報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「出発前日」

2019-01-28 18:50:11 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月18日09:00.天候:曇 某県霧生市上空]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は訳あってヘリコプターに乗っている。
 BSAA極東支部日本地区本部が、久方ぶりに霧生市内の探索を行うのだという。
 正直私達はあの悪夢の聖地に足を踏み入れたくは無かったのだが、日本政府エージェントの善場さんが是非と押してきた為、私達は参加せざるを得なかった。
 いつもは事務所で留守番の高野君もついて来ている。
 そして、リサもだ。

 パイロット:「まもなく霧生市です。自衛隊の臨時警備本部に着陸します」

 福島第一原発の立入制限区域の入口には民間委託の警備員が立哨しているが、霧生市は自衛隊が直々に行っている。
 これは前者と比べても、とても危険な地域であるということに他ならない。

 愛原:「全く。明日は温泉旅行だってのに……」
 善場:「もちろん、今日中に帰りますよ。愛原さん達のあの時の行動を教えて頂きたいのです」

 朝早くに連れ出され、自衛隊の駐屯地に連れて行かれたかと思うと、すぐBSAAのヘリコプターに乗せられた。
 そして、私達は霧生市の入口にある自衛隊臨時警備本部に着陸した。

 高橋:「おお〜、先生。カプコン製のヘリなのに墜落しませんでしたよー?」
 愛原:「何を言ってるんだ、オマエは……」
 高野:「そのネタ、一部の人にしか分からないよ」

 ヘリコプターを降りると、臨警本部事務所に連れて行かれ、そこで自衛隊のお偉いさんとBSAAのお偉いさんと話をした。
 ここ最近、霧生市内の安全が確認されつつあるので、私達のように無事に市内を脱出できた者について、当時の行動を把握したいのだという。
 要するに、アレだな。“はだしのゲン”みたいに、どうやって原爆の中から生き延びたかという証言を得るのと同じことだ。
 東日本大震災でも、現場から生き延びた被災者の当時の証言は確かに今後の防災計画の役に立つ。
 しかし私達の証言は、果たしてバイオテロ対策の役に立つのだろうか。
 そんなことを考えつつ、私達は自衛隊の装甲車に乗り込んだ。
 これまでも何度もBSAAなどの武装組織が市内に入り、ゾンビやクリーチャーの掃討作戦に当たって来た。
 ここ最近はその目撃証言も無くなり、ある程度の安全が確認されつつあるわけだが、万が一ということもある。
 さすがのゾンビも装甲車の窓ガラスまではブチ破れないから、その中にいれば安全ということだ。

 善場:「それではまず、愛原さん達が最初にゾンビ達と遭遇したレストランに行きましょう」
 愛原:「はい」

 あの時、私と高橋君は仕事が終わった打ち上げをしていた。
 そんな時、1人のゾンビが店の中に入ってきたのがきっかけだったな。
 呻き声を上げながらフラフラやってきたので、私つい、飲み過ぎて吐きそうになった酔っ払いが店の中に入ってきたとしか思わなかった。
 店員もそのように思ったのだろう。
 その酔っ払いらしき男に近づいた途端、そいつは牙を剝いた。
 店員はそのゾンビに噛まれつつも、何とか店の外に追い出し、ドアに鍵を掛けた。
 そしてそれを合図にするかのように、ゾンビの大群が店の窓ガラスをバンバン叩き始めたのだ。

 愛原:「何だかまるで外国の町みたいだな。紛争地帯の町って感じだ」
 高橋:「そうですね」

 悲惨な状態となった国内の町は東日本大震災で見たつもりだったが、これは全く違う。
 私達が通っている場所に死体が転がっているということはなかった。
 ただ、死体は市外に搬出することは許されず、そのまま火葬されたという。
 これは死体をそのまま外に持ち出して、それがまたゾンビ化したりしたら大変だからだ。
 また、そうでなくても死体はウィルスに汚染されている恐れがある。
 遺品などもちゃんと消毒された上で、遺族には遺骨の状態で返されたとのこと。
 さすがに骨になってまでゾンビ化することはないからだ。

 BSAA隊員:「まもなく、件のレストランです」

 市街地は殆ど焼け野原となっていた。
 確かに私達がゾンビの攻撃を交わしながら進んでいた時、あちこちで火災が発生していた。
 消防署もあのゾンビパラダイス状態では、ロクな消火活動もできなかっただろう。
 ゾンビに阻まれただろうし、第一、消防士自身がゾンビ化して歩いているところを私は一瞬だけ見たことがある。

