H6年10月23日
国民休暇村を過ぎると、ここから人家は途絶え
乗鞍スカイラインは急速に高度を上げて漆黒の闇に突入していく
疎らに点在していた町の灯りも次第に一塊となって眼下に見え隠れを始めた
やがてハイマツ帯の中を走るようになって辺りの変化に「おや?」と思った
山の上部が月明かりに白く光りハイマツの下の土が妙に白っぽい
「雪じゃない?」「まさか」そんな会話を交わしながら窓ガラスに顔を
摺りつける様にして外を見たが火山礫なんかじゃない
車を停め道路の端を照らすとやはり雪だった
車を発進させようとすると少しスリップした様である
アスファルトの道路はどうやら凍結しているらしい
4駆に切り替え200mほど進むとカーブを過ぎた所で先行者が立ち往生していたので
これ以上は無理と思い、ちょうど脇にテント二張りしてある空地が在ったので
其処へ停めて夜を明かす事にした
車止めの石を探して社外に出た途端、あまりの寒さに身が縮んだ
外は強風が吹き荒れテントが激しく音を立てている
シュラフに潜ったが中々寝つけず体を逆にして広大な空を眺めた
月明かりが強すぎて八ヶ岳の林道から仰いだ時の様な感動的な星空は無かったが
それでも輝度は家で見る数倍の強さだった
5時40分、ふと目が覚め外を見ると日の出前のオレンジ色の世界に
雲海が広がりそれを突き破って勇壮な山岳が群れている
「スゴイ」と思わず出た言葉に雄さんも目を覚ました
外は相変わらず寒風が吹きすさび、ひどく寒い
その寒さにも関わらず既にカメラマン達は、あちこちに大型カメラを構え
劇的な一瞬を待っている
私達も車の窓を開けシュラフにくるまって、その瞬間を舞った
次第に白さが増してくる
生唾を飲みこむ程の緊張が続く
やがて閃光が放たれると燃えたぎる固まりが輪郭を歪めながら
徐々にその姿を現し始める
凍り付いたハイマツは増々輝きを増し朝の光は深く山肌に差し込んで
澄み切った大気の中に全てが目覚め始めた
「腐っても鯛とはこの事か、成るほど・・」と雄さんが呟いていた
開発の手が山上近くまで及んでいる乗鞍は腐りかけてしまっているのだ
しかし、この一瞬、そして展望、スケールの大きさ、標高は
やはり一級の山という事なのだろう
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勾配の増す林道を走り2700m地点の畳平に車を停めた
食堂や土産屋は店仕舞いだろうか、ヒッソリとしている
此処まで車で来られる事も有り畳平は観光地化してしまい
折角の一万尺の空気も何処となく汚れている様に感じられるのは私だけだろうか
特にトイレのモラルの無さには悲しくなってしまう程だ
生理現象はどうにもならずガードを乗り越えてドアを開けると
此処に記すのも恥ずかしい状態・・・○○○が山になっていたのだ
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「さて、そろそろ引き上げるか」
「エッ? 登らないの?」
雄さんは「本当に登るのか?」という顔をした
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