報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「脱出」

2022-10-24 19:51:19 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月12日15:00.天候:不明 宮城県仙台市青葉区新川某所 愛原公一邸(旧宅)地下→地上]

 私達は地下2階からエレベーターに乗り込んだ。
 エレベーターは手動式で、壁に取り付けられたレバーで操作するものだ。
 エレベーターが上昇すると、まずは地下1階を通過する。
 地下1階の通路は、1階から侵入してきた化け物達が闊歩していた。
 通過する時に私達の姿を見つけたハンターαが駆け寄って来たが、その頃には通過した。

 愛原:「ん?」

 上昇を続けるエレベーター。
 しかし、私は首を傾げた。
 いつまで経っても、1階に着かない。
 もう4階くらいの位置まで上がってないか???
 と、思うと、エレベーターが止まった。
 どうやら、最上部に到達したようである。
 だが、鉄格子の前には扉が無かった。

 愛原:「これはどういうことなんだ???」
 リサ:「先生……これ……」

 まだショックから立ち直りきってないリサが、後ろの壁を指さした。

 愛原:「ん?」

 すると後ろは壁だと思っていたのだが、引き戸の取っ手があった。
 しかも、それが僅かに開いている。

 愛原:「こっち!?」

 試しに私が開けてみると、出口は反対側だった。

 愛原:「紛らわしいな!」
 高橋:「本当っスね!」

 しかし、地上どころか、4階くらいまで昇ったような気がしたのに、出口は真っ暗だった。

 愛原:「???」

 私達は首を傾げざるを得なかった。

 高橋:「先生、多分、これ、山ん中っスよ」
 愛原:「あっ、そうか」

 家の裏手は山になっていた。
 エレベーターの位置的に、昇り続けると山の中に入るのだ。
 しかし、どうして???
 答えは通路を突き進んで分かった。

 愛原:「トロッコだ!」

 進んだ先には、トロッコがあった。
 線路もその先に伸びている。

 高橋:「何スか、これ?ケーサツに見つかった時の脱出用ですか?」
 リサ:「どこかで見たような……」

 リサが虚ろな目をしながら呟いた。
 まあ、明らかに日本アンブレラが造ったものだろうから、リサも見たことがあるのだろう。
 そういえば、アメリカのラクーンシティにも、研究施設からの脱出用に列車が走っていたのを見聞きしたことがある。

 愛原:「ということは、これは外に繋がってるってことじゃないか。これで脱出しよう」
 高橋:「はい!」

 私達はトロッコに乗り込んだ。

 愛原:「えーと……このレバーを引けばいいのか?」

 さすがに電車のハンドルとは構造が違う。
 多分、ブレーキと加速くらいの操作しかしないのだろう。
 ブレーキを解除すると、トロッコは一気に加速した。

 愛原:「おおおーっ!?」
 高橋:「ヒャッハーッ!!」
 リサ:「!!!」

 坂を下り行くトロッコ。
 しかし、どこまで繋がっているのだろう?

 リサ:「思い出した!」

 リサがポンと手を叩いた。

 愛原:「な、何だよ!?」
 リサ:「霧生市の研究所も、物資を鉄道で運んでたの!」
 愛原:「知ってるよ。霧生電鉄のトンネルの中だろ?引き込み線を作って、その先にアンブレラ専用の貨物駅を造ったんだよな?」
 リサ:「そうなんだけど、基本的に、日本アンブレラの研究施設ってそういう鉄道があるの」
 愛原:「と、いうことは……」
 高橋:「このトロッコも、どこかの鉄道に繋がってるってことっスか?」
 愛原:「仙山線かよ!?」

 えぇえ!?
 JRの線路に繋がってるの!?
 いいの、それ?!
 私が頭を抱えた時、トロッコが大きく揺れた。
 どうやら、線路の保守をロクに行っていないらしい。
 田舎のローカル線のように、ガタガタでよく揺れる。

 愛原:「いてっ!」

 私はトロッコの揺れに体を取られ、反対側の壁に体を打ち付けてしまった。
 その衝撃で、トロッコが右に傾く。
 と!

