報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「稲生家の新年会」

2019-01-16 19:07:46 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月2日13:56.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]

 稲生達を乗せた高崎線普通列車は、定刻通りにさいたま新都心駅を発車した。

〔まもなく大宮、大宮。お出口は、左側です。新幹線、宇都宮線、埼京線、川越線、京浜東北線、東武野田線とニューシャトルはお乗り換えです〕

 自動放送が車内に響き渡ると同時に稲生が席を立つ。
 尚、クリーン車内は上野始発だからか、さほど混んでいない。
 イリーナの隣に座る者は誰もいなかった。
 だが、そんな稲生をマリアが制した。

 マリア:「私が起こすから、勇太は座ってて」
 稲生:「えっ、でも……」
 マリア:「いいから!」
 稲生:「は、はい」

 マリアに気圧され、稲生は立ち上がるのを断念した。

 マリア:「師匠、次で降りますよ」

 マリアが席を立って、すぐ前の席に座るイリーナを上から覗き込んだ。
 イリーナはローブは羽織っていても胸元は開けており、その下のエキゾチックな衣装からは胸の谷間が覗いていた。

 マリア:(だから勇太には目の毒なんだよな……)
 イリーナ:「あと5分……」
 マリア:「5分も経ったら、寝過ごしますよ」
 イリーナ:「しょうがない。起きるか」

 イリーナは大きな欠伸をした。

 稲生:「本当にどこでも寝られるんですねぇ」
 イリーナ:「そうだよ。これはアタシの特技だね。魔法以外で」
 マリア:(ショボいんだか凄いんだか……)

 大宮駅高崎線ホームは上下共に本線であり、ポイント通過による速度制限は恐らく無いものと思われる。
 それでも減速して入線するのは、ダイヤに余裕があるからなのか。
 とはいえポイントの上を通過することに変わりは無いので、ガタガタと揺れはする。
 それでもって宇都宮線ホームのような副線に入るわけではないので、体が持って行かれるような揺れは無かった。

 稲生:「それでは降りましょう」
 イリーナ:「あいよ」

 階段を下りると、電車がホームに止まる。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。8番線は高崎線下り、普通列車の高崎行きです。……」〕

 稲生:「父さんからメールがあって、夕食は外で食べるそうです」
 イリーナ:「あら、そう」
 マリア:「師匠への接待ですよ」
 イリーナ:「気を使ってもらわなくても、契約をちゃんと履行してもらって、報酬さえくれればいいんだけどねぇ」

 この辺、魔道師はストイックか。

 稲生:「先生には色々お世話になっているので、その御礼だと思います」
 イリーナ:「私にとっては、勇太君という逸材を提供してもらった御礼のつもりなんだけどね」

 イリーナは目を細めたままで笑みを浮かべた。

 イリーナ:「また、いつものホテル?」
 稲生:「……じゃないかと思うんですが」
 イリーナ:「ふーん……。まあ、一旦戻ろうかね。まだ、ディナーには時間があるし」
 稲生:「そうですね」

 3人はタクシー乗り場へ向かった。

[同日14:20.天候:晴 さいたま市中央区 稲生家]

 稲生達を乗せたタクシーが稲生家の前に到着する。
 イリーナが手持ちのプラチナカードでタクシー料金を払っている間、マリアは与野中央通りの南方向を見た。

 稲生:「どうしました?」
 マリア:「あの先に、確かスーパーマーケットがあったな?」
 稲生:「ええ。何か買い物でも?」
 マリア:「うん。勇太、私が作る料理に興味があるようだから、明日作ってあげようか?」
 稲生:「えっ、本当ですか!?」
 マリア:「でも日本は明日まで正月休みなんだろう?開いてる?」
 稲生:「マルエツなら開いてると思いますよ?」
 マリア:「そうか。それなら……」
 イリーナ:「スパスィーバ」

 イリーナがロシア語で運転手に礼を言いながら降りて来た。

 イリーナ:「あー、びっくりした。いつものカード、別の場所に入れてたものだから、期限切れの別のカード渡しちゃってさぁ……。焦った焦った」
 稲生:「どうせ駅からここまで1000円前後ですから、僕が払いますよ?」
 イリーナ:「いいのいいの。弟子に金出させる先生なんて変でしょう?弟子なんて先生の脛齧るくらいの方がいいの。そうやってこの世界は、1000年以上も続いてるんだから」

