[7月31日02:00.天候:晴 静岡県富士宮市上条 日蓮正宗大石寺・裏門前]
真夜中の大石寺の境内に、私はいた。
具体的には、高橋運転のレンタカーに便乗しているだけだ。
リアシートには、栗原姉妹が乗っている。
彼女らは日蓮正宗の信徒で、これから大石寺の客殿で行われる丑寅勤行に参加するのだという。
本当は民宿で借りられる自転車で向かう予定だったのだが、いくら田舎の県道並びに国道とはいえ、2人の女子中高生がこんな真夜中に自転車で移動するのはどうかということで、私達が送迎してあげることにしたのだ。
不審者に遭遇しなくても、警察の職務質問には遭うかもしれないし。
それが境内に入れば、あとはもう大丈夫だろう。
愛原:「それじゃ、3時半くらいに迎えに行けばいいのかな?」
栗原蓮華:「あ、はい。すいません、こんな夜中に……」
愛原:「いや、いいんだよ。女の子2人が、真夜中に移動するのは危険だからね」
蓮華:「鬼に遭遇しても、この刀で一刀両断にしてやるのが、鬼斬りの家系です」
愛原:「鬼じゃなくて、人間の悪い奴の話だよ。それじゃ……」
蓮華:「はい。ありがとうございます」
……というのは表向き。
私達にとって、栗原姉妹の送迎は、あることをする為の単なる布石に過ぎない。
愛原:「高橋、民宿に戻ってくれ」
高橋:「分かりました」
高橋は車を民宿に向けて走らせた。
途中の駐在所の前を通って、再び国道に出る。
真夜中の地方の国道は車通りは少なかったが、それでも時折長距離トラックとはすれ違う。
愛原:「どうだ?尾行してくる車とか、いるか?」
高橋:「いえ、今のところ無いですね」
愛原:「そうか」
[同日02:15.天候:晴 同市内(旧・上野村) 民宿さのや1F→B1F]
車を再び駐車場に止め、預かった鍵で裏口から民宿に戻る。
そして、エレベーターのボタンを押した。
1階に止まっていたエレベーター。
防犯窓越しにカゴ内の照明は消えていることが分かったが、外側のボタンを押すと点灯した。
一定時間稼働しないと、節電モードが働くシステムなのだろう。
これは家庭用だけでなく、オフィスビルなどの業務用機種にも普通にあるシステムである。
〔下に参ります〕
ドアが開いて、私達はエレベーターに乗り込んだ。
そして、伯父さんから預かった鍵をエレベーターのB1Fのボタンの横の鍵穴に差して回した。
それからボタンを押すと、B1Fのランプが点灯する。
〔ドアが閉まります〕
ドアが閉まり、エレベーターはゆっくりと地下室へ下降した。
〔ドアが開きます。地下1階です〕
民宿の地下室は倉庫などになっているのだが、今は改築され、伯父さんの専用居室があるそうだ。
〔上に参ります〕
エレベーターの到着アナウンスが、インターホンみたいなもの。
愛原公一:「おお、来たか」
愛原学:「伯父さん……」
地下室は無機質なコンクリートの壁に包まれていた。
そこに冬に使うと思われる除雪用のスコップや、非常食の入った段ボールなどが詰まっている。
公一:「ワシの部屋、こっちじゃ。入りなさい」
これまた無機質な鉄扉である。
入ると、居室というよりは研究室のような雰囲気の部屋があった。
折り畳みのベッドとかあるところを見ると、本当にここで伯父さんは寝泊まりしているようだ。
公一:「眠いじゃろ?コーヒーでもお入れしよう」
学:「警備員時代は、こんな時間でも起きていたからね。それは慣れてるんだ」
公一:「なるほどなるほど。リサ達本人には、バレておらんだろうな?」
学:「ああ。幸い、栗原姉妹が丑寅勤行とやらに出るってことで、その送迎だということにしたからね」
公一:「毎日、午前2時半から始まるお勤めの時間じゃな。何だかんだ言って、1時間くらい掛かるはずじゃ」
学:「なので、3時半に迎えに行くことにしたよ」
