[1月1日16:30.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]
藤谷:「えーと……ここか?」
稲生:「そうです!」
稲生は車を降りた。
稲生:「送ってくれてありがとうございました」
藤谷:「おう。マリアさんとイリーナ先生によろしくな」
稲生:「はい」
藤谷:「支部総登山、2月にあるからな。なるべく参加してくれよ?」
稲生:「はい、班長。前向きに検討します」
藤谷:「じゃあな」
藤谷のシルバーのベンツGクラスは、持ち前の排気量を駆使して稲生の元を走り去った。
稲生:「さて……と」
稲生はホテルの中に入った。
稲生:「こんにちはー」
オーナー:「これはこれは稲生さん、いらっしゃいませ」
稲生:「マリアさんは来ていますか?」
オーナー:「はい。先ほどそこのロビーにいたのですが、恐らくお手洗いに……」
と、奥からマリアが出て来た。
マリア:「勇太」
稲生:「マリアさん、お待たせしました」
マリア:「あとは師匠だけか……」
稲生:「えっ?先生、先に行ってらっしゃるんじゃ?」
マリア:「まだなんだ、それが」
稲生:「意外ですね」
マリア:「魔王城の新年会開始まで、もう少しあるけどさ。それとも先に行く?」
稲生:「いえいえ、そこは師弟の節目というものが……。日蓮正宗でもそこは厳しく指導されて……」
マリア:「ダンテ一門だって、ここでは」
稲生:「ま、ちょっと一息させてください」
マリア:「ああ」
稲生もトイレに行った後、自販機コーナーでジュースを買い、ソファに座って待つことにした。
マリア:「クリスチャン共は寺に来たのか?」
稲生:「来ましたよ。嫌な予感が的中しましたね。マリアさんには、ここにいてもらって良かったですよ」
マリア:「うん。それにしても、破門団体から嫌がらせされたり、クリスチャンから嫌がらせされたり、忙しい宗派だな」
稲生:「広宣流布の道は長くて険しいということですよ」
と、そこへエントランスの前に1台の黒塗りの高級車が停車した。
どうも、ロールスロイスっぽい。
稲生:「誰か来たみたいですよ。アナスタシア組かな?」
マリア:「いや、アナスタシア組は基本、日本では日本車しか乗らないはずだから……」
稲生:「そういう拘りが!?」
マリア:「あいつらが1番、日本かぶれになってるんだよ」
稲生:「ということは、誰でしょうねぇ?」
ヤクザA:「ど、どうぞ。先生」
イリーナ:「ありがとさん」
何故かケガをしている暴力団員と思しき男達が、恭しくイリーナを車から降ろした。
イリーナ:「いい?このことは全て忘れるのよ?さもないと、あなた達の組長さんに……」
ヤクザA:「へ、へい!もちろんです!」
ヤクザB:「絶対に口外致しません!」
ヤクザC:「ですからどうか、お許しを!」
イリーナ:「よろしい。じゃあね」
イリーナは颯爽とホテルの中に入った。
イリーナ:「ハーイ、お待たせー」
稲生:「先生!?何ですか、今の!?」
逃げるように急発進で立ち去って行くロールスロイス。
よく見たら、車もあちこち傷だらけである。
イリーナ:「ま、ちょっと色々ね。ロシアンマフィアの怖さをレクチャーしてあげただけよ」
マリア:「騒ぎは程々にしてくださいよ」
アナスタシア組を『ロシアンマフィア』と揶揄するイリーナであるが、本人自身もまたロシアの裏社会とパイプがあるようである。
イリーナ:「それじゃ、魔王城へ行きましょう。私達が最後になるかしら?」
マリア:「いつも私達が最後ですよ」
オーナー:「地下階へは行けるようにしてありますので」
イリーナ:「ありがとう」
稲生達は小さなエレベーターで地下階へと下りて行った。
[同日17:00.天候:晴 魔界王国アルカディア 王都アルカディアシティ 魔王城]
稲生:「魔王城も久しぶりだなー」
イリーナ:「あまりウロウロしてはダメよ」
稲生:「はーい」
大ホールを通過する稲生達。
かつてこの大ホールで、『魔王城決戦』が行われた。
即ち、新政府軍と旧政府軍の戦争である。
女王ルーシー・ブラッドプール1世を現魔王として担ぎ上げる新政府側(魔界共和党)と、前魔王バァル大帝にあくまで付く者達(旧・魔王軍閥)との最後の戦闘がここで行われた。
稲生:「あの時の大時計もまだある」
高さ30メートルの大時計。
その振り子はとても大きく、コーンコーンという規則正しい振り子の音がホール内に響いている。