 それでも世代交替がまだ3回程度という新陳代謝の無さ。
 因みに稲生は第四世代ではなく、マリアと同じ第三世代。
 何故なら、稲生は第二世代のイリーナに弟子入りをしたのであって、マリアに弟子入りしたわけではないからだ。

 イリーナ:「どーれ。ディナーの時間まで一眠りしようかねぃ」
 マリア:「また寝るんですか」
 稲生:「ハハハ……」

 家の中に入る。

 稲生:「ただいまぁ」
 宗一郎:「おー、お帰りなさい」
 稲生:「外食だって?また、パレスホテル?」
 宗一郎:「いや。今日は趣向を変えて、別の店に行こうと思ってるよ」
 稲生:「別の店?」
 宗一郎:「もう既に予約はしてある。17時50分に家を出るから、マリアさん達に伝えて来て」
 稲生:「随分遅いね」
 宗一郎:「そりゃあ、すぐそこだからな」
 稲生:「んん?」

 稲生は父親とそんな話をすると、客間に向かった。
 威吹が逗留していた頃は、威吹の部屋として使用されていた和室である。
 今は畳の上にカーペットを敷いて、来客用の折り畳みベッドやエアーベッドを用意している。

 稲生:「失礼します」

 稲生が客間に入ると、着替え中のイリーナがランジェリー姿でいた。

 イリーナ:「んー?どーしたの?」

 イリーナは悪戯っぽい笑みを浮かべ、細い目を右側だけ半開きにした。

 稲生:「ししし、失礼しました!!」
 マリア:「このバカ!」

 トイレから出て来たマリアが、稲生を後ろから羽交い絞めにして部屋から出した。

 イリーナ:「別に気にしなくていーよ。真っ裸になるわけじゃなしー」
 マリア:「師匠はもう少し気にしてください!」
 稲生:「高そうな下着でした……」
 マリア:「大師匠様に見せる為だよ。弟子に見せるなっての。それも男の!」

 2人は2階の稲生の部屋に移動した。

 稲生:「あー、びっくりした……」
 マリア:「師匠の場合は『未必の故意』だからね、勇太のせいじゃないよ。因みに他の組だと、師匠不敬罪で謹慎だよ」
 稲生:「厳しいんですね」
 マリア:「で、何か用だったの?」
 稲生:「ああ、そうでした。17時50分に出発するそうです。場所はホテルじゃなくて、この近くのレストランみたいですよ」
 マリア:「この近く?まあ、師匠への接待が目的なら、そこそこ良さそうな所へ行くと思うけど……」
 稲生:「まあ、そうですね」

 稲生はいくつか思い当たったが、実際どこなのかは両親のみぞ知るといったところだ。
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“大魔道師の弟子” 「上野から大宮」

2019-01-16 10:10:47 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月2日13:20.天候:晴 JR上野駅→高崎線839M電車5号車2階席]

 昼食を終えた稲生達は、店を出ると、そのままホームへと向かった。
 だが……。

 稲生:「おかしい。え?何で電車いないの?」

 低いホームに稲生が狙う電車がいなかった。

 稲生:「ダイヤ乱れの情報は……無いしなぁ。上野始発だから、13番線から15番線のどこからか出るはずなのに……」

 上野東京ライン開通後、上野止まりと上野始発は頭端式の低いホーム発着がセオリーとなっているが……。

 イリーナ:「さすが稲生君の店のチョイスも素晴らしいわよね」
 マリア:「鉄道施設内では勇太に任せた方がいいでしょう」

 という全幅の信頼が掛かっているのだが……。

〔「13時30分発、高崎線普通列車、高崎行きをご利用のお客様にお知らせ致します。本日、この電車は高いホームの5番線から発車致します。土休日ダイヤにおきましては、高いホームからの発車です。ご利用のお客様は、高いホームの5番線へお越しください」〕

 稲生:(;゚Д゚)
 イリーナ:「で、稲生君?私達はどの電車に乗るの?」
 稲生:「向こうです!」

 稲生はビシィッとエスカレーターの上を指さした。

 イリーナ:「そう。じゃあ、行きましょうか」
 マリア:「はい」

 平静を装うとする稲生の顔を見て、マリアはピーンと気づいた。

 マリア:(これは想定外のことが起きたパターン……)

