[5月9日13:00.天候:晴 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日は午前中に報告書を纏め、午後になってそれをデイライトに持って行った。
因みにデイライトとは『日光』のことであり、『日光が照らすほど晴れていれば、アンブレラ(雨傘)は要らないよね』という、悪の製薬企業アンブレラに対する嫌味が含まれている。
もしも白井本人がいたら、『愚か者。ゲリラ豪雨を知らんのか?そうやってタカをくくって傘を持たぬ者が、ゲリラ豪雨に遭って泣くのだよ』と、反論しそうだがな。
まあ、屁理屈の応酬である。
愛原:「晴れていて、尚且つ風が強いかどうかを確認すれば大丈夫だよ」
高橋:「えっ、何がです?」
愛原:「ゲリラ豪雨の予想」
高橋:「今日、降るんですか?」
愛原:「今日は……そんなに風が強くないから大丈夫だろう」
高橋:「天気まで予想されるとは、さすが名探偵です!」
私と高橋は、応接会議室へ通されている。
善場:「お待たせしました」
そこへ、善場主任が入って来た。
愛原:「善場主任、お疲れさまです。こちら、昨日までの旅行に関する報告書です。写真も添付してあります」
善場:「ありがとうございます。多くは、リサの体調変化の事が過半数でしょうか?」
愛原:「そういうことになります」
善場:「リサの体調はどうですか?GPSによると、学校に行っているようですが……」
愛原:「ええ。学校を休むほど体調は悪化していないので、学校には行かせました。で、今のところ体調不良の連絡は来ていないので、今は大丈夫かと」
善場:「なるほど」
愛原:「まさか酒を飲んだ私の血を吸ったリサが、酔っ払うとは思いもしませんでした」
善場:「一部のメディアでは、それを描写した物があったりするのですが、所長は御存知無かったようですね」
愛原:「はあ……どうも……」
高橋:「おい、姉ちゃん、そりゃあ無ェだろ。いちいちラノベの設定なんて覚えてられっかよ」
善場:「ラノベ?何の話ですか?」
愛原:「連れの上野凛さんが、吸血鬼が登場するライトノベル作品に、酔っ払った人間の血を吸った吸血鬼が酔っ払うといった描写があったそうです」
善場:「ああ、そうなんですね。それが現実に起こり得てしまったということなので、次は気をつけてください」
愛原:「申し訳ありません」
善場:「今後、所長方に注意して頂きたいのは、リサの変化です。大量のアルコールを一気に摂取したことにより、彼女の体質に影響が及んだ可能性があります。幸いにして今のところ暴走に繋がってはいないようですが、少しでもいつもより違う点を見つけたら報告して頂きたいのです」
愛原:「分かりました」
善場:「直近ですと……食欲不振のようですね」
愛原:「普通の人並みの食欲はあるんですよ。ただ、今までの大食と比べれば、明らかに食事量は減りましたね」
善場:「今朝の食事は……和食だったのですね」
高橋:「それでもリサには、何らかの肉系を用意しないとうるさかったんだがよ、今日は何も言ってなかったな」
善場:「そうですか。昼食は何を食べたか聞きましたか?」
愛原:「あ、はい」
私は自分のスマホを取り出した。
LINEを開いて、そこでリサとのやり取りを主任に見せる。
愛原:「B定食だそうです。まあ、定食をまるっと食べられる食欲はあるようですね。で、B定食というのは、主に魚系です。A定食が肉系で」
善場:「ではリサは、昼食も肉を食べなかったと?」
愛原:「そういうことになります」
今まで肉を食べ過ぎている感はあったので、それが魚にシフトしただけなのならまだ良いのだが。
愛原:「それでですね……ん?」
その時、またリサからLINEが来た。
愛原:「リサからのLINEです。えーと……『夕食はサッパリしたものがいい』ですって!?」
善場:「どうやら食事の嗜好が変わったようですね。それが一過性のものなのかといったところですが……」
愛原:「ということは、また魚系とかになるのかな……」
高橋:「夕食のメニュー、考えておきます」
愛原:「頼むぞ」
善場:「もう一度、リサの検査がしたいところですね」
愛原:「ドクターカーとか検診車が来ますか?それとも、もう一度、藤野に行きますか?」
善場:「いえ。今すぐは大変なので、また次回に。栃木で行った緊急検査の結果も、まだ全ては出ていませんので」
