報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「リサの秘密」

2022-10-03 20:28:31 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月31日02:00.天候:晴 静岡県富士宮市上条 日蓮正宗大石寺・裏門前]

 真夜中の大石寺の境内に、私はいた。
 具体的には、高橋運転のレンタカーに便乗しているだけだ。
 リアシートには、栗原姉妹が乗っている。
 彼女らは日蓮正宗の信徒で、これから大石寺の客殿で行われる丑寅勤行に参加するのだという。
 本当は民宿で借りられる自転車で向かう予定だったのだが、いくら田舎の県道並びに国道とはいえ、2人の女子中高生がこんな真夜中に自転車で移動するのはどうかということで、私達が送迎してあげることにしたのだ。
 不審者に遭遇しなくても、警察の職務質問には遭うかもしれないし。
 それが境内に入れば、あとはもう大丈夫だろう。

 愛原:「それじゃ、3時半くらいに迎えに行けばいいのかな?」
 栗原蓮華:「あ、はい。すいません、こんな夜中に……」
 愛原:「いや、いいんだよ。女の子2人が、真夜中に移動するのは危険だからね」
 蓮華:「鬼に遭遇しても、この刀で一刀両断にしてやるのが、鬼斬りの家系です」
 愛原:「鬼じゃなくて、人間の悪い奴の話だよ。それじゃ……」
 蓮華:「はい。ありがとうございます」

 ……というのは表向き。
 私達にとって、栗原姉妹の送迎は、あることをする為の単なる布石に過ぎない。

 愛原:「高橋、民宿に戻ってくれ」
 高橋:「分かりました」

 高橋は車を民宿に向けて走らせた。
 途中の駐在所の前を通って、再び国道に出る。
 真夜中の地方の国道は車通りは少なかったが、それでも時折長距離トラックとはすれ違う。

 愛原:「どうだ?尾行してくる車とか、いるか?」
 高橋:「いえ、今のところ無いですね」
 愛原:「そうか」

[同日02:15.天候:晴 同市内(旧・上野村) 民宿さのや1F→B1F]

 車を再び駐車場に止め、預かった鍵で裏口から民宿に戻る。
 そして、エレベーターのボタンを押した。
 1階に止まっていたエレベーター。
 防犯窓越しにカゴ内の照明は消えていることが分かったが、外側のボタンを押すと点灯した。
 一定時間稼働しないと、節電モードが働くシステムなのだろう。
 これは家庭用だけでなく、オフィスビルなどの業務用機種にも普通にあるシステムである。

〔下に参ります〕

 ドアが開いて、私達はエレベーターに乗り込んだ。
 そして、伯父さんから預かった鍵をエレベーターのB1Fのボタンの横の鍵穴に差して回した。
 それからボタンを押すと、B1Fのランプが点灯する。

〔ドアが閉まります〕

 ドアが閉まり、エレベーターはゆっくりと地下室へ下降した。

〔ドアが開きます。地下1階です〕

 民宿の地下室は倉庫などになっているのだが、今は改築され、伯父さんの専用居室があるそうだ。

〔上に参ります〕

 エレベーターの到着アナウンスが、インターホンみたいなもの。

 愛原公一:「おお、来たか」
 愛原学:「伯父さん……」

 地下室は無機質なコンクリートの壁に包まれていた。
 そこに冬に使うと思われる除雪用のスコップや、非常食の入った段ボールなどが詰まっている。

 公一:「ワシの部屋、こっちじゃ。入りなさい」

 これまた無機質な鉄扉である。
 入ると、居室というよりは研究室のような雰囲気の部屋があった。
 折り畳みのベッドとかあるところを見ると、本当にここで伯父さんは寝泊まりしているようだ。

 公一:「眠いじゃろ?コーヒーでもお入れしよう」
 学:「警備員時代は、こんな時間でも起きていたからね。それは慣れてるんだ」
 公一:「なるほどなるほど。リサ達本人には、バレておらんだろうな?」
 学:「ああ。幸い、栗原姉妹が丑寅勤行とやらに出るってことで、その送迎だということにしたからね」
 公一:「毎日、午前2時半から始まるお勤めの時間じゃな。何だかんだ言って、1時間くらい掛かるはずじゃ」
 学:「なので、3時半に迎えに行くことにしたよ」
 公一:「実際は3時半過ぎになるじゃろうが、まあ気長に待つと良い」
 学:「はい。……それで、本当の話というのは?」