 リサ:「あれ!?」

 何と、途中に分岐があった!
 私のせいでトロッコが右に傾いたからなのか、それとも、元々ポイントが右に向いていたのかは不明だが、トロッコが右の線路に入って行った。

 リサ:「分岐があったよ!?」
 愛原:「なにっ!?」

 左側には何があったのだろう?
 ただ、方向的に左に行くと仙山線の線路があったのかもしれない。
 じゃあ、今向かってる右方向は……?

 愛原:「仙山線の線路に出られても困るが、こっちはこっちでどこに繋がってるのか不安だな……!」

 私はいつでも止まれるようにブレーキレバーを握っておいた。

 愛原:「んんん!?」
 高橋:「うわっ!?」
 リサ:「きゃーっ!」

 何だか、おかしい。
 トロッコが急勾配を何度も通過している。
 急降下したと思ったら、急上昇を始め、また急降下を始める。
 宙返りが無いところを除けば、まるで遊園地のジェットコースターみたいだ。

[同日15:30.天候:晴 同区作並某所 廃ホテル解体工事現場]

 トロッコが止まった所は、これまた真っ暗な所。
 しかし、何だか騒がしい。
 まるで、工事現場のような……?

 愛原:「このドアかな?……ううっ!開かない!」

 鍵が掛かっていて開かないというよりは、ドアが何かに引っ掛かって開かないといった感じ。

 高橋:「ちょっと、退いてください!」

 高橋はそう言って、ドアを蹴破った。
 すると!

 ガードマン:「オーライ!オーライ!オーライ!」

 そこは工事現場だった。
 それも、何か建物の……。
 ドアの外には工事資材が散乱しており、外開きのドアは、これのせいで開かなかったのだ!

 愛原:「な、何だこりゃあ!?」
 ガードマン:「ん?な、何なんだ、アンタ達は!?どこから入った!?」
 現場監督:「ちょっとアンタ達!危ないから出て行ってくれ!取り壊しの邪魔だ!」
 愛原:「取り壊しーっ!?」

 私達は半ば追い出されるようにして、解体工事現場を出た。
 工事現場の入口にある案内板を見ると、『仙台雨傘園解体工事』と書かれていた。
 雨傘園は日本アンブレラの保養施設である。
 仙台にもあったのか!
 てか、こっちはガッツリ取り壊されている!!

 現場監督:「困るんだよ。勝手に入られると……」
 愛原:「ど、どうもすいませんでした。あ、あの……ここの建物って、長らく廃墟だったりしてました?」
 現場監督:「ん?ああ、そうらしいね。だけど、新しい買い手が付いたんで、取り壊して、また新しいホテルを建てるんですよ」
 愛原:「そ、そうでしたか」

 ということは、ここに金庫があったとしても、とっくに運び出されてるか。

 現場監督:「じゃ、今度から気をつけてくださいよ」
 愛原:「あ、あの、最後にもう1つだけいいでしょうか?」
 現場監督:「何だい?」
 愛原:「ここから街の方に行く、バスとか電車とか無いでしょうか?」
 現場監督:「はあ?何で来たの?まあ……この先に作並温泉の温泉街があって、そこにバス停があったけども……」
 愛原:「あ、どうもありがとうございます」

 私達は仙台弁交じりの現場監督に礼を言って、工事現場をあとにした。
 工事現場に至る小道には、道幅いっぱいにダンプカーが出入りしている。
 小道を出ると、国道48号線に出た。

 愛原:「作並まで来ちゃったってことか……」
 高橋:「あのホテルから繋がってたんですね。でも今は、そのホテルも無くなった……」
 愛原:「こっちもこっちで危なかったなー!」

 結局、どっちに出るのが正しかったのだろう?

 愛原:「えーと、あっちだな……」

 オレンジ色のセンターラインが引かれた二車線の地方国道という点では、昨日の国道286号線と同じだが、こちらはもっと交通量があるように思えた。
 雨傘園は温泉街から外れた場所にあるらしく、温泉街まで行くのに、少し歩くことになったのである。
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“私立探偵 愛原学” 「地下室の奥」

2022-10-24 15:40:35 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月12日14:00.天候:不明 宮城県仙台市青葉区新川某所 愛原公一邸(旧宅)地下]

