[1月1日20:00.天候:晴 魔界王国アルカディア 魔王城コンベンションホール]
魔王城大ホールにある大時計が鐘を8回鳴らす。
高さ30メートルもある大時計、その頂上にある鐘を鳴らすのは2つの彫像。
1つはまるでトランプのジョーカーに描かれているかのような悪魔の姿。
もう1つは、ドラクエシリーズ辺りに出て来そうな勇者の姿。
これらが交互に扉の向こうから出て来ては、悪魔は大鎌、勇者は大剣を振り上げて鐘を鳴らす。
これの謂われについては、実は誰も知らない。
安倍春明は、『勇者の彫像は正しく勇者で良い。しかし悪魔の彫像はイコール魔王とは言い難い。恐らく、黒幕としての悪魔ではないか。真の勇者とは魔王を倒す者ではない。その後ろ盾となっている真の黒幕を倒してこその勇者である』としている。
横田:「今般の新年会における大感動は、年末まで冷めやらぬことでありましょう。大変盛り上がりのところ恐縮ではございますが、20時を持ちまして一次会終了とさせて頂きます。引き続きお楽しみの方は、これより二次会としてお続けください」
稲生はスーツのポケットから懐中時計を出した。
父親からもらった威吹とお揃いのものである。
稲生:「あ、もうこんな時間だ」
イリーナ:「日本と時差が無くて良かったわね」
稲生:「ビザ無し渡航できるからいいですね」
マリア:「どうします?部屋に引き上げますか?」
イリーナ:「いいえ。せっかくの新年なんだし」
イリーナは笑みを浮かべた。
[同日20:30.天候:晴 同国王都アルカディアシティ上空]
イリーナ:「うひょーっ!絶景ーっ!」
イリーナの使い魔はドラゴンである。
緑色の鱗に覆われ、背中には大きなコウモリの翼を生やしたスタンダードなドラゴンだ。
名前をリシーツァという。
リシーツァ:「寒くないですか、イリーナさん?」
イリーナ:「平気平気!アルカディア王国は常春の国だからねぃ!」
それでも空は涼しい方だし、如何に常春の国とは言えど、心なしか寒く感じる。
稲生:「それにしても先生、まさか空の散歩って言うからどうするのかと思いましたが、この手を使うとは!」
イリーナ:「リシーちゃんに乗るの、久しぶりでしょう?」
マリア:「確か、勇太の学校から脱出する時に便乗したような……?」
イリーナ:「ああ、そんなこともあったわね」
リシーツァは魔王城の近くを旋回している。
この城は時計台が別にあり、城内に時を告げる大時計と連動している。
この時計台が城下の人々に時を告げているのである。
稲生:「おおっ!真下にはモハ40系が!」
魔界高速電鉄(アルカディアメトロ)の環状線を走る電車に狂喜する稲生。
イリーナ:「東京ほどじゃないけど、なかなか夜景もきれいでしょ?」
稲生:「そうですね!剣と魔法のファンタジーじゃないみたい」
マリア:「都市化が進んでいるので、エルフや妖精達も余程のことが無い限り、王都には近づかないらしいです」
イリーナ:「しょうがない。これも時代の流れよ」
リシーツァ:「どこか行きたい所ありますか?」
イリーナ:「どこでもいいわ」
稲生:「南端村なんてどうでしょう?」
イリーナ:「おお〜!威吹君の所か。ちょっと上空からお邪魔してみましょうか。リシーちゃん、南の方に行ってくれる」
リシーツァ:「はい。分かりました」
イリーナがこのリシーツァを使い魔にしたのは紆余曲折ある。
それだけで1話分作れそうなものだ。
要は“鶴の恩返し”のドラゴン版だと思えば良い。
とある理由で大ケガしていたリシーツァを、まだマスターに成り立てのイリーナが助けてあげたことが理由。
修行のやり方を巡ってダンテと大ゲンカして飛び出し、酒に溺れていたところをリシーツァと出会ったというもの。
リシーツァ:「着きましたぁ!」
稲生:「速っ!」
イリーナ:「ヘリコプターよりも速いもの」
神社の境内にはまだ明かりが灯っている。
マリア:「このまま着陸したら、イブキのヤツ、びっくりするぞ」
マリアは笑いを堪えながら言った。
稲生:「だったらいいですよ。明日また、改めて新年の挨拶に行きますから」
イリーナ:「それに、ドラゴンが着陸するにはちょっと狭いかもね」
稲生:「えっ、滑走路が必要なんですか?」
イリーナ:「戦闘機のハリアーが着陸するものだと思ってくれていいわ」
稲生:「は、ハリアーですか!?」
航空母艦にも搭載されている為、長い滑走路を必要としないハリアーではあるが……。
イリーナ:「あ、因みに戦闘力はリシーちゃんとどっこいどっこいよ」
