読書。
『ニムロッド』 上田岳弘
を読んだ。
仮想通貨・ビットコインのマイニング(採掘)や実用化に失敗した「駄目な飛行機」たち、そして高くそびえる塔といったモチーフを反射板みたいにつかいながら語られる物語。
デジタルの圧倒的な大波をざぶんと浴びせられ、そののちデジタルの破片をたくさん身体に受けたままアナログの立場で書いた小説、といった感覚でした。なんていうか、乾いていてシンプルで、それでいて割り切れないような生々しい複雑さの結び目のようなものがある。
主人公の中本哲史はIT企業の社員で、新設された採掘課の課長。運営するサーバーコンピュータの空きを使ってのビットコインの採掘を命じられる。主人公の名前はビットコインの創設者とされるナカモト・サトシと同じ名前です。このリンクがまた、この小説の乾燥した読み味に一役買っているような気がします。
恋人の田久保紀子は大手外資企業で、人には話せない企業秘密を抱えながらシンガポールへ飛んだりしながら大きな仕事をしている。
友人であり同じ企業の名古屋支社に勤務するニムロッドこと荷室仁は、小説家志望で新人賞の最終選考で3度落ちたことで鬱病をわずらい、そこからいくらか回復した状態で物語に登場する。
この中本哲史を中心としたこの三人だけの物語です。遺伝子のコードやプログラムのソースのように、小説がそれを読む人の心になにかを記載する作用を期待して小説を書いているのではないか、という仮説があります。それは夢想なのだろうけれど、この空っぽの世界を支えているのはそういった行為かもしれない、と。この部分に、僕はかなり同意しましたね。
150ページほどの中編ですが、その文体による読み心地が僕には好ましかった。帯に、「心地よい倦怠と虚無」とありますが、その倦怠や虚無は、この世界をそれまでよりも少しだけわかってしまったからこそ宿る種類のものなのではないか、と思いました。
著者の、他の作品もそのうち、読んでみたいです。
『ニムロッド』 上田岳弘
を読んだ。
仮想通貨・ビットコインのマイニング(採掘)や実用化に失敗した「駄目な飛行機」たち、そして高くそびえる塔といったモチーフを反射板みたいにつかいながら語られる物語。
デジタルの圧倒的な大波をざぶんと浴びせられ、そののちデジタルの破片をたくさん身体に受けたままアナログの立場で書いた小説、といった感覚でした。なんていうか、乾いていてシンプルで、それでいて割り切れないような生々しい複雑さの結び目のようなものがある。
主人公の中本哲史はIT企業の社員で、新設された採掘課の課長。運営するサーバーコンピュータの空きを使ってのビットコインの採掘を命じられる。主人公の名前はビットコインの創設者とされるナカモト・サトシと同じ名前です。このリンクがまた、この小説の乾燥した読み味に一役買っているような気がします。
恋人の田久保紀子は大手外資企業で、人には話せない企業秘密を抱えながらシンガポールへ飛んだりしながら大きな仕事をしている。
友人であり同じ企業の名古屋支社に勤務するニムロッドこと荷室仁は、小説家志望で新人賞の最終選考で3度落ちたことで鬱病をわずらい、そこからいくらか回復した状態で物語に登場する。
この中本哲史を中心としたこの三人だけの物語です。遺伝子のコードやプログラムのソースのように、小説がそれを読む人の心になにかを記載する作用を期待して小説を書いているのではないか、という仮説があります。それは夢想なのだろうけれど、この空っぽの世界を支えているのはそういった行為かもしれない、と。この部分に、僕はかなり同意しましたね。
150ページほどの中編ですが、その文体による読み心地が僕には好ましかった。帯に、「心地よい倦怠と虚無」とありますが、その倦怠や虚無は、この世界をそれまでよりも少しだけわかってしまったからこそ宿る種類のものなのではないか、と思いました。
著者の、他の作品もそのうち、読んでみたいです。