新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

9月27日 その2 アメリカの産業の実態とその変化に思う:

2019-09-27 13:15:12 | コラム
アメリカの産業の実態とその変化に思う:

物づくりからGAFAへ:


私がアメリカの大手の製造会社だったウエアーハウザーその他で経験し且つまた見聞してきた残念なことを挙げておきます。偉そうに言えば「アメリカの生産現場と交流し組合員とも語り合ったから言えるのだ」とご理解ください。畏メル友尾形美明氏は下記のように指摘されました。

「確かにアメリカのブルーカラーには英語も満足に話せない人が結構いるようです。一方でアメリカには世界中から最高の頭脳が集まるのも事実です。生まれも育ちの違う、つまり民族も宗教も考え方も違う他民族国家なのです。」

私はこのご指摘が重要なのだと思います。アメリカの大手の製造会社はR&Dに膨大な予算を割いています。それだけではなく、研究所に入って石を投げればPh.D.に当たると思うほど多数の優秀な人材を揃え、素晴らしい新規のアイディアを生み出しています。ところが、問題点はそれらを実際の商業生産段階に移した時にその研究の成果を活かすような労働力が圧倒的に不足しているのです。より具体的にいえば狙った通りの製品が出てこないのです。

例えば、私が我が国に輸出していた液体容器原紙は牛乳やジュースの容器になっていました。その容器の加工のライセンスを我が国に下ろしていたのがアメリカの企業です。ところが、我が国ではライセンサーよりも遙かに質の高い進歩的な容器を我が独特の優れた労働力で次々に創り出したのです。アメリかでは絶対に出来ないとされていたワインの紙パックを創り上げたのが凸版印刷で、逆にそのライセンスをアメリカのメーカーに下ろしました。

自動車にしたところで同じで、アメリカにオリジンがある車が我が国に入ってから、アメリかでは出来なかったような車種が続々と出来上がったのです。我が国の優れた頭脳もありましたが、そこには歴然とした労働力の差が出たのです。その他にもアイディアはアメリカにあった製品が、我が国でアメリカ以上に進化した物が幾つあったかです。

何年前でしたか、T印刷の2人の購買部長さんをウエアーハウザーの本社と工場の他にご案内したことがありました。1人は営業部長から転任された方。そのお二方がアメリカで美術印刷の厚い本をめくりながら言われました「最近はアメリカでも美術印刷の腕が上がってきたじゃないか」と。彼らはその高級印刷の技術では我が国の方が遙かに進んでいると言われました。

会社側と労働組合が法律的にも別個の存在となっているアメリカ式の製造のシステムにも長所はあるのでしょうが、現実には遺憾ながら競争力は劣っていると思えてなりません。であるからこそ、アメリかではGAFAがあそこまで発展したのでしょう。明らかに製造業というか頭脳集団がアメリカを変えたのでしょう。シアトル郊外のショッピングセンターの片隅にあった小さなオフフィズを構えたマイクロソフトがあそこまでになると、誰が予見できたでしょう。
シアトル市の南の外れにあったスターバックスコーヒーがあそこまで我が国で普及すると予測した人が何名いたでしょうか

アメリカとの貿易交渉が終了

2019-09-27 08:27:36 | コラム
安倍総理とトランプ大統領が署名して終わった:

印象としては我が方は何とかして最低線を死守したかの感があった。と言うのも、最初からTPPの線を限度とするとうたっていたのだから、そこまでに至ってしまったのは寧ろ当然の結果だったということではなかったか。昨26日のPrime Newsに登場された細川昌彦氏と佐藤正久前外務副大臣の遣り取りを聞いていても、トランプ大統領の選挙対策に一歩も二歩も譲って花を持たせたのではとの感は否めなかった。

私はこの交渉で最初から気になっていたのが、トランプ大統領が持ち出していた我が国との間の貿易赤字の解消と数百万台(誤認識であるのは明らかだが)もの自動車の輸入を規制しようかという姿勢と現行2.5%の関税を通称拡大法232条に基づいて25%に上げるという脅しとも駆け引きの材料とも言える高飛車な作戦である。トランプ大統領は明らかにアメリカの自動車産業の衰退が自国の労働力の質と技術力不足にあるとは認識されていないとしか見えないのだ。

私が繰り返して採り上げてきた94年7月のカーラヒルズ大使の「対日輸出を増やすためには初等教育の充実と識字率の向上が必要」と認められたアメリカの労働力というべきか職能別組合の欠陥を是正しない限り、国際市場でアメリカ産の自動車が売れる訳がないという認識をトランプ大統領はお持ちではないのだと思っている。私は自信を持って言うが「私は数少ないアメリカの組合員たちと頻繁に語りある機会を得て、彼らに「技術力と品質の向上と改善無くして君等の職の安全の保証はない」と語りかけてきた。

念の為申し上げておくと、アメリカの組織では会社側と組合は法的に別個の存在であり、その間に人的な移動もなければ私が行ってきたような会社側の者と組合員の対話の機会などそう滅多に訪れるものではないのだ。この点は我が国の組合対会社との関係とは全く異なるのだ。何度も指摘して来たことだが「組合員が別個の組織である会社に転籍することなどあり得ない」と思っていて誤りではないのだ。組合員の身分は法律で保証され、時間給は年功序列で上がっていく仕組みになっているのだ。極論を言えば「努力せずとも昇給していく」組織なのだ。

私は諸般の事情があって3交代の組合員たちと1日中「何故技術の向上と品質の改善が必要か」を説いて聞かせたことがあった。これ自体が言わば異例である。その組合員たちの中には確かに英語が危ない者もいれば、東南アジアからの移民もいた。彼らに英語が通じるのかと疑問すら抱いた。そういう組合員たちを激励して鼓舞して意欲を高めていく必要があったのだ。即ち、彼らの向上心を如何にして掻き立てるかが課題だった。我が国の基準と常識では考えられない国なのだ。

私はそういう経験をして組合員たちと接触してきた珍しい日本人だったのではないかと密かに自負している。彼らをその気にさせない限り我々会社側のjob security どころか、輸出市場での成功などは覚束ないのだ。一気に論旨を飛躍させれば「トランプ大統領はこのようなアメリカの組合の実情を何処まで認識されているの」なのだ。極めて強力だと聞くUAWの組合員を余程督励しなければ、日本車に勝てる車は出来ないのではないのか。

そこをご存じの上で数量制限だの25%の関税などと言っておられるのかなと、ついつい疑いなくもなってしまう。また、専門家の先生方もアメリカの生産現場に入って組合員たちと膝つき合わせて調査したり、語り合われた経験をお持ちなのだろうか。そういう自国の労働事情を見極められた上での232条発動なのだったら、仕方がないとは思う。だが、常識的にはアメリカの会社側の幹部が工場を訪れて、組合員たちと語り合うとか意見を聞くことなどほとんど考えられないほど、組織的な違いがあるのだ。

私は我が国の自動車産業界ではこのようなアメリカの労働事情を認識しておられると、経験上も承知している。だが、今回は型破りのトランプ大統領が積極的に実際の交渉の指揮を執られているようだ。その大統領に「貴国の実情は斯く斯く然々ですから、そこを踏まえてご交渉願いたい」というような話し合いが出来るのだろうか。難しいだろう。ではあっても、何とかして実態を認識して頂くよう努力せねばなるまい。ボルトン氏が去った後では直言する者はいなくなったとか聞いたが。