報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「新感染」

2016-01-27 23:01:12 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月23日22:15.天候:雨 レッドスターシティ郊外山中の魔道研究所 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、アレクサンドラ(サーシャ)]

 研究所の門扉から中に入ると、まずは中庭があった。
 建物はマリアの屋敷のような洋館ではなく、むしろ古城のようだった。
 どうやら研究所といっても、旧貴族の城を転用したものらしい。
 そして、その中庭にも、
「アアア……」
「ウー……」
 ゾンビが何体かたむろしていた。
 やはり町中にいた奴らよりも、腐敗が進んだタイプだ。
 まだそんなに腐敗していなかった町中のゾンビは、掴みかかって来るのが殆どだったが(殺してから食おうと考えるタイプ)、腐敗が進むとそれも難しくなるのか、ヨタヨタと近づいてきて、カプッと噛み付いてこようとしてくる(生きたまま食いたい)タイプだ。
 もちろん、町中よりも弱体化しているこれらのタイプはサーシャ達の敵ではない。
「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!サラマンダーよ、炎の精よ、あの不浄なる者どもを焼き払え。ヴェ・ギュラ・マ!」
 マリアの杖の先から火炎の帯が飛び出て来て、ゾンビ達を包み込んだ。
 ゾンビ達は叫喚の声を上げながら、強制的に火葬された。
「さすがー!」
 サーシャは心から感心した。
「早いとこ、中に入ろう。多分、中も化け物だらけだろうが、休める所くらいあるだろう」
 正面のドアは重厚の木造のドアだったが、鍵は掛かっていなかった。
 中に入ると、マリアの屋敷のエントランスホールを更に大きくした2階吹き抜けのホールがあった。
 ベタな法則で、こういうホールに敵はいないものだ。
「マリアンナの家だと、休める場所はどこだ?」
「まあ、どこの部屋でもいいが、ゲストルームは2階にある」
「じゃあ、私らも2階へ行こう。ゲストルームに住民の化け物はいないだろう」
「どうかな……」
 サーシャのこじつけ過ぎる論に、マリアが首を傾げた。
 すると、
「そこまでだ!侵入者共め!!」
「!?」
「!!!」
 2階から声がした。
 2人が見上げると、吹き抜け階段の上からガウンを羽織った初老の男がこちらを睨みつけていた。
「よくも私の城を荒らしてくれたな!タダでは済まさんぞ!」
「な、何だと?!」
「ちょっと待ってよ!私達、たった今来たばかりの客だよ!?そういう言い方って無いんじゃない!?」
「黙れ!もう2度と私は騙されんぞ、魔女共め!今度は傭兵を連れて来て、私の城を荒らしに来たことは分かっている!」
「いや、私は別に金は貰ってないけどね」
「私もこの城の者とは無関係だ」
「問答無用!私はア……!」

 初老の男が更に何か言おうとしたが、それはできなかった。
 何故なら一発の銃声がして、男の頭が撃ち抜かれたからである。
「!?」
「な、なに!?」
 銃弾が飛んできた方向を見ると、サーシャ達の後から入って来る者がいた。
「何だか危険そうだったので、思わず撃ってしまったよ。あの男はキミ達の父親か何かかい?」
「サンモンド船長!?」
 マリアはその男に見覚えがあった。
 クイーン・アッツァー号で“魔の者”と戦った際、沈没しかかった船から助けてくれたことまでは覚えている。
「ていうか、全然違うし!あんたこそ、あの男のお茶飲み友達だったのかい!?」
 サーシャが言い返した。
「ははははっ(笑)、心外だな。さすがの私も、お茶飲み友達を狙撃するほど冷酷な男ではないよ」
 サンモンドは肩を竦めた。
「それより、お久しぶりですなぁ?アレクサンドラ・エヴァノビッチ殿」
「!!!」
「昔お会いした時は清楚なお嬢様だったのに、今では立派な筋肉質の逞しい女性になられて、小生、複雑な気持ちです」
「だ、黙れ!私はサーシャだ!」
「今、モメてる場合じゃない!ユウタが……!」
「稲生君は、どうしたんだい?」
「原因不明の熱病にうなされてるんだ。どこかで休ませないとマズい」
「ふーむ……。だったら、ちょうど良い部屋を見つけた。こっちだ。ついて来るといい」
 サンモンドはマリア達が来るより先に、この古城を探索していたのだろうか。

