[1月2日07:00.天候:晴 魔界王国アルカディア 魔王城ゲストルーム]
魔王城内にあるゲストルームは、まるで高級ホテルのスイートルームのような造りである。
尚、女王ルーシー・ブラッドプール1世は吸血鬼の出自であるが、寝る時は似たような造りの部屋に設置されたベッドに寝るものであり、けして十字架のマークが付いた棺の中に寝るわけではない。
スイートルームは更に2部屋に分かれており、男女混合のイリーナ組にとっては都合が良かった。
稲生:「ん……」
稲生はダブルサイズのベッドに寝ている。
もちろん、1人である。
枕元のスマホが発車メロディーを流した。
稲生:「うーん……」
稲生は手を伸ばしてアラームを止めた。
そして、大きな欠伸をして起き上がる。
稲生:「もう朝か……」
朝日が室内に差し込んではいるものの、やはり何かフィルターを掛けたかのように薄暗い。
もちろん太陽を直接覗き込んではいけないが、ここから見る限り、大きさは人間界の太陽と同じようではあるが……。
稲生はベッドから出ると、スイートルーム内にある洗面所に向かった。
そこで顔を洗っていると……。
マリア:「おはよう……」
稲生:「あ、おはようございます」
マリア:「頭痛ェ……。飲み過ぎた……」
稲生:「ワインやカクテルなら大丈夫なのでは?」
マリア:「それでもモノには限度ってものがある。後でエレーナから二日酔いの薬でももらうか……」
稲生:「それがいいですよ。でも、エレーナはホテルに帰ったんじゃないですか?」
マリア:「いや、勇太が参加するようになってから、あいつも魔王城に泊まるようになった」
稲生:「そうなんですか」
マリア:「全く。下心見え見えだ。あの黄色いゴリラ」
稲生:「プッ!」( ´,_ゝ`)
『黄色い猿』と言ってしまうと、それは白人から見た黄色人種(特に日本人)のことを侮蔑的に指すものであるが、『黄色いゴリラ』とはエレーナのことを指す。
所以はエレーナの金髪がマリアのそれよりも濃い黄色であり、また体付きもマリアより良い(マリアより身長が高く、スリーサイズも大きい為、必然的に体重も上である)ことから、いつの間にかマリアがそういう渾名を付けた。
もちろん、本人は嫌がっている。当たり前だ。
稲生:「じゃあ、後で僕がもらってきますよ」
マリア:「いいよ。私がもらってくる」
稲生:「マリアさんが行くとケンカになりそうですが、僕が行くとすんなり貰えると思います」
マリア:「……確かにな。……って、勇太も何気に女の扱い上手くなってない?」
稲生:「女性に囲まれて修行してたら、そりゃ扱いもそうなりますって」
マリア:「……確かに」
ダンテ一門の男女比、男性1人に対し、女性は9人である。
この男女比の大きな偏りは、他門からも批判の対象となっている。
と、その時だった。
メイド:「失礼します」
メイドが数人ワゴンを押してやってきた。
そこには豪華な朝食が載っていた。
メイド:「朝食をお持ち致しました」
稲生:「あっ、ああ、どうも」
メイドは浅黒い肌をしていた。
そして耳は長く尖っている。
ダークエルフのようにも見えるが、もっと別の種族かもしれない。
いずれにせよ、人間ではないことは確かである。
メイド達はテキパキとテーブルをセッティングして、朝食をきれいに並べ立てた。
メイド:「何かご要望がございましたら、何なりとお申し付けください」
そこで稲生はピーンと来た。
稲生:「ポーリン組の泊まっている部屋があるでしょう?そこに行って、二日酔いの薬を譲ってもらうよう、言って来てもらえませんか?」
メイド:「かしこまりました」
魔族メイドは恭しくお辞儀をすると、部屋を出て行った。
稲生:「これでいいでしょう、マリアさん?言われてみれば、エレーナ達の泊まっている部屋って、他の組の部屋の前を通らないと行けないんですよね。それはまるで、『女性専用車』の中を通るようなもの。だったら、メイドさんにお願いすれば廉も立たないということですね」
マリア:「……勇太、あなた、魔女達の扱いが上手くなって来てるねぇ……」
マリアは驚いた顔をしていた。
稲生:「どうせ僕は『男性』というだけで【お察しください】ですから」
マリア:「申し訳ないと思う反面、私も昔はそっち側の魔女だったから、あいつらの気持ちも分かってとてもフクザツ」
稲生:「さてと、朝食の前に勤行をやらなければ……。あ、マリアさんは先に食べてていいですからね」
マリア:「私は師匠を起こして来るよ。どうせ、『あと5分』を1時間は繰り返すだろうから」
稲生:「僕の勤行が終わる前に起きて下さるといいですねぇ……」
稲生は再び自分が寝泊まりしていたベッドルームに入った。
稲生:「えーと、太陽の向きはあっちだから、初座は向こうだな」
そこで稲生、ふと気づく。
稲生:「大石寺の方向……どこ?」
どうしても大石寺の方向が分からぬ場合は、東に向かって勤行でも良いと思うのだが、如何だろうか?
