Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる』

2022-04-26 03:34:42 | 読書。
読書。
『NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる』 フローレンス・ウィリアムズ 栗木さつき・森嶋マリ 訳
を読んだ。

タイトルの「NATURE FIX」を訳すと、「自然が回復させる」「自然が治す」となります。

本書は、人が自然に触れたり自然を体験することによって、日々のストレスから回復することがどうやらできるようだ、ということを解説しています。そればかりか、アメリカ、日本、韓国、イギリス、フィンランド、スウェーデン、シンガポールなどの自然と人間の研究やそれらを踏まえた実践的取り組みを取材した著者の経験をまじえながら、おおよそがドキュメンタリータッチで、認知力や創造性などの向上にまで自然の効果が認められることを教えてくれるのです。

近年、都市部に人口が集中し、2008年には世界人口の半分が都市生活者となりました。自然と疎遠になった都市生活は、人が本来発揮できるはずの認知力や創造性を押しとどめてしまっているのかもしれません。そう考えると、認知力や想像力が自然の力によって「向上する」のではなく、もともと備わっている力を「回復する」手助けになっていると考えることだってできます。

この観点からみてみれば、都市生活というものは、人のポテンシャルを伸ばさず、そればかりか悪影響を与える度合いの高いものと思えてしまいます。異常に混雑した環境の中に猫たちを閉じ込めるとみんな横暴になりいじめが発生し、それがラットたちだと巣作りを忘れて自分の体を食べ始め、霊長類だとホルモンバランスが崩れて生殖能力が落ちたのだそうです。これらは極端に密度の高い環境での実験例なのでしょうが、人口密度の高い場所に暮らす人間たちはどうなのかを考えてみれば、あまり良い影響は受けていないのかなあという気持ちに、容易になるのではないでしょうか。

しかしながら、各国でなされている「自然が人間に与える好影響の研究」の成果が行政の分野で取り上げられてもいます。植樹や公園の整備など都市部の緑地化に生かされ始めているのは、人の精神面への働きかけでもあるのでした。また、日本がパイオニアとなっている森林浴の分野に代表されるように、森などの深い自然で1日でも1週間でも過ごすことによって、血圧の正常化やストレスホルモンであるコルチゾールの低下などが認められるようです。

また、女性の退役軍人たち、それもPTSDを負った女性たちが急流下りのプログラムを通じて活力を取り戻していくのですが、その取り組みについて著者自らが体験取材の模様で伝えてくれたり、ADHDの子供たちが自然で過ごすプログラムを多く取り入れた学校で過ごしながら、症状が緩和していく様子をその傍らから伝えてくれたりなどもしています。自然からの効果はまだまだ未知の部分が多いですが、それでもこれだけの強い力を深く秘めていることが示唆されるのでした。

これら広範な内容のなかでも、自然による嗅覚での影響、聴覚での影響、視覚での影響について割かれている部分が、僕にはもっとも興味深かったです。嗅覚ではフィトンチッドと呼ばれる森の匂いの成分に効果があるという研究があり、聴覚では、鳥の鳴き声や川の流れる音による癒しの研究があり、視覚では、自然の中にみられるフラクタル(全体の形とそれを構成する部分の形が相似形であること)による癒しの研究があるというのがそれでした。これらすべてをいっしょに体験できるのが、やっぱり森林浴になるのです。

以前、僕は4シーズンほど自然がいっぱいの観光地で働いていました。四季の移ろいがほんとうに身近に感じられるといいますか、自然と一体となって過ごしていた感があります。ウグイスが鳴き、エゾシカが草を食みにあらわれ、桜が咲き、ルピナスなどの野の花が季節ごとに咲き誇り、晴天や雷雨、暑さや寒さを、扉が開け放たれた小さな一軒家型の受付兼カフェで体験しながら働いていました。接客商売のストレスだってあるのですが、それでもやっぱり、基本的に気持ちの良い仕事でした。脳にも身体にも好かったんだと思います。比較的楽観的にモノを考えることができ、そして感情の抑制も周囲の人たちと比べてできるほうなのは、こういった影響も大きかったのかもしれないです。

最近は屋内にいることがとても多いです。本書の内容を踏まえると、またどこか自然に溶け込めるような場所で過ごしたくなりました。車で15分くらいのところに自然公園があるので、そこに行ってみようかなという気持ちになってきます。一月に5時間、自然のなかで過ごすと効果が出るようです。みなさんもいかがですか。


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