報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「帰京へ」

2022-06-26 20:24:46 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月8日18:00.天候:晴 栃木県那須塩原市 ホテル天長園]

 最終的なリサの検査も終わり、ようやく私達は帰れる見込みとなった。
 しかし、ドクターカーにもヘリにも乗せてもらえなかった。

 高橋:「何だよ、姉ちゃん!?来るだけ来やがってよ!」

 尚、善場主任はヘリで帰って行った。
 憤慨する高橋を宥める。
 しょうがない。
 因みに路線バスは、もう既に運行を終了している。
 さすがは田舎のバス。
 しょうがないので、大枚はたいてタクシーを呼ぶか。
 そう思った時だった。

 上野凛:「送迎車を出してもらうようお願いしましたので、それで行けると思います」

 と、凛が言った。
 因みに彼女は仲居の制服である着物から、私服に着替えている。

 愛原:「本当!?ありがとう!助かる!」

 本来は運行される時間ではない。

 愛原:「取りあえず、お賽銭入れとくね」

 私は天長会展示コーナーにある賽銭箱に、野口先生1人分入れておいた。
 恐らく、タクシーで行ったら5~6人分必要になると思うので、安いものだ。
 そうしているうちに、正面玄関前にシルバーのキャラバンが1台止まった。
 横には『ホテル天長園』と書かれているので、あれが送迎車だ。

 運転手:「お待たせしました。どうぞ、お乗りください」
 愛原:「どうも、すいません。よろしくお願いします」

 私達は開いたスライドドアから車内に入った。
 運転手はハッチを開けて、私達の荷物を乗せている。

 愛原:「キミ達、俺達より荷物多いね?」
 凛:「ええ。家から持って行く物とかありますので」
 愛原:「そうなのか」

 私達は1番後ろの3人席に座った。
 上野姉妹はその前の2人席に座る。

 運転手:「それでは出発します」

 運転手はパワースライドドアを閉めて言った。

 愛原:「お願いします」

 冬なら真っ暗時間であるが、今の時期はまだ明るい。
 しかも、昨夜とは打って変わって晴れているから、尚更明るかった。

 愛原:「今から帰ると夜になるけど、キミ達、寮の門限大丈夫?」
 凛:「はい。今日まで外泊許可を取ってるので大丈夫です」
 愛原:「そうか」

 車はホテルを出て県道に入る。
 晴れてはいるが、それでも大気は不安定なのか、何だか風が強い。
 まあ、車が飛ばされたり、新幹線が止まるほどではないが。

 リサ:「…………」
 愛原:「リサ、大丈夫か?」

 リサは口数少なく、私に寄り掛かるように座っている。
 普通には歩けるので、昏睡していた時よりはだいぶ体調はマシになったと思うのだが……。

 リサ:「お腹空いた」
 愛原:「そうだなぁ……。駅に着いたら、何か買って行こう。NEWDAYSがあったはずだ」

 駅弁を売っていたという記憶は無いが……。
 あるのか?

[同日18:25.天候:晴 同市内 JR那須塩原駅西口→駅構内]

 車は無事に那須塩原駅のロータリーに到着した。

 運転手:「はい、到着しましたー」
 愛原:「どうも、ありがとうございます」

 私達は礼を言って、車を降りた。
 ハッチを開けてもらい、そこから荷物を降ろす。

 運転手:「それじゃ御嬢様方、どうかお気をつけて」
 凛:「ありがとう。小野澤さん」

 那須塩原市の市街地に来ても、風は強かった。
 まあ、新幹線は大丈夫だと思うが。

 愛原:「リサ、スカート!」
 リサ:「……え?」

 駅の入口に差し掛かった時、風がビュウッと吹いてきた。
 リサは膝小僧が見えるほどの短いスカートを穿いているのだが、それが捲れても気が付かないほどボーッとしていた。
 リサとは違って膝小僧が隠れる長さのスカートを穿いている上野理子は、それでもスカートの裾を押さえているほどだというのに。