イリーナ:「稲生君を地獄界から連れ戻すのに凄い苦労して、1度は失敗して、マリアったら大泣きしたもんね」
マリア:「そ、そりゃ泣きの1つでも入りますよォ……」
魔王城の中では明るい大ホール。
しかしそこを抜けると、また薄暗い廊下が続く。
いかにも、勇者一行が通れば高いエンカウント率を誇りそうな廊下である。
だが、首相・安倍春明主催の宮中新年会に正式に招かれているイリーナ達を襲おうとする魔族達は誰1人としていない。
衛兵として雇われているモンスター達も、イリーナ達には敬礼をくれるだけだ。
その安倍も、かつてはこの魔王城を目指す魔王討伐隊の勇者の1人であった。
そんな彼は非公式であるが、日本の内閣総理大臣の遠い親戚に当たるらしい。
稲生:「うっ……!」
控え室に向かう稲生達の所に、ある人物が現れた。
横田:「クフフフフフ……。イリーナ組の皆さん、明けましておめでとうございます」
イリーナ:「おめでとさん」
横田:「クフフフフ……。今年もよろしくお願いしますよ。先生方の控え室は、あちらになります」
イリーナ:「分かってるわ」
横田:「そうそう、稲生さん」
稲生:「な、何だ?」
横田:「うちの顕正会員がとんだ御迷惑をお掛けしましたねぇ。彼らはすぐに除名処分にしましたからね。どうか、それで穏便に……」
稲生:「それってつまり、あの事件を顕正会内部で『無かったこと』にしたいだけだろ!?」
横田:「おやおや……」
稲生:「会員を尻尾切りにしただけじゃないか!」
横田:「クフフフフフフ……。何を勘違いされておられるか分かりませんが、あれは一部会員の単なる暴走です。それに団体組織として処分しただけのこと。何も問題は無いはずですが?クフフフフフ……」
稲生:「ま、待てっ!」
イリーナ:「稲生君」
稲生:「先生!」
イリーナ:「ここではあなたは、ダンテ一門イリーナ組の見習弟子よ?日蓮正宗法華講信徒としての顔は忘れてちょうだい」
稲生:「……!」
イリーナ:「横田理事も、ここでは顕正会の理事ではなく、魔界共和党の理事としているんだから」
マリア:「スケベオヤジである点に、変わりはありませんがね」
マリアは吐き捨てるように言った。
マリアに言わせると、ずっと横田はイリーナの豊かな胸や尻にエロい目を向けていたというが、当のイリーナ本人は気にしていなかった。
藤谷:「えーと……ここか?」
稲生:「そうです!」
稲生は車を降りた。
稲生:「送ってくれてありがとうございました」
藤谷:「おう。マリアさんとイリーナ先生によろしくな」
稲生:「はい」
藤谷:「支部総登山、2月にあるからな。なるべく参加してくれよ?」
稲生:「はい、班長。前向きに検討します」
藤谷:「じゃあな」
藤谷のシルバーのベンツGクラスは、持ち前の排気量を駆使して稲生の元を走り去った。
稲生:「さて……と」
稲生はホテルの中に入った。
稲生:「こんにちはー」
オーナー:「これはこれは稲生さん、いらっしゃいませ」
稲生:「マリアさんは来ていますか?」
オーナー:「はい。先ほどそこのロビーにいたのですが、恐らくお手洗いに……」
と、奥からマリアが出て来た。
マリア:「勇太」
稲生:「マリアさん、お待たせしました」
マリア:「あとは師匠だけか……」
稲生:「えっ?先生、先に行ってらっしゃるんじゃ?」
マリア:「まだなんだ、それが」
稲生:「意外ですね」
マリア:「魔王城の新年会開始まで、もう少しあるけどさ。それとも先に行く?」
稲生:「いえいえ、そこは師弟の節目というものが……。日蓮正宗でもそこは厳しく指導されて……」
マリア:「ダンテ一門だって、ここでは」
稲生:「ま、ちょっと一息させてください」
マリア:「ああ」
稲生もトイレに行った後、自販機コーナーでジュースを買い、ソファに座って待つことにした。
マリア:「クリスチャン共は寺に来たのか?」
稲生:「来ましたよ。嫌な予感が的中しましたね。マリアさんには、ここにいてもらって良かったですよ」
マリア:「うん。それにしても、破門団体から嫌がらせされたり、クリスチャンから嫌がらせされたり、忙しい宗派だな」
稲生:「広宣流布の道は長くて険しいということですよ」
と、そこへエントランスの前に1台の黒塗りの高級車が停車した。
どうも、ロールスロイスっぽい。
稲生:「誰か来たみたいですよ。アナスタシア組かな?」
マリア:「いや、アナスタシア組は基本、日本では日本車しか乗らないはずだから……」
稲生:「そういう拘りが!?」
