[5月27日10:00.埼玉県さいたま市西区 デイライト・コーポレーション埼玉研究所 井辺翔太&シンディ]
どことなく牧歌的な風景が広がる中を走る1台の路線バス。
〔「デイライト・コーポレーション前〜……」〕
ノンステップバスの前扉(両側に開くタイプはグライド・スライドドアという)が開いて、降りた乗客は2人だけ。
即ち、井辺とシンディである。
「ここに来るのも久しぶりです」
「アタシも2回目だね。ってか、どうしてプロデューサーがここにいるの?」
「社長が『アンドロイドがどういう整備をしているか知るのも研修だ』と……」
「とても芸能プロダクションの仕事とは違うよね」
「そうですね」
正門から中に入ると守衛所があり、そこで来訪者受付を行う。
そこにいた警備員は警備服を着た人間の警備員だったが、
「入館人員に『人間◯名、ロボット◯機』というのはここだけでは?」
「アタシの知ってるロシアの研究所も似たようなものだよ」
「そうですか……」
受付簿に記入する井辺。
人間用のビジターカードは普通の首からぶら下げるタイプだったが、シンディの場合は、
「じゃ、左手出して」
「はい」
左手の掌のど真ん中を開けると、見た目はクリアレンズみたいなものがある。
それで警備員の横にある読取機に翳すと、シンディの情報が照合されるというもの。
人間なら出向元の社員証や名刺などで身元確認するが、ロボットだとそうなる。
「西館3階の『アンドロイド技術開発センター』へどうぞ」
「お邪魔します」
研究所の佇まいは、例えば製薬会社のそれと外観はそんなに変わらない。
実際に中に入ってみても、どこかの企業のオフィスのような感じなのだが、総合受付があって受付嬢がいて、ロビーがあって……という感じではない所が事務所ではなく研究所という感じだった。
「いずれはメイドロボットに受付係をさせるという話らしいですね」
井辺が言った。
「挨拶で『お帰りなさいませ』って言われたところで、ビックリするだけじゃない?」
と、シンディ。
「一海さんみたいなタイプが受付係をする分には問題無いと思いますが……。!」
すると廊下の向こうから、バージョン5.0などの警備ロボットがドカドカやってきた。
4.0まではドクター・ウィリーの開発したテロリズム用途で、今でもどこかしらのテロ組織が使用しているが、5.0以降のシリーズはアリスが実際に製造に関わっている為、本来の警備用途に使用されている。
4.0まではずんぐりむっくりした体型だが、5.0になってからはスリムになり、より人間に近い感じになっている。
「来たよ……」
「な、何ですか!?」
さすがの井辺も一瞬怯む。
ざっと数えて10機。
ズラッと5機ずつ廊下の両脇に立って、
「シンディ閣下ニ対シ、敬礼!!」
ビッと一斉に敬礼を行う警備ロボット達。
「大げさだからやめろって前に言っただろ!」
シンディは5.0達を窘めた。
財団在りし頃、エミリーとシンディは特権階級として、メイドロボット達からはもちろん、こういったいかつい警備ロボット達からも畏怖の対象だったという。
エレベーターで3階に上がる。
これもまた面倒なもので、まずエレベーターに乗る時に読取機にカードを当てなくてはならない。
そして乗り込んで動かし、3階に到着してもドアはすぐに開かない。
エレベーターのボタンが並んでいる所にモニターがあり、ドアを開ける条件が提示される。
3分以内にそれができないと、再び1階に戻されるという仕組みだ。
例えば、『ビジターカードに記載されている番号に2を掛けた後、3で割った数字を入力してください』と、階数ボタンとは別のテンキーで入力したり。
今回は比較的簡単で、『同行のアンドロイドのシリアルナンバーを入力してください』とのことだった。
「シンディさん?」
「2424188。『ニシニヨイパパ』って覚えて」
「はい、ありがとうございます」
因みにシンディがマルチタイプ3号機だから、3と入力すると間違い。
ポーン♪というチャイムが1打鳴り、ドアが開いた。
「どこかの電話番号みたいですね」
「頭に仙台市の局番付けて掛けてみたら?どこかに繋がるかもよ?」
「いえ、結構です」
エレベーターを降りると、シンディが先行する。
目的地からシンディを呼ぶ信号が発信されているのだそうだ。
[同日10:15.DC西館3階・アンドロイド技術開発センター 井辺翔太、シンディ、アリス・シキシマ]
