読書。
『命の格差は止められるか』 イチロー・カワチ
を読んだ。
ハーバード大学の日本人教授、
イチロー・カワチ氏による社会疫学についての紹介・解説書です。
たとえば、肥満で生活習慣病になってしまったひとがいるとする。
血圧も高い、血糖値も高い、などを改善していくために、
お医者さんが薬を処方し、運動不足を解消するように促したりする。
そういうのは、健康を大きな川の流れに喩えると、
下流での対処のしかただと、カワチ氏はいいます。
社会疫学は、川の上流で対処をするための学問。
上流ではなにが起こっているかを考えると、
貧困によって粗悪なスナック菓子や惣菜などを食べざるを得なくなっていたり、
それらの営業宣伝がうまく感情に訴えることもあって、
食生活に溶け込んでしまっていたり、ということがわかる。
社会全体を鳥瞰図のように見て、
処方箋を考えようとするのが特徴のようです。
なので、個人に責任を帰することはほとんどしない。
あくまで社会の仕組みの問題であり、
個人個人を見ていくにあたっても、
行動経済学の考え方で見ていくことになります。
人間一般の行動原理としてみていくので、
個人を責めることはないのです。
本書に、以下のような引用があります。
「下流」にいるお医者さんを主人公にして、
「上流」をイメージするに適した文章です。
_____________
「岸辺を歩いていると、助けて!という声が聞こえます。
誰かが溺れかけているのです。そこで、私は飛びこみ、その人を岸に引きずりあげます。」
「心臓マッサージをして、呼吸を確保して、一命をとりとめてホッとするのもつかの間。
また助けを呼ぶ声が聞こえるのです。」
「私はその声を聞いてまた川に飛び込み、患者を岸まで引っ張り、緊急処置をほどこします。
すると、また声が聞こえてきます。次々と声が聞こえてくるのです。」
「気がつくと私は常に川に飛び込んで、人の命を救ってばかりいるのですが、
一体誰が上流でこれだけの人を川に突き落としているのか、見に行く時間が一切ないのです。」
_____________
この「上流」を本書では、パブリックヘルスと呼んでもいます。
おもしろかったのが、
肥満は伝染する話です。
細菌やウイルスによって伝染するというのとは違いますが、
調査によって、わかっていることだそうです。
肥満の人が身近にいると、50%の確率でその友だちは肥満になるそうです。
肥満の友だちと直接関係が無くても、
肥満の人の友だちの友だちは20%の確率で肥満になる。
友だちの友だちの友だちにいたっては10%の確率で肥満に。
僕はこれってミラーニューロンが何か
影響しているのではないかなあと思いましたが、
仮に影響していても、たぶん小さい影響で、
なにがしか、脳全体に関わるような影響がありそうに思えます。
心理学的にはもう無意識の領域かもしれない。
また、現行の非正規雇用は不健康を産むだとか、
流れ作業が大きなストレスを産むだとか、
話の流れの中で登場する数々のトピックがどれも興味を引きました。
理想の労働環境について、図を用いて説明してくれたり、
高い教育を受けた者は健康である確率が高いことを教えてくれたり、
人との触れ合い、それが具体的な助けではなくても、
なにがしか助けたり助けられたりしているというソーシャルサポートの話があったり、
200ページちょっとのなかで、盛りだくさんでした。
でも、整理されているので、ごみごみしていない本で、読みやすいんですよ。
最近では受動喫煙制限の話題がありますが、
これなんかは法律でどうにかしようとしている。
つまりは、社会疫学、パブリックヘルスの考え方でやっているってことです。
著者は、日本の絆や繋がりといったものが
どうやら長寿に関係していると見ています。
日本の外にいると、それが顕著にわかるそうなんです。
日本の内側にいると、近所づきあいだとか面倒くさいなあ、なんて
思う人は多いと思うのですが、
そうであっても、長寿の恩恵はそういうところから来ているとしています。
日本の平均寿命は長らく世界No.1でしたが、その座から陥落しているそうです。
格差社会の到来がその原因ではないかと本書は言っています。
この長寿No.1の座に復権するためにも、
健康目線で社会を変えていこう、という志が根底にある本です。
幸せに長生きできて、さらに健康状態であれば個人としてもすばらしいことだし、
国家としても医療費削減は喜ばしいことです。
WinWinの状態に持っていくためには、まだまだ研究も実践も足りないようですが、
こういった分野があるってことは喜びたいですよね。
良書でした。
