ITSを疑う

ITS(高度道路交通システム)やカーマルチメディア、スマホ、中国関連を中心に書き綴っています。

Android Autoの「できないこと」

2014年06月27日 | ITS
昨日,Googleがデベロッパー向けに行ったカンファレンスで,車載用プラットフォームである「Android Auto」が発表された。これは言うまでもなく,既に発表されているAppleのCarPlayに相当するもの。

CarPlayの時と同様に,IT系メディアを中心にこれで車の中で何かができるようになる,という書き方での報道がされているけど,実はAndroid AutoもCarPlayも,「何かをできる」ようにするためのプラットフォームというより,「できなくさせる」プラットフォームなのだ。

あるメディアは,「これで車の中でもgoogleマップやメールや音楽が使える」と書いていたが,そんなことはそもそもスマートフォンでできる。「これで車の中でも『安全に』使えるようになる」というのが正しい。

スマートフォンを車載モニターに映す仕組みはもう存在する。(HDMI接続,MirroLink等)
車載モニター側のタッチパネル操作ができるものもある。でも,これらはスマートフォンのコンテンツをそのまま表示するわけで,運転中にYOUTUBEを見ることも,ゲームをすることもできる。

運転中のSMSやSNSの受発信が事故を誘発して大きな問題になっているのはご承知の通り。
自動車業界では,Driving Distraction という言葉があり,これの正式な日本語訳はないが,「運転注意阻害」ということ。
地図ナビゲーションですら北米ではDriving Distractionであるとして,出現当時は認められなかった。今でも北米でクルマに乗ると,「運転中の操作は危険」という内容のディスクレーマーが表示され,了解ボタンを押さないとナビは始まらない。

余談だけど,Driving Distractionに関しては日本は先進国の中では珍しいくらいに規制が甘い。走行中にテレビが付いている車の多いことに驚く。運転中にテレビが付いているだけで違反切符を切られる国のほうが多いはずだし,私のいる中国では多分規制はないと思うけど,あまり観ている人はいない。一方で日本より運転中にテレビを観るのはタイ人。これは渋滞が関係してそうだ。

本題にもどりましょう。

カーメーカーはそうした状況から,HDMIやMirrorLink, Airplay等によるスマートフォン画面への単純な車載モニター表示を標準装備したり純正オプションとして販売することはできない。
でも,スマートフォンの接続はユーザーニーズだし,AppleもGoogleもシェア争いのなかでカーメーカーに採用してもらえないのはマイナス。

したがって,Driving Distractionとならないように機能を制限し,さらにUIを運転中に使いやすいように工夫をしたのがCarPlayでありAndroid Autoなのだ。タッチボタンを大きくしたり,複雑な画面操作をせずに音声で操作できるようにしたりという工夫がされることになる。しかし,それでも気を散らすようなコンテンツは認められない。音声操作でゲームをする,なんていうのはもってのほか。

だから,使えるソフトウェア・コンテンツは限られる。スマートフォンよりも大幅に機能が制限されることになる。

問題は,果たしてユーザーはそれが嬉しいのか,ということ。

これは難しい問題だ。
日本では純正ナビは走行中にテレビが映らない。それを嫌がって,あえてアフターマーケットのナビをつける人も多い。
同じ様なことが起きるかもしれない。

いずれにしても,CarPlayもAndroid Autoも一部ITメディアや評論家がいうような自動車のインカーエンターテイメントに革命をもたらすものではなく,Driving Distraction防止のための妥協策のようなもの。できることは限られている。
現在の「スマートフォンをカーナビに使う」「カーナビ+スマートフォン接続(音楽と電話機能)」という,既に一般化されている使い方に対してさほど大きなブレイクスルーではない。