[1月2日13:56.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]
稲生達を乗せた高崎線普通列車は、定刻通りにさいたま新都心駅を発車した。
〔まもなく大宮、大宮。お出口は、左側です。新幹線、宇都宮線、埼京線、川越線、京浜東北線、東武野田線とニューシャトルはお乗り換えです〕
自動放送が車内に響き渡ると同時に稲生が席を立つ。
尚、クリーン車内は上野始発だからか、さほど混んでいない。
イリーナの隣に座る者は誰もいなかった。
だが、そんな稲生をマリアが制した。
マリア:「私が起こすから、勇太は座ってて」
稲生:「えっ、でも……」
マリア:「いいから!」
稲生:「は、はい」
マリアに気圧され、稲生は立ち上がるのを断念した。
マリア:「師匠、次で降りますよ」
マリアが席を立って、すぐ前の席に座るイリーナを上から覗き込んだ。
イリーナはローブは羽織っていても胸元は開けており、その下のエキゾチックな衣装からは胸の谷間が覗いていた。
マリア:(だから勇太には目の毒なんだよな……)
イリーナ:「あと5分……」
マリア:「5分も経ったら、寝過ごしますよ」
イリーナ:「しょうがない。起きるか」
イリーナは大きな欠伸をした。
稲生:「本当にどこでも寝られるんですねぇ」
イリーナ:「そうだよ。これはアタシの特技だね。魔法以外で」
マリア:(ショボいんだか凄いんだか……)
大宮駅高崎線ホームは上下共に本線であり、ポイント通過による速度制限は恐らく無いものと思われる。
それでも減速して入線するのは、ダイヤに余裕があるからなのか。
とはいえポイントの上を通過することに変わりは無いので、ガタガタと揺れはする。
それでもって宇都宮線ホームのような副線に入るわけではないので、体が持って行かれるような揺れは無かった。
稲生:「それでは降りましょう」
イリーナ:「あいよ」
階段を下りると、電車がホームに止まる。
〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。8番線は高崎線下り、普通列車の高崎行きです。……」〕
稲生:「父さんからメールがあって、夕食は外で食べるそうです」
イリーナ:「あら、そう」
マリア:「師匠への接待ですよ」
イリーナ:「気を使ってもらわなくても、契約をちゃんと履行してもらって、報酬さえくれればいいんだけどねぇ」
この辺、魔道師はストイックか。
稲生:「先生には色々お世話になっているので、その御礼だと思います」
イリーナ:「私にとっては、勇太君という逸材を提供してもらった御礼のつもりなんだけどね」
イリーナは目を細めたままで笑みを浮かべた。
イリーナ:「また、いつものホテル?」
稲生:「……じゃないかと思うんですが」
イリーナ:「ふーん……。まあ、一旦戻ろうかね。まだ、ディナーには時間があるし」
稲生:「そうですね」
3人はタクシー乗り場へ向かった。
[同日14:20.天候:晴 さいたま市中央区 稲生家]
稲生達を乗せたタクシーが稲生家の前に到着する。
イリーナが手持ちのプラチナカードでタクシー料金を払っている間、マリアは与野中央通りの南方向を見た。
稲生:「どうしました?」
マリア:「あの先に、確かスーパーマーケットがあったな?」
稲生:「ええ。何か買い物でも?」
マリア:「うん。勇太、私が作る料理に興味があるようだから、明日作ってあげようか?」
稲生:「えっ、本当ですか!?」
マリア:「でも日本は明日まで正月休みなんだろう?開いてる?」
稲生:「マルエツなら開いてると思いますよ?」
マリア:「そうか。それなら……」
イリーナ:「スパスィーバ」
イリーナがロシア語で運転手に礼を言いながら降りて来た。
イリーナ:「あー、びっくりした。いつものカード、別の場所に入れてたものだから、期限切れの別のカード渡しちゃってさぁ……。焦った焦った」
稲生:「どうせ駅からここまで1000円前後ですから、僕が払いますよ?」
イリーナ:「いいのいいの。弟子に金出させる先生なんて変でしょう?弟子なんて先生の脛齧るくらいの方がいいの。そうやってこの世界は、1000年以上も続いてるんだから」
それでも世代交替がまだ3回程度という新陳代謝の無さ。
因みに稲生は第四世代ではなく、マリアと同じ第三世代。