 公一伯父さんはドリップコーヒーを入れてくれた後で、ノートパソコンを見せてくれた。

 公一:「あのな、リサを人間に戻す方法はある」
 学:「それは……安全な方法で?」
 公一:「無論じゃ。そして、恐らくそれは政府側も把握しておる」
 学:「は?だったら、早いとこ実行すればいいのに……」
 公一:「ワシが考える限り、2つの理由がある。1つは、今やBOWは使いようによっては核兵器に代わる抑止力じゃ。日本は非核三原則のせいで、抑止力たる核兵器を持つことができん。そこで、BOWに注目しているのだ。特にリサは、普段は人間の姿で生活できる隠れた生物兵器としての才能を持っておる。今、人間に戻すのは得策ではないということじゃな」
 学:「そんな理由が……」
 高橋:「もう1つは?」
 公一:「結論から言うと、『意味が無い』からじゃ」
 学:「えっ?どゆこと???」
 公一:「信じられん話だが、ワシの研究結果では、こういうことが出ている。わしも分野が違う為、詳しいメカニズムは知らん。だが、ワシなりの研究で、そう出たのだ」

 結論から言うと、こうだ。
 リサに子供を産ませると、ウィルスを生み出す『核』が子供に移る。
 すると、リサはもうウィルスを造り出せなくなるから、そのウィルスが全て無くなった時点で『人間に戻る』(デイライトの定義上)ことになる。
 ところが、今度はリサの子供に『核』が移るので、今度はその子供がBOWとなる。
 だから、この方法でリサを人間に戻しても、意味が無いということになる。

 高橋:「だったらそのガキをブッ殺しゃあ、いいんじゃねーのか?まだ赤ん坊だったら、すぐできるだろ?」
 公一:「リサが生みたい子供は、誰の子供かね?」
 高橋:「あ……!」
 学:「俺……だろうな」
 公一:「せっかく愛する人との間にできた子供が殺されると知ったら、どう思うかね?」
 学:「まだBOWのうちに暴走すると思います」
 公一:「それじゃよ。そんなリスキーなこと、あんな役人共が取れるとは思えん。かといって、有無を言わさず別の男の子供を産ませるのも無理なことじゃろうて……」
 学:「でも、本当にそんなことがあり得るの?」
 公一:「少なくとも、特異菌ではあり得る」
 学:「ウィンターズ家のことか……」
 公一:「そう。特異菌のBOWと化したイーサン・ウィンターズの娘、ローズマリー・ウィンターズは、恐らくここのリサよりも強く、且つ人間そのものと言っても良いBOWじゃ。もちろん、BSAAは特異菌のBOWと化したイーサン・ウィンターズや元感染者のミア・ウィンターズからその遺伝子を受け継いでそうなったと公式に認めている。……ワシと接触したあの白井伝三郎も、似たようなことを言っておったよ」
 学:「やはり伯父さん、白井と会ったんだ?」
 公一:「うむ。これをやる」

 公一伯父さんは、パソコンに接続されていたUSBメモリーを私に渡した。

 公一:「ワシの研究成果がここに入っている。それと……昨夜、上で話したことのうち。1~2割は本当じゃ。もう1つの方法、特異菌を使用することは本当だと思っている」
 学:「特異菌をどうやって使うの?」
 公一:「Gウィルスのワクチンがあるじゃろう?あれと特異菌を絶妙にブレンドすれば……もしかしたらと思っている。じゃが、危険な実験にはなるがな。上手く行けばリサは人間に戻れるじゃろし、失敗したらとんでもない化け物へと変貌を遂げるじゃろう……」
 学:「いずれにせよ、今すぐに人間に戻れる方法は無いというわけか」

 少なくとも、『リサに子供を産ませれば、その子がBOWとなる代わりに、リサ本人は人間に戻れる』というのが現状、安全な方法らしい。
 そのメカニズムが記録されたUSBメモリーを手に入れたことで、今回の成果は得られたと言えるだろう。
コメント (5)
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“私立探偵 愛原学” 「民宿で過ごす」

