ITSを疑う

ITS(高度道路交通システム)やカーマルチメディア、スマホ、中国関連を中心に書き綴っています。

ドイツ3社連合がhereを買収 本当の理由

2015年08月05日 | 自動運転

NOKIAが売却先を探していた傘下のデジタル地図メーカーhereはおおかたの予想通りドイツのプレミアム系カーメーカー、メルセデス、BMW及びアウディの3社連合により31億ドルで買収が決まった。

なぜドイツの3社がデジタル地図メーカーを必死になって買収したのか、ということについてはIT系メディアが色々と解説している。GoogleやAppleが自動車関連に進出するなかでの防御策である、という論調が多い。確かにそれもあるのだがちょっと違う。

なかでもピントはずれなのは、車内のOSがCarplayやAndroidAutoに牛耳られてしまうことへの対抗というもの。これは全く違う。車内エンタメなんてどうでもいいのだ。というか、スマホ連携はユーザーニーズで、スマホをカーメーカーが作れない以上はCarplayやAndroidAutoに任せるしかない。スマホの画面を車のディスプレイで表示するかしないか程度の差でしかなく、あくまで車内エンタメであり車両制御とは全くの別物なのだ。

hereを買収した理由は同社がもつ3Dマップ。これがあれば自社位置をセンチメートルレベルで把握できるため自動走行に不可欠なのだが、だからといってカーメーカーが保有する必要はない。しかし、いま世界で3D地図を作れるのはTOMTOMとGoogleしかない。Googleはいわずもがな、自動運転のライバルだ。

自動運転が実現したときに一番ビジネスが危ぶまれるのは走り系のプレミアムブランド。まさにこの3社だ。

だから数年前まで彼らは自動運転には否定的だった。しかしGoogleが参入し、交通事故死ゼロという社会的要請について世の中の認識が拡大してきたことから、将来は最終的に自動運転の世界になることは避けられないと判断したのだろう。昨年くらいから一転してモータショーなどでも積極的に自動運転を言うようになった。

運転車が運転しない車に走る喜び系の走行性能は無用になり、コスト競争になる。このまま放置すると彼らに全く未来はなくなる。であれば、そこに至るまでにアドバンテージを取ってしまおうというのが独3社の読みだろう。つまり、IT系会社に対する対抗策というよりは他のカーメーカー、特に日系等の大衆カーメーカーに対する対抗策だと私は思う。


自動運転と3D地図データ

2015年07月16日 | 自動運転

欧州最大手のデジタル地図メーカーhere(旧navteq)は、欧米での3D地図データ作成に乗り出した。

自動運転を実現するため には、通常の2DのマップとGPSでは不十分であり、3Dのデータが必要。実際の建物や標識の3D画像データとカメラ映像をマッチングさせて自車位置をセ ンチメートル単位で割り出さないと完全自動運転はできない。さらに、道路、建物や標識は変化するので、常に最新状況へのアップデートが必要になる。道路の 陥没とか一時的な車線封鎖などは車両のカメラで判定することになるが、事前に分かっていたほうがより安全な走行が可能になる。

こうしたリアルタイムに近い情報を自社の計測車両で常時アップデートしていくことは現実的ではなく、ユーザー車両のカメラを使った最新情報をクラウドにアップロードしていく方向になるのだろう。そしてその最新情報はすべての自動走行車で共用することになる。

3Dの地図データはとてつもなく大きい。これら膨大なデータがすべての自動運転車とクラウドの間でやり取りされるといなると、そのトラフィックは想像を絶するものになる。この技術がすでに確立しているかは私は専門外なのでわからないが、いずれ実現するのだろう。

hereを所有するNOKIAはこの事業を売却しようとしており、ドイツ車メーカー連合(メルセデス、BMW、アウディ)が買収に名乗りを上げている。自動運転車に対していま最も真剣に取り組んでいるこれらドイツメーカーとしては、当然の動きだといえよう。