 凛:「先輩、スパッツくらい穿いた方がいいですよ?」
 リサ:「学校ではそうしてる」
 凛:「まあ、学校は……校則ですから」

 本当はもう少し可愛い下着に着替えたかったそうなのだが、泥酔による昏睡とその後遺症でそれどころではなかったそうだ。
 その為、昨夜寝る時の下着のままだった。

 愛原:「キップは1人ずつ持とう」

 駅構内に入ると、私達はキップを渡した。

 凛:「あれ?これ、指定席ですか?」
 愛原:「そうなんだけど、今日中なら自由席も乗れるから」

 そうなのだ。
 実は、帰りは指定席を取っていた。
 本当なら昼くらいに帰り着いて解散とするはずだったのだが、リサのダウンにより、指定した列車に乗ることはできなかった。

 リサ:「ゴメン。わたしのせいで……」
 愛原:「いや、いいんだよ。幸い、自由席には乗れるから」

 もちろん、指定席料金分はパーになったわけだがな。
 JRの規則では、指定列車に乗り遅れても、その後の列車の自由席になら、キップを買い直さなくても良いことになっている。
 その通り、そのキップを自動改札機に突っ込んでも弾かれることはなく、ちゃんとゲートは開いた。
 当然、その横に立っている駅員も何も言ってこない。

 愛原:「じゃあ、夕食でも買い込んでいくか」

 案の定、駅弁は売って無さそうだ。
 また、“なすの”では車内販売も無い。
 幸いNEWDAYSは営業していたので、そこで夕食を買って行くことにした。
 弁当も売ってはいたが、駅弁ではなく、コンビニ弁当のそれである。
 お土産などは売っているのだが……。

 リサ:「じゃあ、これ」

 やはりというか、リサは肉関係の弁当を所望した。
 だが、いつもならそういう弁当を2~3個くらい買う所を、今回は1個だけだ。

 愛原:「これだけでいいのか?」
 リサ:「うん、これだけでいい。あとは……ちょっとお菓子とか……」

 腹が減ったとは言ったが、それほどガッツリ食べたいわけではないようだ。

 高橋:「先生、電子レンジ使えますよ?」
 愛原:「おー、そうか」

 NEWDAYSはコンビニだが、電子レンジは客がセルフサービスで使うシステムだ(JR東海のベルマートも同じ)。

 愛原:「それじゃ、行こうか」

 食料を確保した私達は、新幹線ホームに向かった。
 幸い今度乗る列車は当駅始発なので、自由席でも並んでいれば余裕で座れるだろう。
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“私立探偵 愛原学” 「リサのダウン」

2022-06-26 14:06:56 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月8日13:00.天候:晴 栃木県那須塩原市 ホテル天長園]

 チェックアウトの10時になってもリサは目を覚まさなかったので、私はデイライトに連絡することにした。
 日曜日なので善場主任は休みだろうと思っていたが、午後になって駆け付けたデイライトの職員は善場主任であった。

 善場:「お疲れ様です。愛原所長」
 愛原:「どうも、善場主任。この度はとんだ……」
 善場:「いいえ。事情は伺いました。しかし、想定内というか、想定外というか……。とにかく、意外な事が起きたのは事実のようですね」
 愛原:「はあ……。未成年に飲酒させるとは、私も逮捕ですか?」
 善場:「リサは人間ではありませんので、それには該当しませんので、ご安心ください」

 BSAAの軍服を着た職員達を、私は案内した。
 呆気に取られる天長会信者達。

 信者A:「せ、戦争でも始まるんですか?」
 信者B:「らしいですな」
 信者C:「まさか、宗教弾圧!?」
 信者D:「いや、軍隊使って弾圧はねぇべ。弾圧してくるのは警察だ」

 なんて会話してる。
 リサが寝ている客室に職員達を案内した。
 軍服を着ていて、ガスマスクを着けてはいるが、赤十字の腕章と『Doctor』と書かれたゼッケンを着けているので、軍医だと分かる。
 すぐにその場で、リサの検査が行われた。
 その間、私は善場主任から事情聴取。

 善場:「ふーむ……。どうやら、本当に愛原所長の血中アルコールを摂取したことによる泥酔状態ですか……。それに伴う体内TウィルスやGウィルスの変化について、調べてみたいものです」

