報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「霧生市調査中止」

2019-01-30 19:21:42 | 私立探偵 愛原学シリーズ
 ※霧生市調査の日を1月16日としていましたが、正しくは1月18日でありました。訂正してお詫びします。

[1月18日16:06.天候:曇 東京都新宿区住吉町 都営地下鉄曙橋駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は政府エージェントの善場氏に頼まれ、BSAAや自衛隊の護衛を受けながら霧生市の市内調査に同行した。
 ところがそこで想定外のことが起き、上層部の指示で調査が中止になった次第である。
 もはや掃討されていたはずのゾンビが未だに生き残っており、郊外のニュータウンを調査しようとしていた私達に向かって来たのである。
 もちろん同行していたBSAAの隊員達がすぐに退治してくれたが、これ以上『一般人』の私達を危険に晒すわけには行かないということで中止命令が下された次第だ。
 私達は装甲車に乗って町から出ると、再びヘリコプターに乗って都内へ戻ったというわけである。
 今回の件は防衛省の協力があったこともあり、市ヶ谷の施設に出入りした。
 そして色々とまた話をして、それから帰途に就いているわけである。

〔まもなく2番線に、各駅停車、本八幡行きが10両編成で到着します。黄色いブロックの内側まで、お下がりください。ホームと電車との間が空いておりますので、ご注意ください。急行電車の通過待ちは、ありません〕

 愛原:「夕方ラッシュ前に帰れて良かったな」
 高橋:「それにしても、事務所まで車で送れって感じですね」
 愛原:「まあ、しょうがない」

 駅構内はカーブしており、カーブの向こうから電車がやってくるような形になる。

 愛原:「明日は楽しい慰安旅行だ。帰ってそれに備えよう」
 高橋:「それもそうですね」

〔2番線の電車は、各駅停車、本八幡行きです。あけぼのばし、曙橋〕

 イチョウのマークが入った交通局の電車に乗り込んだ。

〔2番線、ドアが閉まります〕

 高橋:「こっちの地下鉄は平和ですね。本場アメリカじゃ、地下鉄もゾンビアトラクションだったわけでしょ?」
 愛原:「それを俺達は霧生電鉄で体験したじゃないか」
 高橋:「まあ、そうですね」

 電車が走り出す。
 霧生電鉄は地下鉄ではなく、たまたま私達がいた所が丘陵地帯で、しかも更に山深い所に向かう為、長いトンネルのある区間だっただけに過ぎない。
 関西に北神急行電鉄という私鉄があるが、あれみたいなものだ。

〔次は市ヶ谷、市ヶ谷、大妻女子大学前。有楽町線、南北線、JR中央・総武線各駅停車はお乗り換えです。お出口は、左側です〕
〔The next station is Ichigaya.Please change here for the Yurakucho line,the Nanboku line and the JR Cyuo-Sobu line.〕

 私達は先頭車に乗っている。
 地下鉄では前面展望は望めない。
 運転室にはブラインドが下ろされ、客室からの照明が入って来ないようにしているからだ。
 せいぜい、乗務員室扉の小さな窓から見えるくらい。

 リサ:「…………」

 リサはその小窓から前方を覗いている。

 愛原:「何か面白いものでも見えるかい?」
 リサ:「研究所に運ばれる時、こういう電車で運ばれたかもしれない」
 愛原:「覚えてるのか?人間だった頃を……」
 リサ:「……まだよく思い出せない。時々夢に出て来るだけ」
 愛原:「そうか……。その電車というのは、霧生電鉄?」
 リサ:「違う。もっと……こう外国っぽい電車。あんな感じ」

 リサは中づり広告を指さした。
 どこかの旅行会社の広告で、アメリカ旅行をPRするものだった。
 その中にニューヨーク行きがあり、ニューヨークの地下鉄電車の写真があった。
 
 愛原:「リサは日本人で、日本のアンブレラ研究所で改造されたんだろう?」
 リサ:「うーん……だと思うんだけど……。よく覚えてない……思い出せない……」

 もしも霧生市内での調査が順調に進んだとしても、私達としては大山寺あるいは霧生電鉄の秘密のトンネルまでしか行けないだろう。
 アンブレラ開発センターは、自爆装置が働いて木っ端微塵になったわけだし……。
 リサがどういう経緯であの研究所にいたのかは不明だ。
 本人は気がついたら、あそこにいたということだ。
 しかし日本人離れした顔立ちからして、欧米人の血が混じっているのは間違いない。
 一時でも欧米のどこかの研究所にいた可能性は高い。
 BSAAなどでも調査されているようだが、未だにリサの過去については突き止められていないのが実状だ。
 アメリカのルイジアナ州では、やはり10歳くらいの少女を模したBOWが造られたというが、BSAA北米支部の介入によって鎮圧されている。

