[1月23日18:00.天候:雨 アルカディア王国西部レッドスターシティ マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]
対策本部があるという役所に向かうマリア。
既に夜が近づいているということもあり、町は薄暗くなってきた。
あちらこちらからゾンビの呻き声や、生き残った市民達の叫び声が聞こえて来た。
また、雨も降って来たので、マリアはローブのフードを被って走った。
「アアア……!」
「ウウウ……!」
ゾンビ達は雨の中でもマリアの姿を見つけては追い掛けようとはするが、雨でできたぬかるみに足を取られて転倒する者が続出した。
「確か、あの角を曲がれば役所だったはず!」
マリアはゾンビ達の待ち伏せに警戒しながら、しかし速やかに裏の細道の角を曲がった。
「なっ……!?」
だが、マリアはその役所に着くことは叶わなかった。
何故なら、その役所は業火に包まれていたからである。
どうやらつい最近、火事になったばかりらしい。
だがこの混乱の状態では、誰が火を消すというわけでもなく、成す術も無く建物全体に燃え広がってしまったのだろう。
人間界と違って、消火設備も貧弱であろうし……。
「ちくしょう……!どうしたら……!」
「た、助けてくれーっ!」
「!?」
すると、その業火の役所の中から、火だるまになった男が飛び出してきた。
「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!主よ!この者に水の祝福を!我に力を……わぁっ!?」
マリアが魔法の杖を突き出して、魔法を唱えようとした時だった。
同じく火だるまになったゾンビが、救助を求めて来た男に食らい付いた。
男は最後に手帳らしき物を投げると、ゾンビと共に燃え尽きてしまった。
「あ……!く……はっ……!」
壮絶な場面に、さすがのマリアも腰を抜かしそうになった。
「ユウタと会うまでは……こんな所で……」
マリアは咄嗟に手帳を拾い上げると、役所の敷地の外へと逃げ出した。
敷地内には同じく燃え盛る建物からわらわらと出て来たゾンビ達がいて、マリアを追い掛けようとしたが、それはできなかった。
何故なら木造3階建ての役所は、ついに業火の炎を上げながら盛大に崩れ落ちたからである。
敷地内にいたゾンビ達は、強制的に“火葬”されることとなった。
[同日同時刻 天候:雨 同市内アルカディア・タイムス支局内 稲生勇太&アレクサンドラ(サーシャ)]
外から雨の音と時折聞こえる叫び声、そして内外から聞こえるゾンビ達の呻き声。
それらの音に交じって、犬の遠吠えまで聞こえる。
「もうすぐ夜だね。おあつらえ向きに、ホラーチックな展開だよ」
サーシャは支局内に徘徊していたゾンビを斬り伏せると、そう言った。
「そうですね」
稲生は倒れて血だまりを作りながらも、まだピクピクと動いているゾンビにしかめっ面をした。
例え元は人間だったといっても、それこそホラー映画のゾンビ並みに変貌してくれていたのがまだ幸いだった。
ほとんど人間と変わらぬ姿をしていたら、稲生の心情はもっと大混乱していただろう。
「この町はもう終わりだな。見な、稲生。あっちこっちで火の手が上がってる。もう誰も消すヤツがいないんだ」
「そんな……」
「早いとこ避難しないと、私達もゾンビに食われる前に丸焼きになってしまう。目ぼしい情報を見つけたら、1度ここを出よう」
「は、はい」
さすがに情報の発信元となっている場所だ。
一般に新聞が発行されていたのが、3日前までだ。
アルカディア・タイムス日本語版は無かったが、英語版を見るに、人喰い事件が頻発するようになったという記事が目に入った。
そしてその後、この町にいた魔道師達が姿を消したということも……。
新聞記者の手帳には、魔道師の誰かに極秘取材を行う予定を入れていた者がいたとのことだ。
「稲生!隣の建物が火事になったみたいだ!ここに燃え移る前に避難しよう!」
稲生が記者のデスクを調べている間、ゾンビの侵入をサーシャが警戒していてくれたのだが、ゾンビではなく、火災によって強制的にタイムアウトとなってしまった。
「は、はい!」
断腸の思いで稲生は、3日前の新聞と記者の手帳だけを持ち出して、避難することにした。
「うわっ!」
新聞社の外に出ようとした時、稲生は段差に躓いて転んでしまった。
「大丈夫かい?つまらないことでケガするんじゃないよ?」
「す、すいません……。大丈夫です。ケガは無いです」
ケガは無かったが、ポケットからスマホやら手帳やらを落としてしまった。
「アァア……!」
「ウー……!」
「くっ、ここは避難所じゃないよ!」
稲生が落とした物を回収している間にも、彼らの姿を発見したゾンビ達が向かってくる。
サーシャは血糊を拭いたばかりの剣で、またもやゾンビ達を斬り倒した。
「稲生!早くしな!また奴らが来るよ!」
「ま、待ってください!」
稲生は震える手で、何度もスマホを拾おうとしては落とすを繰り返した。
ようやく手にした時、稲生は思わず通話でマリアに掛けてしまったようだ。
普通なら圏外であるため、繋がらないはずだった。
が!