公一:「実際は3時半過ぎになるじゃろうが、まあ気長に待つと良い」
学:「はい。……それで、本当の話というのは?」
公一伯父さんはドリップコーヒーを入れてくれた後で、ノートパソコンを見せてくれた。
公一:「あのな、リサを人間に戻す方法はある」
学:「それは……安全な方法で?」
公一:「無論じゃ。そして、恐らくそれは政府側も把握しておる」
学:「は?だったら、早いとこ実行すればいいのに……」
公一:「ワシが考える限り、2つの理由がある。1つは、今やBOWは使いようによっては核兵器に代わる抑止力じゃ。日本は非核三原則のせいで、抑止力たる核兵器を持つことができん。そこで、BOWに注目しているのだ。特にリサは、普段は人間の姿で生活できる隠れた生物兵器としての才能を持っておる。今、人間に戻すのは得策ではないということじゃな」
学:「そんな理由が……」
高橋:「もう1つは?」
公一:「結論から言うと、『意味が無い』からじゃ」
学:「えっ?どゆこと???」
公一:「信じられん話だが、ワシの研究結果では、こういうことが出ている。わしも分野が違う為、詳しいメカニズムは知らん。だが、ワシなりの研究で、そう出たのだ」
結論から言うと、こうだ。
リサに子供を産ませると、ウィルスを生み出す『核』が子供に移る。
すると、リサはもうウィルスを造り出せなくなるから、そのウィルスが全て無くなった時点で『人間に戻る』(デイライトの定義上)ことになる。
ところが、今度はリサの子供に『核』が移るので、今度はその子供がBOWとなる。
だから、この方法でリサを人間に戻しても、意味が無いということになる。
高橋:「だったらそのガキをブッ殺しゃあ、いいんじゃねーのか?まだ赤ん坊だったら、すぐできるだろ?」
公一:「リサが生みたい子供は、誰の子供かね?」
高橋:「あ……!」
学:「俺……だろうな」
公一:「せっかく愛する人との間にできた子供が殺されると知ったら、どう思うかね?」
学:「まだBOWのうちに暴走すると思います」
公一:「それじゃよ。そんなリスキーなこと、あんな役人共が取れるとは思えん。かといって、有無を言わさず別の男の子供を産ませるのも無理なことじゃろうて……」
学:「でも、本当にそんなことがあり得るの?」
公一:「少なくとも、特異菌ではあり得る」
学:「ウィンターズ家のことか……」
公一:「そう。特異菌のBOWと化したイーサン・ウィンターズの娘、ローズマリー・ウィンターズは、恐らくここのリサよりも強く、且つ人間そのものと言っても良いBOWじゃ。もちろん、BSAAは特異菌のBOWと化したイーサン・ウィンターズや元感染者のミア・ウィンターズからその遺伝子を受け継いでそうなったと公式に認めている。……ワシと接触したあの白井伝三郎も、似たようなことを言っておったよ」
学:「やはり伯父さん、白井と会ったんだ?」
公一:「うむ。これをやる」
公一伯父さんは、パソコンに接続されていたUSBメモリーを私に渡した。
公一:「ワシの研究成果がここに入っている。それと……昨夜、上で話したことのうち。1~2割は本当じゃ。もう1つの方法、特異菌を使用することは本当だと思っている」
学:「特異菌をどうやって使うの?」
公一:「Gウィルスのワクチンがあるじゃろう?あれと特異菌を絶妙にブレンドすれば……もしかしたらと思っている。じゃが、危険な実験にはなるがな。上手く行けばリサは人間に戻れるじゃろし、失敗したらとんでもない化け物へと変貌を遂げるじゃろう……」
学:「いずれにせよ、今すぐに人間に戻れる方法は無いというわけか」
少なくとも、『リサに子供を産ませれば、その子がBOWとなる代わりに、リサ本人は人間に戻れる』というのが現状、安全な方法らしい。
そのメカニズムが記録されたUSBメモリーを手に入れたことで、今回の成果は得られたと言えるだろう。