稲生:「ですよねぇ……」
リシーツァ:「何ですって!?人間界にはドラゴンに対抗しよう等という愚か者がいるんですか!?」
イリーナ:「リシーちゃんと互角に戦える兵器は持っているけど、そんなバカなことを考えている人間はいないから安心して」
稲生:(そもそも本物のドラゴンが人間界にはいないしな)
マリア:「魔法を使われたら、ハリアーの方が撃墜されると思います」
イリーナ:「おお〜!それもそうか!」
ドラゴンは魔法を使うこともある。
中にはそれで人間に化けることもあるという。
イリーナ:「さぁさ、そろそろ帰りましょうか。酔いも覚めて来たしね。部屋に入って飲み直しましょうか」
リシーツァ:「じゃあ、魔王城に戻りまーす」
よく見ると、上空には月が2つ。
稲生:「先生、思ったんですけど……」
イリーナ:「あら、なぁに?」
稲生:「もしかして、ここは異世界というより別の惑星なのでは?」
イリーナ:「そうかもしれないわね。太陽系の外にある、また別の太陽系に似た星なのかもね」
月のような衛星、1つは地球のように青く、もう1つは火星のように赤い。
そう言えば昼は昼で、太陽(のような恒星)は確かに昇っている。
だがその太陽は、確かに比較的暗い。
まるで日食が常に起こっているくらいの暗さだ。
恐らく、こちらの世界の太陽よりは小さい(弱い)か、あるいは遠いのかもしれない。
稲生:「なるほど……」
イリーナ:「アレフガルドよりは明るいわよ。ちゃんと昼夜の区別もあるし」
稲生:「アレフガルドって、某有名RPGじゃあるまいし……」
イリーナ:「ああ。実はその名前、この王国名の候補に挙がってたのよ」
稲生:「そうなんですか!?」
イリーナ:「結局はバァルの爺さんが、魔族にとっての理想郷たるアルカディアにしようなんて言い出したからね」
大魔王バァルによる帝政(絶対王制)が終了し、ルーシー女王や魔界共和党による立憲君主制となっても国名が変更されることはなかった。
こうして部屋に戻った稲生達であったが、手紙が届いていた。
どうやら宴会の始まりの時に言っていた安倍の言葉は冗談ではなく、東京に戻る前にルーシーに献血して行けというものであった。
横田の最後のセリフが、『非協力的な場合は出国許可を出しかねます』とまで。
これでは協力依頼ではなく強制である。
魔王城大ホールにある大時計が鐘を8回鳴らす。
高さ30メートルもある大時計、その頂上にある鐘を鳴らすのは2つの彫像。
1つはまるでトランプのジョーカーに描かれているかのような悪魔の姿。
もう1つは、ドラクエシリーズ辺りに出て来そうな勇者の姿。
これらが交互に扉の向こうから出て来ては、悪魔は大鎌、勇者は大剣を振り上げて鐘を鳴らす。
これの謂われについては、実は誰も知らない。
安倍春明は、『勇者の彫像は正しく勇者で良い。しかし悪魔の彫像はイコール魔王とは言い難い。恐らく、黒幕としての悪魔ではないか。真の勇者とは魔王を倒す者ではない。その後ろ盾となっている真の黒幕を倒してこその勇者である』としている。
横田:「今般の新年会における大感動は、年末まで冷めやらぬことでありましょう。大変盛り上がりのところ恐縮ではございますが、20時を持ちまして一次会終了とさせて頂きます。引き続きお楽しみの方は、これより二次会としてお続けください」
稲生はスーツのポケットから懐中時計を出した。
父親からもらった威吹とお揃いのものである。
稲生:「あ、もうこんな時間だ」
イリーナ:「日本と時差が無くて良かったわね」
稲生:「ビザ無し渡航できるからいいですね」
マリア:「どうします?部屋に引き上げますか?」
イリーナ:「いいえ。せっかくの新年なんだし」
イリーナは笑みを浮かべた。
[同日20:30.天候:晴 同国王都アルカディアシティ上空]
イリーナ:「うひょーっ!絶景ーっ!」
イリーナの使い魔はドラゴンである。
緑色の鱗に覆われ、背中には大きなコウモリの翼を生やしたスタンダードなドラゴンだ。
名前をリシーツァという。
リシーツァ:「寒くないですか、イリーナさん?」
イリーナ:「平気平気!アルカディア王国は常春の国だからねぃ!」
それでも空は涼しい方だし、如何に常春の国とは言えど、心なしか寒く感じる。
稲生:「それにしても先生、まさか空の散歩って言うからどうするのかと思いましたが、この手を使うとは!」
イリーナ:「リシーちゃんに乗るの、久しぶりでしょう?」
マリア:「確か、勇太の学校から脱出する時に便乗したような……?」
イリーナ:「ああ、そんなこともあったわね」