 その為、軍医はリサの腕から血液を10本も採取した。
 リサの血は人間と同じ赤黒いものであったが、注射針を刺されてもリサは目を覚まさなかった。
 採取された血液は直ちに別の医療班員に渡され、ホテルの駐車場に止められたドクターカーに運ばれる。
 そこで、それまで採取されたリサの血液データと比較される。
 正常な状態のリサの体内ウィルスと、現在の状態を比べてみて大きな変化があったとしたら……どうなるんだろう?
 見た目は第1形態の鬼の姿のまま眠っている。
 その後、リサを外のドクターカーに運ぶことになった。
 ストレッチャーが運び込まれ、リサをその上に寝かせる。
 客用エレベーターではストレッチャーが乗せられないので、荷物用のエレベーターに乗せることになった。
 そこは凛が誘導した。
 一般の宿泊客は立入禁止のバックヤードに入り、客用エレベーターとは違って何のリニューアルもされていない古い荷物用エレベーターに乗せる。
 荷物用なので、その中も殺風景なものだった。

 愛原:「……?」

 大きな荷物を運ぶエレベーターだから、客用のそれより大きいのは分かる。
 だが、それにしても大き過ぎないかと思った。
 客用エレベーターでさえ、定員は15人前後である。
 それがこのエレベーターは、40人乗りであった。
 まるで、高層ビルの荷物用エレベーターのようである。
 このホテルは、そんなに大規模なものではない。
 地上8階建ての中規模なホテルだ。
 しかも気になったのは、客用エレベーターには無い地下階のボタンがあったこと。
 しかもそのボタンの横にだけ鍵穴が付いていて、恐らく鍵を差して回さないとボタンが押せないようになっているのだと思われた。

 愛原:「凛ちゃん、この地下階には何があるの?」
 凛:「倉庫と機械室です」

 と、当たらず障らずの回答を返して来た。
 恐らくこのエレベーターは関係者しか乗らないだろうに、わざわざ鍵で封印する必要があるのだろうか。
 これが客も乗るエレベーターなら、客が間違って押さないように封印する必要はあると思うが……。

 善場:「後で地下階を見せて頂いても、よろしいですか?」
 凛:「それは……支配人に聞いてみませんと」
 善場:「よろしくお願いしますね」

 リサはドクターカーに乗せられ、そこで色々な検査を受けた。
 だが、数値的には前回検査した時と大して変わりはないようだ。
 あるとしたら、血中アルコールの状態。
 意外なことに、かなりアルコールの分解力が弱いらしい。
 つまり、『殆ど酒が飲めない』状態であるということだ。
 私は……まずこのホテルに着いて、風呂に入ってから、脱衣所で缶ビールを1つ飲み、夕食の時に瓶ビールが2本とチューハイが1本とそれと【以下略】。
 それから更に、夜にも風呂に入って、その風呂上がりに缶ビールを1つ飲んだんだっけ。
 で、それが含まれた血をリサは吸い取ったものだから……。

 軍医:「体内のウィルスの状態についてですが、数値的には特に変化はありません」
 愛原:「そうなんですか」
 軍医:「ただ、血液中のアルコール濃度が高いので、急性アルコール中毒を引き起こした可能性があります」
 愛原:「じゃあ……」
 軍医:「意識があれば排尿させるなどの処置がありますが、意識が無いので、輸液を行います」

 急性アルコール中毒症に対する治療は、対症療法しか無いし、体内のアルコールを中和させる方法は無い。

 軍医:「人間と同様の方法が効けば、の話ですが……」
 愛原:「はあ……」

 リサには輸液の為の点滴が行われた。
 その時に刺した針の痛みに、リサが一瞬反応したが、それで意識を回復させることはなかった。

[同日15:00.天候:晴 同ホテル]