真夜中の大石寺の境内に、私はいた。
具体的には、高橋運転のレンタカーに便乗しているだけだ。
リアシートには、栗原姉妹が乗っている。
彼女らは日蓮正宗の信徒で、これから大石寺の客殿で行われる丑寅勤行に参加するのだという。
本当は民宿で借りられる自転車で向かう予定だったのだが、いくら田舎の県道並びに国道とはいえ、2人の女子中高生がこんな真夜中に自転車で移動するのはどうかということで、私達が送迎してあげることにしたのだ。
不審者に遭遇しなくても、警察の職務質問には遭うかもしれないし。
それが境内に入れば、あとはもう大丈夫だろう。
愛原:「それじゃ、3時半くらいに迎えに行けばいいのかな?」
栗原蓮華:「あ、はい。すいません、こんな夜中に……」
愛原:「いや、いいんだよ。女の子2人が、真夜中に移動するのは危険だからね」
蓮華:「鬼に遭遇しても、この刀で一刀両断にしてやるのが、鬼斬りの家系です」
愛原:「鬼じゃなくて、人間の悪い奴の話だよ。それじゃ……」
蓮華:「はい。ありがとうございます」
……というのは表向き。
私達にとって、栗原姉妹の送迎は、あることをする為の単なる布石に過ぎない。
愛原:「高橋、民宿に戻ってくれ」
高橋:「分かりました」
高橋は車を民宿に向けて走らせた。
途中の駐在所の前を通って、再び国道に出る。
真夜中の地方の国道は車通りは少なかったが、それでも時折長距離トラックとはすれ違う。
愛原:「どうだ?尾行してくる車とか、いるか?」
高橋:「いえ、今のところ無いですね」
愛原:「そうか」
[同日02:15.天候:晴 同市内(旧・上野村) 民宿さのや1F→B1F]
車を再び駐車場に止め、預かった鍵で裏口から民宿に戻る。
そして、エレベーターのボタンを押した。
1階に止まっていたエレベーター。
防犯窓越しにカゴ内の照明は消えていることが分かったが、外側のボタンを押すと点灯した。
一定時間稼働しないと、節電モードが働くシステムなのだろう。
これは家庭用だけでなく、オフィスビルなどの業務用機種にも普通にあるシステムである。
〔下に参ります〕
ドアが開いて、私達はエレベーターに乗り込んだ。
そして、伯父さんから預かった鍵をエレベーターのB1Fのボタンの横の鍵穴に差して回した。
それからボタンを押すと、B1Fのランプが点灯する。
〔ドアが閉まります〕
ドアが閉まり、エレベーターはゆっくりと地下室へ下降した。
〔ドアが開きます。地下1階です〕
民宿の地下室は倉庫などになっているのだが、今は改築され、伯父さんの専用居室があるそうだ。
〔上に参ります〕
エレベーターの到着アナウンスが、インターホンみたいなもの。
愛原公一:「おお、来たか」
愛原学:「伯父さん……」
地下室は無機質なコンクリートの壁に包まれていた。
そこに冬に使うと思われる除雪用のスコップや、非常食の入った段ボールなどが詰まっている。
公一:「ワシの部屋、こっちじゃ。入りなさい」
これまた無機質な鉄扉である。
入ると、居室というよりは研究室のような雰囲気の部屋があった。
折り畳みのベッドとかあるところを見ると、本当にここで伯父さんは寝泊まりしているようだ。
公一:「眠いじゃろ?コーヒーでもお入れしよう」
学:「警備員時代は、こんな時間でも起きていたからね。それは慣れてるんだ」
公一:「なるほどなるほど。リサ達本人には、バレておらんだろうな?」
学:「ああ。幸い、栗原姉妹が丑寅勤行とやらに出るってことで、その送迎だということにしたからね」
公一:「毎日、午前2時半から始まるお勤めの時間じゃな。何だかんだ言って、1時間くらい掛かるはずじゃ」
学:「なので、3時半に迎えに行くことにしたよ」
公一:「実際は3時半過ぎになるじゃろうが、まあ気長に待つと良い」
