報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「見習魔道師の見た夢」

2016-01-14 22:47:34 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月6日07:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区・稲生家 マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 マリアは稲生の家に宿泊し、普通に起床した。
 朝の身支度を整えてダイニングに行くと、稲生の母親が朝食を用意していた。
 そこに稲生勇太はいなかった。
「……?」
 マリアが稲生がどこにいるのか見渡したが、やはり気配が無い。
「あら、マリアンナちゃん、おはよう」
「あ……オハヨウゴザイマス……」
 マリアは思わず、素の日本語で挨拶した。
 いつもは英語のまま魔法に乗せて喋ることで、滑らかな日本語になるのだが、素だと、どうしても片言の日本語になる。
「あの……ユウタ……君は?」
 今度はちゃんと魔法に乗せて喋る。
「まだ起きてきてないのよ。珍しいわねぇ……」
「起こしてきます」
 マリアはそう言って、稲生勇太が寝ている2階の部屋に向かった。
(勤行でもやってるのかな?それとも、具合でも悪いか……)
 そう思いながら、稲生の部屋の前までやってくる。
 ドアに耳を当ててみるが、特に不審な音とかは聞こえてこない。
 そのドアには何かを貼って剥がした跡があるが、これは御札の跡。
 まだ稲生が顕正会に入る前、妖狐の威吹を警戒していた時、魍魎退散の御札を神社で購入して貼り付けた跡なのだという。
 特に神道に傾倒していたわけではなく、“まんが日本昔ばなし”で、たまたま神主が魍魎を退治している話を見て思いついたのだそうだ。
 もっとも、そんなものは威吹に効くはずもなく、程なくして顕正会に入信したことで、謗法払いと称して剥がして処分することになった。
 その後は藤谷の折伏で顕正会を脱会し、日蓮正宗正証寺にて御受誡したものの、その後はイリーナへの弟子入りで退転状態となっている。

 マリアは稲生の部屋のドアをノックした。
 しかし、中から声は聞こえてこない。
「ユウタ?入るぞ?」
 それだけ言うと、マリアはドア開けた。
 特に、鍵は掛かっていない。
 その鍵も後付で取り付けられていた跡があるが、威吹をまだ信用していなかった頃に取り付けたものだという。
 但し、当然ながら高等妖怪である妖狐にそんなものは無意味だと分かり、程なくして取り外したという。
 中に入ると、稲生が着替え中……なワケなかった。
 もっとも、マリアにとって、今さら男の着替えとかどうでもいいのだが。
(まだ寝てる……)
 マリアは不審そうな顔をして、稲生の枕元に近づいて行った。
「ユウタ……?」
 マリアが声を掛けると、
「う……ああ……」
 稲生が目を開けた。
「あ……あれ……?」
「もう朝だぞ。朝食もできてる」
「ま、マリアさん!?」
 稲生は慌ててガバッと起きた。
「ど、どうしてここに!?」
「起きて来ないから起こしに来た。具合でも悪いのか?そうは見えないが」
「い、いえっ……!別に……。あ、あれ?スマホのアラームが……」
「とにかく、2度寝はしないで下に降りてきて」
「は、はい。すいません」

[同日08:00.天候:晴 同場所・稲生の部屋 稲生]

 稲生は出発前に、ノートPCのキーボードを叩いていた。
『ここでキカイと心中する気か、バカ!』
「!?」
 稲生の頭の中に、女性の声で叱咤されるシーンがフラッシュバックのように訪れる。
 もちろん、稲生の記憶には無いものだ。
 強いて言うなら、夢の中の出来事。
 訳の分からない夢を見ていて、その後でマリアに起こされた。
(これは一体……)
 その時、部屋のドアがノックされた。
「はい?」
「ユウタ。今いいか?」
「あ、マリアさん。どうぞどうぞ」
「お母様がタクシーを予約してくれた。それで大宮駅に向かえと……」
「分かりました」
「……さっきは変な夢を見て目が覚めた。そうだな?」
「ええ、まあ……」
「それは、未来を予知したものではなかったか?」
「未来予知……予知夢ですか?」
「そう」
「どうなんですかねぇ……。たまに、変な夢を見て目が覚めることはありますよ?」
「ユウタは魔道師の資質がある。それまでも予知夢を見ていたかもしれない」
「そうですかねぇ……」
「どんな夢だった?」
「どんな夢って……。えーと……僕が何かパソコンをやってて……そしたら、何だか爆発みたいなのが起きて……。で、後ろにいた女性に早く避難するように言われて……で、そんなところです」
「その女は誰だった?」
「それが分かりません。夢の中の僕は振り返ろうともせず、パソコンに向かってたみたいで……。ただ、気の強そうな女性という印象でした。……ので、マリアさんではないです。声も違ったし」
「そうかな。魔道師には往々にして、気の強いヤツは結構いるぞ?」
「えっ!?」
 稲生が驚いてみると、それまで無表情だったマリアは少し微笑を浮かべた。
「まあ、分かった。パソコンが登場している時点で、人間界で起きた可能性が高いな……。爆発って、どこで?」
「さあ……?ただ、かなり近い所だったと思いますが」
(ユウタの予知夢、当たるのか?)
 マリアは眉を潜めた。
 この段階では、まだ何とも判断はつかなかった。

[同日09:00.天候:晴 JR大宮駅埼京線ホーム 稲生&マリア]

〔この電車は埼京線、各駅停車、新木場行きです〕

 タクシーで大宮駅に乗り付けた2人は、その足で埼京線ホームに下りた。
 朝ラッシュのピークは過ぎているとはいえ、その余波が残る駅構内はごった返していた。
 その中を稲生がマリアをエスコートして、何とか埼京線ホームまで下りた。
 女性専用車は、稲生達が乗った電車から終了である。
 なので、先頭車に一緒に乗ることはできるのだが……。
「ユウタが見た変な夢なんだけどね……」
 マリアが話し掛けた。
「はい」
「ユウタが少し危険な目に遭う夢かもしれない」
「そうなんですか?」
「一応戻ったら、師匠に相談してみよう」
「分かりました」

 埼京線各駅停車は信号の開通が遅かったせいか、2分遅れで大宮駅を発車した。
コメント (3)
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