 凛:「すいませんが、支配人が、『宗教施設にも関わることですので、お見せできません』とのことです」

 凛がドクターカーの前で待機している善場主任に言うと、善場主任は眉を潜めた。

 善場:「なるほど……。そうですか」
 凛:「ひっ?!」

 元BOWの主任の睨みは、現BOWのリサも震えさせるほど。
 ましてや、半分しかBOWの血が入っていない凛は【お察しください】。

 善場:「では、令状が必要になりますね。分かりました」

 と、そこへマイクロバス型のドクターカーの乗降ドアが開けられた。

 軍医:「善場主任、『2番』の意識が戻りました」
 愛原:「本当ですか!?」

 たまたま凛と一緒に外に出た私も、その言葉に驚いた。
 善場主任と一緒に車に乗り込むと、ストレッチャーの上で横になっているリサの目が開けられ、ボーッと天井を見つめていた。
 その瞳の色は金色。

 愛原:「リサ、大丈夫か!?」

 すると、リサは私に焦点の合わない目を向けた。

 リサ:「先生……おはよう……」
 愛原:「リサ……。良かった……」
 善場:「ドクター、血中濃度は正常ですか?」
 軍医:「ようやく0.05%にまで下がりました。これは通常、ほろ酔い状態になります」

 それまで、リサの血中アルコール濃度は最大0.4%あったらしい。
 これは人間であれば間違いなく昏睡状態になり、しかも命を落としかねないほどの濃度だそうだ。
 輸液をしたことで、ようやくアルコールが薄まったらしい。

 軍医:「ここまで下がれば、もう命に別状は無いでしょう。輸液はこれで終了とします」
 愛原:「ありがとうございます」
 愛原:「リサ、体の具合はどうだ?」
 リサ:「クラクラする……気持ち悪い……オシッコしたい……」
 愛原:「トイレに行こうか」

 私はリサをホテル内のトイレに連れて行ったが、そこで嘔吐したり、尿を大量に排出したりしているうちに、更にアルコールは薄まったらしい。
 よく、『吐いたら気分が良くなった』と言うが、リサも例外ではなく、トイレに行った後は見る見るうちに元気になっていった。
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“私立探偵 愛原学” 「GW最終日の朝」

2022-06-26 11:32:39 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月8日06:30.天候:晴 栃木県那須塩原市 ホテル天長園1Fロビー→大浴場]

〔ピーン♪ 1階です〕

 私と高橋は朝風呂に入るべく、エレベーターで1階に降りた。

〔ドアが、閉まります〕

 エレベーターを降りると、仲居の着物を着た上野凛がいた。

 愛原:「おっ、凛ちゃん」
 凛:「おはようございます!」
 愛原:「おはよう」
 高橋:「おース」
 凛:「? リサ先輩はどうされました?」
 愛原:「いや、実はさ……」

 私は昨夜あった話をした。
 凛という半BOWだからできることで、相手が普通の人間なら正直には話さない。

 凛:「あっ、それ、聞いたことあります」
 愛原:「えっ!?」
 凛:「天長会に出てくる『鬼』は一切の飲食ができないんですよ。人間の血肉しか食らうことができません。でも、裏技があって、泥酔した人間の血を吸うと、自分も酔っ払えるんだそうです。そういうことですね」
 愛原:「先に言ってよ~」
 高橋:「言えや、コラ!」
 凛:「そ、そんなこと言われましても……」

 そりゃそうだ。
 それじゃ、酔っ払った人間の血を吸った蚊やダニも酔っ払うのかと思うが……。

 愛原:「ゴメン。とにかく、まだ寝てるから起こさないでおこうと思うんだ。こりゃ、二日酔いになるかもしれんな」
 凛:「売店でソルマックとか売ってますから、もしよろしければ……」
 愛原:「ああ、そうだな。考えておこう」

 私はそう言うと、大浴場に向かった。

 高橋:「センセ、未成年で飲酒なんて、俺より不良ですね」
 愛原:「? オマエは未成年飲酒をしなかったのか?」
 高橋:「とんでもない!酒はちゃんと、20歳になってからですよ」
 愛原:「おー、偉いな」
 高橋:「酔っ払い運転なんてダサいじゃないですか」
 愛原:「そっちか!……まあいいや。因みにタバコは?」
 高橋:「タバコは……【お察しください】」
 愛原:「コラぁっ!」

