[7月1日18時15分 天候:雨 群馬県吾妻郡東吾妻町某所 ペンション『いたち草』3階301号室]
確かに斉藤元社長の言う通り、夕食には高級フレンチが出て来た。
ワゴンに乗せて運んで来るのは、あの老執事。
執事「こちら、『鴨肉のスモークと茄子とトマトのパテとナンテゥー添え、キャベツのクリスタルと共に』でございます」
一皿目なのだから前菜だと思われるが、いきなり高級そうなのが来た。
愛原「リサ、肉だぞ」
リサ「うん……」
愛原「ナイフとフォークは外側から使っていくんだ」
リサ「知ってる。埼玉の家で初めて教わった」
斉藤「はっはっは!あの頃は楽しかったねぇ……」
斉藤元社長は懐かしむかのように笑い、目を細めるとワインを口に運んだ。
愛原「あの楽しかった時期を捨ててまで、どうして逃亡者になったのですか?」
斉藤「それは……ああ、食べながら聞いてくれて構わない。夕食会なんだからね」
元社長は、リサの方を見て言った。
斉藤「因みに料理には何も入ってないからね?まあ、オーナーが何か企んでもいなければの話だが」
愛原「いや、そんな言い方されると怖くなります!」
斉藤「大丈夫ですよ。今のオーナーは、そんなことをするような人物ではありません。何でしたら、私が先に毒見しましょう」
元社長はワイングラスを置くと、一番外側のナイフとフォークを取り、この皿では最もメインの鴨肉を口に運んだ。
斉藤「フム。さすがは趣味が高じて作っているだけのことはある。なかなか美味ですよ」
愛原「シェフは誰なんです?」
斉藤「ここのオーナーですよ」
愛原「えっ!?」
斉藤「ここのオーナー……つまり、アンブレラコーポレーション・ジャパンの五十嵐皓貴元社長ですな。彼は若い頃は料理人を目指していたそうですよ。完全に製薬業から撤退した今、あとは趣味に生きることを選んだようです」
愛原「調理士免許は?」
斉藤「服役中に取ったそうです。ほら、刑務所では職業訓練も行われますから。受刑者達の食事を作る刑務作業もあるでしょう?そこへの配属を強く希望して、叶ったようです」
それでも包丁などの刃物を扱ったり、多くの受刑者達の口に入る物を作る作業場だから、配属される受刑者はかなり慎重に選ばれる。
無期懲役などの凶悪犯は選ばれない。
五十嵐元社長のように、自分は直接手は下していないものの、悪の製薬企業の日本法人最高責任者としての立場から逮捕され、服役することになっただけだから叶えてもらったのだろうか。
愛原「何で最初から料理人にならならかったんでしょうね?」
斉藤「服役中に調理師免許を取ったということは、若い頃にそういった専門学校に通わなかった、あるいは通えなかった事情があるのでしょう。とにかく、今はペンションを経営しながら料理人として働いているのですから、害は無いかと」
愛原「ふーむ……」
フルコースなので、最初の料理を食べ終わると、次の料理が運ばれてくる。
執事「『サフランが香る海の幸達のブイヤベースのジュレ、ヴィシワソワーズのバジル風味と共に』でございます」
愛原「執事さん、あなたも日本アンブレラの人間だったの?」
執事「いいえ、私は違います。御主人様の御屋敷に仕える身でございました」
愛原「そういうことか……」
斉藤「愛原さん、私の専属ドライバー、新庄の事は覚えておいでですか?」
愛原「あ、はい。元タクシー運転手の……」
斉藤「新庄は最初、五十嵐さんの専属ドライバーだったんですよ」
愛原「えっ!?タクシードライバーだった時に人を轢いてしまって、それで服役していたのでは!?」
斉藤「その話は半分ウソで半分本当です。後でオーナーからも話があるかもしれませんが、人身事故を起こしたのは本当です。しかし、起こした時、既に彼はタクシードライバーではなく、五十嵐さんのドライバーでした」
愛原「もしかして斉藤さんは、その縁で?」