[同日09:00.天候:晴 魔界高速電鉄(アルカディアメトロ)1番街駅]
朝食を終えた稲生はマリアを伴って、威吹の所へ新年の挨拶に行こうと思った。
イリーナに頼めば瞬間移動魔法を掛けてくれるわけだが、ここはあえて電車で行くことにした。
1番街駅は魔王城への最寄り駅であり、人間界で言えば東京駅のようなものである。
地下鉄も通っており、こちらは大手町駅といったところ。
但し、人間界のそれよりはコンパクトな造りになっている。
〔まもなく6番線に、環状線外回り、各駅停車が6両編成4ドアで到着致します。白線の内側で、お待ちください。この電車は、サウスエンドより先、急行となります〕
ホームにある発車票は反転フラッグ式(所謂、パタパタ)。
パタパタと音を立てて、発車時刻と種別が表示される。
稲生:「おっ、モハ72系だ」
JR山手線のようなウグイス色に塗装された旧型の通勤電車がやってきた。
大きなエアー音を立てて、片開きのドアが開く。
〔「1番街、1番街です。中央線、地下鉄線、軌道線はお乗り換えです。6番線の電車は環状線外回り、各駅停車です。サウスエンドより先、急行となります」〕
地下鉄線は魔族の乗客と乗務員が多いが、高架線は人間の乗務員と乗客が多い。
日本の鉄道ほどではないが、一応の安全確認はやっている。
1番後ろの車両に稲生達は乗ったが、黒人の乗務員が『停止位置よーし!』『レピーター点灯』の指差確認をやっているのが分かった。
電車に乗り込んだ稲生とマリアは、ブルーの座席に腰掛けた。
〔「環状線外回り各駅停車、発車します」〕
車掌:「レピーター点灯。乗降、終了。閉扉(※)」
※JR東日本では『発車』
車掌:「側灯、滅」
魔界高速電鉄では閉扉後、ブザーを鳴らさずとも発車するようである。
日本の鉄道ならそこで乗務員室の窓から顔を出して前方確認するわけであるが、魔界高速電鉄ではやらないらしく、車掌はさっさと運転席に座ってしまう。
稲生:「外国に譲渡された日本の電車に乗っている気分」
マリア:「いや、それでいいんだよ。当たってるよ」
『霧の都』とも称されるアルカディアシティを、日本の旧型国電は往く。
魔王城内にあるゲストルームは、まるで高級ホテルのスイートルームのような造りである。
尚、女王ルーシー・ブラッドプール1世は吸血鬼の出自であるが、寝る時は似たような造りの部屋に設置されたベッドに寝るものであり、けして十字架のマークが付いた棺の中に寝るわけではない。
スイートルームは更に2部屋に分かれており、男女混合のイリーナ組にとっては都合が良かった。
稲生:「ん……」
稲生はダブルサイズのベッドに寝ている。
もちろん、1人である。
枕元のスマホが発車メロディーを流した。
稲生:「うーん……」
稲生は手を伸ばしてアラームを止めた。
そして、大きな欠伸をして起き上がる。
稲生:「もう朝か……」
朝日が室内に差し込んではいるものの、やはり何かフィルターを掛けたかのように薄暗い。
もちろん太陽を直接覗き込んではいけないが、ここから見る限り、大きさは人間界の太陽と同じようではあるが……。
稲生はベッドから出ると、スイートルーム内にある洗面所に向かった。
そこで顔を洗っていると……。
マリア:「おはよう……」
稲生:「あ、おはようございます」
マリア:「頭痛ェ……。飲み過ぎた……」
稲生:「ワインやカクテルなら大丈夫なのでは?」
マリア:「それでもモノには限度ってものがある。後でエレーナから二日酔いの薬でももらうか……」
稲生:「それがいいですよ。でも、エレーナはホテルに帰ったんじゃないですか?」
マリア:「いや、勇太が参加するようになってから、あいつも魔王城に泊まるようになった」
稲生:「そうなんですか」
マリア:「全く。下心見え見えだ。あの黄色いゴリラ」
稲生:「プッ!」( ´,_ゝ`)
『黄色い猿』と言ってしまうと、それは白人から見た黄色人種(特に日本人)のことを侮蔑的に指すものであるが、『黄色いゴリラ』とはエレーナのことを指す。
所以はエレーナの金髪がマリアのそれよりも濃い黄色であり、また体付きもマリアより良い(マリアより身長が高く、スリーサイズも大きい為、必然的に体重も上である)ことから、いつの間にかマリアがそういう渾名を付けた。
もちろん、本人は嫌がっている。当たり前だ。
稲生:「じゃあ、後で僕がもらってきますよ」
マリア:「いいよ。私がもらってくる」
稲生:「マリアさんが行くとケンカになりそうですが、僕が行くとすんなり貰えると思います」
マリア:「……確かにな。……って、勇太も何気に女の扱い上手くなってない?」