 とにかく、大浴場に入る。
 朝風呂の方が賑わっていた。

 愛原:「天長会信者の皆さんだな、きっと」
 高橋:「そうっスね」

 どこかで誰かが、御詠歌らしき歌を上機嫌で歌っているのも聞こえてくる。
 どうも昨夜、夜通し何かの儀式が行われたようだ。
 それが無事に終わったので、ホッとしているように見えた。
 何の儀式が行われたのか気になるところだが、それだけ聞いても非信者の私が理解できるとは思えなかったので、聞くのはやめておいた。

 愛原:「よし。今日は直に露天風呂に行こう」
 高橋:「ういっス」

 体を軽く流した後、私達は露天風呂に行った。
 昨日のゲリラ豪雨が嘘みたいに晴れていて、水面に朝日が反射して眩しいくらいだ。

 愛原:「昨夜より少し熱いかな?」
 高橋:「水で埋めますか?」
 愛原:「天然温泉で、どうやって埋めるんだよ?」

 近くには天長会信者と思しき60代くらいの男性2人がいる。

 信者A:「いやあ、それにしても昨夜の巫女さん、凄かったなぁ……」
 信者B:「日本人かね?あんなプリケツのボインボイン、久しぶりに見たよ」
 信者A:「俺もっと若かったら、ムスコがビンビンで儀式どころじゃなかったなぁ?w」
 信者B:「シッ!バチ当たんべw」

 そうして2人で笑う。

 高橋:「先生、すっげぇ美人ですって」
 愛原:「ということは、凛ちゃんじゃないか」

 恐らく、海外のポルノ女優とかにいそうな感じなのだろう。
 ホテルでは見ていないので、ずっと聖堂とかにいたのだろうか。
 尚、海外ポルノ女優にもロリ系はいるので、全てのポルノ女優がグラマラスなボディをしているわけではない。
 信者2人の話を聞いていると、顔は分からないようである。
 まあ、天長会の巫女は白い仮面を着けて顔を隠すようなので、そのせいだろう。

 信者A:「あれ?あなた達はひょっとして……」

 その時、1人の信者が私達を見て何かに気づいたようだ。

 信者A:「白井さんから指名手配食らってた人?大変でしたねぇ……」
 愛原:「は!?指名手配!?」
 高橋:「どういう意味だ、コラァッ!!」
 愛原:「高橋、落ち着け。指名手配って、どういうことなんですか?」
 信者B:「逆指名手配って言った方がいいんでね?」
 信者A:「うーん……それとも違うような……」
 愛原:「白井って、白井伝三郎のことですか?」
 信者A:「あ、やっぱり知ってるんだ」
 愛原:「知ってるも何も……。その白井がどうして指名手配を?」
 信者A:「あなた達から逃げる為でしょ。あなた達、このホテルに何回か来てるでしょ?その度に白井さん、慌てて逃げて行ったから、それであなた達が来たらすぐに教えるようにって、私達に指名手配写真を配ってたんですよ」
 愛原:「な、何ですって!?」

 それで私達がホテルに来ても、何の情報も得られなかったのか!
 まさか、教団ぐるみで隠していたとは……。

 信者A:「私が『この人達、何かしたんですか?』って聞いたら、司祭様が笑って、『白井さん、この人達から借金して逃げ回ってる』なんて言うもんだから、私達も笑っちゃってねぇ……。それなら協力してあげようと思ったわけですよ」

 ンなこたぁない。
 嘘八百である。
 あえてそういう笑い話にすることで逆に信者達を信用させ、協力させるという姑息な手口である。
 善人を善人のまま悪に加担させるという、あくどい手口だ。

 信者B:「当の白井さん、東京で車の事故で死んじゃったんですって?だからもう、借金はチャラですよね?」
 愛原:「いや、その……まあ……」
 信者A:「どうしても借金を払えというのなら、白井さんには御兄弟がいるから、そっちに請求してください。くれぐれも、教団に請求はなさらないように」

 実際に借金はしていないのだが、何とも都合のいい。
 ここでは、死んだ白井がどうなったのかは、新しい情報は得られないようだ。

 愛原:「上がるか。一度部屋に戻って、リサの様子を見てこよう」
 高橋:「うっス」

 大浴場から出る時、詩吟にも似た御詠歌が再び大浴場内から聞こえたのだった。
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