[7月30日15:00.天候:晴 静岡県富士宮市(旧・上野村)某所 民宿さのや]
チェックインの時間になり、私達は予約していた民宿へ向かった。
栗原姉妹は後で迎えに行くことにする。
〔目的地周辺です。音声案内を終了します〕
愛原:「えーと……ここだな」
それはとある県道沿いにあった。
大石寺からも程近い場所にあるが、富士宮市郊外にあるのは間違いない。
路線バスも走っているようだが、明らかに車が無いと不便な場所ではあるようだ。
県道も道が狭いせいか、地元の車は軽自動車やコンパクトカーが多い。
宅配便やコンビニ配送の2トン車が大型車に見えてしまうほどだ。
元々走り屋の高橋なら、狭い道でも難無く走行していたが。
そうして、民宿の駐車場に車を止める。
他に車は2~3台ほど止まっていた。
それが他の宿泊客の車なのか、或いは関係者の車なのかは判別できない。
1台は地元の富士山ナンバーだったし、もう1台は静岡ナンバーだったからだ。
もう1台は他県ナンバーだったが、トラックなので、よく分からない。
愛原:「木造2階建てか。まあ、奥行きは広そうだな」
車から荷物を降ろし、正面玄関のガラス戸を開けた。
愛原:「こんにちはー」
私が声を掛けると……。
愛原公一:「いらっしゃ~い。旅館さのやへ~」
奥から紺色の法被を着た公一伯父さんがやってきた。
高橋:「爺さん、バイトなう!?」
公一:「おお!キミは確か、学の腰巾着だったな!よく来たのー!」
高橋:「こしぎんちゃく……!」
絵恋:「どっちかというと、金魚の糞じゃない?」
リサ:「太鼓持ちとも言う」
高橋:「オマエら、後で潤井川に叩き落す!」
愛原:「狸祭りでもやる気か。それより伯父さん、今日から1泊で予約入れてるんだけど?」
公一:「うむうむ。部屋が2つじゃったの。しかし、ワシの記憶が確かなら、6人のはずじゃが?」
愛原:「あとの2人は、大石寺にいるよ。夕方までいるから、その時に」
公一:「なるほどなるほど。おおかた、御開扉を受けた後で、六壺の夕勤行に出る算段なのじゃろう」
さすがは大石寺の近所。
大石寺の行事には詳しいわけだ。
愛原政子:「あんた!何をそこでくっちゃべってんだい!?」
すると、帳場の奥から恰幅の良い女将がやってきた。
私の伯母さんで、愛原政子である。
公一伯父さんより年下であるものの、70代の老婆とは思えないマッチョなオバハンだ。
離婚した元旦那には厳しいが……。
政子:「あらぁ~、学、久しぶりねぇ!」
愛原学:「お、お久しぶりです、伯母さん」
政子:「どうしたの、急に?」
学:「ちょ、ちょっと今日は伯父さんに話があって……」
公一:「うむうむ。大事な話じゃ。お茶の用意をせんとなぁ……」
政子:「何言ってんだい?これから他にもお客が来るってのに、のんびりお茶しばいてる場合じゃないよっ!ここに置いといてやってるんだから、きりきり働きな!」
公一:「学、このブラック民宿をホワイトホテルに変貌させてくれんかの?」
学:「そ、それは探偵の仕事じゃないな~……」
そういうのは経営コンサルタントにでも相談するべきであろう。
政子:「何がブラック民宿だい!いいから、さっさとこのお客様達にお茶の用意をするんだよっ!」
公一:「へいへーい」
公一伯父さんは、逃げるように奥へと引っ込んで行った。
政子:「ゴメンねぇ、うちの元ヤドロクが……。宮城の方でも、随分と迷惑を掛けたみたいだねぇ……」
学:「いや、まあ、宮城県ではいい農学者だったのにね……」
政子:「ニュースで観たけど、どこかの製薬会社に札束チラつかされて、欲が出たんだろ?あのヤドロクには、いい薬さ。製薬会社なだけにね」
学:「ははは……なるほど」
政子:「それじゃ、こちらに書いてくれないかい?」
学:「はいはい」
私は宿帳に所定事項を記入した。
宿泊者カードではなく、宿帳である。
さすがは民宿。
一気に昭和時代に戻ったかのようだ。
学:「後から2人、来ますんで。大石寺の参拝が終わったら」
政子:「あー、何かさっきそんなこと言ってたね。まさか、学も入信したのかい?」
学:「いや、俺はしてないよ」
政子:「そうかい。まあいいけどね。こっちも商売だしね。それじゃ、これが鍵だよ」
学:「ありがとう」
鍵番号を見ると、『201』と『202』と書かれていた。
2階の部屋らしい。
帳場には階段があるので、それで上がって行くのだろう。
リサ:「『エレベーターはこの奥です』だって」
学:「! エレベーターあるの!?」
政子:「後付けで造ったホームエレベーターさ。昨今のバリアフリー化に乗ってみてね。駐車場にも、車椅子マークのスペースがあっただろ?」
学:「そういえば……」
政子:「車イス用のトイレも、1階の奥に造ったさ」
学:「よくそんなお金あったねぇ……」
政子:「その金が無きゃ、あんなヤドロクうちに置かないよ」
学:「ええっ!?」
どうやら民宿のバリアフリー改造化の費用は、伯父さんが持ったらしい。
確かに伯父さんには被害者がいないから、被害者からの賠償請求は無い。
警察に逮捕された時に弁護士は雇ったようだから、それに関する費用が掛かったくらいか?