斉藤「それだけではありませんが、それもまあ、1つのきっかけです」
愛原「はあ……」
斉藤「因みに私が日本アンブレラに資金提供したとか、そういう噂が立っていますが、別に私は『赤い』アンブレラに資金提供はしていませんよ?」
愛原「えっ?」
斉藤「私が資金提供したのは、『青い』アンブレラの方です。日本でも活動ができるように動いていたのですが、それを良く思わない連中が色々と工作を仕掛けて来ましてね、お陰様で今は追われる身です」
愛原「本当ですか?」
斉藤「同じくバイオテロを憎む“青いアンブレラ”が、私を追跡して来ないのが最大の証拠です。私を捕縛しようとしているのはBSAAと、日本の警察機関だけですね。そういうことです」
愛原「ふーむ……」
斉藤「BSAAは本部を中心に、瓦解して行くでしょう。表向きは国連組織とはいえ、最大の資金源は世界製薬企業連盟からの出資金です。『腐ったリンゴ』じゃありませんが、その連盟内で腐敗が起きたら、BSAAにも波及しますよね?」
愛原「どういうことですか?」
斉藤「現時における最大のバイオテロ組織『コネクション』の事は御存知でしょう?そのボスは誰なのかは分かっているものの、決まった事務所を構えず、その団体の構成員や数は今なおもって不明。しかし、最大の組織だということだけは分かっている。実に不思議な団体です。その構成員達、普段は各製薬会社において、『普通の社員』として働いているのだとしたら?」
愛原「えっ!?」
斉藤「残念ながら、私が社長をやっていた大日本製薬にも構成員はいましたよ。私が『不祥事』を起こしたことでその会社は潰れ、別の資本が入ったことで新会社ダイニチとして再生したわけですが、そのゴタゴタのおかげで、少なくともそこに居る、あるいは居た構成員の炙り出しに成功しました」
愛原「その情報、どこかに提供しましたか?」
斉藤「しましたよ。一応、それが私の日本政府に対して申し出た『司法取引』です。残念ながら、愛原さんの最も近しい人が、法の裁きを受けることになるでしょう」
愛原「高橋……!!」
リサ「お兄ちゃん!?」
斉藤「あ、もう御存知なんですね。さすがは名探偵。情報が早い」
愛原「高橋はやはり、“コネクション”のメンバーだったんですか!?」
斉藤「そうですね。幹部ではないようです」
愛原「でもあいつ、大日本製薬の社員ではないはずですよ?」
斉藤「大日本製薬には、他にもいくつか関連会社があったのは御存知ですか?それも現在のダイニチグループが引き継いだり、あるいは独立したりしたみたいですが……」
愛原「んん?」
斉藤「ダイニチロジスティックスという関連会社がありました。今も同じ名前で、今のダイニチグループの運送会社として活動しているみたいですが」
愛原「は、はい」
斉藤「業務内容は大日本製薬で製造した品物を運搬する運送会社ですね。実はあの会社、バイク便部門もありまして。高橋君は愛原さんと出会う前、あそこでバイク便のアルバイトをしていたことがあったんです」
愛原「それって恐らく、短期のバイトですよね?にも関わらず、よく炙り出しができたものです」
斉藤「だから何年も掛かったんです。その間に彼が“コネクション”と縁を切ってくれていれば良かったのですが、今も関係を継続しているというのであれば、これは告発せざるを得ません。愛原さんには申し訳ないことをしましたね」
愛原「いや、それは仕方の無いことです」
恐らく高橋の任務は、スパイ活動か。
“コネクション”と敵対する組織の情報を集めて報告すること。
うちの事務所は単なる業務委託であるが、それでも“コネクション”がスパイを送り込むほど、敵対者には徹底しているということか。
執事「次の料理でございます」
ブイヤベースのジュレを食べ終えると、執事がまた次の料理を運んで来た。
ここでようやく魚料理が出て来たので、メインディッシュの肉料理まではもうすぐか。
