報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「斉藤秀樹の逃走」

2025-01-26 20:26:42 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月1日20時00分 天候:雨 群馬県吾妻郡東吾妻町某所 ペンション『いたち草』3階301号室→1階エントランス]

 斉藤元社長との話が進むうち、時間も刻々と過ぎていった。
 因みにメインディッシュの肉料理は、『厚切り牛ロース肉のフランドル風オリオンビールのソース グリオット添え』であるという。

 

 美しく飾られた料理であるが、『質より量』派のリサは……。

 リサ「少なっ!」

 と、不満そうだった。
 味は絶品だったのだが。
 そして、最後のデザートは……。

 執事「こちら、デザートの『紫芋のスイートポテト ジーマミーのメレンゲ カシスソース』でございます」

 執事がデザートを運んで来た。

 

 愛原「あのー……何だか、さっきから料理の名前が沖縄風のような名前なんですが、何か関係があるんですか?」
 斉藤「愛原さんは探偵として、何か推理することはありますか?」
 愛原「五十嵐元社長、実は沖縄料理に凝っているとか?」
 斉藤「だったら何も、フランス料理ではなく、沖縄料理を出せば良いでしょう?」
 愛原「それもそうですな」
 斉藤「沖縄風フランス料理が出て来た理由……。今は分からなくても、愛原さんなら後できっと分かります」
 愛原「むむ……」
 執事「食後のお飲み物は何になさいましょう?」
 斉藤「ああ、紅茶で頼む」
 執事「かしこまりました」
 愛原「コーヒーをお願いします」
 リサ「私も」
 執事「かしこまりました」

 執事は斉藤元社長には紅茶を、私とリサにはコーヒーを淹れてくれた。

 愛原「どうしてロシアに逃走していたんですか?」
 斉藤「BSAAの欧州本部に最も近い所にあるのがロシアだからです。私は何も、ただ単に逃走・潜伏していたわけではありません。BSAAとて信頼に足る組織ではないことを確認する為の調査をしていました」
 愛原「その結果が『瓦解する』と?」
 斉藤「BSAAは国連の公的組織となった今でも、世界製薬企業連盟から批判逃れと宣伝目的で多額の出資を受けている為、国連本部よりも、連盟の方が大きな権限を持っているのです。これは危険です。私が大日本製薬を潰す方向に持って行ったのも、それの巻き添えになることを避ける為です。連盟も、倒産した企業には見向きもしませんからね」
 リサ「エレンは?さっき、『ちゃんと話す』と言ったよね?」
 斉藤「娘は死んでいないよ。それどころか、沖縄にも行っていない」
 愛原「は?」
 リサ「はぁ!?」
 愛原「で、でも斉藤さん!現に私達は那覇市内で……」
 斉藤「あれは偽者です」
 リサ「偽者!?でも、匂いとか……」
 斉藤「うん。上級BOWを騙せたのだから、実験は成功だ」
 リサ「実験!?」
 斉藤「愛原さんは御存知ですよね?愛原公一農学博士が発明した、『枯れた苗もたちどころに生き返らせる薬』を」
 愛原「ええ。それを日本アンブレラが狙っていたんでしょう?特に、白井伝三郎が」
 斉藤「詳しい話はまだ言えませんが、特異菌とあの薬を使えば、偽者が造れることが分かりました。元々は特異菌だったので、それで那覇市内では化け物になってしまったのです。だからまあ、結果的には実験は失敗だったのでしょうが……。途中までは成功だったということで」
 愛原「斉藤さんは今、何をされておられるのですか?」
 斉藤「“青いアンブレラ”への援助ですよ。今、本当にバイオテロに立ち向かえる正義感と軍事力を持った組織は“青いアンブレラ”しかいない」
 愛原「しかし、BSAAの欧州本部が、バイオテロ鎮圧にBOWの兵士を投入していたことが批判の的になったじゃないですか。それと同じ事をするんですか?」
 斉藤「しませんよ」
 愛原「えっ?」
 斉藤「だから、あくまでも実験です。仮に成功したところで、バイオテロ鎮圧には使いませんよ?」
 愛原「じゃあ、何の為の実験で?」
 斉藤「それはまだ秘密なので話せません。が、けしてバイオテロに使うわけではないとお約束はできます」
 リサ「それで、本物のエレンはどこに?」
 斉藤「それも言えない。『証人保護プログラム』って知ってるかな?」
 リサ「ん?」
 愛原「政府の庇護下にあるということですか?」
 斉藤「私がこんなことをしているせいで、“コネクション”から狙われていましてね。“青いアンブレラ”と行動している間は安全なのですが、日本国内においては彼らも非合法組織なので、そういうわけには参りません。“コネクション”はバイオテロ組織とされていますが、内実はマフィアのようなものです。バイオテロ組織的マフィア……あるいは、マフィア的バイオテロ組織というべきか……。とにかく、敵対者にあってはその家族までも攻撃対象とするという恐ろしい組織なのです」
 愛原「今の日本政府は頼りないですからなぁ……。ん?もしかして、ロシアというのは……」

 斉藤元社長は微笑みを浮かべるだけで、特に答えるわけでもなかった。
 この分では元社長の奥さん、つまり絵恋の母親も生きているだろう。
 この母娘にいる場所はモスクワではない。
 ウクライナとの戦争で、モスクワも安全地帯とは言えなくなっているからだ。
 となると……ウラジオストクか。
 日本から最も近いヨーロッパとも言われている。
 ウラジオストクもロシアである以上、戦争の危機が無いとは言えないが、とはいえ、ウクライナとの戦争の戦闘地域になっているわけではない。
 それに、日本に最も近いのだから、いざとなったら日本に帰ればいいということだ。
 コネクションは、ロシアでは活動できない?
 そんなことがあるのか?

 斉藤「愛原さんの想像にお任せします」
 リサ「エレンはロシアにいるってこと?」
 斉藤「想像にお任せします」

 するとそこへ、執事がやってきた。

 執事「お話し中、失礼致します。斉藤様、迎えの車が到着してございますが?」
 斉藤「ああ、今行く」
 愛原「迎えの車?」
 斉藤「言ったでしょう?話が終わったら、私は消えます。ここは空き部屋になるので、良かったらここを使って頂いても構いませんよ?」
 愛原「いえ、そういうわけには……。見送らせてください」
 斉藤「しょうがないですね」

 私達は部屋から出て階段を下り、正面玄関に向かった。

 愛原「うわっ、凄い雨風!」
 斉藤「素晴らしい。この風雨なら、BSAAのヘリは飛べませんな!」

 どうやら向こうの山の上で活動していた雷雲がここまで来たらしい。
 強い風と雷を伴ったゲリラ豪雨だ。
 しかも、迎えの車というのが、あのタクシーだった。
 群馬原町駅から私とリサを、ここまで乗せてくれたタクシー。

 斉藤「それでは愛原さん、機会があればまた会いましょう。オーナーにも宜しく」

 斉藤元社長はタクシーに乗ってペンションをあとにした。
 タクシーが見えなくなるまで見送っていたが、目の前で雷光と雷鳴がして我に返った。

 リサ「先生、早く中に入ろう!」
 愛原「あ、ああ!」

 私達は建物の中に入った。

 執事「愛原様。御主人様は食事の後片付けがありますので、それが終わり次第、お会いになるとのことです。しばらくお待ち願います」
 愛原「結構ですよ。私も、その間、連絡する所があります」

 私はそう言うと、ロビーの片隅にあるアンティーク型の公衆電話に駆け寄った。

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