「あ、あれ!?」
スピーカーから、コールの音が聞こえた。
そして、
{「ゆ、ユウタか!?」}
「マリアさん!」
{「無事なのか!?今、どこだ!?」}
「僕は無事です!今、レッドスターシティのアルカディア・タイムスの前にいます!」
{「ユウタも、魔界に……!」}
「マリアさんはどこですか?」
{「私は役所の近くのカフェにいる。ぞ、ゾンビに取り囲まれて……!もう、魔法が使えない……!」}
「い、今行きます!待っててください!」
「稲生の好きな魔道師さん、やっぱりこの町に?」
「そうなんです!ゾンビに取り囲まれてピンチらしいんです!急がないと!役所の近くのカフェだそうです!」
「了解。役所は……あそこで火炎を上げてる建物じゃないか!?」
「ええーっ!?」
「う、うん。新聞社で手に入れた町の地図からして、あそこっぽい。……てか!た、対策本部が全焼してるって、やっぱダメじゃん!この町!」
「と、とにかく行かないとマリアさんが危ない!魔法が使えなくなってるらしいんです!」
「なにっ!?急ぐよ!」
「はい!」
稲生とサーシャは火災が起きている町の中心部、かつゾンビが徘徊する街中を突き進んだ。
生きている人間なら火災が発生したなら避難行動をするところだが、ゾンビくらい頭が腐ったヤツともなると、そもそも熱さすら感じなくなる、火への恐怖も無くなるのかもしれない。
対策本部があるという役所に向かうマリア。
既に夜が近づいているということもあり、町は薄暗くなってきた。
あちらこちらからゾンビの呻き声や、生き残った市民達の叫び声が聞こえて来た。
また、雨も降って来たので、マリアはローブのフードを被って走った。
「アアア……!」
「ウウウ……!」
ゾンビ達は雨の中でもマリアの姿を見つけては追い掛けようとはするが、雨でできたぬかるみに足を取られて転倒する者が続出した。
「確か、あの角を曲がれば役所だったはず!」
マリアはゾンビ達の待ち伏せに警戒しながら、しかし速やかに裏の細道の角を曲がった。
「なっ……!?」
だが、マリアはその役所に着くことは叶わなかった。
何故なら、その役所は業火に包まれていたからである。
どうやらつい最近、火事になったばかりらしい。
だがこの混乱の状態では、誰が火を消すというわけでもなく、成す術も無く建物全体に燃え広がってしまったのだろう。
人間界と違って、消火設備も貧弱であろうし……。
「ちくしょう……!どうしたら……!」
「た、助けてくれーっ!」
「!?」
すると、その業火の役所の中から、火だるまになった男が飛び出してきた。
「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!主よ!この者に水の祝福を!我に力を……わぁっ!?」
マリアが魔法の杖を突き出して、魔法を唱えようとした時だった。
同じく火だるまになったゾンビが、救助を求めて来た男に食らい付いた。
男は最後に手帳らしき物を投げると、ゾンビと共に燃え尽きてしまった。
「あ……!く……はっ……!」
壮絶な場面に、さすがのマリアも腰を抜かしそうになった。
「ユウタと会うまでは……こんな所で……」
マリアは咄嗟に手帳を拾い上げると、役所の敷地の外へと逃げ出した。
敷地内には同じく燃え盛る建物からわらわらと出て来たゾンビ達がいて、マリアを追い掛けようとしたが、それはできなかった。
何故なら木造3階建ての役所は、ついに業火の炎を上げながら盛大に崩れ落ちたからである。
敷地内にいたゾンビ達は、強制的に“火葬”されることとなった。
[同日同時刻 天候:雨 同市内アルカディア・タイムス支局内 稲生勇太&アレクサンドラ(サーシャ)]
外から雨の音と時折聞こえる叫び声、そして内外から聞こえるゾンビ達の呻き声。
それらの音に交じって、犬の遠吠えまで聞こえる。