 高野:「無理に思い出すこともないでしょう。何かの拍子にフッと思い出すかもしれませんよ?」
 愛原:「高野君」
 高野:「今はこのコの面倒を看ることが依頼なんですから、それでいいじゃありませんか」
 愛原:「そうだな」

 契約期間の終了時期については記載されていないが、善場氏の見解ではリサが大人になるまでであろうとのことだ。
 アメリカ政府エージェントの中に、やはり特殊なウィルスを幼少の頃(ラクーンシティ事件)に体内に宿し、見事なまでに驚異的な身体能力でもって活躍している者がいるとのこと。
 日本政府もそれをリサに期待しているのではないかとされる。

[同日17:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 無事に事務所に帰り着いた私達は、事務作業に当たっていた。

 高橋:「あ、加湿器の水切れた」
 愛原:「乾燥する時季だからな、すぐに切れるだろう」
 リサ:「私、補給する」
 愛原:「おっ、頼むぞ」

 リサがタンクに水をドバドバ入れる。
 その時、電話が鳴った。

 高野:「お電話ありがとうございます。愛原学探偵事務所でございます。……あ、はい。ああ、リサちゃんですか?ちょっとお待ちください」

 高野君は受話器を保留にした。
 今度はショパン作“幻想即興曲”だ。

 高野:「リサちゃん、電話よ。斉藤さんから」
 リサ:「サイトーから?」
 愛原:「あとは俺がやっておくから、リサは電話に出ろよ」
 高橋:「あーっ!俺がやります、先生!」
 愛原:「じゃあ、頼む。……『アリッサー!』ってか」
 高野:「先生、何のネタですか、それ?」
 愛原:「“バイオハザード”とはまた別のジャンルのホラーゲーム」
 高野:「?」

 リサは電話で斉藤絵恋さんと親しげに話をしていた。
 電話を切ると……。

 リサ:「明日の旅行、サイトーが1人だけ来る。だから明日よろしくって電話だった」
 愛原:「そうか。よほど楽しみなんだな」
 高橋:「俺もですよ!?」
 愛原:「あー、分かった分かった」
 高橋:「是非とも部屋割りは先生と一緒で!」
 愛原:「部屋割りもヘッタクレも無いよ。皆同じ部屋だから」
 高野:「そうなんですか?」
 愛原:「結構広い部屋らしいから、中で仕切れるようになってるんじゃない?」
 高野:「なるほど。もしかして、スイートルームですかね?」
 愛原:「いやー、どうだろ」

 いくら株主優待券を融通してくれるとはいえ、スイートは無いと思うぞ。
コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「霧生市の探索」

2019-01-30 10:30:51 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月18日12:00.天候:晴 某県霧生市 霞台団地]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は政府エージェントの善場さんやBSAAに連れられて、あの霧生市までやってきた。
 私のように生きてあの町から脱出した者が、如何にしてあの町を逃げ回ったかの軌跡を調査したいのだという。
 今、私達は霞台団地までやってきた。
 この団地は霧生市のニュータウンとして造成された所であったが、ここもゾンビパラダイスと化していた。

 
(団地の入口で大事故を起こしたまま放置された路線バス。運転手がゾンビ化したか、或いはゾンビ化した乗客が運転手を襲ったか……)

 愛原:「高橋君、このバスに見覚えはあるかい?」
 高橋:「ええ。団地の入口で事故ってたバスですね」
 善場:「一応、ここも調査してみましょう」

 善場氏は乗っている装甲車を止めてもらうと、装甲車を降りた。
 私達も降りる。
 外は長閑な冬の日差しが差し込んでいる。
 とても今はゴーストタウンと化した町だとは、到底思えない。

 愛原:「そろそろお昼だな、高橋君」
 高橋:「そうですね。団地に入って、最初の交差点を左に曲がった先にラーメン屋がありましたよ」
 愛原:「アホ。あの時、あのラーメン屋は火事になってただろうが。だいいち、営業してるわけ無いっつの」
 高野:「むしろ、今営業してたらウケるね」

 福島第一原発の方は、立入制限が解除された所から徐々に復興しているようだが、ここは無理だな。

 善場:「そろそろ、昼食にしましょう。お弁当は用意してありますので……」
 愛原:「ありがとうございます」
 善場:「一応、安全の為に装甲車の中で食べてください」
 愛原:「そうですか。今はこんな長閑な雰囲気になっているのに、何だか勿体無いですなぁ……」
 高野:「ゾンビさえいなければ、いい所だったんでしょうけどね」
 愛原:「そうだな」

 だが!

 リサ:「そこ!何かいるよ!」

 リサが両目を金色に光らせてバスの床下を指さした。

 ゾンビA:「ウウウ……!」
 ゾンビB:「アァァ……!」
 愛原:「ええーっ!?」

 何と!バスの床下からゾンビが2体這い出て来た!
 あの事件からもう2〜3年は経ったというのに、まだ『生きている』ゾンビがいたとは!