そ もそもドライビングパフォーマンス、走る喜びを売り物にしているドイツのプレミアム系メーカーにとって、加速、コーナリングに運転者が関与しない自動運転 車は悪夢以外の何物でもない。かといって看過すると自らの存在自体が危うくなる。彼らはこの市場に先に乗り込んでそれなりの居場所を確保する方向に動いて いるのではないか、と私は見ている。


ZMPのロボットタクシー構想

2015年07月08日 | 自動運転

DeNAと提携したZMPのロボットタクシー構想についてはすでにかなりメディアに露出して話題となっている。日本初の自動運転ビジネスということで頑張ってほしいと思っているが、ここにあるような(そしてまあ、典型的な)メディアの記事をみるとちょっと違和感がある。

疾走するロボットタクシーの風雲児「ZMP」はどこまで突き進むのか ニュースイッチ

自動運転は国際的にその定義としてレベルが定められており、自動ブレーキはレベル1、自動操舵が加わるとレベル2、運転手がなにもしなくても自動運転できるが運転手はいつでも運転再開できるものがレベル3、運転手が不要な、いわゆる完全自動運転をレベル4としている。

一般にレベル3とレベル4の間にはとても大きな壁があるといわれており、それは技術の壁ではなく法整備とメーカーとしての責任の問題となる。レベル3は最終的な責任はあくまで運転者にあるが、レベル4の場合はカーメーカーもしくはシステムを運営する運営者がすべての責任を負わなければならない。

もちろんロボットタクシーはレベル4になるが、これが普通の道路を2020年までに走るようになるとは到底思えない。おそらく法律上無理だろうが、それ以上にインフラが整わない。最初の完全自動運転は専用道で、かつ道路側に誘導装置が設置された特定区間でしか実現しないだろう。歩行者、自転車、およびどんな運転をするかわからないその他の車と混交するトラフィックでロボットカーを走らせ、メーカーとして事故の責任を100%引き受けるというのはあまりに大胆な話だ。

さらに言えば、もし仮に2020年に実現すると仮定しても、この記事に書かれているロボットタクシーの姿はちょっと私には意味が分からない。いわく

「選手村や東京駅、羽田空港などでロボタクが観光客らを迎える。さらに車内のディスプレーで国内観光地を紹介し、選択すれば交通手段やホテルを表示して旅行もできるといった具合だ。」

これがロボットタクシーでなくてはいけない理由はなんなんだろう。普通のタクシーにディスプレイを備えて観光案内し、興味のあるところをドライバーに伝えることと有意な差はない。

「無人運転は高齢者が年齢によって奪われる喜びを取り返すことができる」という側面は否定しないが、これだって有人タクシーを使うという手がある。

これらがロボットタクシーに置き換わる理由はただ一つ。有人タクシーより料金が安いということしかない。もちろん運転手の人件費がない分安いが、おそらくZMP社が立ち上げる初期の3000台というレベルでは車両のコストが高く、有人タクシーより運用コストが下がるかどうかは不透明だ。
もし有人タクシーより料金が高いとしたら、ロボットタクシーに乗る理由は「物珍しいから」くらいしか思い浮かばない。

すべての車が完全自動運転になれば、落石等のイレギュラーなケースを除き交通事故は無くなる。そこまでいけば車は衝突安全装備を取り去ることができる。さらに規格が統一され大量生産されれば相当なコストダウンができ、人件費がかからないロボットタクシーはビジネスとして成立する、というか人類の基本的な運輸機器になるだろう。でもそれは2020年どころではなく、もっとずっと先のことなのではないか。


自動運転がカーメーカーにもたらす脅威

2015年07月05日 | 自動運転

前のエントリーで、自動運転はひいてはカーシェアにつながり、それは自動車産業に破滅的な構造変化をもたらすだろうと書いた。

同じ趣旨のレポートが英国バークレイ銀行のアナリストにより提示されているので、内容的には繰り返しになるが参考に上げておこう。

Bloomingberg 記事

曰く、将来自動運転が実現し通常家庭の車両が自動運転車になるだけで、家人の間で車を共有できるので車の複数保有が減少しデトロイトスリーの需要は40%近く減ることになるとしている。