「もうすぐ夜だね。おあつらえ向きに、ホラーチックな展開だよ」
サーシャは支局内に徘徊していたゾンビを斬り伏せると、そう言った。
「そうですね」
稲生は倒れて血だまりを作りながらも、まだピクピクと動いているゾンビにしかめっ面をした。
例え元は人間だったといっても、それこそホラー映画のゾンビ並みに変貌してくれていたのがまだ幸いだった。
ほとんど人間と変わらぬ姿をしていたら、稲生の心情はもっと大混乱していただろう。
「この町はもう終わりだな。見な、稲生。あっちこっちで火の手が上がってる。もう誰も消すヤツがいないんだ」
「そんな……」
「早いとこ避難しないと、私達もゾンビに食われる前に丸焼きになってしまう。目ぼしい情報を見つけたら、1度ここを出よう」
「は、はい」
さすがに情報の発信元となっている場所だ。
一般に新聞が発行されていたのが、3日前までだ。
アルカディア・タイムス日本語版は無かったが、英語版を見るに、人喰い事件が頻発するようになったという記事が目に入った。
そしてその後、この町にいた魔道師達が姿を消したということも……。
新聞記者の手帳には、魔道師の誰かに極秘取材を行う予定を入れていた者がいたとのことだ。
「稲生!隣の建物が火事になったみたいだ!ここに燃え移る前に避難しよう!」
稲生が記者のデスクを調べている間、ゾンビの侵入をサーシャが警戒していてくれたのだが、ゾンビではなく、火災によって強制的にタイムアウトとなってしまった。
「は、はい!」
断腸の思いで稲生は、3日前の新聞と記者の手帳だけを持ち出して、避難することにした。
「うわっ!」
新聞社の外に出ようとした時、稲生は段差に躓いて転んでしまった。
「大丈夫かい?つまらないことでケガするんじゃないよ?」
「す、すいません……。大丈夫です。ケガは無いです」
ケガは無かったが、ポケットからスマホやら手帳やらを落としてしまった。
「アァア……!」
「ウー……!」
「くっ、ここは避難所じゃないよ!」
稲生が落とした物を回収している間にも、彼らの姿を発見したゾンビ達が向かってくる。
サーシャは血糊を拭いたばかりの剣で、またもやゾンビ達を斬り倒した。
「稲生!早くしな!また奴らが来るよ!」
「ま、待ってください!」
稲生は震える手で、何度もスマホを拾おうとしては落とすを繰り返した。
ようやく手にした時、稲生は思わず通話でマリアに掛けてしまったようだ。
普通なら圏外であるため、繋がらないはずだった。
が!
「あ、あれ!?」
スピーカーから、コールの音が聞こえた。
そして、
{「ゆ、ユウタか!?」}
「マリアさん!」
{「無事なのか!?今、どこだ!?」}
「僕は無事です!今、レッドスターシティのアルカディア・タイムスの前にいます!」
{「ユウタも、魔界に……!」}
「マリアさんはどこですか?」
{「私は役所の近くのカフェにいる。ぞ、ゾンビに取り囲まれて……!もう、魔法が使えない……!」}
「い、今行きます!待っててください!」
「稲生の好きな魔道師さん、やっぱりこの町に?」
「そうなんです!ゾンビに取り囲まれてピンチらしいんです!急がないと!役所の近くのカフェだそうです!」
「了解。役所は……あそこで火炎を上げてる建物じゃないか!?」
「ええーっ!?」
「う、うん。新聞社で手に入れた町の地図からして、あそこっぽい。……てか!た、対策本部が全焼してるって、やっぱダメじゃん!この町!」
「と、とにかく行かないとマリアさんが危ない!魔法が使えなくなってるらしいんです!」
「なにっ!?急ぐよ!」
「はい!」
稲生とサーシャは火災が起きている町の中心部、かつゾンビが徘徊する街中を突き進んだ。
生きている人間なら火災が発生したなら避難行動をするところだが、ゾンビくらい頭が腐ったヤツともなると、そもそも熱さすら感じなくなる、火への恐怖も無くなるのかもしれない。