Fish On The Boat

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『スタンフォードの自分を変える教室』

2014-04-03 12:24:07 | 読書。
読書。
『スタンフォードの自分を変える教室』 ケリー・マクゴニガル 神崎朗子:訳
を読んだ。

自制心ややる気などの「意志力」を身につけたい人のために、
いろいろな方面から、「意志力」そのものやそれを妨げるものは何であって
どういう対処法があるのかというようなことを、わかりやすく教えてくれる、
スタンフォード大学の人気講義を書籍化したものです。

著者は新進気鋭の女性心理学者ということで、
帯やカバーの中折された部分にある写真を見ると、
若くてきれいな人なので、まずそこに興味が湧いて買った本です。
才があり、さらに容姿に優れた人だと、なんだかさらっと語ってくれそうで、
面白そうだ、という偏見からなんですけどね。

それで読んでみると、10章あるうちの2章目くらいまでは、
なんだか雑談のような話の進め方で、まだまだ徐行運転のように
感じられて物足りなさもあったのですが、
それがどんどん良い意味で、中身の濃さが増しいく中での
読みやすさ、面白さのような味付けとして読めていくようになりました。

感心するくらい、9章(10章目はまとめなので省いて考えます)
それぞれの中に紹介されるトピックの、新しさと深さは興味深く、
意志力というものを知りたかったり身に付けたかったりする
読者の心を強く惹きつけることになると思います。

なんといいますか、人の心のある一部分をみることにすると、
そこですら何本もの糸が絡み合って形作っていたりします。
この本は、心の「意志力」の部分でもって、
その糸の一つ一つの役割を見ていきます。
そうやって、「意志力ってこういうものだよ」と教えてくれる。

その一本一本の糸はどういうものか、
少しだけ具体的に紹介するならば、
まずはモラル・ライセンシング効果でしょうか。
初めてこの心理作用について知る人は多いと思います。
これは「よいこと!」をすることが実は後で「悪いこと!」に繋がるんだというものです。
「よい・わるい」という考え方(とてつもなく一般的で普通の考え方でしょう)が、
自分たちにとって悪いことをひきよせるという逆説的な作用を持っているんですって。
どうです、こう聞いて、自分に照らし合わせて思い起こすと、
そういうことってありませんでしたか。
たとえば、衝動買いをぐぅっと我慢ししたら、
帰宅したとたんにばりばりとお菓子を食べてしまうだとか。
世間のニュースで見るところだと、政治家の人が、
良い政治を行っているんだと自負していると、
もらっちゃいけないお金を「いいかな」と思ってもらってしまうだとか。

自分の行動なんかを「よい、わるい」に突き詰めてしまうのは止めた方がいいということです。
最悪「これは自分のためになるし」程度でやめておくべきなんです。
「これは自分のためになるから<よい!>」までいって良し悪しつけてしまうと、
心の反作用や甘えや楽観的性質などによって後で自分にとって悪いことをしてしまう。

ここで驚いたのが、吉本隆明さんのおっしゃっていたことを思い出してでした。
「善いことをしている時は、悪いことをしていると思ったほうがいい」と
吉本さんはおっしゃっていたと読んだことがありますが、わかりますよね、
なんという洞察力だ、という。
彼の知見もあるかもしれないけれど、自分のこころを見つめて出した答えのように思えます。
これこそ、ひとつの、モラル・ライセンシング効果破りの方法です。

その他、
自己批判や自分を責めることがどれほど悪影響を持っているかだとか、
昨今のマーケティングがどれだけ神経学、心理学を応用しているか、だとか、
自分の将来を身近に感じることで(多くの人は、将来の自分はまるで赤の他人だと感じている)、
倫理観をより強く持つようになる、だとかあります。

読み終わって感じるのは、
「アメリカは日本よりも進んでるぞ」ということ。
そして、本書の構成や内容のバランスが絶妙で、
著者は惜しみなく力を注ぎながらもエンターテイメントの心を失っていないことですね。
アメリカは自由の国ですが、エンターテイメントの国でもあります。
その国民性が非常にプラスに働いているように思いました。

文中に、よくセックスという言葉が出てきますが、
それは、この講義の対象に学生が多いことに起因するものもあるでしょうし、
「民衆はセックスと暴力が大好きだ!」という
みんなの心理をくみとってのものなのかもしれないですね。

最後になりましたが、
序盤に瞑想を勧めるところがあります。
著者は、ヨガや瞑想についての研究もしているそうなので紹介しているのでしょうが、
この瞑想をググってみると、「瞑想は危険」というものもでてきます。
このあたりは専門家じゃないのでわかりませんが、少しは注意が必要なのかなと思いました。
僕はこの本に書いてある通りの方法を試しましたが、別に問題はありませんでした。

ためになって、面白い本です。
そして、好感が持てる翻訳にもなっていました。

なんといいますか、人の心のある一部分をみることにすると、そこですら何本もの糸が絡み合って形作っていたりします。この本は、心の「意志力」の部分でもって、その糸の一つ一つの役割を見ていきます。そうやって、「意志力ってこういうものだよ」と教えてくれる。モラル・ライセンシング効果など、読んでいて膝を打ちまくってしまいました。


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