[1月5日18:00.天候:晴 東名高速下り線・横浜町田インター付近 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、藤谷春人]
稲生とマリアは藤谷の車に乗せられて、横浜まで向かった。
途中で藤谷は、荒稼ぎした賞金を銀行ATMに入金し、マリアには成功報酬を渡した。
マリアはまだ気分の悪そうな顔をしていたが、藤谷のそれを受け取ると自分のローブのポケットにしまった。
すると、ポケットは膨らむことなく、まるで最初から無かったかのような状態になった。
「魔道師さんの服のポケットは、四次元ポケットですかい。大変便利なポケットですな」
と、藤谷は目を丸くしていた。
それより、藤谷が荒稼ぎしてくれた礼にと、稲生達に夕食を奢る約束をしたのだが、それで横浜まで向かうことになったのだ。
何でも、藤谷の同級生がオーナーシェフを務める店があるからと……。
「あの、班長」
「ん、何だい?」
「僕、普通の私服なんですけど、いいんですか?」
「はははっ(笑)、それなら心配無用。俺だって、ノーネクタイだろ?そんなに御大層な所に行くわけじゃないよ。確かにコース料理の予約はしたが、ま、そんなに肩肘張ることはないから」
恐らくその同級生が店を開く際、藤谷組が建設を請け負ったと思われる。
「それとも、せっかく来たんだから、和食の方が良かったですかい?」
藤谷はハンドルを握りながら、ルームミラー越しにマリアの方を見た。
「和食……」
「鍋料理屋やってる知り合いもいるんで、この季節はそっちの方が良かったですかねぇ?」
「班長、色々と知ってる人が多いんですね」
「まあ、こう見えても色々、営業掛けてるからな」
「……そっちは嫌だ」
と、マリア。
「ありゃりゃ?鍋はお嫌いですか」
「師匠やユウタとならともかく、藤谷氏とは嫌だ」
「マリアさん?」
「藤谷氏だからというわけではなく、ユウタ以外の男と……」
「マリアさん、何言って……!?班長は別に……」
「ああ、いや、稲生君。彼女の言うことは、もっともだ。すっかり忘れてたよ。本来、鍋ってな、信用のおける者同士がつつくものだ。俺はまだ信用に足りる人間じゃねぇってことだよ」
「マリアさん。班長は仮にも北海道の時、イリーナ先生を“魔の者”から助けてくれたんですよ?少しは信用して……」
「それとこれとは話は別。これから行くフランス料理ならいい」
「じゃ、そうしましょう」
藤谷は横浜町田インターの出口にハンドルを切った。
料金所はETCで通過する。
「サトーさんのことは馬で勝ったし、これから行くフレンチで機嫌直してくださいよ」
「サトー……!ケンショーブルー……!!」
マリアは膝の上に置いた両手の拳をギュッと握った。
「マリアさん……」
稲生はマリアの右手を握った。
手袋の上からなので、マリアは嫌がりはしなかった。
「あの手の男を見ると、殺したくなる……!」
「マリアさんを乱暴した集団の1人に似てるんですね?」
稲生はマリアの耳元で囁いた。
「うっ……!あんま……り、近づかないで……!」
「わわっ!すいません!」
またマリアに嫌悪と恍惚の両方が訪れた。
「サトーのヤツぁ、そろそろ手痛いバチを食らう頃ですよ。まあ、ぶっちゃけ既に食らってるも同然ですがね」
藤谷が言った。
マリアは逆に稲生にそっと耳打ちした。
「……はあ、そうですか。でもまあ、大丈夫ですよ」
と、稲生は答えた。
(何てこった。藤谷班長もまた、マリアさんを集団で乱暴した男の1人に似ているとは……)
稲生は困った顔をした。
マリアも、分かってはいるのだろう。
もちろん、顔が似ているわけではない。
そもそも、人種が違う。
ただ、雰囲気とかが似てるということなのだろう。
[同日21:00.東名高速上り線→首都高速3号線(用賀パーキング) 稲生、マリア、藤谷]
藤谷が開いた夕食会は、まあまあ何の問題も無く終わった。
味もまあまあだったし、店の雰囲気も悪くはなかった。