2022-10-03 11:38:03 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月30日17:30.天候:晴 静岡県富士宮市(旧・上野村)某所 民宿さのや]

 民宿の駐車場に、再び高橋運転のレンタカーが到着する。
 そこから降りて来たのは、栗原姉妹。

 愛原政子:「はい、いらっしゃいませー。……あ、お帰りなさい」
 高橋:「先生の伯母様、追加の2人、到着っス」
 栗原蓮華:「お、お世話になりますぅ……」
 政子:「学からもう料金は頂戴してますからね、どうぞそこで靴をお脱ぎになって」

 この民宿では玄関で靴を脱ぎ、スリッパを履いて上がるシステムになっている。
 左足が義足の蓮華さんは、左足のスリッパだけ不要である。
 尚、外履きの靴は義足の下に履いているので念の為。

 政子:「学から聞いております。あなたがそうなのね。奥にエレベーターがありますから、それで2階へどうぞ」
 蓮華:「(階段くらいなら上れるけど、まあ、せっかくだから……)ありがとうございます」
 政子:「ちょいと、お客さん」
 高橋:「な、何スか?」
 政子:「何で学が『先生』なの?」
 高橋:「俺は先生の弟子だからです」
 政子:「弟子って、あのコ、探偵の仕事よね?」
 高橋:「はい!あの御方は、俺を冤罪の泥沼から救ってくれた大恩人なんです!俺も是非あの御方みたいな、超一流の探偵になりたい!そういう思いで、先生に弟子入りしました。だから、『先生』です!」
 政子:「そ、そうなの……。あのコがねぇ……」

 栗原姉妹はエレベーターで上がって行ったが、高橋は階段で2階に上がった。

 高橋:「ただいま帰りましたっス!」
 愛原学:「おー、お帰りー。今、リサ達が風呂に入ってるんだ。あいつらが上がったら、俺達も入ろう」
 高橋:「えっ?男女混合なんスか!?」
 学:「そうなんだよ。まあ、シャワー室は男女別らしいけどね。せっかくだから、温泉に入りたいじゃん?」
 高橋:「まあ、そうっスね」

 その時、部屋の入口のガラス戸がノックされた。

 リサ:「先生、上がったよ」
 学:「よーし!」

 リサ達は備え付けの浴衣を着ていた。
 さすがに、体操服とブルマーは持って来ていないようだ。

 リサ:「わたしとアイリの浴衣だけSサイズって、どういうこと?」
 高橋:「いや、そういうことだろ」

 栗原愛理は中学3年生。
 リサは高校2年生だが、体型が【お察しください】。
 これも、Gウィルスによる影響なのだという。
 ワクチンを投与しても、違う形でウィルスが体内に残ってしまったシェリー・バーキン氏や善場主任も、同年代の女性と比べれば小柄な体型である。
 ましてや、ウィルスを造り出す側のBOWとなれば……。
 尚、絵恋さんと私はMサイズ。
 高橋と蓮華さんはLサイズである。

 リサ:「ぶー……」
 絵恋:「り、リサさん、部屋に戻りましょ!」
 蓮華:「鍵が掛かってるんで、開けて欲しいんだが?」
 絵恋:「は、はい!」
 リサ:「同室宜しく」
 愛理:「ひぅ……!」

 リサの不機嫌な顔を見て、蓮華さんの背中に隠れる愛理。

 蓮華:「ああ、こちらこそ」
 絵恋:「な、何か2人とも怖い……」
 学:「俺達も浴衣に着替えて、風呂入りに行こう」
 高橋:「そうっスね」

[同日18:30.天候:晴 同民宿1F大広間]

 夕食と朝食は大広間で取る。
 やろうと思えば、ここを貸し切って宴会もできるようだ。
 壁にはテレビが点いていて、そこでNHKが流れていた。

 リサ:「おー!肉~!」

 今夜はロース豚肉の生姜焼きがメインで、他にも刺身の盛り合わせなどもある。

 バイト:「飲み物は何にしますか?」
 学:「じゃあ、俺はビールで」
 高橋:「お供します!」
 リサ:「お供します!」
 学&高橋:「コラ!」

 伯母さんと伯父さんだけで切り盛りできるかと思っていたのだが、ちゃんとバイトのお兄ちゃんとお姉ちゃんがいるようだ。
 お兄ちゃんの場合、高橋みたいな元ヤンて感じだが……。
 尚、伯母さんの子供達、つまり私から見れば従兄弟に当たる人達だが、彼らは既に家を出て、静岡市内や名古屋市内で仕事をしている。
 今夏のお盆には帰省するらしいが、その時、私達は仙台に向かっていることだろう。

