物とは……。
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