 退路を断たれた私達は、地下室の奥に進むことにした。

 愛原:「これは……」

 通路の奥にはエレベーターがあった。
 それも、普通のエレベーターではない。

 高橋:「高島屋のエレベーターみたいっスね」
 愛原:「そうだな」

 日本橋高島屋のエレベーター。
 扉が鉄格子の引き戸になっており、エレベーターガールによる半自動運転が行われている。
 半自動というのは、扉に関しては自動開閉式になっているのと、行き先階の設定が自動になっている所は、本当の意味で手動式ではないという意味だ。
 本当の手動式は扉の開閉も手動、行き先階もボタンではなく、運転手のレバーで操作するのである(レバー操作に関しては、日本橋高島屋もそう)。

 愛原:「でも、エレベーターガールは乗ってないぞ?」
 高橋:「自分達で操作するしか無いっスね」

 ボタンを押すが、そもそも通電していない。
 このエレベーターに関しても電源ボックスがあって、それを開けるとヒューズが無くなっていた。
 これに関しては、特に心配は無い。
 何故なら、先ほどの部屋で汎用ヒューズを入手したからである。
 これをはめ込むと、通電してエレベーターが動いた。
 手動式の鉄格子の引き戸を開けると、案の定、レバーで操作するタイプのエレベーターだと分かる。
 日本アンブレラがここを使っていた頃は、エレベーターガールでも乗っていたのだろうか?

 高橋:「先生、レバーが無いです」
 愛原:「これ、ここで使うのか?もしかして」

 同じ室内でクランクを拾っていた。
 クランクだと思ったのだが、どうも見た目は昔の電車のマスコンハンドルに見えてしょうがなかった。
 103系とかにあった、回転式のマスコンレバーね。
 確かに日本橋高島屋のエレベーターも、操作レバーは電車のマスコンハンドルに似てなくもない。

 愛原:「あ、ここで使うの、これ!」

 クランクみたいな重要なキーアイテムは、中ボス辺りが持っているイメージだが、ここではすんなり手に入ったので意外だった。
 尚、アメリカのオリジナル版リサ・トレヴァーが、隠れ家のインテリアに置いていたという……。

 リサ:「上に参りまーす!」
 愛原:「え、上行けんの?」
 リサ:「だって1階のランプが点いてるよ?」
 愛原:「おお!それじゃ、これで地上に脱出できるってことじゃないか!」

 そして同時に、B2Fのランプが点灯しているのも気になった。

 愛原:「ちょっと先にB2Fを見てから上に上がろうか」
 高橋:「そうですね。一応、見てから姉ちゃんに報告しても……」
 愛原:「よし」

 私はドアを閉めた。
 ちゃんと閉めないと安全装置が働いて、エレベーターが動かない。
 と、同時に通路の向こうから大きな金属音がして、更に化け物達の雄叫びが聞こえて来た。
 どうやら連中、あの鉄格子の扉をブチ破ったらしい。

 愛原:「行くぞ!」

 通路の向こうにハンターαの姿が見えたと同時に、私はレバーを操作した。
 ガクンと案外速いスピードで降下するエレベーター。
 で、確かこれ……。

 リサ:「地下2階でございまーす」
 高橋:「先生、ドア開かないっスよ?」
 愛原:「ちょっと待って。微調整する!」

 そうなのだ。
 カゴと乗り場の位置を合わせないと、安全装置のロックが掛かったままとなり、ドアが開けられないのだ。

 愛原:「これでどうだ?」
 高橋:「開きました!」

 通路は奥に続いており、こちらは停電しているのか、照明が点かなかった。
 手持ちのライトを点灯させて進む。
 この通路も一本道となっており、突き当りに重厚な鉄扉があった。
 そして、こちらもカードキー式になっているが、通電ランプが点いていた。
 廊下の照明に関しては、その部分のヒューズが飛んでいるか、断線しているかしているのだろう。
 リサのカードキーで、それは解錠できた。

 愛原:「何があるかな……」

 入ると思った通り、研究室があった……って!