さらにカーシェアになると1台の車が現在の9台分、最終的にカーシェアでかつ同じ方向の旅客を拾って運行する「Poolタイプ」になると1台で18台に匹敵するという。

自動運転に関しては、その将来出現するであろう新市場に対する希望的な見方がある(実際に株式市場では自動運転関連株、というのがすでに囃されている)が、実際はカーメーカーにとって極めて深刻な事態が起こりうるのだ。

このレポートにも、ロボットカーの時代にはカーメーカーは低コストメーカーが選ばれるということが書かれている。それは当然で、車はロボットカー事業者が選定するわけだからブランドだのニッチマーケットだのはもはや意味をなさない。

さらに伝統的なカーメーカーにとっての逆風は、今まで培ってきたノウハウが無価値になるということ。

どういうことかといえば、完全自動運転車にはドライバビリティが要らない。加減速、コーナリグは決められたロジックで行うからドライバビリティは商品としての評価対象外となる。電車の加速やコーナリングに乗客が関心を持たないのと同じだ。実際この部分はカーメーカーのテストドライバーとエンジン、サスペンション制御技術によるノウハウの塊で、新興メーカーが真似できない分野だった。

あとは衝突安全。これもボティ構造やエアバック等についてカーメーカーに多大なノウハウの蓄積があるが、自動運転車は原則事故を起こさない。ノウハウばかりではなく、衝突安全を考えなくて良くなれば車のコストは劇的に下がる。新興メーカーや、場合によっては日立のような運輸車両を作っているメーカーでも車が作れる様になる。これらの要素をすべて勘案すれば、自動運転車のハードウエアは付加できる価値が少なくなることから今まで以上に厳しいコスト競争に晒され、結果世界で生き残るのは数社ということになるかもしれない。

私は、ドイツ車メーカーはここまで読んで自動運転に参入し、今のうちに出来る限り先手を打とうとしているのだと思う。


カーシェアリングと自動運転

2015年06月16日 | 自動運転

中国に駐在するにあたり日本の車は売却をした。日本に家は残してあるが家人は誰も運転しないし、年に数回しか帰らないのだから車を置いていく理由は全くない。しかし帰った時にはやはり何かと不便なのでTIMESのカーシェアリング会員になったということは前にも書いた。

偶々日本の自宅から徒歩3分程度の場所にステーション(シェアリングの車をおいてあるTIMESのパーキング)がある。TIMESは15分200円、距離制限無し、ガソリン代保険料込という料金で、短時間であれば非常に便利なのだが、出先で長居すると結構料金がかさむ。これはレンタカーも同じで、使っていない時間も課金されるのは仕方がない。

しかし、ダイムラー・ベンツが欧州と北米で展開しているCar2Goというカーシェアリング、これも前に書いているが、は決められた街の中であればどこでも乗り捨て自由で、乗ってから降りるまでの課金となる。片道15分の場所にいって、半日用事をして戻ってきた場合、30分間の課金ですむ。これがTIMESであればたったの400円。使っている時間だけ課金されるようになれば、経済的に考えて車を保有するよりはるかに有利になる。

もちろん帰るときに乗ってきた車がそこにある保証はないのだが、Car2Goであればだいたい徒歩10分圏内で空いている車が見つかるようだ。

もし完全自動運転が実現すると、カーシェアリングの車は呼べばきてくれることになる。そして行き先の玄関先でそのまま乗り捨ててもよく、さらに使った時間だけの課金となる。この状況を想像すれば、よほど趣味的な理由がない限り自分で車を持とうとは思わないだろう。

これが自動運転とカーシェアリングという、一見あまり関係ないような事柄が密接に結びついている理由なのだ。

ただし、完全自動運転の実現までにはまだまだ相当の時間がかかる。技術的にはもう大きな障害はないが、万が一の事故発生に対するリスクを自動車メーカーもしくは運営者がとる仕組みができていない。先進運転補助システム(ADAS)はかなり自動運転に近い所まで来ているが、運転者による操作を可能としており事故発生時には運転者の責任となる。しかし完全自動運転の場合はそうは行かない。そのリスクを完全に排除するためには道路のインフラ整備が必要で、とてもじゃないが東京オリンピックまでに実現なんていうスパンでの話ではない。 誤字訂正 車→者