稲生:「女性に囲まれて修行してたら、そりゃ扱いもそうなりますって」
マリア:「……確かに」
ダンテ一門の男女比、男性1人に対し、女性は9人である。
この男女比の大きな偏りは、他門からも批判の対象となっている。
と、その時だった。
メイド:「失礼します」
メイドが数人ワゴンを押してやってきた。
そこには豪華な朝食が載っていた。
メイド:「朝食をお持ち致しました」
稲生:「あっ、ああ、どうも」
メイドは浅黒い肌をしていた。
そして耳は長く尖っている。
ダークエルフのようにも見えるが、もっと別の種族かもしれない。
いずれにせよ、人間ではないことは確かである。
メイド達はテキパキとテーブルをセッティングして、朝食をきれいに並べ立てた。
メイド:「何かご要望がございましたら、何なりとお申し付けください」
そこで稲生はピーンと来た。
稲生:「ポーリン組の泊まっている部屋があるでしょう?そこに行って、二日酔いの薬を譲ってもらうよう、言って来てもらえませんか?」
メイド:「かしこまりました」
魔族メイドは恭しくお辞儀をすると、部屋を出て行った。
稲生:「これでいいでしょう、マリアさん?言われてみれば、エレーナ達の泊まっている部屋って、他の組の部屋の前を通らないと行けないんですよね。それはまるで、『女性専用車』の中を通るようなもの。だったら、メイドさんにお願いすれば廉も立たないということですね」
マリア:「……勇太、あなた、魔女達の扱いが上手くなって来てるねぇ……」
マリアは驚いた顔をしていた。
稲生:「どうせ僕は『男性』というだけで【お察しください】ですから」
マリア:「申し訳ないと思う反面、私も昔はそっち側の魔女だったから、あいつらの気持ちも分かってとてもフクザツ」
稲生:「さてと、朝食の前に勤行をやらなければ……。あ、マリアさんは先に食べてていいですからね」
マリア:「私は師匠を起こして来るよ。どうせ、『あと5分』を1時間は繰り返すだろうから」
稲生:「僕の勤行が終わる前に起きて下さるといいですねぇ……」
稲生は再び自分が寝泊まりしていたベッドルームに入った。
稲生:「えーと、太陽の向きはあっちだから、初座は向こうだな」
そこで稲生、ふと気づく。
稲生:「大石寺の方向……どこ?」
どうしても大石寺の方向が分からぬ場合は、東に向かって勤行でも良いと思うのだが、如何だろうか?
[同日09:00.天候:晴 魔界高速電鉄(アルカディアメトロ)1番街駅]
朝食を終えた稲生はマリアを伴って、威吹の所へ新年の挨拶に行こうと思った。
イリーナに頼めば瞬間移動魔法を掛けてくれるわけだが、ここはあえて電車で行くことにした。
1番街駅は魔王城への最寄り駅であり、人間界で言えば東京駅のようなものである。
地下鉄も通っており、こちらは大手町駅といったところ。
但し、人間界のそれよりはコンパクトな造りになっている。
〔まもなく6番線に、環状線外回り、各駅停車が6両編成4ドアで到着致します。白線の内側で、お待ちください。この電車は、サウスエンドより先、急行となります〕
ホームにある発車票は反転フラッグ式(所謂、パタパタ)。
パタパタと音を立てて、発車時刻と種別が表示される。
稲生:「おっ、モハ72系だ」
JR山手線のようなウグイス色に塗装された旧型の通勤電車がやってきた。
大きなエアー音を立てて、片開きのドアが開く。
〔「1番街、1番街です。中央線、地下鉄線、軌道線はお乗り換えです。6番線の電車は環状線外回り、各駅停車です。サウスエンドより先、急行となります」〕
地下鉄線は魔族の乗客と乗務員が多いが、高架線は人間の乗務員と乗客が多い。
日本の鉄道ほどではないが、一応の安全確認はやっている。
1番後ろの車両に稲生達は乗ったが、黒人の乗務員が『停止位置よーし!』『レピーター点灯』の指差確認をやっているのが分かった。
電車に乗り込んだ稲生とマリアは、ブルーの座席に腰掛けた。
〔「環状線外回り各駅停車、発車します」〕
車掌:「レピーター点灯。乗降、終了。閉扉(※)」
※JR東日本では『発車』
車掌:「側灯、滅」
魔界高速電鉄では閉扉後、ブザーを鳴らさずとも発車するようである。
日本の鉄道ならそこで乗務員室の窓から顔を出して前方確認するわけであるが、魔界高速電鉄ではやらないらしく、車掌はさっさと運転席に座ってしまう。
稲生:「外国に譲渡された日本の電車に乗っている気分」
マリア:「いや、それでいいんだよ。当たってるよ」
『霧の都』とも称されるアルカディアシティを、日本の旧型国電は往く。