確かに斉藤元社長の言う通り、夕食には高級フレンチが出て来た。
ワゴンに乗せて運んで来るのは、あの老執事。
執事「こちら、『鴨肉のスモークと茄子とトマトのパテとナンテゥー添え、キャベツのクリスタルと共に』でございます」
一皿目なのだから前菜だと思われるが、いきなり高級そうなのが来た。
愛原「リサ、肉だぞ」
リサ「うん……」
愛原「ナイフとフォークは外側から使っていくんだ」
リサ「知ってる。埼玉の家で初めて教わった」
斉藤「はっはっは!あの頃は楽しかったねぇ……」
斉藤元社長は懐かしむかのように笑い、目を細めるとワインを口に運んだ。
愛原「あの楽しかった時期を捨ててまで、どうして逃亡者になったのですか?」
斉藤「それは……ああ、食べながら聞いてくれて構わない。夕食会なんだからね」
元社長は、リサの方を見て言った。
斉藤「因みに料理には何も入ってないからね?まあ、オーナーが何か企んでもいなければの話だが」
愛原「いや、そんな言い方されると怖くなります!」
斉藤「大丈夫ですよ。今のオーナーは、そんなことをするような人物ではありません。何でしたら、私が先に毒見しましょう」
元社長はワイングラスを置くと、一番外側のナイフとフォークを取り、この皿では最もメインの鴨肉を口に運んだ。
斉藤「フム。さすがは趣味が高じて作っているだけのことはある。なかなか美味ですよ」
愛原「シェフは誰なんです?」
斉藤「ここのオーナーですよ」
愛原「えっ!?」
斉藤「ここのオーナー……つまり、アンブレラコーポレーション・ジャパンの五十嵐皓貴元社長ですな。彼は若い頃は料理人を目指していたそうですよ。完全に製薬業から撤退した今、あとは趣味に生きることを選んだようです」
愛原「調理士免許は?」
斉藤「服役中に取ったそうです。ほら、刑務所では職業訓練も行われますから。受刑者達の食事を作る刑務作業もあるでしょう?そこへの配属を強く希望して、叶ったようです」
それでも包丁などの刃物を扱ったり、多くの受刑者達の口に入る物を作る作業場だから、配属される受刑者はかなり慎重に選ばれる。
無期懲役などの凶悪犯は選ばれない。
五十嵐元社長のように、自分は直接手は下していないものの、悪の製薬企業の日本法人最高責任者としての立場から逮捕され、服役することになっただけだから叶えてもらったのだろうか。
愛原「何で最初から料理人にならならかったんでしょうね?」
斉藤「服役中に調理師免許を取ったということは、若い頃にそういった専門学校に通わなかった、あるいは通えなかった事情があるのでしょう。とにかく、今はペンションを経営しながら料理人として働いているのですから、害は無いかと」
愛原「ふーむ……」
フルコースなので、最初の料理を食べ終わると、次の料理が運ばれてくる。
執事「『サフランが香る海の幸達のブイヤベースのジュレ、ヴィシワソワーズのバジル風味と共に』でございます」
愛原「執事さん、あなたも日本アンブレラの人間だったの?」
執事「いいえ、私は違います。御主人様の御屋敷に仕える身でございました」
愛原「そういうことか……」
斉藤「愛原さん、私の専属ドライバー、新庄の事は覚えておいでですか?」
愛原「あ、はい。元タクシー運転手の……」
斉藤「新庄は最初、五十嵐さんの専属ドライバーだったんですよ」
愛原「えっ!?タクシードライバーだった時に人を轢いてしまって、それで服役していたのでは!?」
斉藤「その話は半分ウソで半分本当です。後でオーナーからも話があるかもしれませんが、人身事故を起こしたのは本当です。しかし、起こした時、既に彼はタクシードライバーではなく、五十嵐さんのドライバーでした」
愛原「もしかして斉藤さんは、その縁で?」
斉藤「それだけではありませんが、それもまあ、1つのきっかけです」
愛原「はあ……」