 上野東京ライン開通前は、電車によって高いホームから出るのか低いホームから出るのかまちまちで不便なものであったが、今はセオリーが出来上がって楽になった……と思いきや、このような例外が発生する。

 で、5番線ホームに行くと、確かに電車がいた。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。5番線に停車中の列車は、13時30分発、普通、高崎行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 グリーン券を持っている稲生達は2階建てグリーン車の2階席に乗り込んだ。

〔この電車は高崎線、普通、高崎行きです。前5両は途中の籠原止まりです。……〕

 イリーナ:「じゃ、私は寝てるから着いたら起こして〜。(食後の昼寝)」
 稲生:「分かりました。(これは、さいたま新都心を発車したらすぐ起こしに掛かるパターン……)」

 イリーナはフードを目深に被って、ガクッとリクライニングを倒した。
 グリーン車といっても普通列車のそれはそんなに高級感のあるものではなく、在来線特急の普通車並みである。
 だからグリーン料金も、それの自由席特急料金並みである。
 特に今はホリデー料金と言って、平日ダイヤの時よりも割安になっている為、特急料金よりも安いかもしれない。
 尚、2階席と1階席には網棚が無いので、ミク人形とハク人形はマリアの膝の上に乗る形となる。

 稲生:(羨ましいなぁ……。あ、いやいや)

 時間になり、ホームから発車メロディが聞こえて来る。
 曲名は“線路の彼方”。
 実は発車メロディにはそれぞれ曲名が付いている。
 それは著作権があるということであり、つまりはカスラックの取り立て対象となるというわけである。
 この場合、録り鉄(撮り鉄とは別)が槍玉に挙げられる。
 即ち、発車メロディを録音してネットにアップしようものなら【お察しください】。

〔5番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の列車をご利用ください〕

 2打点ドアチャイムを3回鳴らしてドアが閉まる。
 再開閉が無かったので、駆け込み乗車は無かったようだ。
 少し古いE231系(中電タイプ)だとガチャンと閉まるのに対し、E233系はバンと比較的静かに閉まる。
 ドアロックの方式が違うのだろう。
 スーッと発車するE231系。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は高崎線、普通電車、高崎行きです。前5両は途中の籠原止まりです。グリーン車は4号車と5号車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください。次は、尾久です〕

 電車が発車すると、すぐにグリーンアテンダントがやってくる。
 稲生達はグリーン券で乗っている為、席上のランプが変わっていない。
 そんな時、アテンダントがやってくるのである。

 稲生:「すいません、この方のです」

 稲生は寝ているイリーナの所へやってきたアテンダントに、イリーナの分のグリーン券を見せた。

 アテンダント:「ありがとうございます」

 因みにこのグリーンアテンダント、乗客のグリーン券のチェックだけでなく、車内販売も行っている。
 新幹線や特急列車のそれと違い、内容はカジュアルなものであるが……。

 稲生:「デザートでも食べますか?」
 マリア:「いいの?」
 稲生:「ええ」

 稲生はフィナンシェ2個とお茶と紅茶を買った。
 人形達はアイスにしか興味を示さなかったが、ここでは売っていない。
 不貞腐れて、マリアのローブの中に入ってしまうのだった。

 稲生:「先生は……」
 マリア:「寝てるからいいよ」
 稲生:「それもそうですね」

 尚、支払いは現金である。

 アテンダント:「ありがとうございました」

 アテンダントが立ち去ってしばらくすると、席上のランプの色が変わる。

 稲生:「父さんからメールがあって、今日は外食するそうです」

 稲生はスマホを取り出して言った。

 マリア:「師匠への接待?」
 稲生:「……かもしれませんね」
 マリア:「そんなに気を使わなくてもいいのに」
 稲生:「父さんも、先生の占いに助けられている1人ということですよ」
 マリア:「なるほどね。藤谷さんの報酬取り立ては……」
 稲生:「その前に僕達、帰っちゃいますからねぇ……。後日、僕が集金に行くことになりそうです」
 マリア:「大変だけどよろしく」
 稲生:「いえいえ。これも見習の修行です」

 藤谷がどれだけ競馬で稼ぐのかは知らないが、せめて鞄の中に入るくらいの大きさでお願いしたい稲生だった。
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