学:「でもまあ、ちょうど良かった。後から来る2人のうち、1人は片足が義足なんだ。もしかしたら、利用させてもらうかもね」
政子:「そうなのかい。それは良かったね」
というわけで試しに乗ってみたが、定員は3名という小ささだった。
まあ、ホームエレベーターなら妥当だろう。
確かに車椅子と、その介助者1人がすっぽり入る程度の大きさだった。
高橋:「先生、この民宿、地下があるんですか?」
エレベーターに乗ってみて、ボタンを見ると、1階と2階の他、B1階のボタンがあった。
学:「そ、倉庫か何かだろ?」
伯父さんの住んでた宮城の元公民館には何故か地下室があって、そこは伯父さんの秘密の研究室だったらしいが……。
2階に着いて、201号室と202号室に行ってみる。
赤いカーペットの敷かれた絨毯を進み、擦りガラスの引き戸になっている扉が客室の入口だった。
学:「それじゃ、俺達は201にするから、キミ達は隣の部屋な?」
リサ:「はーい。じゃあ、エレン、また後で」
リサは私達と一緒の部屋だと思ったようだ。
学&高橋:「オマエはあっち!」
絵恋:「リサさんはこっち!」
リサ:「ええ~?」
リサは残念そうな顔をした。
チェックインの時間になり、私達は予約していた民宿へ向かった。
栗原姉妹は後で迎えに行くことにする。
〔目的地周辺です。音声案内を終了します〕
愛原:「えーと……ここだな」
それはとある県道沿いにあった。
大石寺からも程近い場所にあるが、富士宮市郊外にあるのは間違いない。
路線バスも走っているようだが、明らかに車が無いと不便な場所ではあるようだ。
県道も道が狭いせいか、地元の車は軽自動車やコンパクトカーが多い。
宅配便やコンビニ配送の2トン車が大型車に見えてしまうほどだ。
元々走り屋の高橋なら、狭い道でも難無く走行していたが。
そうして、民宿の駐車場に車を止める。
他に車は2~3台ほど止まっていた。
それが他の宿泊客の車なのか、或いは関係者の車なのかは判別できない。
1台は地元の富士山ナンバーだったし、もう1台は静岡ナンバーだったからだ。
もう1台は他県ナンバーだったが、トラックなので、よく分からない。
愛原:「木造2階建てか。まあ、奥行きは広そうだな」
車から荷物を降ろし、正面玄関のガラス戸を開けた。
愛原:「こんにちはー」
私が声を掛けると……。
愛原公一:「いらっしゃ~い。旅館さのやへ~」
奥から紺色の法被を着た公一伯父さんがやってきた。
高橋:「爺さん、バイトなう!?」
公一:「おお!キミは確か、学の腰巾着だったな!よく来たのー!」
高橋:「こしぎんちゃく……!」
絵恋:「どっちかというと、金魚の糞じゃない?」
リサ:「太鼓持ちとも言う」
高橋:「オマエら、後で潤井川に叩き落す!」
愛原:「狸祭りでもやる気か。それより伯父さん、今日から1泊で予約入れてるんだけど?」
公一:「うむうむ。部屋が2つじゃったの。しかし、ワシの記憶が確かなら、6人のはずじゃが?」
愛原:「あとの2人は、大石寺にいるよ。夕方までいるから、その時に」
公一:「なるほどなるほど。おおかた、御開扉を受けた後で、六壺の夕勤行に出る算段なのじゃろう」
さすがは大石寺の近所。
大石寺の行事には詳しいわけだ。
愛原政子:「あんた!何をそこでくっちゃべってんだい!?」
すると、帳場の奥から恰幅の良い女将がやってきた。
私の伯母さんで、愛原政子である。
公一伯父さんより年下であるものの、70代の老婆とは思えないマッチョなオバハンだ。
離婚した元旦那には厳しいが……。
政子:「あらぁ~、学、久しぶりねぇ!」
愛原学:「お、お久しぶりです、伯母さん」
政子:「どうしたの、急に?」
学:「ちょ、ちょっと今日は伯父さんに話があって……」