愛原:「そうですか」
[同日14:03.天候:晴 同地区内 新橋バス停→都営バス業10系統車内]
帰りは都営バスに乗ることにした。
これなら乗り換え無しで、菊川に帰ることができる。
行きは基本的には乗らない。
もしも渋滞にハマって遅れたりしたら大変だからだ。
オーソドックスなノンステップバスに乗り込み、後ろの席に高橋と隣同士で座る。
〔発車致します。お掴まりください〕
バスは満席状態で、新橋バス停を出発した。
〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。このバスは銀座四丁目、勝どき橋南詰、豊洲駅前経由、とうきょうスカイツリー駅前行きでございます。次は銀座西六丁目、銀座西六丁目でございます。日蓮正宗妙縁寺へおいでの方は、本所吾妻橋で。日蓮正宗本行寺と常泉寺へおいでの方は、終点とうきょうスカイツリー駅前でお降りください。次は、銀座西六丁目でございます〕
高橋:「先生。菊川に着いたら、夕食の買い出しに行ってきていいっスか?」
愛原:「いいよ。それで、リサの言うサッパリした料理で思い付いたんだけど……」
高橋:「何スか?」
愛原:「湯豆腐と寿司が食いたいなと思って」
高橋:「湯豆腐っスか!?」
愛原:「いや、真冬でもないのに何だか変な話なんだけど、何かそういう気分になっちゃってさ」
高橋:「分かりました。先生がそう仰るのなら、そうします」
愛原:「悪いな。作れるか?」
高橋:「ええ、まあ、一応ムショで作ったことあるんで、大丈夫です」
愛原:「そうか」
高橋:「でも、さすがに寿司は握れないっスよ?」
愛原:「分かってる。スーパーに買い出しに行くんだろ?そこで売ってるパック詰めのヤツでいいからさ」
高橋:「分かりました」
尚、湯豆腐といったら冬の食べ物というイメージが一般的だと思うが、もっと後の季節に食べる鍋とする向きもある。
例えば、かの有名な文豪、池波正太郎先生は作品の登場人物に、『梅雨寒の時に食べる鍋』とさせており、“梅雨の湯豆腐”という短編作品もある。
もうすぐ梅雨ということで、それを思い出した次第だ。
寿司と湯豆腐、どちらもサッパリした料理だから、リサの口に合うだろう。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日は午前中に報告書を纏め、午後になってそれをデイライトに持って行った。
因みにデイライトとは『日光』のことであり、『日光が照らすほど晴れていれば、アンブレラ(雨傘)は要らないよね』という、悪の製薬企業アンブレラに対する嫌味が含まれている。
もしも白井本人がいたら、『愚か者。ゲリラ豪雨を知らんのか?そうやってタカをくくって傘を持たぬ者が、ゲリラ豪雨に遭って泣くのだよ』と、反論しそうだがな。
まあ、屁理屈の応酬である。
愛原:「晴れていて、尚且つ風が強いかどうかを確認すれば大丈夫だよ」
高橋:「えっ、何がです?」
愛原:「ゲリラ豪雨の予想」
高橋:「今日、降るんですか?」
愛原:「今日は……そんなに風が強くないから大丈夫だろう」
高橋:「天気まで予想されるとは、さすが名探偵です!」
私と高橋は、応接会議室へ通されている。
善場:「お待たせしました」
そこへ、善場主任が入って来た。
愛原:「善場主任、お疲れさまです。こちら、昨日までの旅行に関する報告書です。写真も添付してあります」
善場:「ありがとうございます。多くは、リサの体調変化の事が過半数でしょうか?」
愛原:「そういうことになります」
善場:「リサの体調はどうですか?GPSによると、学校に行っているようですが……」
愛原:「ええ。学校を休むほど体調は悪化していないので、学校には行かせました。で、今のところ体調不良の連絡は来ていないので、今は大丈夫かと」
善場:「なるほど」
愛原:「まさか酒を飲んだ私の血を吸ったリサが、酔っ払うとは思いもしませんでした」
善場:「一部のメディアでは、それを描写した物があったりするのですが、所長は御存知無かったようですね」
愛原:「はあ……どうも……」
高橋:「おい、姉ちゃん、そりゃあ無ェだろ。いちいちラノベの設定なんて覚えてられっかよ」
善場:「ラノベ?何の話ですか?」
愛原:「連れの上野凛さんが、吸血鬼が登場するライトノベル作品に、酔っ払った人間の血を吸った吸血鬼が酔っ払うといった描写があったそうです」