何故なら、稲生は第二世代のイリーナに弟子入りをしたのであって、マリアに弟子入りしたわけではないからだ。
イリーナ:「どーれ。ディナーの時間まで一眠りしようかねぃ」
マリア:「また寝るんですか」
稲生:「ハハハ……」
家の中に入る。
稲生:「ただいまぁ」
宗一郎:「おー、お帰りなさい」
稲生:「外食だって?また、パレスホテル?」
宗一郎:「いや。今日は趣向を変えて、別の店に行こうと思ってるよ」
稲生:「別の店?」
宗一郎:「もう既に予約はしてある。17時50分に家を出るから、マリアさん達に伝えて来て」
稲生:「随分遅いね」
宗一郎:「そりゃあ、すぐそこだからな」
稲生:「んん?」
稲生は父親とそんな話をすると、客間に向かった。
威吹が逗留していた頃は、威吹の部屋として使用されていた和室である。
今は畳の上にカーペットを敷いて、来客用の折り畳みベッドやエアーベッドを用意している。
稲生:「失礼します」
稲生が客間に入ると、着替え中のイリーナがランジェリー姿でいた。
イリーナ:「んー?どーしたの?」
イリーナは悪戯っぽい笑みを浮かべ、細い目を右側だけ半開きにした。
稲生:「ししし、失礼しました!!」
マリア:「このバカ!」
トイレから出て来たマリアが、稲生を後ろから羽交い絞めにして部屋から出した。
イリーナ:「別に気にしなくていーよ。真っ裸になるわけじゃなしー」
マリア:「師匠はもう少し気にしてください!」
稲生:「高そうな下着でした……」
マリア:「大師匠様に見せる為だよ。弟子に見せるなっての。それも男の!」
2人は2階の稲生の部屋に移動した。
稲生:「あー、びっくりした……」
マリア:「師匠の場合は『未必の故意』だからね、勇太のせいじゃないよ。因みに他の組だと、師匠不敬罪で謹慎だよ」
稲生:「厳しいんですね」
マリア:「で、何か用だったの?」
稲生:「ああ、そうでした。17時50分に出発するそうです。場所はホテルじゃなくて、この近くのレストランみたいですよ」
マリア:「この近く?まあ、師匠への接待が目的なら、そこそこ良さそうな所へ行くと思うけど……」
稲生:「まあ、そうですね」
稲生はいくつか思い当たったが、実際どこなのかは両親のみぞ知るといったところだ。
稲生達を乗せた高崎線普通列車は、定刻通りにさいたま新都心駅を発車した。
〔まもなく大宮、大宮。お出口は、左側です。新幹線、宇都宮線、埼京線、川越線、京浜東北線、東武野田線とニューシャトルはお乗り換えです〕
自動放送が車内に響き渡ると同時に稲生が席を立つ。
尚、クリーン車内は上野始発だからか、さほど混んでいない。
イリーナの隣に座る者は誰もいなかった。
だが、そんな稲生をマリアが制した。
マリア:「私が起こすから、勇太は座ってて」
稲生:「えっ、でも……」
マリア:「いいから!」
稲生:「は、はい」
マリアに気圧され、稲生は立ち上がるのを断念した。
マリア:「師匠、次で降りますよ」
マリアが席を立って、すぐ前の席に座るイリーナを上から覗き込んだ。
イリーナはローブは羽織っていても胸元は開けており、その下のエキゾチックな衣装からは胸の谷間が覗いていた。
マリア:(だから勇太には目の毒なんだよな……)
イリーナ:「あと5分……」
マリア:「5分も経ったら、寝過ごしますよ」
イリーナ:「しょうがない。起きるか」
イリーナは大きな欠伸をした。
稲生:「本当にどこでも寝られるんですねぇ」
イリーナ:「そうだよ。これはアタシの特技だね。魔法以外で」
マリア:(ショボいんだか凄いんだか……)
大宮駅高崎線ホームは上下共に本線であり、ポイント通過による速度制限は恐らく無いものと思われる。
それでも減速して入線するのは、ダイヤに余裕があるからなのか。
とはいえポイントの上を通過することに変わりは無いので、ガタガタと揺れはする。
それでもって宇都宮線ホームのような副線に入るわけではないので、体が持って行かれるような揺れは無かった。
稲生:「それでは降りましょう」
イリーナ:「あいよ」
階段を下りると、電車がホームに止まる。
〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。8番線は高崎線下り、普通列車の高崎行きです。……」〕
稲生:「父さんからメールがあって、夕食は外で食べるそうです」
