新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

環境問題に関する残念な誤解

2023-02-24 06:37:37 | コラム
井伊重之氏はお分かりではないようだ:

週刊新潮3月2日号での佐藤優氏の対談で、産経新聞論説副委員長の井伊重之氏は佐藤優氏の「エネルギーミックスで電力の安定供給を図れ」と題した対談で、「一時期、話題となったバイオマスはどうですか」との質問に下記のように答えておられた。

「日本が進めているウッドチップを海外から輸入して燃やす方式ですが、価格の高騰と円安でペイしなくなっています。そもそも海外のチップを輸入して発電するのが再エネかという問題があります。」のように。

これに対して佐藤優氏は「森林を伐採するわけですからね」と言い、井伊氏はさらに「制度上ではそれでもよいことになっていますが、地球温暖化の防止にはならないでしょう」と言うのだった。

20年近い間アメリカ最大の森林地600万エーカー(1エーカーは約1,200坪)を所有していたウエアーハウザーで対日輸出を担当していた私に言わせれば「今頃になって、何とも悲しく情けない誤認識」なのである。お断りしておくが、私は紙パルプ部門の所属で林産物担当ではなかったが、森林管理の原則くらいは心得ている。

それは、現在では「森林認証制」が実行されていて、環境保護のために、この制度で認証された樹木しか製紙用その他に伐採して原材料等に使うことができないようになっていることだし、盗伐や乱伐は防止されているのだ。

ちなみに、ウエアーハウザーではどのように森林を管理して製材し、紙パルプの原材料にしてきたかを振り返っておこう。それは「自社の種苗園で育てた苗木を自社林に植樹して、伐採してもよい大きさに成長するまで(ベイマツは50年)は厳重に管理して育てていた」のだ。しかも、50年後に伐採してもよい区域に分けて管理してある。

その50年後に伐採した立木を伐採して山から下ろし、製材所で皮をむき製材品にする。四角形に製材する過程で外側の三日月型になった部分はチップにしてパル製紙の原料に活用し、切り落とした枝や樹皮は間引きした立木や風倒木等とまとめて工場内の発電所での燃料にしていた。

この方式をウエアーハウザーでは”maneged forest”すなわち、「森林管理」と呼んでいた。ウッドバイオマスもこれと同じことで、無計画に立木を伐採するのではない。また確認しておくと、すべての樹木が製紙に適した繊維でできているわけではないのだ。

ウエアーハウザーの主力の樹種であるベイマツは針葉樹であり、我が国に多い落葉樹は広葉樹であり、その繊維は針葉樹と比べれば強度が不足しており、製紙に最適ではないのだ。

我が国では紙の強度を上げるためには針葉樹の森林が豊富である、北アメリカのカナダとアメリカ合衆国からのウッドチップとパルプの輸入に依存するようになっているのだ。製紙用に東南アジアの熱帯雨林の樹木を伐採して持ち込むようなことはしていないのだ。そもそも熱帯雨林の繊維は製紙には不向きなのだ。

東南アジアではその熱帯雨林を焼き畑農法で燃やしていたのであり、パルプや紙にするためではないのだが、往々にしてその焼き払った跡地を見た有識者が「製紙会社の悪行の跡」のように慨嘆して見せられたので、紙パルプ産業があたかも環境を破壊しているかのように誤解されて指弾されていたのだ。

このよう誤った認識というか理解を正そうと、日本製紙連合会は懸命に広報活動を続けているし、私も及ばすながら繰り返して「紙パルプ産業がどのように誤解されているか」を訴えてきた。

それにも拘わらず、21世紀の今日にあって、著名なジャーナリストと有識者が上記のような議論を有力な週刊誌である週刊新潮で展開しておられた。これでは、森林産業と紙パルプ産業界のあり方をご存知ではない方々は「それではウッドバイオマスは宜しくないのか」と信じてしまわれるのではないかと危惧するのだ。

ウエアーハウザーは2000年に法人化した企業で、それ以来自社林を管理して環境保護論者が騒ぎ立てる前から「環境を保護」して来ていた。また、上記のように自社林で育成してから伐採して樹木は無駄なく使い切っていたのだ。

ウッドバイオマス燃料に使われているチップも関連する団体が経済産業省と連携してきちんと管理して、東南アジアの諸国から輸入する仕組みができあがっている。敢えて言えば、井伊重之氏も佐藤優氏も認識不足だったのではないか。

週刊新潮の読者の方々や多くの一般の方々が誤解されないようにと願って、ここに 述べておく次第だ。