とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

松岡圭祐「ミッキーマウスの憂鬱」

2009-12-01 23:39:00 | 読書
このところ松岡圭祐の小説ばかり読んでいた。ベストセラーの『千里眼シリーズ』は、ほぼ全巻読破した。他には『催眠シリーズ』『碧い瞳とニュアージュシリーズ』も読んだ。次に何を読もうかと思い、探して見つけたのが「ミッキーマウスの憂鬱」という本である。

どんな内容かというと、史上初ディズニーランド青春小説、ようこそ裏舞台(バックステージ)へ!という見出しで、東京ディズニーランドのバイトになった21歳の若者が友情、トラブル、純愛などの様々な出来事を通じ、やがて裏方の意義や誇りに目覚めていくという話だ。秘密のベールに包まれた巨大テーマパークの〈バックステージ〉で働く人々の3日間を描き、最後は結構感動させられる。今までの松岡圭祐の小説とは一味違う味付けである。

ページ数はそれほど多くないので、さらさらと軽く読めてしまうが、すっきりした終わり方であり読後感も悪くない。興味深いのは、今まで表舞台には明かされることのなかった「ディズニー」の秘密の舞台裏を、おそらく初めて、そしてもっとも克明に書いているという事だ。「ディズニー」の憲法では、ミッキーマウスに人が入っているなんてあり得ない。ミッキーはミッキーでしかないのだ。それを崩すことは絶対に許されないことなのである。

そして、従業員はキャスト、訪問者はゲストと呼ばれ、キャストはゲストの前ではいつも演技をしていなくてはならないし、疲れた表情をしてはいけない。舞台裏の人は表通りを歩けないし、舞台の裏をゲストに見せてもいけないという。徹底した社員教育によって夢の王国が形作られているのである。でも、幼い子を除けば、誰でもミッキーの中には人が入っていていることはわかっている。みんな、「ディズニー」の王国では、そのしきたりに染まり、心地よい気分でいたいから、そんなことはおおっぴらには口にしないのだ。

主人公の青年は、夢のある仕事がしたいからと、派遣会社を通して「東京ディズニーランド」のキャストに応募した。何とかアルバイトとして採用され、パレードで演技するクルーの着替えを手伝う仕事にありついた。夢のある職場として入ったが、ディズニーランドも世間一般の会社と変わらない現実があった。表通りを歩いて移動することは許されず、別の部署の仕事に口を出すこともダメという制約でいっぱいの環境に、最初はとまどい続いて怒り、嫌気の差し始めていた最中、主人公の配属された部署でミッキーマウスの着ぐるみが消えてしまうという事件が起こって大騒ぎとなるのだ。そんな中で、正社員とアルバイトや派遣社員などの待遇の違いによる差別や規則に頼る企業体質など、よくある話が出てくる。夢の王国といえど、現実は厳しいということを主人公は思い知らされる。

そんな中でも、仲間を助けようと突っ走る主人公。そして、キャストたちの協力によってミッキーマウスの着ぐるみが無事見つかる。仕事として取り組むうえでは、厳しい現実があるが、夢の王国を支えるために、キャストたちが一致団結して裏舞台を支えているという事実ははっきりわかる。これが「ディズニー」の王国の魅力であり、リピーターが減らない要因であろう。

この小説は、フィクションであり、実際の「東京ディズニーランド」とは無関係の世界の物語だと、作者は巻末で断っているが、綿密な取材でかかれたことに違いないだろう。キャストたちの目に見えない努力によって、この国に入れば夢の世界に浸っていることが出来るのだ。この小説読んで、またもや「ディズニー」の王国に行きたくなったものである。

裏話的な話
・ミッキーマウスの着ぐるみはアメリカ製の特注品。なくなったからといって他の着ぐるみで間に合わせるなんてことはできない。しかも、なくなった着ぐるみが、公の場所で見つかるなんて事は許されない。ミッキーの中に人が入っていたということがあからさまになってしまうからだ。下手をすれば、国際問題になりかねないという。
・他のキャラクターもミッキーマウスの身長に合うよう厳密に決められているから、ミッキーマウスの”中の人”が代わってしまうと、後ろのクルーのすべても代えられてしまう。
・ミッキーの中に入る人は徹底した教育をされていて、自分がいつ、どこでミッキーとして出没するか決して誰にも教えてはいけない。たとえ家族、親にでもだ。
・ミッキーは世界に一匹しかいないというのが前提だ。だからテレビで放送されている場合かぶって出演することはない。また、一つのパークでかぶって出没することはない(ただ、ランドとシーではかぶることもあるらしいし、ミッキーの着ぐるみは数体あるようだ)