『命の格差は止められるか』 イチロー・カワチ
を読んだ。
ハーバード大学の日本人教授、
イチロー・カワチ氏による社会疫学についての紹介・解説書です。
たとえば、肥満で生活習慣病になってしまったひとがいるとする。
血圧も高い、血糖値も高い、などを改善していくために、
お医者さんが薬を処方し、運動不足を解消するように促したりする。
そういうのは、健康を大きな川の流れに喩えると、
下流での対処のしかただと、カワチ氏はいいます。
社会疫学は、川の上流で対処をするための学問。
上流ではなにが起こっているかを考えると、
貧困によって粗悪なスナック菓子や惣菜などを食べざるを得なくなっていたり、
それらの営業宣伝がうまく感情に訴えることもあって、
食生活に溶け込んでしまっていたり、ということがわかる。
社会全体を鳥瞰図のように見て、
処方箋を考えようとするのが特徴のようです。
なので、個人に責任を帰することはほとんどしない。
あくまで社会の仕組みの問題であり、
個人個人を見ていくにあたっても、
行動経済学の考え方で見ていくことになります。
人間一般の行動原理としてみていくので、
個人を責めることはないのです。
本書に、以下のような引用があります。
「下流」にいるお医者さんを主人公にして、
「上流」をイメージするに適した文章です。
_____________
「岸辺を歩いていると、助けて!という声が聞こえます。
誰かが溺れかけているのです。そこで、私は飛びこみ、その人を岸に引きずりあげます。」
「心臓マッサージをして、呼吸を確保して、一命をとりとめてホッとするのもつかの間。
また助けを呼ぶ声が聞こえるのです。」
「私はその声を聞いてまた川に飛び込み、患者を岸まで引っ張り、緊急処置をほどこします。
すると、また声が聞こえてきます。次々と声が聞こえてくるのです。」
「気がつくと私は常に川に飛び込んで、人の命を救ってばかりいるのですが、
一体誰が上流でこれだけの人を川に突き落としているのか、見に行く時間が一切ないのです。」
_____________
この「上流」を本書では、パブリックヘルスと呼んでもいます。
おもしろかったのが、
肥満は伝染する話です。
細菌やウイルスによって伝染するというのとは違いますが、
調査によって、わかっていることだそうです。
肥満の人が身近にいると、50%の確率でその友だちは肥満になるそうです。
肥満の友だちと直接関係が無くても、
肥満の人の友だちの友だちは20%の確率で肥満になる。
友だちの友だちの友だちにいたっては10%の確率で肥満に。
僕はこれってミラーニューロンが何か
影響しているのではないかなあと思いましたが、
仮に影響していても、たぶん小さい影響で、
なにがしか、脳全体に関わるような影響がありそうに思えます。
心理学的にはもう無意識の領域かもしれない。
また、現行の非正規雇用は不健康を産むだとか、
流れ作業が大きなストレスを産むだとか、
話の流れの中で登場する数々のトピックがどれも興味を引きました。
理想の労働環境について、図を用いて説明してくれたり、
高い教育を受けた者は健康である確率が高いことを教えてくれたり、
人との触れ合い、それが具体的な助けではなくても、
なにがしか助けたり助けられたりしているというソーシャルサポートの話があったり、
200ページちょっとのなかで、盛りだくさんでした。
でも、整理されているので、ごみごみしていない本で、読みやすいんですよ。
最近では受動喫煙制限の話題がありますが、
これなんかは法律でどうにかしようとしている。
つまりは、社会疫学、パブリックヘルスの考え方でやっているってことです。
著者は、日本の絆や繋がりといったものが
どうやら長寿に関係していると見ています。
日本の外にいると、それが顕著にわかるそうなんです。
日本の内側にいると、近所づきあいだとか面倒くさいなあ、なんて
思う人は多いと思うのですが、
そうであっても、長寿の恩恵はそういうところから来ているとしています。
日本の平均寿命は長らく世界No.1でしたが、その座から陥落しているそうです。
格差社会の到来がその原因ではないかと本書は言っています。
この長寿No.1の座に復権するためにも、
健康目線で社会を変えていこう、という志が根底にある本です。
幸せに長生きできて、さらに健康状態であれば個人としてもすばらしいことだし、
国家としても医療費削減は喜ばしいことです。
WinWinの状態に持っていくためには、まだまだ研究も実践も足りないようですが、
こういった分野があるってことは喜びたいですよね。
良書でした。