 愛原:「降りても大丈夫ですか?」
 隊員:「はい。この辺りは安全が確認されています」

 私達は装甲車を降りた。
 因みに装甲車は、他にも自衛隊員やBSAA隊員を乗せた物が前後1台ずつ挟むようになっている。

 善場:「調査によりますと、この辺りが愛原さん達が食事をされていたレストランのあった場所です」
 愛原:「そうですか。ここが通りであるならば、入口はこの辺に確かあって……」

 私達はまだ焦げ臭い臭いの残るレストラン跡に入った。

 愛原:「この辺りで高橋君と夕食を取っていました。確かあの時、テーブル席は満席だったので、カウンター席で並んで座っていたんです」
 高橋:「そうでした」
 善場:「なるほど……」

 善場さんは手帳に私の証言をメモしている。

 愛原:「そしたら、1人の酔っ払い……実際はゾンビでしたが、それが入ってきたんですよ」

 そこから私達は店の裏から逃げたこと。
 それでもゾンビ達の魔の手は迫っていたことを証言した。
 それから私達はマンションの屋上に逃げたはずだ。
 マンションは黒焦げになりつつも、何とか残っていた。

 愛原:「あのマンションの屋上で、クリムゾンヘッドに襲われたわけです」

 1度死んだゾンビが、体内に残ったウィルス活動の激化によって再び蘇ったもの。
 ただ単に蘇ったのではなく、両手の爪は長く鋭く伸びて、体中は赤く染まり、特に頭部が真っ赤に染まったのでそう呼ばれた。
 全てのゾンビがそうなるわけではなく、未だにどういうゾンビがどのような条件でそうなるのかまでは不明なのだそうだ。
 せいぜい対処法として頭を吹っ飛ばしてやるか、体をバラバラに解体してやる、或いは焼却してやることだ。
 実際、火災の酷かった地帯ではクリムゾンヘッドの発生は報告されていない。

 善場:「分かりました。それでは、次に行きましょう」

 私達はこの地で会った警視庁の刑事と一時行動を共にした軌跡を辿ることになった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「出発前の計画段階」

2019-01-28 10:22:18 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月12日10:30.天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日から3連休であるが、予定は仕事のみ。
 こうして事務所も開けている。
 私は事務所で電話をしていた。
 いや、これは別に仕事の電話というわけではないのだが……。

 斉藤秀樹:「我が全日本製薬は鬼怒川に保養所がありますが、そこ以外にもありますから御紹介させて頂きますよ」
 愛原:「そんな、お気遣い無く」
 斉藤:「いいえ。私の学生時代の謎を解いて頂いた御礼です。あの後も、当時の先生の行方は追っていますからね」
 愛原:「ええっ?」
 斉藤:「例え墓場でも、それがどこにあるのか突き止めたいのです。あ、これは私の私怨ですから、愛原さんを巻き込むつもりはありません」
 愛原:「私怨!?」

 斉藤社長の高校時代、科学の教師だったという日本アンブレラの研究員。
 その本体であるアンブレラ・コーポレーションは、アメリカ中西部の町で大規模なバイオ事件を引き起こし、その隠蔽工作に奔走したものの、結局は失敗。
 政府より業務停止命令を受けて信用を失い、株価は大暴落。
 当然ながら経営が破綻し、それで幕引きとなった悪の製薬会社である。
 ただ、政府の方もアンブレラ社におもねっていた部分があって、ヘタすりゃ政界にも飛び火する恐れがあったので、慌てて経営破綻させて幕引きを図ったことが現在発覚している。
 日本アンブレラ社はアメリカ本体より経営が切り離されて細々と活動していたが(むしろ日本を拠点に再興しようと考えていた)某県霧生市のバイオ事件を機に完全に消滅してしまった。
 この辺、日本の方がむしろ冷たいもので、斉藤社長率いる全日本製薬会社を始め、全ての取引先が逃げ出した為に再興など土台無理であった。
 私はこの見事なまでの遁走ぶりが、むしろ怪しいような気がしてしょうがない。
 斉藤社長は、私の前では良い顔をして下さるが、実は裏の顔なんかあったりしてな。
 ま、この会社も国内では有数の大製薬企業で、その経営者ともなれば、いくつもの顔を持つのは当然だろうが……。

