[1月1日15:00.天候:曇 宮城県仙台市青葉区 JR仙台駅]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
実家に帰省し、顔を出して少し話をした後、私達は公一伯父さんの所へ向かうことにした。
仙台駅から電車で向かうことにしたのだが、父親が車で実家から乗せてくれた。
そして西口の一般車乗降場に着いて車を降りようとした時、父親のケータイに母から電話があった。
父親:「へぁい、もすぃすぃ?……ンあ~、いま学達降ろすところだど?……ああ」
高橋やリサがいると、なるべく標準語で話そうとする父親だったが、母との電話の時は何の飾りっ気も無い仙台弁丸出しになる。
父親:「えぁ?帰りに生協さ寄って、玉子買ってこい?この近く、生協どこさあんの?」
父親はカーナビをテレビにしていたが、それをナビの画面にする。
愛原:「……!」
その時、私はふと気が付いて納得してしまった。
この車も日産・ノートだ。
それはいい。
しかし私達はこれと同じ車種に、少し前に乗っている。
それは栃木県日光市に行った時のこと。
旧アンブレラの地下秘密実験場の跡を調査した後、リサの学校の合宿所の管理人を名乗る者の車に乗って、日光駅まで送って行ってもらった。
名前を白井伝三郎と名乗った。
私は……やっぱり探偵の素質は無いのだろうか。
この名前でピンと来なければならなかったのに、全く思い出さなかった。
斉藤社長の指摘で、やっと思い出したくらいなのだ。
かつて斉藤社長が現役高校生だった頃、科学教師で潜入していた日本アンブレラの研究員だったことを。
あれからずっと行方不明になっていたが、いま再び東京中央学園が所有する合宿所の管理人に成り済まして潜入していたのだ。
そして、もう1つ。
あの車にもカーナビが搭載されていたが、それが本当のナビ画面になっていた。
普通、学校施設の管理人というと、校務員(用務員)のような扱いだろう。
それって基本、地元で採用された人だと思うのだ。
地元民なら、仕事の行き帰りに乗る車のカーナビ画面をナビ画面のままにするだろうか?
うちの父親みたいに、テレビ画面とかにするのではないだろうか。
そこにも気づくべきだった。
高橋:「どうしました、先生?」
愛原:「俺は……探偵の素質が無いかもしれない」
高橋:「えっ!?いや、そんな……!そんなことないっスよ!先生が名推理してくれたおかげで、俺は今ここにいるんスから!でなかったら、俺は今頃、冤罪で拘置所かムショのどっちかっスよ」
愛原:「本当の名探偵だったら、ナビの画面でパッと閃くんだろうなぁ……」
リサ:「そんなの、マンガやアニメの世界だけだよ、先生」
愛原:「リサ?」
リサ:「逆に言えば、先生が迷探偵だと誤断して、アンブレラが油断して、更に尻尾を出してくれるかもしれないよ?」
愛原:「リサ……!そう言ってくれるのか?」
リサ:「先生は名探偵だよ。アンブレラのヤツに自分の名前を言わせるほどにね」
高橋:「そういうリサも、あの時、アンブレラの研究員だって気づかなかったのか?」
リサ:「研究員の顔と名前なんて、いちいち覚えてないよ。全員がリサ・トレヴァーの研究に関わってたわけじゃないんだから」
愛原:「それもそうだな」
私達は父親と別れると、駅構内に入った。
高橋:「前に乗った普通電車ですね?」
愛原:「そうだ。まあ、45分くらいで着くから」
SuicaやPasmoが使えるので、それで改札口を通る。
愛原:「15時25分発、小牛田行きは1番線か」
改札口から1番近いホームである。
階段を下りてホームに向かうと、まだ電車はいなかった。
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の1番線の列車は、15時25分発、普通、小牛田行きです。この列車は、4両です。……〕
愛原:「伯父さんにメールしておこう。15時25分発の電車に乗るから、小牛田に着くのは16時10分になるって」
高橋:「なるほど。しかし先生、泊まりはどうするんですか?」
愛原:「もう返信来た。『迎えに行く。今夜はうちに泊まってけ』だってさ。想定内だよ」
高橋:「ガチの『田舎に泊まろう』ですね」
愛原:「まあな」
高橋:「いい経験ですよ。『田舎の祖父ちゃんち』に泊まる機会なんて、俺には無かったっスからねぇ……」
リサ:「私も」
