読書。
『犬のかたちをしているもの』 高瀬隼子
を読んだ。
2019年、第43回すばる文学賞受賞作。
ひらがなに開いた言葉づかいを中心とした、比較的、やわらかな文体です。とげとげした感じのしない純文学です。
概要を簡単に。主人公は卵巣の病気のために、子どもをつくれるともつくれないとも言い切れない身体です。これまでの交際歴をふりかえっても、付き合いはじめこそ性的な関係を持ちますが、3か月も経つとセックスレスになる傾向を持っています。嫌悪感というか、身体的に拒否してしまうところがある。それで、現在の彼氏は、それでも主人公を愛している、と関係を続けていくのですが、お金の関係で他の女性を妊娠させてしまいます。その女性が、予定外の妊娠だったのだけれども中絶はしたくないから産む、その子どもを主人公と彼氏にもらってほしい、と提案のようなお願いをしてきます。主人公はなし崩し的に子どもをもらう方向へと傾いていくのですが、どうなるのか、という話です。
こういった特殊な設定でのリアリティ小説なのですけれども、彼氏にしても妊娠した女性にしても、ちょっと特異な行動をとってしまっていて、それがこの物語のひとつの回転軸となっている。でも、彼らはちゃんと社会性の範囲内での振る舞いをしています。もうひとつの回転軸は主人公の女性の身体性だと思います。
最後の20ページほどにそれまでよりも力強いうねりのようなものがあり、そこを経てたどり着くラストを終えて漂う余韻に、ある種の納得と、作品となにかを共有したというような感覚を得ました。
本作は落ち着いたテンションでの語り口ですが、冷たいわけではなく、適度にほんのりとしたあたたかみと、やわらかさが宿った作品という印象です。
以下に、中盤で印象的なセリフをふたつ引用して終わりにします。
__________
(主人公の彼氏の子を宿しながらも、中絶はしたくないという女性(ミナシロさん)のセリフ)
「だって掻き出すんでしょ? 一応、生きてるものを」(p54)
→子どもを堕ろすことについてちゃんと知らないし具体的に想像したこともなかったですから、はっとしました。
__________
__________
(地下鉄の改札を入ったところで父親くらいの年の男にぶつかられる主人公。わざとぶつかってきた人だと、彼女は思う。フラストレーションが溜まってるんだ、と。)
むかつく、こんな街で、こんな世界で、よく子どもなんて産もうって、思えるな、みんな。(p58)
→僕はやっぱり、女性の世界への想像力がさまざまな方向で及んでいないので、こうやってこのような文学から知ったり推し量ったりするのです。改めてそういったことを感じました。
__________
作者の高瀬隼子さんは昨年、芥川賞を受賞されました。この作品のあとどういった進化をされたか、表現への踏み込みがどう深まったのか、興味がありますので、またそのうちに別の作品に触れてみようと思います。
『犬のかたちをしているもの』 高瀬隼子
を読んだ。
2019年、第43回すばる文学賞受賞作。
ひらがなに開いた言葉づかいを中心とした、比較的、やわらかな文体です。とげとげした感じのしない純文学です。
概要を簡単に。主人公は卵巣の病気のために、子どもをつくれるともつくれないとも言い切れない身体です。これまでの交際歴をふりかえっても、付き合いはじめこそ性的な関係を持ちますが、3か月も経つとセックスレスになる傾向を持っています。嫌悪感というか、身体的に拒否してしまうところがある。それで、現在の彼氏は、それでも主人公を愛している、と関係を続けていくのですが、お金の関係で他の女性を妊娠させてしまいます。その女性が、予定外の妊娠だったのだけれども中絶はしたくないから産む、その子どもを主人公と彼氏にもらってほしい、と提案のようなお願いをしてきます。主人公はなし崩し的に子どもをもらう方向へと傾いていくのですが、どうなるのか、という話です。
こういった特殊な設定でのリアリティ小説なのですけれども、彼氏にしても妊娠した女性にしても、ちょっと特異な行動をとってしまっていて、それがこの物語のひとつの回転軸となっている。でも、彼らはちゃんと社会性の範囲内での振る舞いをしています。もうひとつの回転軸は主人公の女性の身体性だと思います。
最後の20ページほどにそれまでよりも力強いうねりのようなものがあり、そこを経てたどり着くラストを終えて漂う余韻に、ある種の納得と、作品となにかを共有したというような感覚を得ました。
本作は落ち着いたテンションでの語り口ですが、冷たいわけではなく、適度にほんのりとしたあたたかみと、やわらかさが宿った作品という印象です。
以下に、中盤で印象的なセリフをふたつ引用して終わりにします。
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(主人公の彼氏の子を宿しながらも、中絶はしたくないという女性(ミナシロさん)のセリフ)
「だって掻き出すんでしょ? 一応、生きてるものを」(p54)
→子どもを堕ろすことについてちゃんと知らないし具体的に想像したこともなかったですから、はっとしました。
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(地下鉄の改札を入ったところで父親くらいの年の男にぶつかられる主人公。わざとぶつかってきた人だと、彼女は思う。フラストレーションが溜まってるんだ、と。)
むかつく、こんな街で、こんな世界で、よく子どもなんて産もうって、思えるな、みんな。(p58)
→僕はやっぱり、女性の世界への想像力がさまざまな方向で及んでいないので、こうやってこのような文学から知ったり推し量ったりするのです。改めてそういったことを感じました。
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作者の高瀬隼子さんは昨年、芥川賞を受賞されました。この作品のあとどういった進化をされたか、表現への踏み込みがどう深まったのか、興味がありますので、またそのうちに別の作品に触れてみようと思います。