読書。
『不連続殺人事件』 坂口安吾
を読んだ。
戦後まもない頃、山奥の豪邸に集まった作家や画家や女優などなど。そんな彼らの間で次々と殺人が起こります。いったい誰が、どんな動機で、どのようにして行ったのか。探偵小説愛好家だった純文学作家・坂口安吾による推理小説の名作。
多人数でてきますが、個性の強いキャラクターばかりでした。アクやクセが強く、変人とくくってしまえそうだったりする人たちしかいません。そして彼らの関係が痴話がらみでフクザツです。そんな異様な小世界を設定したからこそ、8人も殺されるこの「不連続殺人」の、大いなるトリックを物語の中に隠せたのだと思います(このあたりは、巻末のふたつの解説と本文の読後感とを照らし合わせたうえでの感想です)。
謎を解くキーワードは、「心理の足跡」。作者は、自ら紙の上に出現させたキャラクターの心理造形、そして動き出した彼らの心理追跡に余念のないなかでトリックをこしらえていて、ネタバレになってしまいますが、その心理操作の破れを、巧みに流れさせたストーリーに隠して、解決編でそこを持ち上げてみせるのでした。
推理小説って、読者にわからせないために、合理性だけでは明かせない作りになっている、と解説にあり、僕はほとんど推理小説を読まないけれども、それでも思い当たりはするのでした。そこに、作者のズルさがあるのです。それが性に合わない人が、推理小説を手に取ることをしないのかもしれない。
女性キャラクターは性的な魅力にあふれる人ばかりが出てきます。これは、女性礼讃的な作者の性格がでてるんじゃないのかな、と思ってしまいました。
というところですが、以下におもしろかったセリフを引用します。
__________
「然しなんだね。矢代さん。あなたは、どう思うね。人間はどういつもこいつも、人殺しくらいはできるのだ。どの人間も、あらゆる犯罪の可能性をもっている。どいつも、こいつも、やりかねない」(p94)
__________
→何人か集ってなんやかやすれば、各々の心理に他殺や自殺の動機が疑われないことってないんだと思います。これは以前、西加奈子さんの『窓の魚』を読んだときに感じたことでもありました。
__________
「ともかく、田舎のアンチャン、カアチャンの犯罪でも、伏線、偽証、却却<なかなか>額面通りに受け取れないもので、必死の知能、驚くべきものがあるものですよ」(p232)
__________
→これ、ほんとにそうです。こっちが侮っていたような相手が、裏で、真似できないくらい高等な細工を弄していたりする。それも、最初から言葉でぜんぶ論理を組み立てていくっていうのではなくて、あるときに閃くみたいにして感覚的に勘所がどこかをみとって、そこから柔らかく論理を編んでいっている感じだったりします。僕自身も、論理の組み立てはそういう田舎のアンチャン的要素ってけっこうあるような気がします(まあ、そもそも田舎人でもあるし)。バックグラウンドとしての知識はないのに、日常の知性だけでぽんと飛翔するみたいなのってあります。それはそれとして、人間の「必死の知能」って、こりゃかなわん、ってくらいすごいものが出てきてたりするものですよね。
『不連続殺人事件』 坂口安吾
を読んだ。
戦後まもない頃、山奥の豪邸に集まった作家や画家や女優などなど。そんな彼らの間で次々と殺人が起こります。いったい誰が、どんな動機で、どのようにして行ったのか。探偵小説愛好家だった純文学作家・坂口安吾による推理小説の名作。
多人数でてきますが、個性の強いキャラクターばかりでした。アクやクセが強く、変人とくくってしまえそうだったりする人たちしかいません。そして彼らの関係が痴話がらみでフクザツです。そんな異様な小世界を設定したからこそ、8人も殺されるこの「不連続殺人」の、大いなるトリックを物語の中に隠せたのだと思います(このあたりは、巻末のふたつの解説と本文の読後感とを照らし合わせたうえでの感想です)。
謎を解くキーワードは、「心理の足跡」。作者は、自ら紙の上に出現させたキャラクターの心理造形、そして動き出した彼らの心理追跡に余念のないなかでトリックをこしらえていて、ネタバレになってしまいますが、その心理操作の破れを、巧みに流れさせたストーリーに隠して、解決編でそこを持ち上げてみせるのでした。
推理小説って、読者にわからせないために、合理性だけでは明かせない作りになっている、と解説にあり、僕はほとんど推理小説を読まないけれども、それでも思い当たりはするのでした。そこに、作者のズルさがあるのです。それが性に合わない人が、推理小説を手に取ることをしないのかもしれない。
女性キャラクターは性的な魅力にあふれる人ばかりが出てきます。これは、女性礼讃的な作者の性格がでてるんじゃないのかな、と思ってしまいました。
というところですが、以下におもしろかったセリフを引用します。
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「然しなんだね。矢代さん。あなたは、どう思うね。人間はどういつもこいつも、人殺しくらいはできるのだ。どの人間も、あらゆる犯罪の可能性をもっている。どいつも、こいつも、やりかねない」(p94)
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→何人か集ってなんやかやすれば、各々の心理に他殺や自殺の動機が疑われないことってないんだと思います。これは以前、西加奈子さんの『窓の魚』を読んだときに感じたことでもありました。
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「ともかく、田舎のアンチャン、カアチャンの犯罪でも、伏線、偽証、却却<なかなか>額面通りに受け取れないもので、必死の知能、驚くべきものがあるものですよ」(p232)
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→これ、ほんとにそうです。こっちが侮っていたような相手が、裏で、真似できないくらい高等な細工を弄していたりする。それも、最初から言葉でぜんぶ論理を組み立てていくっていうのではなくて、あるときに閃くみたいにして感覚的に勘所がどこかをみとって、そこから柔らかく論理を編んでいっている感じだったりします。僕自身も、論理の組み立てはそういう田舎のアンチャン的要素ってけっこうあるような気がします(まあ、そもそも田舎人でもあるし)。バックグラウンドとしての知識はないのに、日常の知性だけでぽんと飛翔するみたいなのってあります。それはそれとして、人間の「必死の知能」って、こりゃかなわん、ってくらいすごいものが出てきてたりするものですよね。