滴滴快的と北京汽車、自動運転車などで戦略提携、

2015年06月11日 | 自動運転

北京日報によれば中国自動車大手の北京汽車集団(北京市順義区、北京汽車)はこのほど、タクシー配車アプリ中国最大手の滴滴快的と戦略提携を結んだと発表した。自動運転車に関しての連携とみられる。

適適快的はタクシー配車アプリ会社。大手二社が合併したので事実上中国のタクシーアプリの独占企業となっている。タクシー配車アプリは日本ではなじみがないが、東南アジア各国ではきわめて日常的に使われている。スマホでアプリを立ち上げ、行先を入力(音声入力も可)すると数分で近くのタクシーから応答があり、その後運転手から電話がかかってきて詳細の居場所を伝える仕組み。タクシー運転手は自分のスマホで応答する。これが流行しているためスマホを持たない人や運転手としゃべれない我々外国人はタクシーを捕まえるのが非常に難しくなってきている。とんだデジタルデバイドだ。

(余談だが、日本も今後オリンピックに向けて外国人訪問者が増えるからタクシーアプリを導入する、というニュースがあったが、正確な居場所の伝達は運転手との会話なくしてはできない。英語が喋れる運転手は少なく、さらに海外携帯しかもたない旅行者に国際電話を掛ける運転手がいるとは思えない。これは全く実情を無視した話だと思う。)

自動運転は将来ロボットタクシーになる。DeNAがいう2020年に実現というのはあまりに楽観的で、まだ10年以上かかると思っているがいずれはそこに落ち着くことになる。その際に滴滴快的の持つノウハウが生かさせることになると北京汽車は考えているのだろう。


Appleがカメラ搭載車両を走らせている理由

2015年06月11日 | 自動運転

GIGAZINEによれば、Appleはアメリカの一部地域で走らせているカメラ付車両は地図データ収集用だと発表した。

Apple運用の謎の自動車は地図データ収集のためと公式発表、ストリートビューを開発中か?

GIGAZINEでは、AppleもGoogleのようにストリートビューを始めるのか、と書いてあるが、わたしはそうは思わない。単純なストリートビューだとしたら、Appleが今更Googleマップに対抗するために多大の費用をかけるとは考えにくい。おそらくこれは自動運転試行の準備だろう。

Googleの自動運転車は自社位置の確定を単にGPSとGoogleマップで行っているわけではない。カメラでとらえた映像と、その場所のすでに撮影した映像(道路、建物、標識等)をマッチングさせてきわめて正確に自社位置を割り出している。

市街地において完全な自律走行をするためにはここまでやらないとならない。そのためには走行エリアの映像を記録してデータベースにする必要があるのだ。

噂通りAppleが自動走行車を計画しているとするなら、その準備として自社で道路映像情報を入手しなければならない。この話はそこにぴったり結びついている。


自動運転がもたらすイノベーションとは

2015年06月02日 | 自動運転

NewsPickの特集、モータリゼーション2.0 無料で読める漫画。

https://newspicks.com/news/957993/body

まあ、たわいもない内容ですが、注目してほしいのは自動運転車がもたらすとされるイノベーションの部分。

・生体認証を活用し緊急時には救急車になります。

・常時インターネットと接続し、あらゆるアプリケーションと連動し搭載させるコンテンツをカスタマイズできます。

二番目はなんか言ってるようで何にも言ってない。つまり、車が自動運転になってネットに繋がるとどんな「モータリゼーション2.0」な世界が訪れるかがよくわからないからだろう。車に乗って移動している間も家にいるようにネットに繋がるのは結構なことだが、それと移動機器がどう連動するのか?それこそ最初の「いざというときに車が救急車になる」ということくらいだろう。それも一人乗車時に気絶するような特殊なケースでの話。

結局、自動運転車とネットで実現する新しいビジネスなんて、そんなにない。だって居間にいるのと変わらないんだから。というか、自分では操縦しない移動手段という意味では電車やタクシーがもう既に存在する。自動運転で新しいビジネスが成立するなら、同じことが今あるタクシーや新幹線でも成立するはずだけどね。

