Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『問題解決ラボ』

2018-09-18 23:19:04 | 読書。
読書。
『問題解決ラボ』 佐藤オオキ
を読んだ。

世界中の一流ブランドやメーカーから依頼の絶えることのないという
デザイナーの佐藤オオキさんのエッセイ。

文章は軽やかながらも、
そこに含まれている内容をしっかり見つめてみれば、
自分の骨や肉とすることで基礎体力があがるものばかり。
ちょっと謎な言い方になりますが、頭の体幹トレーニングとでも言えばよいでしょうか。
それも、リラックスしてゆるやかな感じでできるトレーニング。
詳しい感覚を説明すると、
楽しい文章を享受しながら、
でもしっかり頭を使うことを誘引する文章ですかね。
なので、一章一章が3ページとか4ページとかなのですが、
5,6章読むと疲労感を感じたりします。
でも、それだけ、はっきり意識はさせられずに、
しかし、頭を働かせられる内容なんです。

デザイナー思考について何も知らない人でも、
本書によってそれがどんな感じなのかを知ることができると思います。
デザイナーたるもの、
まず「整理」と「伝達」そして「ひらめき」と続く3つの能力を養うものだと書いてありますが、
その説明それこそがよく「整理」された思考であり、
くだけた文章表現という上手い「伝達」なのでした。
そして、半歩前にでてみる、など独特な「伝達」の仕方で語られる、
アイデアつまり「ひらめき」の出し方のヒントが、
それ以外の角度などから語られたり、別の言葉で語られたりします。
著者は論理的で、かつ人あたりの良いタイプのデザイナーですから、
ソフトなのになぜかぐっと背骨にくるような感覚で鍛えられる読書になります。

物事を考えているときは、先送りせずに今でしょ!とすぐに答えをだそうとせず、
遅いほうがでる答えに深みとが出るし、
そこから広がる可能性の広さやレンジの長さは大きくなるとする考えには膝を打ちました。
「先送り」というアバウトに使える言葉で、
全部同じ意味でくくってしまうと出ない考えですよね。
トイレ掃除しなきゃとか、買い物行かなきゃとか、暗記しなきゃとか、
そういうのは「先送り」せず今やんなさいでいいかもしれないですが、
アイデアを出したり、もやもやしたものを言葉などでかたちにするときは、
「先送り」しないことは性急さを意味します。

また、その考えに付随するものとして、
アイデアの硬度、という著者なりの考えにも共感を覚えました。
僕だったら、言葉になる前のふわふわどんよりした状態に言葉を当てはめることは、
言葉によってその輪郭でそのもやもやした言葉以前のものを便宜的にくくってしまう行為だ、
と言ってしまいます。その輪郭でくくるときには、そこからはみでるものがあり、
そのはみでたものは切り捨てられるんです。
そうやって情報量が少なくなっていく。
そこを著者は、アイデアは最初すごく柔らかいもので、言葉にしたり絵にしたり、
だんだんはっきりさせることでアイデアは硬くなっていくといいます。
僕の考えとはちょっとニュアンスが違いますが、似ているんですよね。
著者はさすが、アイデアの魔人みたいなひとですから場数もかなり踏まれているし、
そのあたりの洞察と表現に深みがある。

まあ、そんなわけではありますが、
でもまだまだ言い尽くせない良さが数多くあり、
おすすめして恥ずかしくない良書です。
デザイン思考が大事と昨今よく言われているようではありますが、
デザイン思考の解説すら今回すごくうまくデザインされているような、
つまり一回ぐるっと回ってこなれた形で客観的にも捉え直してから
伝えてくれているような、デザイン思考を教えてくれる本だと思いました。


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