[同日22:30.魔道研究所1F医務室 稲生、マリア、サーシャ、サンモンド・ゲートウェイズ]

 医務室はちゃんとあった。
 だが、学校の保健室に毛を生やしただけの設備で、特に立派な医療設備があるわけでもない。
 それでも、ベッドに稲生を寝かせてあげることはできた。
「あの雨の中ずっと走り回ってたからね、風邪を引いたかもしれないんだ」
「なるほどね」
 サンモンドは稲生の額に濡らしたタオルを置いた。
「う……」
「ん!?」
 その時、一瞬稲生が薄目を開けた。
「どうした、船長?」
「い、いや……。(気のせいか?一瞬、稲生君の目がゾンビみたいなものに見えたんだが……)」
「さすが医務室だね。色んな薬が置いてある。これなんか、解熱剤じゃないのかい?」
「ああ。今は意識が無いから、注射するタイプでいいだろう」
「船長はどうしてここに?ていうか、サーシャを知ってるの?」
「最初の質問だが、“魔の者”が関わっていると聞いてここに来たんだ」
「やはり町の惨状は、“魔の者”が?」
「いや、まだ分からない。だが、どうもガセのような気がしてきたね。最後にこの城主から話を聞こうと探していたんだが、キミ達とのやり取りを聞いていて、何にも知らないことが分かった」
「だから、撃ち殺したのか!」
「あのまま私が何もしなかったら、キミ達が蜂の巣になっていたよ。あの男、後ろにガトリング砲を控えていたからね」
 その時、稲生がガクガクと体を震わせた。
「稲生!?」
「ユウタ!?」
「いかん!熱痙攣を起こしたか!?」
「か、かゆい……!」
 稲生の体が土気色に変色してきた。
 そして、稲生が全身の痒みを訴え出した。
「ちょ、ちょっと!?これ、本当に風邪の熱なのかい!?」
「風疹か何かか?」
「……非常にマズいことになっているかもしれない。どういう経緯でこうなったかは知らんが、恐らくこのままでは……」
 サンモンドは唇を噛みながら、マグナムリボルバーを船長服のポケットの中から出した。
 その銃口を稲生に向ける。
「お、おい!何をする!?」
「稲生君はゾンビ化する。そうなったら完全に手遅れだ。そうなる前に楽にして……」
「だ、ダメだ!」
「そうだよ!まだ助かるかもしれないじゃん!」
「助かる……かどうか……」
 マリアが言った。
「ここは魔道研究所で、薬師系魔道師達が色んな薬の研究をしていた所なんだろ?てことは、ユウタの病気を治す薬があるかもしれないじゃないか!」
「まあ、そうだけどね……」
「私も稲生には世話になった。このまま殺すなんて反対だね。難しいかもしれないけど、どうせ悔し泣きするんだったら、必死にあがいた後で泣けばいいさ」
「分かった。そこまで言うなら、キミ達の意見を尊重しよう。私はこの部屋を押さえておこう。この古城には、まだ化け物が徘徊しているみたいだからね。稲生君は私が全力で守ろう」
「……信じていいのか?」
「安心したまえ。もし化け物がやってきたら、私のマグナムとライフルで蜂の巣にしてやるさ。……それはつまり、稲生君が化け物になってもそうするということなんだけどね」
「分かった。急ごう」
「いいかい?稲生を殺すのは、本当に化け物になってからだよ?いいな!?」
「もちろんさ。私もこのような逸材を今すぐ殺すのは、本当は惜しい」

 マリアとサーシャは医務室を飛び出した。
「アアア……」
「ウウ……」
 医務室に美味しそうな獲物があることを嗅ぎ付けたゾンビ達がすぐ近くまでやってきていたが、もちろんサーシャの剣で首を跳ね飛ばされたり、マリアの魔法で真っ黒焦げにされた。
「どこへ向かう!?」
「まずは資料室だ!」
「オッケー!」
 2人は研究所の奥へと突き進んだ。
コメント (7)
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