なんだかこうしたIT系の夢物語みたいなのが先走りしすぎてるように感じる。そもそも自動運転車の最大の目的は事故を無くすということと。そして高齢者などのモビリティ確保(これはこの漫画でも結論のところに書かれているけど)。これがスタートでなければいけない。

あと、この漫画にはいいことばかり描かれているが、完全自動運転の世界が実現すると巨大マーケットが消失し相当数の雇用が失われるということも考えなくちゃね。これはまたいずれ。


DeNAとZMPによるロボットタクシー事業はどうなのか

2015年05月30日 | 自動運転

DeNAと自動運転プラットフォーム開発のZMPが自動運転タクシー事業を進める新会社「ロボットタクシー」を設立した。最近の自動運転に対するメディアの視線も熱いことから結構大きく報道されている。

はたしてDeNAがGoogle等の世界的な巨人と戦って勝てるのか、という話はそもそもあるが、日本初ベンチャーとして参入することは好ましいことだとおもう。

しかし、2020年の東京オリンピックまでに無人タクシーを走らせるというのはどう考えても不可能だ。特定のクローズドな環境で無人の輸送機械を走らせることくらいしかできないだろう。

各メディアの論調もハードルは高い、としているがその理由に法規制を上げている。しかし法規制以前の問題としてインフラ整備が必要なのだ。というか、その辺の構造が固まらないと法律も作れない。

ロボットタクシーである以上は乗客には運転責任がない。言うまでもなく完全自動運転車となる。それが自動車専用道以外を走行するとなると、極端に安全に振ったロジックを組むしかない。他の自動車、自転車、歩行者の動きが予測できないので、おそらく人や自転車と混交する道路ではほとんど徐行でいくしかない。これは交通渋滞にとって大きな問題となる。

私は完全な無人タクシーが実現するまでにはまだ相当な時間がかかると思っている。都市設計のやり直しレベルのインフラ整備と、非自動運転車の排除、自転車歩行者等を察知できるような携帯端末携行義務化など、やらなくてはいけないことが山のようにあり、それはある日突然実現するものではない。これには物理的な時間がかかる。

自動車専用道での部分的な自動運転の解禁、市街地でも人車分離による自動車専用道化や専用レーン化等をすすめ、自動運転非対応車がだんだんと減ってきて、その最終段階でやっと完全運転ロボットタクシーの走行が可能となる。そこから、一気に自動車は保有からシェアリングへと傾いて行くことになるだろう。

だからロボットタクシーなんてのはそんな簡単に事業化できるものではない。

あと、自動運転に参入するIT系の企業はどうも周辺ビジネスに過大な期待をしているように思える。エンタメ、ヘルスケア、観光等可能性は無限にひろがるというような論調があるが、それって自動運転でなくてもある話だろう。タクシーの中でスマホを弄る以上の何かなんて、それほどあるわけじゃない。所詮車の基本的価値は移動手段ということ。IT系の人は「究極のモバイル端末」という見方をしている事が多いが、ここにあまり大きな期待をするのは危ない。

いずれにしてもはじめなければ何もはじまらないので今回のこの合弁企業設立も頑張って欲しいが、事業化までの道のりは遠い。


ありがちなCarPlayに関する勘違い

2015年05月19日 | 自動運転

自動車業界は1985年のIBMと同じ道をたどろうとしてる。

タイトルを見て、自動運転の実現によりカーメーカーが単なる輸送機器メーカーになってしまうという話かと思ったら違っていた。

この記事の筆者(IT系の方のようだが)はいう。

「トヨタ自動車を含め、反対している企業も数社あるが、20社以上の自動車メーカーはインフォテインメントとメッセージ機能において、権利をAndroid AutoやApple CarPlayのいずれか、あるいは両方に渡してしまった。これは最終的に車の鍵をシリコンバレーに明け渡すことになりかねない。」