「Hi.よく来たわね」
「おはようございます、奥様」
産休を取っていたアリス、無事に職場復帰が叶ったようだ。
これというのも、平賀から送られたメイドロボット二海の稼働による。
七海の成功例もあり、子守りが可能となった。
『メイドロボットの普及が超少子高齢化社会を救う』が、平賀の提唱だ。
「早速下で、5.0達の熱烈歓迎を受けたみたいね?」
「ここに来る度に毎回あんなのされてたんじゃたまりませんわ」
どうやらアリスの仕込みだったらしく、シンディは肩を竦めた。
「じゃ、早速整備と実験を始めるから」
「はい」
「実験?何の実験ですか?」
井辺は首を傾げた。
「何だと思う?」
「100メートル先を飛ぶゴルフボールを撃ち落とす実験ですか?」
「それはもうとっくの昔にやってるわ。まあ、ゴルフボールじゃなくて、ベースボールだけど」
「そ、そうですか」
「もっと細かい作業をこなす実験よ。そうだ。ミスター井辺、あなた実験台にならない?」
「ええっ?」
「もちろん実験台といっても、サーカスみたいなことをする実験じゃないから。まあ、少しスリルあるかもだけど」
「な、何でしょう?」
「まあ、その前に整備してからだね。そして、実験用のソフトをインストールするから」
シンディの前頭部を開けて作業をするアリスと研究員達。
まるで人間と見紛うシンディだが、さすがこれはロボットなんだと改めて認識させられる姿だ。
人間の脳に値する部分だが、見た目は意外とシンプル。
それでもよほど珍しいのか、世界中に研究所から研究員達が見学に訪れるそうである。
それは偏にこの会社が世界企業で、世界各国に現地法人を置き、研究所を置いているからに他ならないのだが。
ネットや何かでは、『ロボット開発のアンブレラ』なんて呼ばれているらしい。
“バイオハザード”シリーズで、悪の製薬企業として名高いアンブレラ・コーポレーションが登場するが、それのロボット開発製造会社版とのこと。
それでも社内には、ロボット・テロ対策本部なる部署がある辺り、少なくともアンブレラ社とは違う気はするのだが……。
井辺はそんなことを考えながら、他の見学者に交じって、シンディの整備風景を眺めていた。
どことなく牧歌的な風景が広がる中を走る1台の路線バス。
〔「デイライト・コーポレーション前〜……」〕
ノンステップバスの前扉(両側に開くタイプはグライド・スライドドアという)が開いて、降りた乗客は2人だけ。
即ち、井辺とシンディである。
「ここに来るのも久しぶりです」
「アタシも2回目だね。ってか、どうしてプロデューサーがここにいるの?」
「社長が『アンドロイドがどういう整備をしているか知るのも研修だ』と……」
「とても芸能プロダクションの仕事とは違うよね」
「そうですね」
正門から中に入ると守衛所があり、そこで来訪者受付を行う。
そこにいた警備員は警備服を着た人間の警備員だったが、
「入館人員に『人間◯名、ロボット◯機』というのはここだけでは?」
「アタシの知ってるロシアの研究所も似たようなものだよ」
「そうですか……」
受付簿に記入する井辺。
人間用のビジターカードは普通の首からぶら下げるタイプだったが、シンディの場合は、
「じゃ、左手出して」
「はい」
左手の掌のど真ん中を開けると、見た目はクリアレンズみたいなものがある。
それで警備員の横にある読取機に翳すと、シンディの情報が照合されるというもの。
人間なら出向元の社員証や名刺などで身元確認するが、ロボットだとそうなる。
「西館3階の『アンドロイド技術開発センター』へどうぞ」
「お邪魔します」
研究所の佇まいは、例えば製薬会社のそれと外観はそんなに変わらない。
実際に中に入ってみても、どこかの企業のオフィスのような感じなのだが、総合受付があって受付嬢がいて、ロビーがあって……という感じではない所が事務所ではなく研究所という感じだった。
「いずれはメイドロボットに受付係をさせるという話らしいですね」
井辺が言った。
「挨拶で『お帰りなさいませ』って言われたところで、ビックリするだけじゃない?」
と、シンディ。
「一海さんみたいなタイプが受付係をする分には問題無いと思いますが……。!」
すると廊下の向こうから、バージョン5.0などの警備ロボットがドカドカやってきた。
4.0まではドクター・ウィリーの開発したテロリズム用途で、今でもどこかしらのテロ組織が使用しているが、5.0以降のシリーズはアリスが実際に製造に関わっている為、本来の警備用途に使用されている。
4.0まではずんぐりむっくりした体型だが、5.0になってからはスリムになり、より人間に近い感じになっている。
「来たよ……」
「な、何ですか!?」
さすがの井辺も一瞬怯む。
ざっと数えて10機。
ズラッと5機ずつ廊下の両脇に立って、
「シンディ閣下ニ対シ、敬礼!!」
ビッと一斉に敬礼を行う警備ロボット達。
「大げさだからやめろって前に言っただろ!」
シンディは5.0達を窘めた。
財団在りし頃、エミリーとシンディは特権階級として、メイドロボット達からはもちろん、こういったいかつい警備ロボット達からも畏怖の対象だったという。
エレベーターで3階に上がる。
これもまた面倒なもので、まずエレベーターに乗る時に読取機にカードを当てなくてはならない。
そして乗り込んで動かし、3階に到着してもドアはすぐに開かない。
エレベーターのボタンが並んでいる所にモニターがあり、ドアを開ける条件が提示される。
3分以内にそれができないと、再び1階に戻されるという仕組みだ。
例えば、『ビジターカードに記載されている番号に2を掛けた後、3で割った数字を入力してください』と、階数ボタンとは別のテンキーで入力したり。
今回は比較的簡単で、『同行のアンドロイドのシリアルナンバーを入力してください』とのことだった。
「シンディさん?」
「2424188。『ニシニヨイパパ』って覚えて」
「はい、ありがとうございます」
因みにシンディがマルチタイプ3号機だから、3と入力すると間違い。
ポーン♪というチャイムが1打鳴り、ドアが開いた。
「どこかの電話番号みたいですね」
「頭に仙台市の局番付けて掛けてみたら?どこかに繋がるかもよ?」
「いえ、結構です」
エレベーターを降りると、シンディが先行する。
目的地からシンディを呼ぶ信号が発信されているのだそうだ。
[同日10:15.DC西館3階・アンドロイド技術開発センター 井辺翔太、シンディ、アリス・シキシマ]
「Hi.よく来たわね」
「おはようございます、奥様」
産休を取っていたアリス、無事に職場復帰が叶ったようだ。
これというのも、平賀から送られたメイドロボット二海の稼働による。
七海の成功例もあり、子守りが可能となった。
『メイドロボットの普及が超少子高齢化社会を救う』が、平賀の提唱だ。
「早速下で、5.0達の熱烈歓迎を受けたみたいね?」
「ここに来る度に毎回あんなのされてたんじゃたまりませんわ」
どうやらアリスの仕込みだったらしく、シンディは肩を竦めた。
「じゃ、早速整備と実験を始めるから」
「はい」
「実験?何の実験ですか?」
井辺は首を傾げた。
「何だと思う?」
「100メートル先を飛ぶゴルフボールを撃ち落とす実験ですか?」
「それはもうとっくの昔にやってるわ。まあ、ゴルフボールじゃなくて、ベースボールだけど」
「そ、そうですか」
「もっと細かい作業をこなす実験よ。そうだ。ミスター井辺、あなた実験台にならない?」
「ええっ?」
「もちろん実験台といっても、サーカスみたいなことをする実験じゃないから。まあ、少しスリルあるかもだけど」
「な、何でしょう?」
「まあ、その前に整備してからだね。そして、実験用のソフトをインストールするから」
シンディの前頭部を開けて作業をするアリスと研究員達。
まるで人間と見紛うシンディだが、さすがこれはロボットなんだと改めて認識させられる姿だ。
人間の脳に値する部分だが、見た目は意外とシンプル。
それでもよほど珍しいのか、世界中に研究所から研究員達が見学に訪れるそうである。
それは偏にこの会社が世界企業で、世界各国に現地法人を置き、研究所を置いているからに他ならないのだが。
ネットや何かでは、『ロボット開発のアンブレラ』なんて呼ばれているらしい。
“バイオハザード”シリーズで、悪の製薬企業として名高いアンブレラ・コーポレーションが登場するが、それのロボット開発製造会社版とのこと。
それでも社内には、ロボット・テロ対策本部なる部署がある辺り、少なくともアンブレラ社とは違う気はするのだが……。
井辺はそんなことを考えながら、他の見学者に交じって、シンディの整備風景を眺めていた。