イリーナ:「あら、そう」
マリア:「師匠への接待ですよ」
イリーナ:「気を使ってもらわなくても、契約をちゃんと履行してもらって、報酬さえくれればいいんだけどねぇ」
この辺、魔道師はストイックか。
稲生:「先生には色々お世話になっているので、その御礼だと思います」
イリーナ:「私にとっては、勇太君という逸材を提供してもらった御礼のつもりなんだけどね」
イリーナは目を細めたままで笑みを浮かべた。
イリーナ:「また、いつものホテル?」
稲生:「……じゃないかと思うんですが」
イリーナ:「ふーん……。まあ、一旦戻ろうかね。まだ、ディナーには時間があるし」
稲生:「そうですね」
3人はタクシー乗り場へ向かった。
[同日14:20.天候:晴 さいたま市中央区 稲生家]
稲生達を乗せたタクシーが稲生家の前に到着する。
イリーナが手持ちのプラチナカードでタクシー料金を払っている間、マリアは与野中央通りの南方向を見た。
稲生:「どうしました?」
マリア:「あの先に、確かスーパーマーケットがあったな?」
稲生:「ええ。何か買い物でも?」
マリア:「うん。勇太、私が作る料理に興味があるようだから、明日作ってあげようか?」
稲生:「えっ、本当ですか!?」
マリア:「でも日本は明日まで正月休みなんだろう?開いてる?」
稲生:「マルエツなら開いてると思いますよ?」
マリア:「そうか。それなら……」
イリーナ:「スパスィーバ」
イリーナがロシア語で運転手に礼を言いながら降りて来た。
イリーナ:「あー、びっくりした。いつものカード、別の場所に入れてたものだから、期限切れの別のカード渡しちゃってさぁ……。焦った焦った」
稲生:「どうせ駅からここまで1000円前後ですから、僕が払いますよ?」
イリーナ:「いいのいいの。弟子に金出させる先生なんて変でしょう?弟子なんて先生の脛齧るくらいの方がいいの。そうやってこの世界は、1000年以上も続いてるんだから」
それでも世代交替がまだ3回程度という新陳代謝の無さ。
因みに稲生は第四世代ではなく、マリアと同じ第三世代。
何故なら、稲生は第二世代のイリーナに弟子入りをしたのであって、マリアに弟子入りしたわけではないからだ。
イリーナ:「どーれ。ディナーの時間まで一眠りしようかねぃ」
マリア:「また寝るんですか」
稲生:「ハハハ……」
家の中に入る。
稲生:「ただいまぁ」
宗一郎:「おー、お帰りなさい」
稲生:「外食だって?また、パレスホテル?」
宗一郎:「いや。今日は趣向を変えて、別の店に行こうと思ってるよ」
稲生:「別の店?」
宗一郎:「もう既に予約はしてある。17時50分に家を出るから、マリアさん達に伝えて来て」
稲生:「随分遅いね」
宗一郎:「そりゃあ、すぐそこだからな」
稲生:「んん?」
稲生は父親とそんな話をすると、客間に向かった。
威吹が逗留していた頃は、威吹の部屋として使用されていた和室である。
今は畳の上にカーペットを敷いて、来客用の折り畳みベッドやエアーベッドを用意している。
稲生:「失礼します」
稲生が客間に入ると、着替え中のイリーナがランジェリー姿でいた。
イリーナ:「んー?どーしたの?」
イリーナは悪戯っぽい笑みを浮かべ、細い目を右側だけ半開きにした。
稲生:「ししし、失礼しました!!」
マリア:「このバカ!」
トイレから出て来たマリアが、稲生を後ろから羽交い絞めにして部屋から出した。
イリーナ:「別に気にしなくていーよ。真っ裸になるわけじゃなしー」
マリア:「師匠はもう少し気にしてください!」
稲生:「高そうな下着でした……」
マリア:「大師匠様に見せる為だよ。弟子に見せるなっての。それも男の!」
2人は2階の稲生の部屋に移動した。
稲生:「あー、びっくりした……」
マリア:「師匠の場合は『未必の故意』だからね、勇太のせいじゃないよ。因みに他の組だと、師匠不敬罪で謹慎だよ」
稲生:「厳しいんですね」
マリア:「で、何か用だったの?」
稲生:「ああ、そうでした。17時50分に出発するそうです。場所はホテルじゃなくて、この近くのレストランみたいですよ」
マリア:「この近く?まあ、師匠への接待が目的なら、そこそこ良さそうな所へ行くと思うけど……」
稲生:「まあ、そうですね」
稲生はいくつか思い当たったが、実際どこなのかは両親のみぞ知るといったところだ。