CarPlayは、単にiPhoneを車の中で使う際に運転の邪魔にならないようなわかりやすい形にして車両のディスプレイに表示をするインターフェースであり、それ以上のものではない。CarPlayを使わなくとも同じことはiPhoneをクレードルにひっかけておけばできる。ミラーキャストを使えばiPhoneの画面をそのままディスプレイに表示することだってすでにできる。でもそれは安全運転阻害となるから、表示できるコンテンツを制限し、運転中でも操作しやすいような画面で表示するのがCarPlayなのだ。

これを搭載したからといって車のオペレーションシステムをAppleに明け渡したことにはまったくならないし、百歩譲って車の「インフォテイメントの部分」をAppleに牛耳られることになっても大したことではない。というのも、どうせスマホが車内に持ち込まれた時点で車内のインフォテイメントはそのほとんどをスマホが代替できる。これには抗いようがない。

この記事の筆者は、車がネットに繋がることによって実現する例をいくつか挙げているが、果たしてこれが車にとってのキラーコンテンツなのだろうか?基本的に車に求められるものは快適かつ安全に目的地に到着することであり、ここに書かれている「車の中からオフィスのコーヒーメーカーのスイッチを入れる」といったサービスは多かれ少なかれそれを補完するものだろうが必須ではない。それ自身では何もできないパソコンとは根本的に違うのだ。

しかし自動運転となるとちょっと話が違ってくる。これは目的に安全に到着するという車の根本的な価値にかかわっている。そしてこの世界にApple, Googleが参入を狙っている。Apple はiPhoneのような垂直統合の世界を目指しているようにも思えるし、それだけに大手カーメーカーも危機感を持っているのだ。


髭剃り替刃とインクジェットプリンターと自動車

2015年05月17日 | 自動運転

エプソンでもキャノンでも、インクジェットプリンター本体は非常に廉価で販売されているがインクが高い。本体の価格を安くして本体の販売競争に勝ちその後インクで利益を回収するビジネスで、これはよく知られていることだ。

消費者としては、大きな瓶に入ったインクを買ってそれを随時継ぎ足して使いたいが、毎回カートリッジを交換しなければならない。しかもそのカートリッジにはチップが埋め込まれ、純正品でないと交換した履歴が残らないなどの仕掛けが施されている。

髭剃りの替刃もこれに少し似ている。交換替刃が彼らのビジネスのメインであり、それを装着するホルダーはただで配っているようなものだ。

しかし、プリンターともちょっと違う部分がある。それは剃り味の耐久性。4枚刃だろうが5枚刃だろうが、2−3週間で切れ味が悪くなる。世の中には工業用ダイヤを使って相当固いものを切る刃が存在する。今の技術を持ってすれば、一年位使える髭剃り替刃は簡単に作れるはずだ。

実はすでにシックからダイヤコートを施した替刃が発売されたことがある。この商品「ダイヤプラス」は耐久性に優れ非常に評判が良かったが、そのうち製造中止となった。自分の首を絞めてしまうからだ。確実に消費者が喜ぶ商品が、そののビジネスに壊滅的な打撃を与えることがある。カミソリは数社に寡占されている市場なので、替刃の持ちはこの先もずっとある一定のレベルに制御されていくことになる。

自動車にとっての自動運転も商品に改良が自らの首を絞めるという意味では似ている。事故がなくなるから部品が売れなくなるが、プリンタや替刃とは違いそれですべてのビジネスをしているわけではない。それ以上に大きな問題は、性能やブランドによる付加価値付与ができなくなるということ。自動運転は交通事故をなくすものであり、その実現は社会の要請だが、カーメーカーとしてはあまり積極的にやりたいものではない。

しかし、ここに来て各社が自動運転を言い始めた。看過すればIT系企業に主導権を握られてしまうからだ。

この先自動運転が自動車の産業構造を変えてしまう可能性もある。


自動運転で失業するのは?