マリア:「あいつらが1番、日本かぶれになってるんだよ」
稲生:「ということは、誰でしょうねぇ?」
ヤクザA:「ど、どうぞ。先生」
イリーナ:「ありがとさん」
何故かケガをしている暴力団員と思しき男達が、恭しくイリーナを車から降ろした。
イリーナ:「いい?このことは全て忘れるのよ?さもないと、あなた達の組長さんに……」
ヤクザA:「へ、へい!もちろんです!」
ヤクザB:「絶対に口外致しません!」
ヤクザC:「ですからどうか、お許しを!」
イリーナ:「よろしい。じゃあね」
イリーナは颯爽とホテルの中に入った。
イリーナ:「ハーイ、お待たせー」
稲生:「先生!?何ですか、今の!?」
逃げるように急発進で立ち去って行くロールスロイス。
よく見たら、車もあちこち傷だらけである。
イリーナ:「ま、ちょっと色々ね。ロシアンマフィアの怖さをレクチャーしてあげただけよ」
マリア:「騒ぎは程々にしてくださいよ」
アナスタシア組を『ロシアンマフィア』と揶揄するイリーナであるが、本人自身もまたロシアの裏社会とパイプがあるようである。
イリーナ:「それじゃ、魔王城へ行きましょう。私達が最後になるかしら?」
マリア:「いつも私達が最後ですよ」
オーナー:「地下階へは行けるようにしてありますので」
イリーナ:「ありがとう」
稲生達は小さなエレベーターで地下階へと下りて行った。
[同日17:00.天候:晴 魔界王国アルカディア 王都アルカディアシティ 魔王城]
稲生:「魔王城も久しぶりだなー」
イリーナ:「あまりウロウロしてはダメよ」
稲生:「はーい」
大ホールを通過する稲生達。
かつてこの大ホールで、『魔王城決戦』が行われた。
即ち、新政府軍と旧政府軍の戦争である。
女王ルーシー・ブラッドプール1世を現魔王として担ぎ上げる新政府側(魔界共和党)と、前魔王バァル大帝にあくまで付く者達(旧・魔王軍閥)との最後の戦闘がここで行われた。
稲生:「あの時の大時計もまだある」
高さ30メートルの大時計。
その振り子はとても大きく、コーンコーンという規則正しい振り子の音がホール内に響いている。
イリーナ:「稲生君を地獄界から連れ戻すのに凄い苦労して、1度は失敗して、マリアったら大泣きしたもんね」
マリア:「そ、そりゃ泣きの1つでも入りますよォ……」
魔王城の中では明るい大ホール。
しかしそこを抜けると、また薄暗い廊下が続く。
いかにも、勇者一行が通れば高いエンカウント率を誇りそうな廊下である。
だが、首相・安倍春明主催の宮中新年会に正式に招かれているイリーナ達を襲おうとする魔族達は誰1人としていない。
衛兵として雇われているモンスター達も、イリーナ達には敬礼をくれるだけだ。
その安倍も、かつてはこの魔王城を目指す魔王討伐隊の勇者の1人であった。
そんな彼は非公式であるが、日本の内閣総理大臣の遠い親戚に当たるらしい。
稲生:「うっ……!」
控え室に向かう稲生達の所に、ある人物が現れた。
横田:「クフフフフフ……。イリーナ組の皆さん、明けましておめでとうございます」
イリーナ:「おめでとさん」
横田:「クフフフフ……。今年もよろしくお願いしますよ。先生方の控え室は、あちらになります」
イリーナ:「分かってるわ」
横田:「そうそう、稲生さん」
稲生:「な、何だ?」
横田:「うちの顕正会員がとんだ御迷惑をお掛けしましたねぇ。彼らはすぐに除名処分にしましたからね。どうか、それで穏便に……」
稲生:「それってつまり、あの事件を顕正会内部で『無かったこと』にしたいだけだろ!?」
横田:「おやおや……」
稲生:「会員を尻尾切りにしただけじゃないか!」
横田:「クフフフフフフ……。何を勘違いされておられるか分かりませんが、あれは一部会員の単なる暴走です。それに団体組織として処分しただけのこと。何も問題は無いはずですが?クフフフフフ……」
稲生:「ま、待てっ!」
イリーナ:「稲生君」
稲生:「先生!」
イリーナ:「ここではあなたは、ダンテ一門イリーナ組の見習弟子よ?日蓮正宗法華講信徒としての顔は忘れてちょうだい」
稲生:「……!」
イリーナ:「横田理事も、ここでは顕正会の理事ではなく、魔界共和党の理事としているんだから」
マリア:「スケベオヤジである点に、変わりはありませんがね」
マリアは吐き捨てるように言った。
マリアに言わせると、ずっと横田はイリーナの豊かな胸や尻にエロい目を向けていたというが、当のイリーナ本人は気にしていなかった。