②に続く
「さぁもう一踏ん張り!」と気を取り直して峰ノ辻から少し下ると
鞍部に小川が流れていた、水を見れば自然、足が止まってしまうもので
やはり私達は此処でも顔を洗い体を拭いた
登山道は再び急坂となった 降り注ぐ朝の斜光はシャツを通して強烈であるが
時にそよぐ風は冷たくて吹き出す汗を拭い取ってくれる
私達を途中で追い抜いた未だ若い父親と息子が稜線で
「記念写真、これで終わり、出発!」と機械的な行動をとっている
これから箕輪山まで縦走して土湯温泉に下るらしい
息子は「この山は二度と来たくない」とぼやいていた
稜線を右に進むと遠くから可愛らしい乳首の様に見えていた突起が
累々とした岩塊として目の前に迫った
乳首山へは鎖で一登りだ 登りあげると
1700mと大書きされた山頂表示と小さな祠(安達太良神社)が鎮座している
陽の光を避け祠の下の岩陰に荷を置き小屋で買って来たジュースの栓を抜く
すっかり乾ききった喉に流し込んだジュースは文句なしの極上もの
暫く放心した状態で時を過ごし思い出した様に周囲を見渡すと
空は青く広がっていたが惜しい事に遠くの山並みにはガスが掛かり始めていた
それでも私達は出来る限り、アチコチの山を地図と照らし合わせ同定をした
西に吾妻連峰、南は緑の円頂の和尚山 北には鉄山方面の岩稜 その上に箕輪山
目の前の船明神 そして忘れてはならない月のクレーターの様な不気味な表情を
覗かせる沼の平噴火口跡と大スぺクタルな光景が展開している
(略)
幅広の尾根にケルンが規則的に置かれ黄色の砂礫から赤い砂礫へと変化する矢筈ヶ森
への稜線は起伏も無く大変きもちの良い漫歩だった
船明神との鞍部は誰かが手を入れた様に岩の配置が良く、ハイマツは
これまた植栽されたかの様に緑を散りばめている
「四角く切り取って、そのまま家の庭に置きたい様だね」と冗談を言いながら進むと
左に船明神、右に峰ノ辻 直進・矢筈ヶ森を経て鉄山に至ると有る分岐に差し掛かり
私達は此処で誰も目を向ける事も無さそうな船明神に寄り道をする事にした
分岐から見た舟明神は遥か彼方に見え雄さんは「往復に2時間かかるのではないか」と
言ったが船明神直下の滑りやすい道を除いた外は火口跡を廻る稜線伝いだった為か
僅か20分で山頂に立つ事が出来た
直ぐ先に格好の岩場が有ったので攀じ登り上部から火口跡を覗くと
高度感もたっぷりで足が微妙に震える (略)
分岐に戻り矢筈ヶ森は割愛し峰の辻へ向かった
峰の辻の大きな石の上でうっ血した足を揉みほぐしていると上空に黒い雲が
掛かり始めたので慌ててリュックを背負いくろがね小屋へ向かった、が何処でどう
間違えてしまったのか勢至平方面へと足は向いていたのだ 木々が周囲を囲む様に
なった頃、終にポツリ・・・
慌てて雨具を着用すると何分も経たない内に叩きつける様な大粒の雨となった
勢至平への道は1m程もえぐられている為そこはみるみる川に化してしまった
しかし通り雨だった様で勢至平に着くと今迄の雨が嘘の様に晴れあがった
其処に何とも無計画な岳方面からやってきた男子三人を連れた父親が全身びしょぬれで
責任のなすり合いをしながら、これからどうしようか話し合っている
「此処まで来たのですから安達太良山頂まで行ってロープウエイで下れば良いのでは
ないですか」と言うと今、私達が雨に打たれてきた道を登って行ったが
平均15歳位の男の子達は気乗りがしないまま仕方なくといった感じで
父親の後に続いて行った
(略)
途中に合った金名水
そそり立つ天狗岩を抜ければ初日、通った三階の滝は目の前
靴を脱いで岩に腰を下ろし熱いコーヒーを飲みボーっとした時を過ごした
目を楽しませてくれた滝、辛かった笹平、可憐に咲いていたリンドウ
月世界の様な沼の平、小屋の白濁した風呂、パノラマを楽しみながら飲んだジュース
雨に打たれたあの瞬間等々・・・今までの行程が蘇ってくる
岩の上に寝転び靴を通して濡れた足をを乾かしていると新緑の谷間から川の音と
ウグイスの澄んだ鳴き声が響いてくる
ふと気が付くと雷鳴が聞こえ山頂方面は黒い雲に覆われ
時間が経つにつれ音が次第に近づいて来た
「これはヤバイ!」と急いでリュックに荷を詰め込んだ
こんな事でもなければ、もっともっと寝転んで長い時間を無駄にしたいところなのに
私達は記憶も新しい湯川に沿って山道を下った
岳温泉で一泊し二本松市の井上釜で手びねりの急須を買い喜多方でラーメンを食べ
桐の博物館(写真の輪積みは雨に当て渋を抜き半年かけて乾燥させる
これが桐下駄になる)を見学し外島家住宅や大内宿を廻り家へと向かった
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