2015年05月13日 | 自動運転

GIZAMODEさんの自動運転に関する記事。

自動運転で失業するのは運転手だけ、と思うのは甘い。

まさにこれが自動運転に関する最大の論点なのだ。 いまITS周りで一番ホットな話題はなんといっても自動運転だろう。このブログもそちらに舵を切っていこうかなとも思っている。 一月の終わりに何回かに分けて自動運転に関する長編のエントリーを上げたが、自動運転が産業構造にもたらす大変革に注目してもう一度簡単にまとめてみたい。

自動運転になると、車の性能差は意味をなさなくなる

運転の楽しみもない

白物家電のように実用品化がさらに進み、所有満足を満たす商品ではなくなる。

呼べばどこにでも来てくれるようになる。

ならば、所有せずにシェアリングでいいのでは?

Google等はそこにビジネスチャンスを見出している

シェアリングのほうが資源活用、環境面でははるかに優れる ↓ 長期的にはこれがゴール。

車というより輸送機器となる

車のニッチマーケットは崩壊し、カーメーカーは厳しいコスト競争にさらされる。

一定スペックの輸送機器をもっとも安く作る会社しか生き残れない。4位以下の会社は全滅か?

車は運営者(カーシェア会社か自治体)が一括管理するので自動車販売、整備業は大幅に縮小。

自動車のバリューチェーンにかかわるビジネスは全滅。少なくともBtoCビジネスはなくなる。

カーメーカーにとっては悪夢のようなシナリオだ。これに対してカーメーカーはどう出るのか?


自動運転に関するまとめ その6(最終)

2015年02月02日 | 自動運転
承前

6.完全自動運転実現後の世界

クルアがすべて自動運転となり,免許がなくてもだれでもいつでもどこにでも行ける。そして交通事故死がゼロになる。
その実現への道のりは遠いが、いずれそうした世界は来る。
その際には自動車産業を取り巻く環境はどうかわるのだろうか?

先に指摘したとおり,車の性能差がなくなると車という商品に対する考え方が変わるだろう。
走行性能は購買判断基準から外れる。また,Fun to Driving がなくなれば,商品に対する愛着だって薄れるだろう。
そして,車は使いたいときに玄関まで来てくれ,目的地で降りたら勝手に車庫に入ってくれるとなれば,車を所有するということにあまり意味がなくなってくる。

車が単なる移動手段ということになり,且つ車が玄関まで来てくれるなら,カーシェアリングで十分だと考えるのが普通だろう。

一人で移動する時と大人数で移動するときで違う大きさの車が使える。
長距離移動なら,寝台のような車も使える。
ちょっとお金を出せばファーストクラスのようなシートの車が来る。

世の中の車がすべてカーシェアになるとどうなるのか?

まず,一般ユーザーを対象とした自動車販売店がなくなり、販売員は不要となる。
事故ゼロの世界では,板金修理業もなくなる。
定期的な整備はカーシェア会社が行うことなるので,整備工場も淘汰される。
カーシェアの車をドレスアップすることはなくなるので,自動車用品産業もなくなる。
こうした、バリューチェーンと呼ばれるアフターマーケットはほとんど消滅する。

これによっておそらく相当数の雇用が失われることになる。
(もっとも、これが実現する頃にはその他の産業構造も激変しているだろう)

実はカーメーカーの収益は新車よりもアフターマーケットから多く得られている。
カーメーカーの収益源は新車販売だけ,それもカーシェア会社若しくは自治体へのフリート販売だけになり,利益率は当然悪くなる。
フリート客は趣味趣向で車を選ばない。コスト競争は非常に厳しくなる。
実際,現在でもタクシーやレンタカーといったフリートへの販売ではカーメーカーは殆ど儲かっていない。

ということは薄利多売しか生き残る道がないということになる。
製造販売だけに限って言えばカーメーカーは世界で数社しか生き残らない。

だから、アフターマーケットに変わる製造販売以外の収益源を確保するがが課題となる。
そういった意味では、どれだけオペレーションシステムにカーメーカーが関与できるかがポイントになるのだろう。
ある面ではスマホと似ている。アップルのようにハードとソフトを垂直統合しエコシステエムと築かなければ、製造業が市場のキャスティングボードを握る事はできない。アンドロイドを採用した他社は結局製造者以上のことはできず、大手以外は市場から出て行った。