公一:「うむうむ。大事な話じゃ。お茶の用意をせんとなぁ……」
政子:「何言ってんだい?これから他にもお客が来るってのに、のんびりお茶しばいてる場合じゃないよっ!ここに置いといてやってるんだから、きりきり働きな!」
公一:「学、このブラック民宿をホワイトホテルに変貌させてくれんかの?」
学:「そ、それは探偵の仕事じゃないな~……」
そういうのは経営コンサルタントにでも相談するべきであろう。
政子:「何がブラック民宿だい!いいから、さっさとこのお客様達にお茶の用意をするんだよっ!」
公一:「へいへーい」
公一伯父さんは、逃げるように奥へと引っ込んで行った。
政子:「ゴメンねぇ、うちの元ヤドロクが……。宮城の方でも、随分と迷惑を掛けたみたいだねぇ……」
学:「いや、まあ、宮城県ではいい農学者だったのにね……」
政子:「ニュースで観たけど、どこかの製薬会社に札束チラつかされて、欲が出たんだろ?あのヤドロクには、いい薬さ。製薬会社なだけにね」
学:「ははは……なるほど」
政子:「それじゃ、こちらに書いてくれないかい?」
学:「はいはい」
私は宿帳に所定事項を記入した。
宿泊者カードではなく、宿帳である。
さすがは民宿。
一気に昭和時代に戻ったかのようだ。
学:「後から2人、来ますんで。大石寺の参拝が終わったら」
政子:「あー、何かさっきそんなこと言ってたね。まさか、学も入信したのかい?」
学:「いや、俺はしてないよ」
政子:「そうかい。まあいいけどね。こっちも商売だしね。それじゃ、これが鍵だよ」
学:「ありがとう」
鍵番号を見ると、『201』と『202』と書かれていた。
2階の部屋らしい。
帳場には階段があるので、それで上がって行くのだろう。
リサ:「『エレベーターはこの奥です』だって」
学:「! エレベーターあるの!?」
政子:「後付けで造ったホームエレベーターさ。昨今のバリアフリー化に乗ってみてね。駐車場にも、車椅子マークのスペースがあっただろ?」
学:「そういえば……」
政子:「車イス用のトイレも、1階の奥に造ったさ」
学:「よくそんなお金あったねぇ……」
政子:「その金が無きゃ、あんなヤドロクうちに置かないよ」
学:「ええっ!?」
どうやら民宿のバリアフリー改造化の費用は、伯父さんが持ったらしい。
確かに伯父さんには被害者がいないから、被害者からの賠償請求は無い。
警察に逮捕された時に弁護士は雇ったようだから、それに関する費用が掛かったくらいか?
学:「でもまあ、ちょうど良かった。後から来る2人のうち、1人は片足が義足なんだ。もしかしたら、利用させてもらうかもね」
政子:「そうなのかい。それは良かったね」
というわけで試しに乗ってみたが、定員は3名という小ささだった。
まあ、ホームエレベーターなら妥当だろう。
確かに車椅子と、その介助者1人がすっぽり入る程度の大きさだった。
高橋:「先生、この民宿、地下があるんですか?」
エレベーターに乗ってみて、ボタンを見ると、1階と2階の他、B1階のボタンがあった。
学:「そ、倉庫か何かだろ?」
伯父さんの住んでた宮城の元公民館には何故か地下室があって、そこは伯父さんの秘密の研究室だったらしいが……。
2階に着いて、201号室と202号室に行ってみる。
赤いカーペットの敷かれた絨毯を進み、擦りガラスの引き戸になっている扉が客室の入口だった。
学:「それじゃ、俺達は201にするから、キミ達は隣の部屋な?」
リサ:「はーい。じゃあ、エレン、また後で」
リサは私達と一緒の部屋だと思ったようだ。
学&高橋:「オマエはあっち!」
絵恋:「リサさんはこっち!」
リサ:「ええ~?」
リサは残念そうな顔をした。