愛原:「伯父さんに会ったら、そう言ってやれ。しかし、迎えに来てくれるのかぁ……。どうするんだろ?プリウスはあの時のアタックで全損したわけだし、まさか本当に軽トラで来るつもりじゃないだろうなぁ……?」
高橋:「その時は俺とリサでタクシーで追い掛けますんで、先生は軽トラに乗ってください」
愛原:「その方がいいか」
〔まもなく1番線に、当駅止まりの列車が参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックの内側まで、お下がりください。この列車は、4両です。折り返し、15時25分発、普通、小牛田行きとなります。……〕
JR西日本の山陽エリア辺りだと、賑やかな接近メロディと共に明るい声で接近放送が流れると聞いたが(岡山駅だと“桃太郎”とか“瀬戸の花嫁”とか。ところで、“がんばれカブトガニ”って何?)、JR東日本ではどこも淡々とした接近放送である。
高橋:「ここから北の方から来る電車ですよね?」
愛原:「そうだよ」
高橋:「随分雪とか乗ってそうですね?」
愛原:「小牛田辺りだとどうかな……。仙山線の山形とかから来る電車なら有り得るけどな」
リサ:「雪が乗ってるの?」
愛原:「そう」
この時、私と高橋は屋根に雪を乗せて走って来る電車をイメージしていたのだが、リサは違うイメージをしていたようだ。
〔せんだい~、仙台~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
〔「秋田新幹線、仙山線ご利用のお客様、雪の影響が出ております。駅の案内にご注意ください」〕
上り電車がやってきてドアが開くと、ここまでの乗客がぞろぞろと降りて来た。
愛原:「ちょっとだけ乗ってるか?」
高橋:「あー、そうっスね。ちょっとだけっスね」
屋根の上にはうっすらと雪が積もっていた。
しかし、リサは車内を見ていた。
リサ:「先生、雪(ダルマ)なんて乗ってないよ?」
愛原:「え?」
高橋:「あ?」
リサ:「んん?」
認識の違いに気づいたのは、車内に入ってから。
先頭車のボックスシートに座った私達は、それでしばらく間、大笑いした。
新型コロナウィルス対策として、公共の場での大きな声での笑いは不謹慎なことこの上無いのは分かっているが、さすがにこれは笑いを堪えきれなかった。
一応、マスクは全員しているので念の為。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
実家に帰省し、顔を出して少し話をした後、私達は公一伯父さんの所へ向かうことにした。
仙台駅から電車で向かうことにしたのだが、父親が車で実家から乗せてくれた。
そして西口の一般車乗降場に着いて車を降りようとした時、父親のケータイに母から電話があった。
父親:「へぁい、もすぃすぃ?……ンあ~、いま学達降ろすところだど?……ああ」
高橋やリサがいると、なるべく標準語で話そうとする父親だったが、母との電話の時は何の飾りっ気も無い仙台弁丸出しになる。
父親:「えぁ?帰りに生協さ寄って、玉子買ってこい?この近く、生協どこさあんの?」
父親はカーナビをテレビにしていたが、それをナビの画面にする。
愛原:「……!」
その時、私はふと気が付いて納得してしまった。
この車も日産・ノートだ。
それはいい。
しかし私達はこれと同じ車種に、少し前に乗っている。
それは栃木県日光市に行った時のこと。
旧アンブレラの地下秘密実験場の跡を調査した後、リサの学校の合宿所の管理人を名乗る者の車に乗って、日光駅まで送って行ってもらった。
名前を白井伝三郎と名乗った。
私は……やっぱり探偵の素質は無いのだろうか。
この名前でピンと来なければならなかったのに、全く思い出さなかった。
斉藤社長の指摘で、やっと思い出したくらいなのだ。
かつて斉藤社長が現役高校生だった頃、科学教師で潜入していた日本アンブレラの研究員だったことを。
あれからずっと行方不明になっていたが、いま再び東京中央学園が所有する合宿所の管理人に成り済まして潜入していたのだ。
そして、もう1つ。
あの車にもカーナビが搭載されていたが、それが本当のナビ画面になっていた。
普通、学校施設の管理人というと、校務員(用務員)のような扱いだろう。
それって基本、地元で採用された人だと思うのだ。
地元民なら、仕事の行き帰りに乗る車のカーナビ画面をナビ画面のままにするだろうか?