 愛原:「高橋、下がれ!」
 高橋:「はいっ!」

 ゾンビ達はようやく立ち上がるのがやっとといった感じであったが、痩せこけて、腐った肉は殆ど付いておらず、骨と皮だけの状態であった。
 すぐに護衛に付いていたBSAA極東支部日本地区本部の隊員達が配置に付いて、手持ちのマシンガンやショットガンでゾンビを蜂の巣にしてくれた。

 BSAA隊長:「この辺りを探索して参ります!」

 BSAA隊長は善場氏にそう言うと、隊員数名を引き連れ、団地の方に走っていった。
 残った隊員は死んだゾンビの調査に当たっている。

 愛原:「ゾンビさえいなけりゃ、いい所なんだけどな!」
 高橋:「全くですね!」

 あとは自衛隊員が死体と化したゾンビを装甲車(もちろん私達が乗っているBSAAのではなく、自衛隊の)に収容した。
 もう1台、BSAA隊長らが乗っていた装甲車からは無線が聞こえて来ている。
 どうやら団地内には、まだ動けるゾンビが他にもいたらしい。
 市街地のように(ラーメン屋やガソリンスタンドなどを除いて)火災がそんなに発生しなかった場所なだけに、焼死したゾンビはいなかった。
 その為、BSAAの掃討作戦から漏れた(恐らく普通の死体と思われた)死体が今ゾンビ化しているのかもしれないというやり取りが聞こえて来た。
 さすがに完全に白骨化した者はゾンビ化しなかったようだが、少しでも脳味噌が残っている死体はゾンビ化するのだろう。

 愛原:「あの……善場さん」
 善場:「何でしょうか?」
 愛原:「とても弁当食ってる気分になれないんですけど……」
 善場:「そうですね。昼食の時間と場所は変えましょう。これならむしろ市街地の方が良かったかもしれません」

 しかしあそこは紛争の後といった感じで、雰囲気的には落ち着かない。
 ま、確かにゾンビは全くいなかったのだが。
 無線からは、他にもハンターやリッカーの死体が見つかったというのも聞こえて来た。
 ハンターはミイラ化しており、リッカーは白骨化していたという。
 これらもいずれは回収の対象となるだろう。
 どこかの研究所に運ばれるのかもしれないな。

 善場:「……はい。というわけでして……はい」

 善場氏は電話で上層部とやり取りをしているようだった。

 善場:「……はい、了解しました。申し訳ありません。……はい」

 そして、善場は電話を切る。

 善場:「愛原さん、申し訳ありません。上層部からの指示で、本日の調査は中止せよとのことです」
 愛原:「……だろうなぁ」
 高橋:「おいおい、クソ忙しい先生の貴重なヒマな時間を無駄に使わせやがったこの落とし前はどう付けてくれるつもりなんだ?あぁ?善場さんよ?」
 愛原:「高橋、日本語整理してから善場さんに文句言え」
 善場:「もちろん報酬は支払わせて頂きます。まさか、未だに『生存』しているゾンビがいたとは想定外でした」
 愛原:「2〜3年もの間、どうやって飲まず食わずで『生きて』いたのやら……」
 善場:「実は旧アンブレラ社の研究レポートには、似たようなことが書いてあるものがあったそうです。ただ、他の研究者からは一笑に付されていたらしいのですが……。どうやら、そのレポートは本当だったようです」

 温かい血肉を求めて彷徨い歩く、餓鬼道を地で行くゾンビが数年間も飲まず食わずで『生き』られるとは普通思わないだろう。
 恐らくそこが、昔ながらのゾンビ映画に出て来るゾンビとは違う所なのかもしれない。

 善場:「上層部としては既に安全が確認されている市街地のみを調査するものと思っていたようです。郊外部分につきましては、未だに安全宣言を出すわけには行かないことが判明しました。それだけでも、この調査は意義のあるものだったと私は思います」
 愛原:「できれば霧生電鉄の駅や大山寺境内も調査してみたかったですね」
 善場:「はい。それも追々お願いすることになるかと思いますので、その時はどうぞよろしくお願いします」

 私達はBSAAの隊員達の帰還を待って、それから装甲車に乗ると来た道を引き返した。

 善場:「明日はご旅行ですか?」
 愛原:「そうなんですよ。うちの事務所の慰安旅行でしてね。まあ、1泊2日の温泉旅行ですが……」

 ふと道路沿いの看板を見ると、『新日蓮宗大本山 大山寺』の他に、『霧生温泉』の看板もあった。
 バイオハザードさえ起こらなければ、いい町だっただろうに……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする