報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「地下室の奥」

2022-10-24 15:40:35 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月12日14:00.天候:不明 宮城県仙台市青葉区新川某所 愛原公一邸(旧宅)地下]

 退路を断たれた私達は、地下室の奥に進むことにした。

 愛原:「これは……」

 通路の奥にはエレベーターがあった。
 それも、普通のエレベーターではない。

 高橋:「高島屋のエレベーターみたいっスね」
 愛原:「そうだな」

 日本橋高島屋のエレベーター。
 扉が鉄格子の引き戸になっており、エレベーターガールによる半自動運転が行われている。
 半自動というのは、扉に関しては自動開閉式になっているのと、行き先階の設定が自動になっている所は、本当の意味で手動式ではないという意味だ。
 本当の手動式は扉の開閉も手動、行き先階もボタンではなく、運転手のレバーで操作するのである(レバー操作に関しては、日本橋高島屋もそう)。

 愛原:「でも、エレベーターガールは乗ってないぞ?」
 高橋:「自分達で操作するしか無いっスね」

 ボタンを押すが、そもそも通電していない。
 このエレベーターに関しても電源ボックスがあって、それを開けるとヒューズが無くなっていた。
 これに関しては、特に心配は無い。
 何故なら、先ほどの部屋で汎用ヒューズを入手したからである。
 これをはめ込むと、通電してエレベーターが動いた。
 手動式の鉄格子の引き戸を開けると、案の定、レバーで操作するタイプのエレベーターだと分かる。
 日本アンブレラがここを使っていた頃は、エレベーターガールでも乗っていたのだろうか?

 高橋:「先生、レバーが無いです」
 愛原:「これ、ここで使うのか?もしかして」

 同じ室内でクランクを拾っていた。
 クランクだと思ったのだが、どうも見た目は昔の電車のマスコンハンドルに見えてしょうがなかった。
 103系とかにあった、回転式のマスコンレバーね。
 確かに日本橋高島屋のエレベーターも、操作レバーは電車のマスコンハンドルに似てなくもない。

 愛原:「あ、ここで使うの、これ!」

 クランクみたいな重要なキーアイテムは、中ボス辺りが持っているイメージだが、ここではすんなり手に入ったので意外だった。
 尚、アメリカのオリジナル版リサ・トレヴァーが、隠れ家のインテリアに置いていたという……。

 リサ:「上に参りまーす!」
 愛原:「え、上行けんの?」
 リサ:「だって1階のランプが点いてるよ?」
 愛原:「おお!それじゃ、これで地上に脱出できるってことじゃないか!」

 そして同時に、B2Fのランプが点灯しているのも気になった。

 愛原:「ちょっと先にB2Fを見てから上に上がろうか」
 高橋:「そうですね。一応、見てから姉ちゃんに報告しても……」
 愛原:「よし」

 私はドアを閉めた。
 ちゃんと閉めないと安全装置が働いて、エレベーターが動かない。
 と、同時に通路の向こうから大きな金属音がして、更に化け物達の雄叫びが聞こえて来た。
 どうやら連中、あの鉄格子の扉をブチ破ったらしい。

 愛原:「行くぞ!」

 通路の向こうにハンターαの姿が見えたと同時に、私はレバーを操作した。
 ガクンと案外速いスピードで降下するエレベーター。
 で、確かこれ……。

 リサ:「地下2階でございまーす」
 高橋:「先生、ドア開かないっスよ?」
 愛原:「ちょっと待って。微調整する!」

 そうなのだ。
 カゴと乗り場の位置を合わせないと、安全装置のロックが掛かったままとなり、ドアが開けられないのだ。

 愛原:「これでどうだ?」
 高橋:「開きました!」

 通路は奥に続いており、こちらは停電しているのか、照明が点かなかった。
 手持ちのライトを点灯させて進む。
 この通路も一本道となっており、突き当りに重厚な鉄扉があった。
 そして、こちらもカードキー式になっているが、通電ランプが点いていた。
 廊下の照明に関しては、その部分のヒューズが飛んでいるか、断線しているかしているのだろう。
 リサのカードキーで、それは解錠できた。

 愛原:「何があるかな……」

 入ると思った通り、研究室があった……って!

 愛原:「こ、これは……!」

 大きなカプセルと培養液に入った、全裸の少女達がいた。
 1人1つのカプセルに入っている。
 少女達は小学生~中学生くらいに見えた。

 リサ:「あ……ああ……!」

 その時、リサが頭を抱えてフラついた。

 愛原:「おい、リサ!大丈夫か!?」

 この時、リサの脳裏にフラッシュバックが起きたという。
 人間だった頃の記憶は殆ど無いが、それが急に断片的に蘇った感じ。

 リサ:「わ、わたしも……この中に……いた……」

 日本版リサ・トレヴァーとして生まれ変わり、研究所内で数々の実験を受けさせられた記憶はあるものの、それ以前の記憶に関しては殆ど無いリサ。
 カプセルの中に入れられ、他にも浚われた少女達と共に人体改造を……。

 リサ:「げぇェッ……!!」

 そして、その場に嘔吐した。
 ビチャビチャと吐き出された胃液の中に混じって、リサの体内に生息している寄生虫がのたうち回っている。

 高橋:「ど、どうします、先生!?」
 愛原:「俺達にはどうすることもできんよ。とにかく、ここの写真を撮って、地上に脱出だ。あとはもう、デイライトやBSAAの出番だ」

 座り込んだリサが立ち上がろうと、近くの机の縁を掴む。
 だが、バランスを崩し、机の上の雑多な書類と共にまた倒れた。

 愛原:「リサ、無理するな!」

 リサに手を貸そうとした私の目に、とある書類が目に飛び込んで来た。

 愛原:「これは……!」

 『日本版リサ・トレヴァー②について。……本日、転生の儀に成功した②にあっては、○×県霧生市の開発センターにて観察を行うものとする。②番は東京都○○市において、裏切り者の上野達夫家の長女として誕生したが、今回報復措置として粛清並びに娘達を実験材料に使うものと決定(尚、長男・次男にあっては、男児は実験材料に向かない為、粛清対象とする)。当然この事は一家殺人事件となり、警察の捜査対象となるが……』

 愛原:「リサのことだ!」

 リサの出自が書かれている!

 高橋:「先生、これを!」

 高橋が別の書類を見つけた。
 それは、日本アンブレラがリサの家族を虐殺したことで、警視庁で捜査本部が立ち上げられたわけだが、その捜査本部に所属している刑事達のリストだった。
 その中に、あの高木巡査部長がいた。
 そう。
 バイオハザードの最中、霧生市で会った警視庁の刑事である。
 確か彼は、都内で起きた一家殺人事件の捜査の一環として、霧生市に来たと言っていた。

 愛原:「ここで繋がってたのかよ……」

 リサの出自が栃木にあると思っていた私は、この事件は全く無関係だと思っていたのだが……。

 高橋:「あと、これもです」

 それは上野家の家系図だった。
 この中に、『暢子』とあるのが、人間だった頃のリサの本名である。
 そして、家系図の中には利恵の名前もあった。
 だが、この家系図が正しいとすると、この2人の関係は姉妹ではなく、従姉妹ということになる。
 どうも違和感があったのだが、やはりリサと利恵は本当の姉妹ではなかった。
 しかし、親戚関係だったということもあり、本当の無関係というわけでもない。

 愛原:「リサの実年齢は確かに俺より年上なんだろうが……それにしては、時系列がおかしくないか?」
 高橋:「そうですね……」

 リサが人間のまま歳を取っていたら、私より10歳くらい年上なのだ。
 しかし、人間だった頃のリサが事件に巻き込まれたのは、10歳くらいということになり、今から40年くらい前ということになる。
 そんな事件を、あの高木刑事が今更追って来るのもおかしい。
 だが、ここではそれ以上のことは分からなかった。

 愛原:「取りあえず、リサに関する資料だけ持ってここを出よう。あとはデイライトやBSAAに任す!」
 高橋:「そうしましょう!……リサ、早く来い!」
 リサ:「うぅう……ひっく……!」

 リサは泣いていたが、今は脱出に専念しないといけない。
 地下1階まで下りて来た化け物達が、ここに来ないとも限らないのだ。

 愛原:「リサ、悪いが、早く!」
 高橋:「泣くのは脱出してからだ!」

 私と高橋でリサを立たせ、研究室を出る。

 愛原:「あのエレベーター、確かに地上に出られるんだな?」
 高橋:「『1F』と書かれたランプが点いてましたから、多分……」

 エレベーターに乗り、扉を閉めると、私はレバーを操作して、エレベーターを上昇させた。
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“私立探偵 愛原学” 「地下室」

2022-10-24 11:46:30 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月12日13:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区新川某所 旧・愛原公一邸]

 地下に下りると、空気はヒンヤリしていた。
 天然の冷房と思うが、地上での戦いがあった後ということもあり、あまり気持ちの良いものではない。
 階段の先にも、コンクリート製の無機質の壁や床、天井の通路が続いていた。
 照明もまた点いている。
 今のところ、化け物の気配は無い。

 愛原:「ん?これは……」

 通路の途中に鉄扉があった。
 古い団地の部屋の玄関のドアのような感じだ。
 私が金庫で手に入れた鍵を使うと、何と開いた!

 愛原:「ここなのか?」

 私が中に入ると、そこは小部屋になっていた。
 単なる倉庫のようにしか見えないが、事務机と椅子がある。
 その机の上にも、金庫があった。
 据置型ではあるだろうが、ホテルや旅館の客室にあるようなタイプの金庫である。
 鍵式の金庫であったが、鍵は掛かっていなかった。
 中を開けると、SDメモリーカードがあった。

 愛原:「これが伯父さんが渡したかったもの?」
 高橋:「何だか、随分回りくどいっスね。もしかしたら、とんでもない物が入っているのかも……」
 愛原:「そうだな。ちょっと見てみよう」

 私は手持ちのノートPCを立ち上げると、それでSDカードの中身を確認した。
 どうやら、それは動画であるらしい。
 公一伯父さんと、白井伝三郎の対談を隠しカメラで撮っていたようだ。

[日付不明 天候:不明 場所:不明]

 白井:「……あなたの甥っ子、とても元気そうで良かった」
 公一:「おかげさまで」
 白井:「あの新薬を『脳の特効薬』として売り出せば、アンブレラも正義の製薬会社となれただろうに、残念だよ」
 公一:「そもそもが、アンブレラの成り立ちからして、新薬の開発など、単なる隠れ蓑に過ぎんじゃろう」

 愛原公一、自分の発明品である化学肥料の入ったアンプルをジュラルミンケースに詰める。

 公一:「本当にこんなので、『転生の儀』ができるのかね?」
 白井:「こっちのリサ・トレヴァーから抽出した変異Gウィルス、そして変異Tウィルスとの融合、私の新薬……そして、あなたの発明品があれば100%成功する」
 公一:「ワシはしばらく間、警察の御厄介になるじゃろうな」
 白井:「悪いが、その方がいい。あなたもまた、これで狙われる立場となってしまった。さすがの殺し屋も、刑務所の中までは入って来れまい」
 公一:「デューク東郷は、刑務所の中にまで入って来たがな」
 白井:「アンブレラの残党や、その意思を継いだだけの連中に、そんな超一流のスナイパーを雇える人脈など無いよ」
 公一:「かのアレクシア・ウェスカーも失敗した『転生の儀』、オマエさんは成功か……」
 白井:「彼女と違って、私のプランは半年もコールドスリープすることなく、転生する。可愛い女の子にでもなって、再会しよう」
 公一:「ワシはそんな自然の摂理に反するようなことには、興味は無いがね。それにしても、誰の肉体を使うつもりかね?まさか、またどこかから浚ってきた少女を殺して乗っ取るとかいうのではあるまいな?」
 白井:「自然の摂理で枯れた作物を蘇らせるという妙薬を開発した本人のセリフとは思えんが?それに、安心したまえ。既に死んでいる少女の遺骨を使う」
 公一:「いくらワシの発明でも、骨となった生き物を蘇らせることは不可能だぞ?」
 白井:「だから、私の発明と融合させる必要があるのだよ」
 公一:「気に入らぬ。一目惚れした同級生の遺骨を奪って蘇らせるだけでなく、その体を乗っ取って転生しようなどと……」
 白井:「東京中央学園上野高校。あそこから既に物語は始まっていたのだよ。デイライトの連中は、そこを怪しんで、リサ・トレヴァーを入学させたようだがね」

 白井はそう言うと、席を立った。

 白井:「話は終わった。失礼するよ。報酬は、キミのJAバンクに振り込んでおく。これで、老後の心配も無いな」
 公一:「『転生の儀』の場所、教えてくれんのか?」
 白井:「何故、私が『転生の儀』という宗教染みた言葉を使ったと思う?……それでは」

 白井は本当に退出した。

 公一:「クソッ……!」

 そして公一が、カメラに近づく。

 公一:「学よ。この映像をオマエに託す。見つける頃にはもう手遅れかもしれんが、ワシは真実を守り通そう。何年でも、何十年でも!……それと、このメモリーカードを保管してある部屋をよく調べてみるのじゃ」

[同日13:30.天候:晴 愛原公一邸(旧宅)地下室倉庫]

 ……ここで映像は終わっていた。

 愛原:「今の映像の内容を纏めると、俺は子供の頃、脳の病気に罹ったらしい。その特効薬をくれたのは、どうやら白井伝三郎のようだ」
 高橋:「それじゃ、先生?!」
 愛原:「俺がどうしてTウィルスに対する抗体を最初から持っていたのかが分かったよ。あの特効薬を飲んだからだ。俺の病気は脳細胞が壊死していくもの。しかし、Tウィルスはそんな細胞を蘇らせる効果がある」

 アメリカのアンブレラ本社では、筋ジストロフィーの治療薬としても開発されていたらしい。

 愛原:「結果的に、俺の脳の病気はその薬のおかげで完治した」
 高橋:「し、白井が命の恩人ですか?」
 愛原:「う、うむ……。そういうことになるなぁ……」
 リサ:「そんなのヤダよ!」
 愛原:「嫌だと言われても、事実のようだしなぁ……」

 もっとも、白井がどういう気持ちで私を助けたのかは不明だ。
 あの頃はまだ正義感があったのかもしれないし、或いは単なる気まぐれかもしれない。
 伯父さんとは旧知の仲だったようだから、そのよしみで助けただけかもしれない。

 愛原:「リサにとっては仇敵であることには変わりは無いから、俺の対応は分からないよ。ただ、もしも会うようなことはあったら、一言礼くらいは言うかもしれないね」
 リサ:「うぅ……」
 愛原:「それより、ここの探索だ」
 高橋:「は、はい!」

 私達は部屋の探索をした。
 机の引き出しや、積み重ねられている本などを探す。
 すると、1冊の気になるノートを見つけた。
 それは恐らく伯父さんが書いたと思われる日記。
 そこには、私が幼少の頃に脳の病気に罹り、長くは生きられないことが書かれていた。
 で、たまたま伯父さんの知り合いに日本アンブレラの関係者がいたから、そこで脳の病気に効く薬のことについて聞いたらしい。
 そしたら、白井伝三郎を紹介されたのことだ。

 愛原:「何か、俺のせいみたいで……」
 高橋:「病気は先生の責任じゃないです!」
 リサ:「そうだよ!先生が病気で死んでも、アタシは先生の脳味噌食べれるよ!」
 愛原&高橋:「食わんでいい!」

 それから、『転生の儀』についての見解も書かれていた。
 白井が新興宗教団体“天長会”の信者であることは、既に分かっている。
 天長会にも転生に関する教えがあり、それにかこつけて転生をするようだと書かれていた。
 恐らくその場所は……。

 愛原:「栃木のあそこか」

 ホテル天長園に隣接した聖堂。
 ホテル自体は信者でなくても利用できるが、聖堂に関しては信者でないと出入りできない。

 愛原:「取りあえず、目ぼしい物を持って、ここから出よう」

 他にも机の引き出しには、日本版リサ・トレヴァーに関する資料とかもあった。
 もしかしたら、この中を探せば、うちのリサの生い立ちとかも分かったりしてな。

 高橋:「こんな所っスかね?」
 愛原:「そうだな。取りあえず、ここから出て善場主任に報告しよう」

 私達は資料を持ち出すと、地上への階段を目指した。
 だが!

 愛原:「うっ!?」

 鉄格子の扉の向こうに蠢く化け物達。
 どうやら、2階から下りてきたようである。
 鉄格子の向こう側にいる私達をどうにかしようともがいているが、鉄格子は頑丈なせいで破れないでいる。

 リサ:「ウゥウ……!」

 リサは爪を立てて、鉄格子の向こう側にいる化け物達を威嚇するが、化け物達は怯まない。

 高橋:「どうします、先生?弾、足りますかね?」
 愛原:「恐らく足らんだろう。通路が向こう側に続いているだろ?もしかしたら、他に脱出口があるかもしれない。向こうに行ってみよう」
 高橋:「はい!……おい、早く行くぞ!」
 リサ:「ナメやがって……!」

 リサは特級BOWである自分に対し、中・下級BOWの連中が怯まなかったことに腹を立てているらしい。
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“私立探偵 愛原学” 「旧・愛原公一邸を探索」

2022-10-22 21:19:01 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月12日12:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区新川 愛原公一邸(旧宅)]

 金庫の中には、鍵とメモが入っていた。

 愛原:「何だよ、またかよ!!」
 高橋:「マジでムカつく爺さんですね」
 リサ:「先生の許しがあったら、アタシがボコす!」

 リサは右手の爪を長く鋭く伸ばして言った。

 愛原:「まあ、待て。一応、メモを見てみよう。なになに……『この家の地下に、秘密が隠されている』だって?」

 すると、この鍵はその秘密の地下室への扉の鍵なのだろうか?
 しかし、私の記憶では、この家に地下室は無いはずだ。
 もっとも、それは伯父さんの家だった頃の話。
 日本アンブレラの手に渡ってからは、色々と増改築されたことだろう。
 地下室だって、増築されたのかもしれないのだ。

 愛原:「地下室の入口を探せ!」
 高橋:「はい!」

 私は取りあえずスマホを取り出して、善場主任に連絡を取ろうとした。

 愛原:「んっ!?」
 高橋:「先生、どうしました?」
 愛原:「おかしいな。圏外になってる」
 高橋:「マジっすか?……あっ、俺のもだ!」
 リサ:「アタシのも!」

 どうも家の中では、電波が入りにくいようになっているらしい。
 これは日本アンブレラの研究施設では、よくあることだ。
 社員や来訪者が悪意を持って外部に情報を流さぬよう、携帯電話の電波は入らないようにしているのだと。
 しかし、必要な連絡の場合はどうするのかというと、通話は固定電話で、ネットは独自の光回線を使っていたのだそうだ。

 愛原:「廃屋のくせに、こういう無駄な機能は残ってるんだな」
 高橋:「先生、どうします?」

 少なくとも奥新川駅の時点では電波は入っていたのだから、家の外に出れば電波は入るのだろう。
 まだスマホが無く、ガラケーどころかPHSもあったような時代だったら、奥新川駅に行っても圏外だったのだろうが。

 愛原:「取りあえず、地下室を探そう。もしかしたら、これ自体がフェイクかもしれない」
 高橋:「はい」

 しかし、地下室への入口は案外簡単に見つかった。
 2階に上がる階段の下。
 回り込むと、掃除用具入れがある。
 しかしそのスペースが改造され、地下へ降りる階段室の扉になっていた。
 しかも、扉は二重になっていた。
 外側の扉は、掃除用具入れのドア。
 内側は、鉄格子の扉となっていた。

 愛原:「おい、鍵が違うぞ!?」
 高橋:「ホントですね!」

 その鉄格子の扉は、カードキーでしか開かない構造になっていた。
 しかし、その読取機は停電しているので使えない。
 結果、鍵が掛かりっ放しになっていた。
 多分、カードキーはリサが持っている物で開くのだろうが……。

 愛原:「ブレーカーだ!ブレーカーをONにしないと!」
 高橋:「電気代払って無さそうですけど、大丈夫ですかね?」
 愛原:「それでも何とかやるしかないな」

 もちろん、ブレーカーの場所は私も記憶している。
 どういう理由だか不明だが、昭和時代に建てられた家って、台所にあったりしないか?
 平成時代初期~中期頃に建て直した私の今の実家は、浴室の脱衣所にあるのだが。
 で、この家も台所にブレーカーはあった。
 案の定、それはOFFになっていた。
 高身長の高橋が、チェーンカッターの先でブレーカーをONにした。

 愛原:「どうだ!?」

 その足で先ほどの階段室に戻る。
 だが、読取機は通電していなかった。

 高橋:「壊れてるんじゃないスか?埃被ってますし……」
 愛原:「うーん……」

 私は読取機のコードを辿ってみた。
 どこかで断線しているのかもしれない。

 愛原:「ん?あそこか……」

 電源ケーブルは、応接間に繋がっていた。

 リサ:「おー、暖炉がある!」
 愛原:「単なるインテリアだよ。本当に火を焚いたりしたら、火事になる」
 高橋:「何だか紛らわしいっスね」
 愛原:「まあ、暖炉があるにしては煙突が無いから、それで分かるだろう」
 高橋:「……なるほど!」

 そして、応接間の壁には分電盤があった。

 愛原:「こ、これは……!」

 分電盤の中には、取り外し式のヒューズが何本か収まっている。
 しかし、その中に1本だけ抜けている箇所があった。
 見ると、『階段』とか書いてある。
 ヒューズが抜けている為に、通電していなかったのだ!

 愛原:「……高橋、オマエ、針金でヒューズの代用品とか造れないか?」
 高橋:「さ、サーセン。ネンショー(少年院)でも少刑(少年刑務所)でも、電気関係はやってなくて……」
 愛原:「そうか……。ん?」

 その時、私は閃いた。
 このヒューズは取り外し式である。
 要は……。

 愛原:「この、『2階トイレ』とかは通電させてなくてもいいよな?」
 高橋:「そ、そうっすね」

 私は『2階トイレ』のヒューズを外して、『階段』に取り付けた。
 幸い、このヒューズは汎用であるようだ。

 愛原:「これでいいじゃん!」
 高橋:「さ、さすがです、先生!」
 愛原:「よし、確認に行こう!」

 しかし、私は外したヒューズの選択を間違えてしまったようだ。
 いや、でも普通、『2階トイレ』のヒューズって言われたら、トイレ内外の照明とか換気扇とか便座の電源とか、そういう意味だと思うじゃない?
 それもあるのだろうが、もっと別の意味もあったようだ。

 愛原:「ん!?」

 私達が再び階段室に向かうと、2階から何か重い音が聞こえた。
 何か重い物を落とすような音。
 そして、その音の主と思われる物が、2階から1階への階段を滑り落ちて来た。
 それは、鉄扉。
 何でこんなものが落ちて来たのか?
 ていうか、2階に何で鉄扉があるのだ?
 まあ、日本アンブレラが何か増改築した時に付けたのだろうが。

 ハンターα:「ガァァァァッ!!」
 愛原:「はいーっ!?」

 何と、2階からハンターαが飛び下りて来た。
 アンブレラが爬虫類から改造した下級BOWである。
 大きさは大人のゴリラくらい。
 走る時は4足歩行になるが、歩く時は2足歩行である。
 そして、リサに負けず劣らずの鋭く長い爪を持っていた。
 爬虫類をベースにしたということもあり、体表は緑色の鱗で覆われている。

 高橋:「お任せを!」

 ハンターαは1階に飛び下りて来ると、右手を掲げて、寄って来る。
 奴らの必殺技は『首狩り』。
 その鋭く長い爪で、獲物の首を一気に刎ね飛ばすという即死攻撃を出してくるのである。

 高橋:「うらっ!」

 高橋はマグナムを撃ち込んだ。

 リサ:「ガァァァッ!!」

 リサも負けていない。
 リサはデニムのショートパンツから伸びた足で、ハンターαを蹴り飛ばすと、自慢の爪で引き裂いた。
 2人の攻撃により、私は手持ちのショットガンを1発も撃たずにハンターαを倒すことができた。

 愛原:「1匹だけか!?」
 高橋:「そのようです!」
 愛原:「2人とも、よくやった!」
 リサ:「むふー!」
 高橋:「これくらい、俺のマグナムに掛かれば余裕です!」

 とはいうものの、何だか2階から他にも呻き声とか雄叫びのような声が聞こえる。
 まさか、他のヒューズを外していたら、別の化け物が飛び出して来ていた?
 あまり、考えたくない。

 愛原:「とにかく、さっさと地下に降りよう!弾は無駄にしたくない!」
 高橋:「分かりました!」

 幸い思惑通り、読取機は通電していた。

 リサ:「カード当てるね!」
 愛原:「ああ、頼む」

 案の定、リサの金色に光ったカードキーで鉄格子の扉は解錠できた。
 通電したのはこのカードリーダーだけでなく、階段の照明もそうらしく、スイッチを入れると電球型の蛍光灯がパッと点灯した。
 どうやら、階段を下りる分にはライトは必要無さそうだ。

 愛原:「よし、行くぞ」
 高橋:「はい」

 通過してから扉を閉めると、オートロックが掛かった。
 向こうからはカードキーが無いと開かないが、階段側からはフリーで開くようだ。
 よし。
 これなら閉じ込められたことにはならない上、仮に2階に潜んでいる化け物がここに来たとしても、地下までは追って来れまい。
 私達はコンクリート製の階段を下りた。
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“私立探偵 愛原学” 「仙台の秘境、奥新川」 2

2022-10-21 20:19:17 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月12日10:54.天候:晴 宮城県仙台市青葉区新川字竹山 JR奥新川駅→愛原公一の旧宅]

 仙台駅を出発して1時間と経たずに、電車は目的地へと近づいた。

〔まもなく奥新川、奥新川。お出口は、左側です〕

 電車の乗客数は、確かに仙台駅発車時よりは少なくなった。
 とはいうものの、そんなに少ないというわけでもない。
 ここに乗っている乗客達は、殆どが県境を越えて山形県に行こうという者達だ。
 山形県に入れば山寺駅(立石寺)という観光地があるし、都市間輸送は高速バスに取られつつあるとはいえ、まだまだ県境越えの需要はあるということだ。

 高橋:「すっげぇ山奥ですね」
 愛原:「だろ?これなら、冬は雪が積もっていてもおかしくはない」
 高橋:「確かに……」

 そして、電車は奥新川駅のホームに停車した。

 

 仙山線は全線単線だが、所々に上下線離合の設備が設けられている。
 この駅も、そうだった。
 しかし、上り列車との待ち合わせは無いようである。

 車掌:「ありがとうございました」

 そして、無人駅の為、車掌がホームに降りて、乗客達のキップを回収している。
 仙山線はワンマン運転を行っていない為、こういう無人駅では車掌がキップの回収を行う。
 意外なことに……いや、このシーズンだと意外でもないか。
 下車したのは、私達だけではなかった。
 ハイカーと思わしき男女のグループが数人と、三脚やカメラを持った撮り鉄と思しき男が2人。
 シーズン中でも、この程度の利用客である。
 そしてウィキペディアによれば、冬の利用客はほぼ0とのこと。
 この駅周辺に住んでいるという数世帯の住民だけだろうか?

 愛原:「はい、どうも」

 私達も車掌にキップを渡して下車した。
 無人駅でも駅舎はあり、中に入るとベンチやゴミ箱があった。
 そして驚くことに、かつては有人駅であったらしい。
 今はカーテンが引かれて閉鎖されているが、キップ売り場と思しき窓口があった。

 愛原:「凄い所だねぇ……」
 高橋:「マジで、どこにでも人は住めるもんですね」
 愛原:「オマエ、住んでみるか?」
 高橋:「カンベンしてくださいよ」

 ハイカー達は先に駅舎の外に出て、ハイキングコースへと向かって行った。
 しかし、撮り鉄達はホーム上で撮影の準備を始めている。
 今日は何か、珍しい列車がこの線路を走るのだろうか?
 確かに、駅前には何も無かった。
 因みにトイレもあるのだが、駅の外側ではなく、内側にある。
 待合室とホームの間。
 だが、恐らく利用しにくいだろうと思い、トイレは列車内で済ませるのが良いだろう。
 特に、リサは。

 高橋:「で、場所はどこなんです?」
 愛原:「この近くなんだよ」

 私は取りあえず、駅前に出た。
 一応、駅前広場はあるのだが、ここに至る道が狭い為、路線バスの停留所などは存在しない。
 また、ここから車で行ける場所など無いに等しいので、タクシーが客待ちしているなどということもない。
 一応、狭いながらも舗装された車道はあるのだが、それを進むと作並方面に戻ってしまうので。
 私達が向かったのは、逆方向。
 舗装が無くなった、林道のような道。
 一応、これもハイキングコースか何からしい。
 先ほどのハイカー達が行った様子は無いが……。

 高橋:「先生、クマ出没注意ですって」

 道の脇には、そのような看板が立てられていた。

 愛原:「だろうな。ツキノワグマくらい、いたっておかしくない」
 高橋:「クマに襲われても、銃を使っちゃいけないんですよね?」
 愛原:「あくまで、クリーチャー対策用に許可されてるだけだからな。だが、心配無い。ここには、ツキノワグマはもちろん、それより凶暴なヒグマですら食い殺せる鬼がいるから」
 リサ:「むふー!任せて!」
 高橋:「そりゃ頼もしいことで」

 少し歩いて、駅前広場が見えなくなった辺りだ。
 ここに、ポツンと一軒家が現れた。

 愛原:「ここだよ」
 高橋:「古いですけど、誰かが住んでいそうな感じは……しませんね」

 2階建ての家である。
 築何十年も経っているのだが、不思議と朽ちている感じはしない。
 古いボロ屋であることは確かなのだが、廃墟感が小さいのは、やはりしばらくの間は日本アンブレラがここを使っていたからだろう。

 愛原:「カードキーの読取機がある」
 高橋:「マジっスか」

 門扉は閉められており、チェーンが巻かれていたが、それは持って来たチェーンカッターで切り落とす。
 それで門扉を開け、草がぼうぼうに生えている中を玄関に向かって進んだ。
 その玄関のドアには、伯父さんの旧宅時代には無かったであろう、カードキーの読取機があった。
 しかし、福島のそれと違い、こちらは通電していないのか、ランプが消えている。
 そこで、手持ちの鍵で玄関のドアを開けた。
 開けたからといって、何か警報が鳴るわけではない。
 試しに玄関の照明スイッチを操作してみたが、照明が点灯することは無かった。
 不思議なものだ。
 福島の施設は朽ちていながらも通電していたのに、こちらはさほど朽ちていないにも関わらず、通電していないのだから。

 高橋:「案外、広い家ですね」
 愛原:「そうなんだ。案外、広い家だったんだよ」

 人の気配はおろか、虫や化け物の気配すら無い。
 家の構造は、私が熟知している。
 日本アンブレラの手に渡ったにしては、そんなに構造が変わっているということはなかった。
 確かに和室が洋室に変えられ、事務机が置かれて、事務所のようになっているということはあったのだが。
 実験施設としては、使っていなかったのだろうか?

 愛原:「ここだな……」

 私の記憶で、伯父さんが開け閉めしていた金庫があった部屋。
 こちらは特に手が入れられていることはなく、和室のままだった。
 和室というか、仏間だ。
 しかし、今の新宅となった実家と違い、床の間と兼用はされていない。
 旧宅は仏間と床の間が別となっていた豪華仕様だったのだ。

 愛原:「仏壇の下に、金庫がある」

 私は仏壇の下の観音扉を開けた。

 愛原:「うわっ!」

 開けた途端、大きな蜘蛛が飛び出して来た。
 但し、それはクリーチャーとしての蜘蛛ではなく、元々大きさいサイズのジョロウグモか何かであった。

 リサ:「あーむっ!」

 第1形態の鬼姿に戻ったリサは、起用にその蜘蛛を捕まえて食べてしまった。

 愛原:「うへぇ……」

 案の定、金庫の周りは蜘蛛の巣だらけだった。
 それを手持ちのショットガンの筒先で掃い、ようやく金庫に手が伸ばせるほどになった。

 愛原:「俺が見た金庫はこれだ。やっぱりあれは、昔の実家じゃなく、この家での出来事だったんだ」

 この金庫は鍵式。
 実家にあったのは、見た目は同じだが、ダイヤル式。
 私は筒の中にあった鍵を使い、それで金庫を開けた。
 中には何があったと思う?

 A:何も無かった。
 B:書類の入った封筒。
 C:アンプルが数本。
 D:ダイナマイトと手榴弾
 E:鍵とメモ。
 F:SDメモリカード。
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“私立探偵 愛原学” 「仙台の秘境、奥新川」

2022-10-21 15:10:51 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月12日09:52.宮城県仙台市青葉区中央 JR仙台駅→仙山線825M列車最後尾車内]

 

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の8番線の列車は、10時8分発、普通、山形行きです。この列車は、4両です。……〕

 ホームに降りて、電車を待つ。
 愛子止まりの普通列車が多く、そこから先へ行く列車はおよそ1時間に1本と少ない。
 仙台市西部も実際、愛子駅を過ぎると、急に寂しくなって行くという。
 作並温泉の最寄りである作並駅はあるが、電車でアクセスする温泉客は少ないらしい。

〔まもなく8番線に、当駅止まりの列車が参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。折り返し、10時8分発、普通、山形行きとなります。この列車は、4両です。……〕

 仙台駅では、もっとも東側にあるホームに電車がやってくる。
 市内近郊区間は比較的本数も多く、乗客数も多い。

〔せんだい~、仙台~。本日も、JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 さっきからホームにATOSの自動放送が流れているが、首都圏対象の輸送管理システムが、飛び地で仙台駅にも導入されているというわけではない。
 あくまでも、放送だけを流用しているに過ぎない。
 ここまでの乗客がぞろぞろと降りてくる。
 本来なら仙台駅発着の列車は、特急車両などを除いて、半自動ドア扱いである。
 つまり、ドア横のボタンを押して、乗客がドアを開け閉めする方式だ。
 しかし、コロナ対策としての換気促進の為、仙山線でも半自動方式はやめにして、自動方式に切り替えられている。

 愛原:「ここにしよう」

 空席となったボックスシートを確保する。
 リサは進行方向窓側に座らせ、私がその向かい、高橋がリサの隣に座るといった感じだ。

 高橋:「先生、逆向きは酔いませんか?」
 愛原:「それも座る位置だよ。ここでは、後ろ展望が臨めるからね」

 最後尾車両の1番後ろのボックスシート。
 混んでいなければ、乗務員室の窓越しに後ろが見える。
 つまり、車掌と同じ向きというわけだな。
 仙山線ではワンマン運転は行われていない為、このように4両で1編成という車両も運用に当たっている。

〔この電車は、仙山線、普通、山形行きです〕

 天井からは冷房がフル稼働する音が聞こえてくる。
 本当ならドアを閉めて、冷房の効果を高めたいところだろうが、そうはいかない御時世だ。
 よく見ると、窓も少し開いている。

〔「ご案内致します。この電車は10時8分発、仙山線、普通列車の山形行きです。東照宮、北仙台、北山、東北福祉大前、国見の順に、終点の山形まで各駅に止まります。……」〕

 高橋:「先生、何か飲み物買ってきましょうか?」
 愛原:「そうだな。奥新川駅には何も無いから、今のうちに買っておくか」
 高橋:「本当に何も無いんですか?自販機も?」
 愛原:「無い。マジで何も無い」
 高橋:「……その駅、存在価値あるんスか?」
 愛原:「あれでも周辺には数世帯の家が建っているのと、一応ハイキングコースの入口みたいな感じになってるから、それで残してるんだろう」

 あの辺りの他の駅は廃止されている。
 奥新川駅よりも更に秘境駅とされた八ツ森駅、そして遊園地の廃園と共に廃止された西仙台ハイランド駅がそうだ。
 噂では奥新川駅へは、一応市道(というか林道?)があるが、八ツ森駅はそもそもアクセス路が無いとか聞いたことがある。
 西仙台ハイランド駅は、まあ、そもそも遊園地が廃業したのだから、そのアクセス駅としての役割を終えたのだからしょうがない。
 ん?行川アイランド駅?知らんよ。

[同日10:08.天候:晴 JR仙山線825M列車最後尾車内]

 発車の時間が迫り、ホームに発車メロディが鳴り響いた。
 仙台駅の発車メロディは、新幹線も在来線も、それぞれオリジナルのものが流れる。
 仙石線のホームだけはベル(隣のあおば通駅で発車メロディを使用しているからか)。

〔8番線から、普通、山形行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。駆け込み乗車は、おやめください〕

 尚、在来線ホームでは、発車メロディに被せるようにして、発車の放送が流れる。
 録り鉄(撮り鉄ではない)泣かせである。
 車掌が笛を吹いて、ドアスイッチを『閉』にする。
 首都圏のものと違い、軽い感じのドアチャイムが2回鳴ってからドアが閉まる。
 で、閉まり切る前に一旦止まって、それからドアが閉まる。
 呼吸を整えてから、第2障害を駆け登るばんえい競馬のようである。
 そして、電車は定刻通り発車した。
 乗客は多く、座席の殆どが埋まり、近距離客はあえて座席に座らず、ドア付近や乗務員室前に立っているほど。

〔今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、仙山線、普通、山形行きです。【中略】次は、東照宮です〕

 首都圏の在来線電車で流れる自動放送と同じ声優さんなので、何となく既視感がある。
 ただ、首都圏の放送よりも、随分と詳しく喋る。

 愛原:「おっと。一応、善場主任に報告しとかなくちゃな」

 私はスマホを取り出して、善場主任にLINEを送った。
 すぐに返信は来なかったが、恐らく昨日の事で忙しいのだろう。
 昨日、家の金庫の底から回収した鍵は2本。
 1つはこれから行く、家の鍵。
 もう1つは筒に入っていた、恐らく金庫の鍵と思わしき鍵。
 そして、メモ用紙が入っており、そこにはこれから行く家の住所が書いてあった。

 愛原:「アンブレラの手に渡った家だから、変に改築されてるかもしれない。一応、リサはカード持ってきたな?」
 リサ:「うん、大丈夫」

 日本アンブレラの研究施設において、カードキーで解錠するタイプの鍵なら、殆ど開けることができるカードキー。
 リサはそれを持っている。
 もしかしたら、これから行く家にも、それが導入されているかもしれないので、持って行った方が良いだろう。
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