たかたかのトレッキング

駆け足登山は卒業、これからは一日で登れる山を二日かけ自然と語らいながら自由気ままに登りたい。

続き  思い出に残る山 「鳳凰三山」

2020年02月21日 | 心に残る思い出の山

続き

 

ザックを置き斜面を攀じ登る

谷から吹き上げて来る風が冷たい

目の前には透明な空気を通して大武川からそそり立つ甲斐駒ケ岳の

細部までハッキリ見える

その奥が仙丈岳、北岳をはじめとする白根三山も大迫力だ

子授け地蔵が並ぶ賽の河原

これから向かう観音岳の左には薄っすらと秀麗富士の姿

アカヌケ沢の頭は此れと言って特徴の有るピークではないが

ここから眺めるオベリスクは素晴らしい

人間の作った造形など足元にも及ばない絶品のオブジェだ

地蔵岳では雲に隠れていた八ヶ岳も遅ればせながら一部を見せ始めた

その時、低空移行して来たヘリが聞き取りにくいアナウンスをしながら

何度か地蔵岳周辺を旋回し観音岳へ向かって行った

近くに居た登山者の話では

3日前から帰らない遭難者が居るらしいとの事だった

風雪で曲がりくねった木のオブジェ

太陽の照り返しが強い稜線上歩きは観音岳まで1時間半と長い

しかし谷から吹き上げて来る涼風

荒々しい岩壁を剥き出しにした北岳、間ノ岳、農鳥岳と言う道連れが有る

何時から湧きあがったのか韮崎側はガスが沈殿していて何も見えない

クッキリ見えていた富士山も、もはや雲の中である

振り返るとオベリスクは既に彼方にあり

甲斐駒も湧きだした雲が大急ぎでその姿を隠し始めている

 

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オベリスクは遥か彼方に(左上の尖峰)

足元が砂礫で不安定な坂を蛇行を繰り返し

鳳凰三山最高峰「観音岳=2840m」に9時37分着

重なり合う岩石の上でノンビリと巨峰を食べながら次々に表情を変えて

山肌を這いあがって行く雲を眺めていると其処へボーイスカウトの一団が

俄かに賑わしくなったのを機にザックを背負う事にした

縦走も残すところ薬師岳1峰となった

起伏の少ない稜線を歩いて

だだっ広い白砂の薬師岳に着いたのは10時33分

周辺は白砂に点在する風化した花こう岩と風雪に耐えたハイマツが

バランスよく配置され心和む庭園を見ている様だ

“これで全ピークを征服し終えた”

安堵と何処か寂しい無量の想いが込み上げて来る

あれが北岳、あの荒々しい岩壁がバットレス、あれが間ノ岳と

嘗ての山旅を思い浮かべながら去来する雲に現れては消える山体を

飽かず眺める腰は中々上がらない

しかし何時までも至福に酔っている訳にもいかない

10mほど下った所でもう一度 鳳凰山に別れを告げ

いよいよ樹林帯に突入した

(↑) ギンリョウソウ

下山は視界を閉ざされ湿り気を帯びた中道コースの急下降で始まった

中年の男性を抜いて尚も下ると道の脇に男性が一人

バテバテの姿で休んでいた これから薬師小屋まで行くのだそうだ

「坂を登り切れば薬師は直ぐです」

とは言ったもののあの急坂を・・・他人事ながら気の毒になってしまった

登りをこちらに取らなくて良かったとつくづく思った

前方、樹間に覗く山は御所山だろうか、甘利山だろうか

かなり下ったのに何時になっても前方の山が高くならない

水筒の水はどんどん減って行く

(↑) 御座石

展望も変化も無い急坂が終わると景色は一変し笹原に出た

カラマツが程よく生え最初は気分が良かった

しかし勾配が出てきて蛇行、直線を繰り返している内、何時になっても

変わらない風景に次第に退屈し終にはウンザリしてきた

爪先がジンジンと痛い

漸く笹原に別れを告げると今度は道も心細い身の丈も有る笹薮

藪は途切れ途切れに50m位は有っただろうか

足の痛みも忘れて次第に早足となり最後には駆け下っていた

川音が近づき種々のキノコが生えるか細い山道を尚も下り3時20分

漸く林道に出る事が出来た 先ずは川に入って手を洗い体を拭きたかった

しかし無情にも林道はダム工事が進む小武川を高巻いており

川へ下りる事が出来ない

恨めしい程、豊富な水が飛沫を上げながら流れ下っている

「もう直ぐ風呂に入れる」ただその一心で歩き4時10分

青木鉱泉に辿り着く

翌日も早くからヘリの音が聞こえたいた

ヘリの捜索は三重県の高校生との事だった

教師と生徒3人で南御室小屋でテントを張り終えた時、ヒトリの生徒が

散歩に行って来ると出かけ、そのまま戻らなかったのだと言う

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帰りラジオで聞いたところによると9時30分頃、高校生が4日振りに

無事、南御室小屋近くの沢で発見されたとの事

沢に落ちた様で腰を痛め動けなかったらしい

何はともあれ良かった良かった