斉藤「因みに私が日本アンブレラに資金提供したとか、そういう噂が立っていますが、別に私は『赤い』アンブレラに資金提供はしていませんよ?」
愛原「えっ?」
斉藤「私が資金提供したのは、『青い』アンブレラの方です。日本でも活動ができるように動いていたのですが、それを良く思わない連中が色々と工作を仕掛けて来ましてね、お陰様で今は追われる身です」
愛原「本当ですか?」
斉藤「同じくバイオテロを憎む“青いアンブレラ”が、私を追跡して来ないのが最大の証拠です。私を捕縛しようとしているのはBSAAと、日本の警察機関だけですね。そういうことです」
愛原「ふーむ……」
斉藤「BSAAは本部を中心に、瓦解して行くでしょう。表向きは国連組織とはいえ、最大の資金源は世界製薬企業連盟からの出資金です。『腐ったリンゴ』じゃありませんが、その連盟内で腐敗が起きたら、BSAAにも波及しますよね?」
愛原「どういうことですか?」
斉藤「現時における最大のバイオテロ組織『コネクション』の事は御存知でしょう?そのボスは誰なのかは分かっているものの、決まった事務所を構えず、その団体の構成員や数は今なおもって不明。しかし、最大の組織だということだけは分かっている。実に不思議な団体です。その構成員達、普段は各製薬会社において、『普通の社員』として働いているのだとしたら?」
愛原「えっ!?」
斉藤「残念ながら、私が社長をやっていた大日本製薬にも構成員はいましたよ。私が『不祥事』を起こしたことでその会社は潰れ、別の資本が入ったことで新会社ダイニチとして再生したわけですが、そのゴタゴタのおかげで、少なくともそこに居る、あるいは居た構成員の炙り出しに成功しました」
愛原「その情報、どこかに提供しましたか?」
斉藤「しましたよ。一応、それが私の日本政府に対して申し出た『司法取引』です。残念ながら、愛原さんの最も近しい人が、法の裁きを受けることになるでしょう」
愛原「高橋……!!」
リサ「お兄ちゃん!?」
斉藤「あ、もう御存知なんですね。さすがは名探偵。情報が早い」
愛原「高橋はやはり、“コネクション”のメンバーだったんですか!?」
斉藤「そうですね。幹部ではないようです」
愛原「でもあいつ、大日本製薬の社員ではないはずですよ?」
斉藤「大日本製薬には、他にもいくつか関連会社があったのは御存知ですか?それも現在のダイニチグループが引き継いだり、あるいは独立したりしたみたいですが……」
愛原「んん?」
斉藤「ダイニチロジスティックスという関連会社がありました。今も同じ名前で、今のダイニチグループの運送会社として活動しているみたいですが」
愛原「は、はい」
斉藤「業務内容は大日本製薬で製造した品物を運搬する運送会社ですね。実はあの会社、バイク便部門もありまして。高橋君は愛原さんと出会う前、あそこでバイク便のアルバイトをしていたことがあったんです」
愛原「それって恐らく、短期のバイトですよね?にも関わらず、よく炙り出しができたものです」
斉藤「だから何年も掛かったんです。その間に彼が“コネクション”と縁を切ってくれていれば良かったのですが、今も関係を継続しているというのであれば、これは告発せざるを得ません。愛原さんには申し訳ないことをしましたね」
愛原「いや、それは仕方の無いことです」
恐らく高橋の任務は、スパイ活動か。
“コネクション”と敵対する組織の情報を集めて報告すること。
うちの事務所は単なる業務委託であるが、それでも“コネクション”がスパイを送り込むほど、敵対者には徹底しているということか。
執事「次の料理でございます」
ブイヤベースのジュレを食べ終えると、執事がまた次の料理を運んで来た。
ここでようやく魚料理が出て来たので、メインディッシュの肉料理まではもうすぐか。
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