気分の悪そうにしていたマリアがちゃんと食べられるかどうか心配だったが、そんな彼女が各料理をほぼ完食していたことを見ると、悪くは無かったのは確実だ。
藤谷は稲生達を大宮の実家まで送ってくれると言った。
まあ、藤谷が誘ったのだからというのはある。
マリアは途中で寝てしまったようだ。
いくら隣に稲生がいるとはいえ、トラウマをくすぐる男がハンドルを握る車で寝られたのだから、よほど疲れたのか、あるいは藤谷の目論見通り、やっと機嫌が直ったかのいずれかだろう。
車は順調に東に向かって進んでいたのだが……。
〔ポーン♪ この先、事故渋滞です〕
インパネの横に後付されたカーナビが、そんなことを言い出した。
「ん?……こりゃ、ひょっとして……」
藤谷は何を思ったか、車を左車線に寄せた。
用賀料金所に差し掛かる。
「やっぱりな」
1番左のブースを通過すると、またハンドルを左に切った。
そこにあるのは、用賀パーキング。
空いている駐車スペースに車を止める。
すると、見る見るうちに車の流れが悪くなって、ついに料金所の所まで渋滞が連なってしまった。
「班長、これは……?」
「どうも、渋谷の辺りでトラックが事故りやがって、道路を塞いじまったらしいな。復旧するまで、ここで待とう」
「そうですね。マリアさん、マリアさん」
稲生はマリアの肩を掴んで揺り動かした。
「……はッ!?」
ビクッと肩を震わせてマリアが目を開けた。
「大丈夫ですか?」
「あっ、ああ……。なに?もう着いたのか……?」
「いえ、まだです。ちょっと道路が事故で動かなくなっちゃって……。ちょうど今、パーキングに入った所なんで、ここで復旧まで待つことにしました」
「そう、か……」
「中で休んでる?それとも車の中にいるか?」
「あ、じゃあ、ちょっと降りてみます。マリアさんは?」
「ユウタが降りるなら……」
マリアは魔道師の杖を持つと、一緒に車から降りた。
「ついでにトイレに行きたい」
「中にありますよ」
首都高の高架部分にあるパーキング。
その休憩棟の中に入って行く稲生達。
パーキングの駐車場は、たちまち渋滞から避難する車で、あっという間に満車になってしまった。
稲生とマリアは藤谷の車に乗せられて、横浜まで向かった。
途中で藤谷は、荒稼ぎした賞金を銀行ATMに入金し、マリアには成功報酬を渡した。
マリアはまだ気分の悪そうな顔をしていたが、藤谷のそれを受け取ると自分のローブのポケットにしまった。
すると、ポケットは膨らむことなく、まるで最初から無かったかのような状態になった。
「魔道師さんの服のポケットは、四次元ポケットですかい。大変便利なポケットですな」
と、藤谷は目を丸くしていた。
それより、藤谷が荒稼ぎしてくれた礼にと、稲生達に夕食を奢る約束をしたのだが、それで横浜まで向かうことになったのだ。
何でも、藤谷の同級生がオーナーシェフを務める店があるからと……。
「あの、班長」
「ん、何だい?」
「僕、普通の私服なんですけど、いいんですか?」
「はははっ(笑)、それなら心配無用。俺だって、ノーネクタイだろ?そんなに御大層な所に行くわけじゃないよ。確かにコース料理の予約はしたが、ま、そんなに肩肘張ることはないから」
恐らくその同級生が店を開く際、藤谷組が建設を請け負ったと思われる。
「それとも、せっかく来たんだから、和食の方が良かったですかい?」
藤谷はハンドルを握りながら、ルームミラー越しにマリアの方を見た。
「和食……」
「鍋料理屋やってる知り合いもいるんで、この季節はそっちの方が良かったですかねぇ?」
「班長、色々と知ってる人が多いんですね」
「まあ、こう見えても色々、営業掛けてるからな」
「……そっちは嫌だ」
と、マリア。
「ありゃりゃ?鍋はお嫌いですか」
「師匠やユウタとならともかく、藤谷氏とは嫌だ」
「マリアさん?」
「藤谷氏だからというわけではなく、ユウタ以外の男と……」
「マリアさん、何言って……!?班長は別に……」
「ああ、いや、稲生君。彼女の言うことは、もっともだ。すっかり忘れてたよ。本来、鍋ってな、信用のおける者同士がつつくものだ。俺はまだ信用に足りる人間じゃねぇってことだよ」