 愛原:「こ、これは……!」

 大きなカプセルと培養液に入った、全裸の少女達がいた。
 1人1つのカプセルに入っている。
 少女達は小学生~中学生くらいに見えた。

 リサ:「あ……ああ……!」

 その時、リサが頭を抱えてフラついた。

 愛原:「おい、リサ!大丈夫か!?」

 この時、リサの脳裏にフラッシュバックが起きたという。
 人間だった頃の記憶は殆ど無いが、それが急に断片的に蘇った感じ。

 リサ:「わ、わたしも……この中に……いた……」

 日本版リサ・トレヴァーとして生まれ変わり、研究所内で数々の実験を受けさせられた記憶はあるものの、それ以前の記憶に関しては殆ど無いリサ。
 カプセルの中に入れられ、他にも浚われた少女達と共に人体改造を……。

 リサ:「げぇェッ……!!」

 そして、その場に嘔吐した。
 ビチャビチャと吐き出された胃液の中に混じって、リサの体内に生息している寄生虫がのたうち回っている。

 高橋:「ど、どうします、先生!?」
 愛原:「俺達にはどうすることもできんよ。とにかく、ここの写真を撮って、地上に脱出だ。あとはもう、デイライトやBSAAの出番だ」

 座り込んだリサが立ち上がろうと、近くの机の縁を掴む。
 だが、バランスを崩し、机の上の雑多な書類と共にまた倒れた。

 愛原:「リサ、無理するな!」

 リサに手を貸そうとした私の目に、とある書類が目に飛び込んで来た。

 愛原:「これは……!」

 『日本版リサ・トレヴァー②について。……本日、転生の儀に成功した②にあっては、○×県霧生市の開発センターにて観察を行うものとする。②番は東京都○○市において、裏切り者の上野達夫家の長女として誕生したが、今回報復措置として粛清並びに娘達を実験材料に使うものと決定(尚、長男・次男にあっては、男児は実験材料に向かない為、粛清対象とする)。当然この事は一家殺人事件となり、警察の捜査対象となるが……』

 愛原:「リサのことだ!」

 リサの出自が書かれている!

 高橋:「先生、これを!」

 高橋が別の書類を見つけた。
 それは、日本アンブレラがリサの家族を虐殺したことで、警視庁で捜査本部が立ち上げられたわけだが、その捜査本部に所属している刑事達のリストだった。
 その中に、あの高木巡査部長がいた。
 そう。
 バイオハザードの最中、霧生市で会った警視庁の刑事である。
 確か彼は、都内で起きた一家殺人事件の捜査の一環として、霧生市に来たと言っていた。

 愛原:「ここで繋がってたのかよ……」

 リサの出自が栃木にあると思っていた私は、この事件は全く無関係だと思っていたのだが……。

 高橋:「あと、これもです」

 それは上野家の家系図だった。
 この中に、『暢子』とあるのが、人間だった頃のリサの本名である。
 そして、家系図の中には利恵の名前もあった。
 だが、この家系図が正しいとすると、この2人の関係は姉妹ではなく、従姉妹ということになる。
 どうも違和感があったのだが、やはりリサと利恵は本当の姉妹ではなかった。
 しかし、親戚関係だったということもあり、本当の無関係というわけでもない。

 愛原:「リサの実年齢は確かに俺より年上なんだろうが……それにしては、時系列がおかしくないか?」
 高橋:「そうですね……」

 リサが人間のまま歳を取っていたら、私より10歳くらい年上なのだ。
 しかし、人間だった頃のリサが事件に巻き込まれたのは、10歳くらいということになり、今から40年くらい前ということになる。
 そんな事件を、あの高木刑事が今更追って来るのもおかしい。
 だが、ここではそれ以上のことは分からなかった。

 愛原:「取りあえず、リサに関する資料だけ持ってここを出よう。あとはデイライトやBSAAに任す!」
 高橋:「そうしましょう!……リサ、早く来い!」
 リサ:「うぅう……ひっく……!」

 リサは泣いていたが、今は脱出に専念しないといけない。
 地下1階まで下りて来た化け物達が、ここに来ないとも限らないのだ。

 愛原:「リサ、悪いが、早く!」
 高橋:「泣くのは脱出してからだ!」

 私と高橋でリサを立たせ、研究室を出る。

 愛原:「あのエレベーター、確かに地上に出られるんだな?」
 高橋:「『1F』と書かれたランプが点いてましたから、多分……」

 エレベーターに乗り、扉を閉めると、私はレバーを操作して、エレベーターを上昇させた。
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“私立探偵 愛原学” 「地下室」

2022-10-24 11:46:30 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月12日13:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区新川某所 旧・愛原公一邸]

 地下に下りると、空気はヒンヤリしていた。
 天然の冷房と思うが、地上での戦いがあった後ということもあり、あまり気持ちの良いものではない。
 階段の先にも、コンクリート製の無機質の壁や床、天井の通路が続いていた。
 照明もまた点いている。
 今のところ、化け物の気配は無い。

 愛原:「ん?これは……」

 通路の途中に鉄扉があった。
 古い団地の部屋の玄関のドアのような感じだ。
 私が金庫で手に入れた鍵を使うと、何と開いた!