 愛原:「そ、それで私達はいつ出発すれば良いのでしょう?」
 斉藤:「もちろん愛原さん達の御都合で結構ですよ。何しろ、娘のお守りをして頂けるということで、ありがとうございます」
 愛原:「でもこの3連休はさすがにムリ?」
 斉藤:「そうなんですよー。何しろ、勉強は不出来な娘でして、今頃は学校で追試です。明日は日曜日ですが、赤点対象者の特別補習があります」
 愛原:「うわ……」
 斉藤:「愛原さんの所は大丈夫でしたか?」
 愛原:「リサですか?うちにいますから、多分赤点は取っていないかと」
 斉藤:「素晴らしい。いや、実に素晴らしいですな」
 愛原:「リサは……違った意味で特別ですから」
 斉藤:「ええ、分かってますよ」
 愛原:「来週の土日は何も予定が無いので、この日を開けておこうかと思います」
 斉藤:「了解しました。私が株主になっているホテルがありますので、その優待券を駆使させて頂きましょう」
 愛原:「何から何まですいませんね」
 斉藤:「いえ、これは私からの依頼と報酬ですよ」
 愛原:「ん?」
 斉藤:「まだあなたには私の学生時代の謎を解いて頂いたという報酬をお支払いしておりませんでしたし、今度は娘のお守りをして頂くという依頼の報酬を先払いさせて頂くだけの話ですよ」
 愛原:「なるほど。そういうことでしたか」
 斉藤:「もしも契約書が必要でしたら、サインしに伺いますよ?」
 愛原:「あ、いや。正式な仕事の依頼ではないですからね。そのご足労は無用ですよ」

 私は笑みをこぼしながら答えた。

 愛原:「それにしても、斉藤社長はどうしてここまで私を目に掛けて下さるんですか?」
 斉藤:「そうですねぇ……。全て説明しようとすると、日が暮れてしまいます。それくらい複雑な事情があるんですよ。まあ、簡単に一言で言ってしまえば、『私怨を晴らしてくれるのは愛原さんしかいない』とそう思ったからです」
 愛原:「また私怨ですか……」
 斉藤:「愛原さんは義憤に燃える正義感をお持ちであるとお見受けします。それを買いたいのです」
 愛原:「失礼ながら、些か買いかぶり過ではないかと思いますが……。ま、全幅の御信頼を頂いた以上、報酬に見合った仕事はさせて頂きますよ。……はい、分かりました。では、また後ほど」

 私は電話を切った。

 高野:「斉藤社長がいい支援者になってくれそうですね」
 愛原:「俺なんか買っても、あまり大した利益は出ないと思うんだが……」
 高橋:「そんなことないですよ。その社長、ちゃんと人を見る目があるってことですよ」
 高野:「そうですよ。さすがは大企業家は違いますね」
 愛原:「うーん……」

 何か、話が出来過ぎているような気がする。
 嫌だね。
 こんな仕事をしていると、すぐ人を疑う癖が付いてしまう。
 職業病だな、これは。

 高野:「予定表に、『温泉旅行』って書いておきますね」
 愛原:「おいおい……」

[同日同時刻 天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家]
(ここから三人称となります)

 電話を切った斉藤秀樹。
 ここは斉藤家の応接室である。
 斉藤の向かい側のソファには、来客が座っていた。
 煙草を嗜んでおり、テーブルの上の豪華なクリスタル製の灰皿に灰を入れている。

 斉藤:「随分と絶好調のようだな?キミが面倒を見ている、この愛原学探偵事務所とやらは……」
 ボス:「おかげさまで。私もこちら側の人間とはいえ、探偵の端くれ。依頼人の御要望には、極力応えるものだ。どうやら、その成果に御満足頂けたようだな」
 斉藤:「御苦労……」
 ボス:「いや、なに……。私が後見している彼らを使って、どうするつもりなのかね?」
 斉藤:「電話で言った通りさ。この業界のイメージをどん底までダウンさせたアンブレラの連中を、徹底的に叩き潰す。それだけさ」
 ボス:「しかし、製薬会社としてのアンブレラはもうこの世から消え失せた。今存在しているのは、民間軍事会社としてのアンブレラだ。それを潰す気か?」
 斉藤:「いや、そういうことじゃない。ま、見ていてくれ。悪いようにはしない」
 ボス:「そうかね。(……この男、他に隠し事があるな。恐らく、本来の目的は愛原君ではなく……)」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする