読書。
『ヘビ学 毒・鱗・脱皮・動きの秘密』 ジャパン・スネークセンター
を読んだ。
全世界で約4100種を数えるヘビの生態のあれこれを解説し、さらに全体の2割程度を占める毒ヘビのその毒の種類などについて深掘りし、それからヘビにまつわる事件(違法飼育事件、脱走事件、咬傷事件など)を紹介し、最後に神話や伝承などから人類がヘビに何を見てきたかを辿っていく構成です。
著者名義の「ジャパン・スネークセンター」は群馬県にある蛇専門の動物園で、一般財団法人「日本蛇族学術研究所(蛇研)」が運営しているそうです。執筆には、研究者四名があたっていました。
本書で得られる知識の一端を箇条書き的に少しだけご紹介します。
ヘビには聴覚がない。道にヘビがいてどいてくれないときに、大声で「どいてー!!」などと怒鳴ったり叫んだりしても、ヘビには聞こえないので無意味。
アオダイショウは50mほどもある鉄塔にもするするのぼっていき、高圧電線と接触してたびたび停電を起こしもするそう。どうして高いところにのぼっていくのかははっきりとはわかっていないとか。僕は北海道の田舎に住んでいますけれども、一年に数回は短い停電があります。これってもしかするとアオダイショウによるものもあるのかもしれないなあと思いました。
昨今はペットとして買われるヘビですが「なつく」ことはなく「なれる」だけ。蛇にとって生物に対する思考の選択肢は三つしかなく、「餌かどうか(食えるかどうか)」「敵かどうか」「繁殖の対象かどうか」だそう。そしてどれにも当てはまらないと判断したものには無関心になります。ただ、実際は、人間に接したときは敵かどうかの判断になるでしょうから、そこには恐れや怯えが生まれます。でも、攻撃されない、敵視されていないとわかると、ヘビの感覚はどんどん鈍麻していき、人間になれていく。そうする触ることができますが、犬のようになつくことはないのだそう。
ヘビ毒は大きく三つのグループに分けられる。「出血毒」「神経毒」「カルディオトキシン(心臓毒・循環障害毒)」がそれです。ハブやマムシは「出血毒」系で、この毒が回ると消化器官で出血が起きたり、筋肉や皮下で出血が起きたりする。コブラ科の毒ヘビは「神経毒」系で、毒が回ると呼吸ができなくなり、病院に搬送されて人工呼吸器につながれるケースがいろいろと紹介されていました。また、ブラックマンバというアフリカの毒蛇は、咬んだ相手の体内の神経伝達物質を大量に放出させる毒を送り込み、そのため、相手は神経伝達物質がすぐに枯渇し、麻痺状態になるんだそうです。ナショナルジオグラフィックのテレビ番組で、ブラックマンバに咬まれたライオンがけいれんを起こしているシーンがあったとありました。他、日本にいるヤマカガシは血液凝固作用を起こす毒をもっていて、メカニズムはよく飲み込めませんでしたが、出血が止まらなくなるそうです。
ヘビの抗毒素(血清)は、2000年ころではマムシが1万7000円で、ハブが3万8000円だったそうですが、近年値上がりしていて、現在ではそれぞれ9万円、24万円という高値だそう。医療保険適用になりますが、一般の3割負担だとしてもかなりの額面になります。しかも、ハブでは1~3本程度使っての治療となるので、そら恐ろしいですね。
ヘビの人的被害について。種々のヘビについて個別の節で解説してくれていますが、かの有名なキングコブラにはかなり人間がやられているのかと思いきや、人里離れた区域に生息しているため、主な被害者はヘビ使いだそう。繰り返しますが、主な被害者はヘビ使い。
最後の章では、神話などからヘビと人類の関係を考えていますが、インドの世界観ではヘビは世界を一番下から支えてるイメージがあるんですね。ヘビは宇宙に相当し、そのうえにでっかい亀がのっかり、その亀のうえに亀ほどではないですがでっかい象が何頭か乗って、その象が世界を乗っけている。この図は、検索するといくつもヒットするので、興味のある方は見てみてください。
アダムとイヴのイヴに青リンゴを食べさせたのもヘビでした。人間の先祖、アダムとイヴは楽園を追われましたけれども、人間は「神様のように善悪を知る者」となりました。ヘビは人間に知恵を授けちゃった存在です。この話に限ったことではなく、ヘビは多様な文化圏で「善悪両面の性質」を持っている役割を担わされています。守護者や知恵の象徴でありながら、危険や誘惑の象徴でもあります。また、日本の一部地域では、「家にヘビが入ると運がいい」とされますし、昔からヘビの脱皮した皮は金運を上げるとも言われてきました。そのほか、再生や回復のイメージがあり、白ヘビとなると財運・知恵・芸術との結びつきを考える向きがあるみたいです。
といったところです。自治体などからいっさい助成金をもらわずにスネークセンターを経営しつつ研究もしている研究者たちが書いた本です。本書を読んでみると、ここに列記したあれこれをもっと詳しく知ることができますから、興味を持たれた方はぜひ。
著者たちの語り口がどことなく質実としているなかで、ところどころで素朴なユーモアを見せてくれもして、なごやかな気分で読み進めていくことができました。ときに日向ぼっこが必要な変温動物であるヘビたちは、研究のため、抗毒素のためなどで命をいただかれてしまうことは珍しくないようですが、そういった個体たちに対してはせめてもの温かさであり、展示されている個体たちには陽光のあたたかさにプラスした温かさであるような、研究者たちの熱意とともに個性ある気概のようなものがあたたかく宿る本だった、と最後に結んで終わりとします。
『ヘビ学 毒・鱗・脱皮・動きの秘密』 ジャパン・スネークセンター
を読んだ。
全世界で約4100種を数えるヘビの生態のあれこれを解説し、さらに全体の2割程度を占める毒ヘビのその毒の種類などについて深掘りし、それからヘビにまつわる事件(違法飼育事件、脱走事件、咬傷事件など)を紹介し、最後に神話や伝承などから人類がヘビに何を見てきたかを辿っていく構成です。
著者名義の「ジャパン・スネークセンター」は群馬県にある蛇専門の動物園で、一般財団法人「日本蛇族学術研究所(蛇研)」が運営しているそうです。執筆には、研究者四名があたっていました。
本書で得られる知識の一端を箇条書き的に少しだけご紹介します。
ヘビには聴覚がない。道にヘビがいてどいてくれないときに、大声で「どいてー!!」などと怒鳴ったり叫んだりしても、ヘビには聞こえないので無意味。
アオダイショウは50mほどもある鉄塔にもするするのぼっていき、高圧電線と接触してたびたび停電を起こしもするそう。どうして高いところにのぼっていくのかははっきりとはわかっていないとか。僕は北海道の田舎に住んでいますけれども、一年に数回は短い停電があります。これってもしかするとアオダイショウによるものもあるのかもしれないなあと思いました。
昨今はペットとして買われるヘビですが「なつく」ことはなく「なれる」だけ。蛇にとって生物に対する思考の選択肢は三つしかなく、「餌かどうか(食えるかどうか)」「敵かどうか」「繁殖の対象かどうか」だそう。そしてどれにも当てはまらないと判断したものには無関心になります。ただ、実際は、人間に接したときは敵かどうかの判断になるでしょうから、そこには恐れや怯えが生まれます。でも、攻撃されない、敵視されていないとわかると、ヘビの感覚はどんどん鈍麻していき、人間になれていく。そうする触ることができますが、犬のようになつくことはないのだそう。
ヘビ毒は大きく三つのグループに分けられる。「出血毒」「神経毒」「カルディオトキシン(心臓毒・循環障害毒)」がそれです。ハブやマムシは「出血毒」系で、この毒が回ると消化器官で出血が起きたり、筋肉や皮下で出血が起きたりする。コブラ科の毒ヘビは「神経毒」系で、毒が回ると呼吸ができなくなり、病院に搬送されて人工呼吸器につながれるケースがいろいろと紹介されていました。また、ブラックマンバというアフリカの毒蛇は、咬んだ相手の体内の神経伝達物質を大量に放出させる毒を送り込み、そのため、相手は神経伝達物質がすぐに枯渇し、麻痺状態になるんだそうです。ナショナルジオグラフィックのテレビ番組で、ブラックマンバに咬まれたライオンがけいれんを起こしているシーンがあったとありました。他、日本にいるヤマカガシは血液凝固作用を起こす毒をもっていて、メカニズムはよく飲み込めませんでしたが、出血が止まらなくなるそうです。
ヘビの抗毒素(血清)は、2000年ころではマムシが1万7000円で、ハブが3万8000円だったそうですが、近年値上がりしていて、現在ではそれぞれ9万円、24万円という高値だそう。医療保険適用になりますが、一般の3割負担だとしてもかなりの額面になります。しかも、ハブでは1~3本程度使っての治療となるので、そら恐ろしいですね。
ヘビの人的被害について。種々のヘビについて個別の節で解説してくれていますが、かの有名なキングコブラにはかなり人間がやられているのかと思いきや、人里離れた区域に生息しているため、主な被害者はヘビ使いだそう。繰り返しますが、主な被害者はヘビ使い。
最後の章では、神話などからヘビと人類の関係を考えていますが、インドの世界観ではヘビは世界を一番下から支えてるイメージがあるんですね。ヘビは宇宙に相当し、そのうえにでっかい亀がのっかり、その亀のうえに亀ほどではないですがでっかい象が何頭か乗って、その象が世界を乗っけている。この図は、検索するといくつもヒットするので、興味のある方は見てみてください。
アダムとイヴのイヴに青リンゴを食べさせたのもヘビでした。人間の先祖、アダムとイヴは楽園を追われましたけれども、人間は「神様のように善悪を知る者」となりました。ヘビは人間に知恵を授けちゃった存在です。この話に限ったことではなく、ヘビは多様な文化圏で「善悪両面の性質」を持っている役割を担わされています。守護者や知恵の象徴でありながら、危険や誘惑の象徴でもあります。また、日本の一部地域では、「家にヘビが入ると運がいい」とされますし、昔からヘビの脱皮した皮は金運を上げるとも言われてきました。そのほか、再生や回復のイメージがあり、白ヘビとなると財運・知恵・芸術との結びつきを考える向きがあるみたいです。
といったところです。自治体などからいっさい助成金をもらわずにスネークセンターを経営しつつ研究もしている研究者たちが書いた本です。本書を読んでみると、ここに列記したあれこれをもっと詳しく知ることができますから、興味を持たれた方はぜひ。
著者たちの語り口がどことなく質実としているなかで、ところどころで素朴なユーモアを見せてくれもして、なごやかな気分で読み進めていくことができました。ときに日向ぼっこが必要な変温動物であるヘビたちは、研究のため、抗毒素のためなどで命をいただかれてしまうことは珍しくないようですが、そういった個体たちに対してはせめてもの温かさであり、展示されている個体たちには陽光のあたたかさにプラスした温かさであるような、研究者たちの熱意とともに個性ある気概のようなものがあたたかく宿る本だった、と最後に結んで終わりとします。
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