リシーツァは魔王城の近くを旋回している。
この城は時計台が別にあり、城内に時を告げる大時計と連動している。
この時計台が城下の人々に時を告げているのである。
稲生:「おおっ!真下にはモハ40系が!」
魔界高速電鉄(アルカディアメトロ)の環状線を走る電車に狂喜する稲生。
イリーナ:「東京ほどじゃないけど、なかなか夜景もきれいでしょ?」
稲生:「そうですね!剣と魔法のファンタジーじゃないみたい」
マリア:「都市化が進んでいるので、エルフや妖精達も余程のことが無い限り、王都には近づかないらしいです」
イリーナ:「しょうがない。これも時代の流れよ」
リシーツァ:「どこか行きたい所ありますか?」
イリーナ:「どこでもいいわ」
稲生:「南端村なんてどうでしょう?」
イリーナ:「おお〜!威吹君の所か。ちょっと上空からお邪魔してみましょうか。リシーちゃん、南の方に行ってくれる」
リシーツァ:「はい。分かりました」
イリーナがこのリシーツァを使い魔にしたのは紆余曲折ある。
それだけで1話分作れそうなものだ。
要は“鶴の恩返し”のドラゴン版だと思えば良い。
とある理由で大ケガしていたリシーツァを、まだマスターに成り立てのイリーナが助けてあげたことが理由。
修行のやり方を巡ってダンテと大ゲンカして飛び出し、酒に溺れていたところをリシーツァと出会ったというもの。
リシーツァ:「着きましたぁ!」
稲生:「速っ!」
イリーナ:「ヘリコプターよりも速いもの」
神社の境内にはまだ明かりが灯っている。
マリア:「このまま着陸したら、イブキのヤツ、びっくりするぞ」
マリアは笑いを堪えながら言った。
稲生:「だったらいいですよ。明日また、改めて新年の挨拶に行きますから」
イリーナ:「それに、ドラゴンが着陸するにはちょっと狭いかもね」
稲生:「えっ、滑走路が必要なんですか?」
イリーナ:「戦闘機のハリアーが着陸するものだと思ってくれていいわ」
稲生:「は、ハリアーですか!?」
航空母艦にも搭載されている為、長い滑走路を必要としないハリアーではあるが……。
イリーナ:「あ、因みに戦闘力はリシーちゃんとどっこいどっこいよ」
稲生:「ですよねぇ……」
リシーツァ:「何ですって!?人間界にはドラゴンに対抗しよう等という愚か者がいるんですか!?」
イリーナ:「リシーちゃんと互角に戦える兵器は持っているけど、そんなバカなことを考えている人間はいないから安心して」
稲生:(そもそも本物のドラゴンが人間界にはいないしな)
マリア:「魔法を使われたら、ハリアーの方が撃墜されると思います」
イリーナ:「おお〜!それもそうか!」
ドラゴンは魔法を使うこともある。
中にはそれで人間に化けることもあるという。
イリーナ:「さぁさ、そろそろ帰りましょうか。酔いも覚めて来たしね。部屋に入って飲み直しましょうか」
リシーツァ:「じゃあ、魔王城に戻りまーす」
よく見ると、上空には月が2つ。
稲生:「先生、思ったんですけど……」
イリーナ:「あら、なぁに?」
稲生:「もしかして、ここは異世界というより別の惑星なのでは?」
イリーナ:「そうかもしれないわね。太陽系の外にある、また別の太陽系に似た星なのかもね」
月のような衛星、1つは地球のように青く、もう1つは火星のように赤い。
そう言えば昼は昼で、太陽(のような恒星)は確かに昇っている。
だがその太陽は、確かに比較的暗い。
まるで日食が常に起こっているくらいの暗さだ。
恐らく、こちらの世界の太陽よりは小さい(弱い)か、あるいは遠いのかもしれない。
稲生:「なるほど……」
イリーナ:「アレフガルドよりは明るいわよ。ちゃんと昼夜の区別もあるし」
稲生:「アレフガルドって、某有名RPGじゃあるまいし……」
イリーナ:「ああ。実はその名前、この王国名の候補に挙がってたのよ」
稲生:「そうなんですか!?」
イリーナ:「結局はバァルの爺さんが、魔族にとっての理想郷たるアルカディアにしようなんて言い出したからね」
大魔王バァルによる帝政(絶対王制)が終了し、ルーシー女王や魔界共和党による立憲君主制となっても国名が変更されることはなかった。
こうして部屋に戻った稲生達であったが、手紙が届いていた。
どうやら宴会の始まりの時に言っていた安倍の言葉は冗談ではなく、東京に戻る前にルーシーに献血して行けというものであった。
横田の最後のセリフが、『非協力的な場合は出国許可を出しかねます』とまで。
これでは協力依頼ではなく強制である。