「マリアさん。班長は仮にも北海道の時、イリーナ先生を“魔の者”から助けてくれたんですよ?少しは信用して……」
「それとこれとは話は別。これから行くフランス料理ならいい」
「じゃ、そうしましょう」
藤谷は横浜町田インターの出口にハンドルを切った。
料金所はETCで通過する。
「サトーさんのことは馬で勝ったし、これから行くフレンチで機嫌直してくださいよ」
「サトー……!ケンショーブルー……!!」
マリアは膝の上に置いた両手の拳をギュッと握った。
「マリアさん……」
稲生はマリアの右手を握った。
手袋の上からなので、マリアは嫌がりはしなかった。
「あの手の男を見ると、殺したくなる……!」
「マリアさんを乱暴した集団の1人に似てるんですね?」
稲生はマリアの耳元で囁いた。
「うっ……!あんま……り、近づかないで……!」
「わわっ!すいません!」
またマリアに嫌悪と恍惚の両方が訪れた。
「サトーのヤツぁ、そろそろ手痛いバチを食らう頃ですよ。まあ、ぶっちゃけ既に食らってるも同然ですがね」
藤谷が言った。
マリアは逆に稲生にそっと耳打ちした。
「……はあ、そうですか。でもまあ、大丈夫ですよ」
と、稲生は答えた。
(何てこった。藤谷班長もまた、マリアさんを集団で乱暴した男の1人に似ているとは……)
稲生は困った顔をした。
マリアも、分かってはいるのだろう。
もちろん、顔が似ているわけではない。
そもそも、人種が違う。
ただ、雰囲気とかが似てるということなのだろう。
[同日21:00.東名高速上り線→首都高速3号線(用賀パーキング) 稲生、マリア、藤谷]
藤谷が開いた夕食会は、まあまあ何の問題も無く終わった。
味もまあまあだったし、店の雰囲気も悪くはなかった。
気分の悪そうにしていたマリアがちゃんと食べられるかどうか心配だったが、そんな彼女が各料理をほぼ完食していたことを見ると、悪くは無かったのは確実だ。
藤谷は稲生達を大宮の実家まで送ってくれると言った。
まあ、藤谷が誘ったのだからというのはある。
マリアは途中で寝てしまったようだ。
いくら隣に稲生がいるとはいえ、トラウマをくすぐる男がハンドルを握る車で寝られたのだから、よほど疲れたのか、あるいは藤谷の目論見通り、やっと機嫌が直ったかのいずれかだろう。
車は順調に東に向かって進んでいたのだが……。
〔ポーン♪ この先、事故渋滞です〕
インパネの横に後付されたカーナビが、そんなことを言い出した。
「ん?……こりゃ、ひょっとして……」
藤谷は何を思ったか、車を左車線に寄せた。
用賀料金所に差し掛かる。
「やっぱりな」
1番左のブースを通過すると、またハンドルを左に切った。
そこにあるのは、用賀パーキング。
空いている駐車スペースに車を止める。
すると、見る見るうちに車の流れが悪くなって、ついに料金所の所まで渋滞が連なってしまった。
「班長、これは……?」
「どうも、渋谷の辺りでトラックが事故りやがって、道路を塞いじまったらしいな。復旧するまで、ここで待とう」
「そうですね。マリアさん、マリアさん」
稲生はマリアの肩を掴んで揺り動かした。
「……はッ!?」
ビクッと肩を震わせてマリアが目を開けた。
「大丈夫ですか?」
「あっ、ああ……。なに?もう着いたのか……?」
「いえ、まだです。ちょっと道路が事故で動かなくなっちゃって……。ちょうど今、パーキングに入った所なんで、ここで復旧まで待つことにしました」
「そう、か……」
「中で休んでる?それとも車の中にいるか?」
「あ、じゃあ、ちょっと降りてみます。マリアさんは?」
「ユウタが降りるなら……」
マリアは魔道師の杖を持つと、一緒に車から降りた。
「ついでにトイレに行きたい」
「中にありますよ」
首都高の高架部分にあるパーキング。
その休憩棟の中に入って行く稲生達。
パーキングの駐車場は、たちまち渋滞から避難する車で、あっという間に満車になってしまった。