 愛原:「ここなのか?」

 私が中に入ると、そこは小部屋になっていた。
 単なる倉庫のようにしか見えないが、事務机と椅子がある。
 その机の上にも、金庫があった。
 据置型ではあるだろうが、ホテルや旅館の客室にあるようなタイプの金庫である。
 鍵式の金庫であったが、鍵は掛かっていなかった。
 中を開けると、SDメモリーカードがあった。

 愛原:「これが伯父さんが渡したかったもの?」
 高橋:「何だか、随分回りくどいっスね。もしかしたら、とんでもない物が入っているのかも……」
 愛原:「そうだな。ちょっと見てみよう」

 私は手持ちのノートPCを立ち上げると、それでSDカードの中身を確認した。
 どうやら、それは動画であるらしい。
 公一伯父さんと、白井伝三郎の対談を隠しカメラで撮っていたようだ。

[日付不明 天候:不明 場所:不明]

 白井:「……あなたの甥っ子、とても元気そうで良かった」
 公一:「おかげさまで」
 白井:「あの新薬を『脳の特効薬』として売り出せば、アンブレラも正義の製薬会社となれただろうに、残念だよ」
 公一:「そもそもが、アンブレラの成り立ちからして、新薬の開発など、単なる隠れ蓑に過ぎんじゃろう」

 愛原公一、自分の発明品である化学肥料の入ったアンプルをジュラルミンケースに詰める。

 公一:「本当にこんなので、『転生の儀』ができるのかね?」
 白井:「こっちのリサ・トレヴァーから抽出した変異Gウィルス、そして変異Tウィルスとの融合、私の新薬……そして、あなたの発明品があれば100%成功する」
 公一:「ワシはしばらく間、警察の御厄介になるじゃろうな」
 白井:「悪いが、その方がいい。あなたもまた、これで狙われる立場となってしまった。さすがの殺し屋も、刑務所の中までは入って来れまい」
 公一:「デューク東郷は、刑務所の中にまで入って来たがな」
 白井:「アンブレラの残党や、その意思を継いだだけの連中に、そんな超一流のスナイパーを雇える人脈など無いよ」
 公一:「かのアレクシア・ウェスカーも失敗した『転生の儀』、オマエさんは成功か……」
 白井:「彼女と違って、私のプランは半年もコールドスリープすることなく、転生する。可愛い女の子にでもなって、再会しよう」
 公一:「ワシはそんな自然の摂理に反するようなことには、興味は無いがね。それにしても、誰の肉体を使うつもりかね?まさか、またどこかから浚ってきた少女を殺して乗っ取るとかいうのではあるまいな?」
 白井:「自然の摂理で枯れた作物を蘇らせるという妙薬を開発した本人のセリフとは思えんが?それに、安心したまえ。既に死んでいる少女の遺骨を使う」
 公一:「いくらワシの発明でも、骨となった生き物を蘇らせることは不可能だぞ?」
 白井:「だから、私の発明と融合させる必要があるのだよ」
 公一:「気に入らぬ。一目惚れした同級生の遺骨を奪って蘇らせるだけでなく、その体を乗っ取って転生しようなどと……」
 白井:「東京中央学園上野高校。あそこから既に物語は始まっていたのだよ。デイライトの連中は、そこを怪しんで、リサ・トレヴァーを入学させたようだがね」

 白井はそう言うと、席を立った。

 白井:「話は終わった。失礼するよ。報酬は、キミのJAバンクに振り込んでおく。これで、老後の心配も無いな」
 公一:「『転生の儀』の場所、教えてくれんのか?」
 白井:「何故、私が『転生の儀』という宗教染みた言葉を使ったと思う?……それでは」

 白井は本当に退出した。

 公一:「クソッ……!」

 そして公一が、カメラに近づく。

 公一:「学よ。この映像をオマエに託す。見つける頃にはもう手遅れかもしれんが、ワシは真実を守り通そう。何年でも、何十年でも!……それと、このメモリーカードを保管してある部屋をよく調べてみるのじゃ」

