Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『ナラタージュ』

2017-12-16 22:02:59 | 読書。
読書。
『ナラタージュ』 島本理生
を読んだ。

映画化もされた、島本理生さんの長編です。
女子大生が主人公の恋愛小説。
正統派な書き方なのだけれど、
内容はメジャーではないタイプの話。

ずっと、落ちついたトーンが貫かれています。
それも、いかにも品のある感じではなくて、
日常のなかでのちょっとした落ちつきのあるときのトーン、
といえばいいでしょうか。
鼓動は落ちつき、
たまにごく自然に高鳴り、
また落ちつく。
そんなトーンかなあ。
丁寧ともいえます。

残りの100ページくらいから、
ぐぐっと暗黙のうちに結実していくものがある。
ストーリーの展開やラストへの収束、
それらによるそれまでの曖昧さをはっきりさせる
結論付け的部分もあるのだけれど、
書かれていないところで、
なにかがふわりとした形になっていくかのような感じを受けます。

それまでの曖昧さを具象化するっていう、
小説執筆の方法論はありますね。

ただ、そうやって具象化していきながら、
意図してでもしないでもまあ関係なく、
読者がそこに生まれる言葉で言い表せないなにかの形を感じとること、
そのなにかを生みだした筆者の技あるいは偶然は、
やっぱり文学のゲージツ部分だなあと思ったりしました。

薄いレースのようなやさしさというかおだやかさというか、
そういった雰囲気に包まれた作品だと思いながらクライマックスへ。
俗っぽさがないのが好印象のラブシーンでした。

感情や人物、風景などの描写って
「へえ、そんなところに気づくものなのね!」っていう勝負だったりする。
それで、いろいろ気づけるようになってくると
「それをそう表現するのね!」「そこにそれを挿入するのね!」
っていう技術や編集力の勝負になるんだと、
中途半端な立位置にいるぼくは、
とくにこの小説を読んで思うのでした。

文章を書くことと一言で言っても、
感性や、さまざまな種類の知力を駆使することになるのだから、
自分のさまざまな能力の総合力で書くものなんだ、
と言っていいと思うのです。

閑話休題。
オトコが読むと、
「そうだよねえ、オンナってのは、
そういうこっちでは理解しがたいようなまどろっこしいところがあるよ」
なんて思えてしまう生々しさもありましたよ。

派手さはありませんが、
趣味がいいと言いたくなる作品でした。


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