人間のモビリティは殆どこのシステムに依存することになる。どこに行って何をするかを何処かの会社が一括して管理できるわけで、そこには当然ビジネスチャンスがあるし、その利益を獲得するためには自動運転のノウハウを早く積み上げて先駆するしかない。
大手カーメーカーが自動運転の研究を進める最終的なゴール、というか危機感はここにある。
Googleが開発した自動運転プラットフォームの採用では、結局のところ製造者で終わってしまうのだ。

以上

自動運転に関するまとめ その5

2015年01月30日 | 自動運転
完全自動運転への道のり 2

自動運転とマニュアル運転が混在する世界では,運転者の責任という問題も無視できない。

完全自動運転の世界では運転者という概念がなくなるが,マニュアル運転では当然,事故が発生した場合の責任は運転者にある。
自動運転とマニュアル運転が混在する場合,車にはハンドルとブレーキが備わっており,たとえ自動運転中であっても非常事態が発生した場合の事故回避責任は運転者にあることになる。

クルーズコントロールを使っていて居眠りをし,追突事故を起こしたらそれは100%運転者の責任になる。これは当然のことだ。だからクルーズコントロール使用中も運転者は常に運転に集中する。
前方車両との距離を自動的にコントロールしてくれるアクティブクルーズコントロールであってもそれは同じだが,これが更に進化し,ハンドル操作までやってくれるようになると運転に集中することは難しくなって来るだろう。

また、たとえば運転中に突然前方に複数の人間が飛び出し,ハンドルを切らないと避けられないとする。
しかしハンドルを切る方向には歩行者が一人いて,そちらを轢いてしまうかもしれない。どういったハンドル操作をするかの選択は運転者にあり,結果には責任を負わなくてはいけない。
もしこの先自動運転が高度化した場合,このようなケースの判断はプログラムが行うことになる。例えば死傷者の数を減らすことが第一優先であれば,ハンドルを切り歩行者をはねることになるが,その場合飛び出して事故の原因を作った人間が助かり,なんの責任もない人間が被害にあうことになる。それを自動運転のプログラムが決めるということにはかなりな違和感がある。
これに対する答えは私にもわからないが、必ず出てくる問題となる。
自動運転専用レーンでも、先行する車の物理的なトラブルや予期せぬ落下物等があれば同じような事が起きる。

実際に自動運転を運用するには、こうした問題も解決しなければならない。

自動運転に関するまとめ その4

2015年01月29日 | 自動運転
承前

5.完全自動運転への道のり

既にGoogleは実証試験車を走らせており,かなりのデータを蓄積しているらしい。
しかし,当然のことであるが,自律式である以上は相当設定を安全に振る必要があり,近くに歩行者がいるとなかなか発進しない等,じれったいような運転になっているようだ。

これは今時点では仕方がない。

さらに言えば,自動運転車両が中途半端に普及した状態では交通流は悪化するだろう。
制御を安全に振るため,非自動運転車車両の動きを常にリスクが高い方に予測して運転をせざる得ないため,かなりな慎重運転にならざる得ない。
この,自動運転と非自動運転が混流する過渡期における渋滞悪化は難しい問題になる。
自動運転専用レーンを作る等,道路側での対応が必要となる。

さらに,道を走る車が全て自動運転車になったとしても,歩行者の問題が残る。
この先自律型の衝突安全装置は相当に精度を上げてくるだろうが、見通せない場所からの飛び出しには対応できない。
もちろん,すべての歩行者,自転車が通信機器をもって人対車通信を行い事故回避をすればいいのだろうが,その通信器を体に埋め込む様なことをしない限り,100%安全は保証できない。
人・自転車と車の混流は道路構造などで物理的に防ぐしか無いだろう。

完全自動運転の世界が実現するには相当な時間が必要となる。
それまでの間は自動運転とマニュアル運転のハイブリッドのような形となり,自動運転は専用レーンのみというようなことになる。そして専用レーンがだんだんと増えていく,というようなイメージだろう。
専用レーンからマニュアルレーンに出るときのワーニング等,克服する問題も結構多い。
相当に長い過渡期となるだろうが,しかしそうしない限り完全自動運転のゴールに辿り着くことはできない。