私も以前のエントリーでEVの静音による危険性と日本の行政の対応の遅さを批判したことが有る。
結果として2016年に法制化がされ、2018年以降の新型車、2020年以降は継続販売車も「車両接近警報装置」の装着が義務化された。日本初のEV、i-MiEV発売から実に10年近く経過している。
それだけ熟考を重ねた法改正であるが、皮肉なことにどうやら静音であるEVによる歩行者との接触事故はほとんど問題になるレベルでは発生していないようだ。
日本で話題になることもないし、イギリスではDepartment for Transport(運輸省に相当)から以下の報告書が出されている。
Assessing the perceived safety risk from quiet electric and hybrid vehicles to vision-impaired pedestrians
(視覚障害の歩行者に対する静音EV,ハイブリッド車によるリスクの評価)
要点だけをいえば
・EVとエンジン車で歩行者との衝突事故の発生率に差はない。
・EVの総事故に占める歩行者との衝突事故の比率はエンジン車より高いが、主にシティコミューターであるからと推定。
・徐行(7-8km/h)時ではEVはエンジン車より音がしない(マイナス1dB)だが、20km/hを超えるとロードノイズによりEVとエンジン車の差はなくなる。(日本の法規も警報音発生は20kmまで)
つまり、EVが音がしないゆえに歩行者が気が付かない状況というのは徐行時に限られ、徐行なので重大事故に発展しない、ということなのだろう。
さらに報告書の指摘では、最近のエンジン車は静音化が進んでいるため徐行時でもEVと騒音に差がないものもあり、今後さらにエンジン車の騒音が改善されるのであればこの問題はEV特有のものではなくなる、としている。
この報告書はイギリスのものであり、おそらく市街地における人/車、自転車/車の混交は日本より少ないと思われるが、前述の通り日本においても社会問題になるレベルにはなっていない。なので、おそらくEVの静音に起因する歩行者事故というのは当初心配されたレベルではない、ということのようだ。
但し、少なからず問題は有る。EVは加速時でも音がしないため、徐行から加速に移った際にそれに気が付かなかった歩行者をはねる危険性が有る。なので法制化が必要であったことは間違いない。また人車混交でも徐行をしない安全意識の低いドライバーであれば車の種類に限らず危険であり、これはEVがどうこうというより人車分離というインフラの問題だろう。