[同日13:30.天候:晴 愛原公一邸(旧宅)地下室倉庫]

 ……ここで映像は終わっていた。

 愛原:「今の映像の内容を纏めると、俺は子供の頃、脳の病気に罹ったらしい。その特効薬をくれたのは、どうやら白井伝三郎のようだ」
 高橋:「それじゃ、先生?!」
 愛原:「俺がどうしてTウィルスに対する抗体を最初から持っていたのかが分かったよ。あの特効薬を飲んだからだ。俺の病気は脳細胞が壊死していくもの。しかし、Tウィルスはそんな細胞を蘇らせる効果がある」

 アメリカのアンブレラ本社では、筋ジストロフィーの治療薬としても開発されていたらしい。

 愛原:「結果的に、俺の脳の病気はその薬のおかげで完治した」
 高橋:「し、白井が命の恩人ですか?」
 愛原:「う、うむ……。そういうことになるなぁ……」
 リサ:「そんなのヤダよ!」
 愛原:「嫌だと言われても、事実のようだしなぁ……」

 もっとも、白井がどういう気持ちで私を助けたのかは不明だ。
 あの頃はまだ正義感があったのかもしれないし、或いは単なる気まぐれかもしれない。
 伯父さんとは旧知の仲だったようだから、そのよしみで助けただけかもしれない。

 愛原:「リサにとっては仇敵であることには変わりは無いから、俺の対応は分からないよ。ただ、もしも会うようなことはあったら、一言礼くらいは言うかもしれないね」
 リサ:「うぅ……」
 愛原:「それより、ここの探索だ」
 高橋:「は、はい!」

 私達は部屋の探索をした。
 机の引き出しや、積み重ねられている本などを探す。
 すると、1冊の気になるノートを見つけた。
 それは恐らく伯父さんが書いたと思われる日記。
 そこには、私が幼少の頃に脳の病気に罹り、長くは生きられないことが書かれていた。
 で、たまたま伯父さんの知り合いに日本アンブレラの関係者がいたから、そこで脳の病気に効く薬のことについて聞いたらしい。
 そしたら、白井伝三郎を紹介されたのことだ。

 愛原:「何か、俺のせいみたいで……」
 高橋:「病気は先生の責任じゃないです!」
 リサ:「そうだよ!先生が病気で死んでも、アタシは先生の脳味噌食べれるよ!」
 愛原&高橋:「食わんでいい!」

 それから、『転生の儀』についての見解も書かれていた。
 白井が新興宗教団体“天長会”の信者であることは、既に分かっている。
 天長会にも転生に関する教えがあり、それにかこつけて転生をするようだと書かれていた。
 恐らくその場所は……。

 愛原:「栃木のあそこか」

 ホテル天長園に隣接した聖堂。
 ホテル自体は信者でなくても利用できるが、聖堂に関しては信者でないと出入りできない。

 愛原:「取りあえず、目ぼしい物を持って、ここから出よう」

 他にも机の引き出しには、日本版リサ・トレヴァーに関する資料とかもあった。
 もしかしたら、この中を探せば、うちのリサの生い立ちとかも分かったりしてな。

 高橋:「こんな所っスかね?」
 愛原:「そうだな。取りあえず、ここから出て善場主任に報告しよう」

 私達は資料を持ち出すと、地上への階段を目指した。
 だが!

 愛原:「うっ!?」

 鉄格子の扉の向こうに蠢く化け物達。
 どうやら、2階から下りてきたようである。
 鉄格子の向こう側にいる私達をどうにかしようともがいているが、鉄格子は頑丈なせいで破れないでいる。

 リサ:「ウゥウ……!」

 リサは爪を立てて、鉄格子の向こう側にいる化け物達を威嚇するが、化け物達は怯まない。

 高橋:「どうします、先生?弾、足りますかね?」
 愛原:「恐らく足らんだろう。通路が向こう側に続いているだろ?もしかしたら、他に脱出口があるかもしれない。向こうに行ってみよう」
 高橋:「はい!……おい、早く行くぞ!」
 リサ:「ナメやがって……!」

 リサは特級BOWである自分に対し、中・下級BOWの連中が怯まなかったことに腹を立てているらしい。
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