うちの父親みたいに、テレビ画面とかにするのではないだろうか。
そこにも気づくべきだった。
高橋:「どうしました、先生?」
愛原:「俺は……探偵の素質が無いかもしれない」
高橋:「えっ!?いや、そんな……!そんなことないっスよ!先生が名推理してくれたおかげで、俺は今ここにいるんスから!でなかったら、俺は今頃、冤罪で拘置所かムショのどっちかっスよ」
愛原:「本当の名探偵だったら、ナビの画面でパッと閃くんだろうなぁ……」
リサ:「そんなの、マンガやアニメの世界だけだよ、先生」
愛原:「リサ?」
リサ:「逆に言えば、先生が迷探偵だと誤断して、アンブレラが油断して、更に尻尾を出してくれるかもしれないよ?」
愛原:「リサ……!そう言ってくれるのか?」
リサ:「先生は名探偵だよ。アンブレラのヤツに自分の名前を言わせるほどにね」
高橋:「そういうリサも、あの時、アンブレラの研究員だって気づかなかったのか?」
リサ:「研究員の顔と名前なんて、いちいち覚えてないよ。全員がリサ・トレヴァーの研究に関わってたわけじゃないんだから」
愛原:「それもそうだな」
私達は父親と別れると、駅構内に入った。
高橋:「前に乗った普通電車ですね?」
愛原:「そうだ。まあ、45分くらいで着くから」
SuicaやPasmoが使えるので、それで改札口を通る。
愛原:「15時25分発、小牛田行きは1番線か」
改札口から1番近いホームである。
階段を下りてホームに向かうと、まだ電車はいなかった。
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の1番線の列車は、15時25分発、普通、小牛田行きです。この列車は、4両です。……〕
愛原:「伯父さんにメールしておこう。15時25分発の電車に乗るから、小牛田に着くのは16時10分になるって」
高橋:「なるほど。しかし先生、泊まりはどうするんですか?」
愛原:「もう返信来た。『迎えに行く。今夜はうちに泊まってけ』だってさ。想定内だよ」
高橋:「ガチの『田舎に泊まろう』ですね」
愛原:「まあな」
高橋:「いい経験ですよ。『田舎の祖父ちゃんち』に泊まる機会なんて、俺には無かったっスからねぇ……」
リサ:「私も」
愛原:「伯父さんに会ったら、そう言ってやれ。しかし、迎えに来てくれるのかぁ……。どうするんだろ?プリウスはあの時のアタックで全損したわけだし、まさか本当に軽トラで来るつもりじゃないだろうなぁ……?」
高橋:「その時は俺とリサでタクシーで追い掛けますんで、先生は軽トラに乗ってください」
愛原:「その方がいいか」
〔まもなく1番線に、当駅止まりの列車が参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックの内側まで、お下がりください。この列車は、4両です。折り返し、15時25分発、普通、小牛田行きとなります。……〕
JR西日本の山陽エリア辺りだと、賑やかな接近メロディと共に明るい声で接近放送が流れると聞いたが(岡山駅だと“桃太郎”とか“瀬戸の花嫁”とか。ところで、“がんばれカブトガニ”って何?)、JR東日本ではどこも淡々とした接近放送である。
高橋:「ここから北の方から来る電車ですよね?」
愛原:「そうだよ」
高橋:「随分雪とか乗ってそうですね?」
愛原:「小牛田辺りだとどうかな……。仙山線の山形とかから来る電車なら有り得るけどな」
リサ:「雪が乗ってるの?」
愛原:「そう」
この時、私と高橋は屋根に雪を乗せて走って来る電車をイメージしていたのだが、リサは違うイメージをしていたようだ。
〔せんだい~、仙台~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
〔「秋田新幹線、仙山線ご利用のお客様、雪の影響が出ております。駅の案内にご注意ください」〕
上り電車がやってきてドアが開くと、ここまでの乗客がぞろぞろと降りて来た。
愛原:「ちょっとだけ乗ってるか?」
高橋:「あー、そうっスね。ちょっとだけっスね」
屋根の上にはうっすらと雪が積もっていた。
しかし、リサは車内を見ていた。
リサ:「先生、雪(ダルマ)なんて乗ってないよ?」
愛原:「え?」
高橋:「あ?」
リサ:「んん?」
認識の違いに気づいたのは、車内に入ってから。
先頭車のボックスシートに座った私達は、それでしばらく間、大笑いした。
新型コロナウィルス対策として、公共の場での大きな声での笑いは不謹慎なことこの上無いのは分かっているが、さすがにこれは笑いを堪えきれなかった。
一応、マスクは全員しているので念の為。
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