善場:「ああ、そうなんですね。それが現実に起こり得てしまったということなので、次は気をつけてください」
愛原:「申し訳ありません」
善場:「今後、所長方に注意して頂きたいのは、リサの変化です。大量のアルコールを一気に摂取したことにより、彼女の体質に影響が及んだ可能性があります。幸いにして今のところ暴走に繋がってはいないようですが、少しでもいつもより違う点を見つけたら報告して頂きたいのです」
愛原:「分かりました」
善場:「直近ですと……食欲不振のようですね」
愛原:「普通の人並みの食欲はあるんですよ。ただ、今までの大食と比べれば、明らかに食事量は減りましたね」
善場:「今朝の食事は……和食だったのですね」
高橋:「それでもリサには、何らかの肉系を用意しないとうるさかったんだがよ、今日は何も言ってなかったな」
善場:「そうですか。昼食は何を食べたか聞きましたか?」
愛原:「あ、はい」
私は自分のスマホを取り出した。
LINEを開いて、そこでリサとのやり取りを主任に見せる。
愛原:「B定食だそうです。まあ、定食をまるっと食べられる食欲はあるようですね。で、B定食というのは、主に魚系です。A定食が肉系で」
善場:「ではリサは、昼食も肉を食べなかったと?」
愛原:「そういうことになります」
今まで肉を食べ過ぎている感はあったので、それが魚にシフトしただけなのならまだ良いのだが。
愛原:「それでですね……ん?」
その時、またリサからLINEが来た。
愛原:「リサからのLINEです。えーと……『夕食はサッパリしたものがいい』ですって!?」
善場:「どうやら食事の嗜好が変わったようですね。それが一過性のものなのかといったところですが……」
愛原:「ということは、また魚系とかになるのかな……」
高橋:「夕食のメニュー、考えておきます」
愛原:「頼むぞ」
善場:「もう一度、リサの検査がしたいところですね」
愛原:「ドクターカーとか検診車が来ますか?それとも、もう一度、藤野に行きますか?」
善場:「いえ。今すぐは大変なので、また次回に。栃木で行った緊急検査の結果も、まだ全ては出ていませんので」
愛原:「そうですか」
[同日14:03.天候:晴 同地区内 新橋バス停→都営バス業10系統車内]
帰りは都営バスに乗ることにした。
これなら乗り換え無しで、菊川に帰ることができる。
行きは基本的には乗らない。
もしも渋滞にハマって遅れたりしたら大変だからだ。
オーソドックスなノンステップバスに乗り込み、後ろの席に高橋と隣同士で座る。
〔発車致します。お掴まりください〕
バスは満席状態で、新橋バス停を出発した。
〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。このバスは銀座四丁目、勝どき橋南詰、豊洲駅前経由、とうきょうスカイツリー駅前行きでございます。次は銀座西六丁目、銀座西六丁目でございます。日蓮正宗妙縁寺へおいでの方は、本所吾妻橋で。日蓮正宗本行寺と常泉寺へおいでの方は、終点とうきょうスカイツリー駅前でお降りください。次は、銀座西六丁目でございます〕
高橋:「先生。菊川に着いたら、夕食の買い出しに行ってきていいっスか?」
愛原:「いいよ。それで、リサの言うサッパリした料理で思い付いたんだけど……」
高橋:「何スか?」
愛原:「湯豆腐と寿司が食いたいなと思って」
高橋:「湯豆腐っスか!?」
愛原:「いや、真冬でもないのに何だか変な話なんだけど、何かそういう気分になっちゃってさ」
高橋:「分かりました。先生がそう仰るのなら、そうします」
愛原:「悪いな。作れるか?」
高橋:「ええ、まあ、一応ムショで作ったことあるんで、大丈夫です」
愛原:「そうか」
高橋:「でも、さすがに寿司は握れないっスよ?」
愛原:「分かってる。スーパーに買い出しに行くんだろ?そこで売ってるパック詰めのヤツでいいからさ」
高橋:「分かりました」
尚、湯豆腐といったら冬の食べ物というイメージが一般的だと思うが、もっと後の季節に食べる鍋とする向きもある。
例えば、かの有名な文豪、池波正太郎先生は作品の登場人物に、『梅雨寒の時に食べる鍋』とさせており、“梅雨の湯豆腐”という短編作品もある。
もうすぐ梅雨ということで、それを思い出した次第だ。
寿司と湯豆腐、どちらもサッパリした料理だから、リサの口に合うだろう。