Fish On The Boat

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『キング牧師』

2018-03-16 21:42:32 | 読書。
読書。
『キング牧師』 辻内鏡人 中條献
を読んだ。

キング牧師は、
1950年代から60年代にアメリカで黒人差別をなくすための運動、
公民権運動を非暴力のやり方で戦った指導者です。
39歳の若さで凶弾に倒れてしまうのですが、
自分の死が訪れた時には、以下のようにしてください、という
死の二か月前の演説がありました。
「もし私の最期に立ちあうことがあったら、長々と弔辞を述べないでください。
私がノーベル平和賞を受賞したことなど言わないでください。
そんなことは重要なことではないのです。
(中略)
最期の日には、私マーティン・ルーサー・キングJr.は、
人のために一生を捧げた、と言ってもらいたいのです。
戦争の問題では、つねに正しい立場に立ったと言ってもらいたいのです。
すべての人間を愛し、仕えたと言ってもらいたいのです。」

本書はわかりやすく、キング牧師の生い立ちから運動にかかわっていくところ、
そして、成功を収め、さらに苦悩を抱えながらもあきらめない姿勢を
一定の速度で綴っています。
キング牧師は演説を中心として、その非暴力の直接抗議行動、
つまり、座り込みやデモ行進などで黒人差別、人種隔離を壊していきました。
その成功のインパクト、意志の強さや誠実さ、信念で貫いた感があって、
読んでいて気持ちが熱くなってくるくらいでした。

それにしても、アメリカは古くから奴隷制度を根幹にして発展した国ですから、
白人たちの頭には、差別意識が深いところまで刷り込まれています。
すさまじい迫害や弾圧が、民衆レベルだけじゃなしに、
警察や州知事、FBIなどの権力者までからもなされるのです。
大統領やライフ誌、ワシントンポストなどの名だたるマスコミにだって
差別が染みついている。
アメリカのもっとも深い病巣ってここなんですね。

自由の国アメリカは、アメリカになろうとしてなれないでいる国だ、と
本書に書かれていましたが、その通りだと思いました。

権力ぎらいの僕ですが、
キング牧師の「愛のともなわない権力は有害であり、
権力をともなわない愛は感傷的で非力です。」の言葉がぐっときました。
権力って愛とは無縁のものだと思っていたけれど、そうじゃないんですね。
権力ぎらいゆえに政治力も嫌いですが、
支配にならずに権力を使うとこ、勉強したいところです。

キング牧師の有名な演説の名文句である、
「私には夢がある。(I Have a Dream.)」。
キング牧師の死後、アメリカの人種問題の針は非暴力から反対のほうに振れてしまい、
いまだ解決を見ないとされていますが、
最近ではオバマさんが大統領職を全うされていましたし、
彼の遺業は未来をちゃんと照らしているのではないかと思います。
彼の夢が本当の意味で叶えられるとき、
アメリカは真のアメリカになれるのでしょう。

素晴らしい活動家ですが、
女性関係にだらしないところがあったり、
論文にたくさん剽窃があったりしたことがわかっているそうです。
自分は善人になりたいという演説をしていたこともあって、
完璧な人間ではないのです。
だからこそ、生身の人間の生身の心情を理解したうえで、
非暴力というガンジー由来の戦法で戦うことが
いちばんいいことだと若いうちから判断できたのかもしれない。

でもやっぱりその真似できない演説力と、
ニュートラルな気持ちと、
勇気ですよね。

リスペクトの念がふつふつとわき起こりながら、
読んでしまう伝記でした。

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