学:「はい。……それで、本当の話というのは?」
公一伯父さんはドリップコーヒーを入れてくれた後で、ノートパソコンを見せてくれた。
公一:「あのな、リサを人間に戻す方法はある」
学:「それは……安全な方法で?」
公一:「無論じゃ。そして、恐らくそれは政府側も把握しておる」
学:「は?だったら、早いとこ実行すればいいのに……」
公一:「ワシが考える限り、2つの理由がある。1つは、今やBOWは使いようによっては核兵器に代わる抑止力じゃ。日本は非核三原則のせいで、抑止力たる核兵器を持つことができん。そこで、BOWに注目しているのだ。特にリサは、普段は人間の姿で生活できる隠れた生物兵器としての才能を持っておる。今、人間に戻すのは得策ではないということじゃな」
学:「そんな理由が……」
高橋:「もう1つは?」
公一:「結論から言うと、『意味が無い』からじゃ」
学:「えっ?どゆこと???」
公一:「信じられん話だが、ワシの研究結果では、こういうことが出ている。わしも分野が違う為、詳しいメカニズムは知らん。だが、ワシなりの研究で、そう出たのだ」
結論から言うと、こうだ。
リサに子供を産ませると、ウィルスを生み出す『核』が子供に移る。
すると、リサはもうウィルスを造り出せなくなるから、そのウィルスが全て無くなった時点で『人間に戻る』(デイライトの定義上)ことになる。
ところが、今度はリサの子供に『核』が移るので、今度はその子供がBOWとなる。
だから、この方法でリサを人間に戻しても、意味が無いということになる。
高橋:「だったらそのガキをブッ殺しゃあ、いいんじゃねーのか?まだ赤ん坊だったら、すぐできるだろ?」
公一:「リサが生みたい子供は、誰の子供かね?」
高橋:「あ……!」
学:「俺……だろうな」
公一:「せっかく愛する人との間にできた子供が殺されると知ったら、どう思うかね?」
学:「まだBOWのうちに暴走すると思います」
公一:「それじゃよ。そんなリスキーなこと、あんな役人共が取れるとは思えん。かといって、有無を言わさず別の男の子供を産ませるのも無理なことじゃろうて……」
学:「でも、本当にそんなことがあり得るの?」
公一:「少なくとも、特異菌ではあり得る」
学:「ウィンターズ家のことか……」
公一:「そう。特異菌のBOWと化したイーサン・ウィンターズの娘、ローズマリー・ウィンターズは、恐らくここのリサよりも強く、且つ人間そのものと言っても良いBOWじゃ。もちろん、BSAAは特異菌のBOWと化したイーサン・ウィンターズや元感染者のミア・ウィンターズからその遺伝子を受け継いでそうなったと公式に認めている。……ワシと接触したあの白井伝三郎も、似たようなことを言っておったよ」
学:「やはり伯父さん、白井と会ったんだ?」
公一:「うむ。これをやる」
公一伯父さんは、パソコンに接続されていたUSBメモリーを私に渡した。
公一:「ワシの研究成果がここに入っている。それと……昨夜、上で話したことのうち。1~2割は本当じゃ。もう1つの方法、特異菌を使用することは本当だと思っている」
学:「特異菌をどうやって使うの?」
公一:「Gウィルスのワクチンがあるじゃろう?あれと特異菌を絶妙にブレンドすれば……もしかしたらと思っている。じゃが、危険な実験にはなるがな。上手く行けばリサは人間に戻れるじゃろし、失敗したらとんでもない化け物へと変貌を遂げるじゃろう……」
学:「いずれにせよ、今すぐに人間に戻れる方法は無いというわけか」
少なくとも、『リサに子供を産ませれば、その子がBOWとなる代わりに、リサ本人は人間に戻れる』というのが現状、安全な方法らしい。
そのメカニズムが記録されたUSBメモリーを手に入れたことで、今回の成果は得られたと言えるだろう。