 愛原公一:「あいよ。ビール大瓶ぢゃ」
 学:「あっ、伯父さん。ありがとう」
 高橋:「先生、お注ぎします!」
 リサ:「先生、お注ぎします!」
 絵恋:「リサさん、お注ぎします!」
 学:「待て待て!まずは高橋から!リサは絵恋さんに注がれろ!」
 リサ:「……ん!」

 リサはほぼ無言で、グラスを差し出した。

 絵恋:「はーい!ウーロン茶入りまーす!」
 愛原:「伯父さん、後でお話いいかな?」
 公一:「うむ。夜はヒマになるから、その時、話ができるじゃろうて……」

[同日20:00.天候:晴 同民宿1F]

 政子:「えっ、自転車ですか?」
 蓮華:「はい。ここ、レンタサイクルもやってるって聞いたんですけど?」
 政子:「ええ、やっていますよ」
 蓮華:「明日、大石寺の丑寅勤行に出たいので、自転車をお借りしたいんです」
 政子:「それは構いませんけど、自転車大丈夫なんですか?」
 蓮華:「はい。自転車に乗れるくらい、訓練しましたので」
 政子:「凄いですねぇ……。そういうことなら、構いませんよ。裏口から出入りできるようにしますので、そこに自転車も置いておきます」
 蓮華:「ありがとうございます」

 そんなやり取りがあってから、栗原姉妹は風呂に入って行った。

 公一:「すまんな。21時頃には話ができると思うから、またさっきの大広間まで来てくれ」
 学:「分かったよ」

[同日21:00.天候:晴 同民宿1F大広間]

 私と高橋は、大広間の一画でテーブルを囲むように座った。
 テレビも点いておらず、室内は静かだ。
 廊下を仕切る襖は夕食時間は開放されていたが、今は閉め切られている。

 学:「伯父さん、リサに関することだよね?」
 公一:「うむ……」

 公一伯父さんはお茶を啜ってから口を開いた。

 公一:「まず……あのリサじゃが、人間に戻す算段は付いたのか?」
 学:「いや、まだです。危険な方法で戻すならあるらしいですけど、安全な方法がまだ見つからない。自分としても、デイライトさん側として、この『安全な方法』が見つかるまでは、人間に戻せないと思います」
 公一:「危険な方法とは、恐らくGウィルスのワクチンを投与することじゃな。しかし、それはあのコには効かない上に、却って変な副作用・副反応を起こすが恐れがある。ただ単に感染しただけなら、それでもワクチンは有効じゃが、そもそもがGウィルスを生み出したBOWであるのならば、そんなワクチンは使えないということじゃ」
 学:「そうなんだよねぇ……」
 公一:「じゃが、考えてみたまえ。確かにアメリカのオリジナル版は、偶然の産物であったじゃろう。しかし、こっちの日本版はどうじゃ?その産物が保有していたGウィルスに手を加えて、攫ってきた子供達に投与して実験した代物ではないか」
 学:「あ……!」
 公一:「『今の』ワクチンは確かに効かんし、却って変な作用が起きる恐れが大なのじゃろうが、ワシは案外『安全な方法』がすぐそこにあるような気がするのじゃ」
 学:「伯父さんは科学者として、それは何だと思いますか?」
 公一:「科学者といっても、分野が違う。ワシが思うに、あの『特異菌』とやらがカギじゃないかと思っておるのじゃが……」
 学:「特異菌ですか」
 公一:「……ここまで話せばいいかの?」
 学:「えっ、何がです?」
 公一:「シッ」

 すると、伯父さんはすっと私にメモを渡して来た。

 公一:『どこかでスパイがこの話を聞いているかもしれんので、今の話は9割方のウソじゃ。本当の話は……』
 学:「伯父さん……!?」

 私も高橋も、目を丸くした。
 伯父さんの本当の話は、これからだ。
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