読書。
『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』 町田そのこ
を読んだ。
5つの短編が繋がっていく、連作集。著者のデビュー作です。第15回「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞作、「カメルーンの青い魚」を皮切りに、時間的にも空間的にも広がっていき、味わいが深まっていく世界でした。
受賞作はもちろん面白いのだけど、その後に書いていったのであろう、その次に続いていく作品群を読んで、その受賞がさらにジャンプ台になって飛躍していったんじゃないかと思えてしまうほど、筆力も構成力も油がのっていってこちらはぐいぐい読んでいくことになり引き込まれながらたびたび、すごいな、とも思ってしまう。
一作一作の構成力や仕掛けがよく考えられているし、アイデアも優れているのだけれど、連作としてその5編を通しての構成も「よく創ったなあ!」と著者の労力、大げさな言い方になってしまいますが、つまり全霊をかけたというか、心血を注いだというか、ほんとうにエネルギーを懸けたなあ、ということがわかり、賞賛とねぎらいの気持ちいっぱいになります。それはもちろん、作品世界を十分に堪能して楽しんだあと、気持ちが本書とシンクロするようにまで没入した読書体験を経てのものです。
5編を通しての構成について言うと、各々の物語で重なる人物がいることで、数珠のようにつながっていますし、魚というモチーフが貫かれていて作品を通しての色どりというか、本書一冊のひとつのトーンとして機能しているとも感じました。
ネタバレにするともったいないと思いながらも、本書の三篇目にあたる中編「波間に浮かぶイエロー」から印象的なセリフをいくつか引用して紹介します。これらの部分でストライクだと感じられた方ならば、本書を手に取って満足の読書体験を得られそうです。
__________
だからわたし、いままでずっと信じてきたの。自分に自信を失いそうになっても、高橋さんの言葉を思いだしたら頑張ろうって思えた。この世界のどこかにわたしのことを想って生きているひとがいるんだから、頑張って生きなくちゃって。(「波間に浮かぶイエロー」p151)
__________
__________
いくら言葉を貰っても、それじゃ勝てるはずがない。力を尽くして得たものだけが、新しい力をくれるんだよ。誰かからもらおうとしちゃダメだったんだ。(「波間に浮かぶイエロー」p174)
__________
→名言には二種類あると僕は考えていて、それは、受け手に傷痕を残すものと、受け手の迷いを弱くするものとがそれ。このふたつは後者の名言。
__________
ホテルでキスされたときなんて死んでもいいと思ったって。都合よく使われただけなのに、最高の思い出のように語るのよ。(「波間に浮かぶイエロー」p199)
__________
→ここを読んで、男ってそういうものだよね、と思ってしまうように、僕もこのセリフを吐くような種類の男なのだよなあ、とちょっと目じりが下がる思いがするのでした。
なんていうか、生きていくことを描いていますね。応援であり、寄り添いであり、励ましであり、慰めであり。そういった「大変だけど生きていこうよ」というようなベクトルが、本書に息づいています。
とっても良かったです。
『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』 町田そのこ
を読んだ。
5つの短編が繋がっていく、連作集。著者のデビュー作です。第15回「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞作、「カメルーンの青い魚」を皮切りに、時間的にも空間的にも広がっていき、味わいが深まっていく世界でした。
受賞作はもちろん面白いのだけど、その後に書いていったのであろう、その次に続いていく作品群を読んで、その受賞がさらにジャンプ台になって飛躍していったんじゃないかと思えてしまうほど、筆力も構成力も油がのっていってこちらはぐいぐい読んでいくことになり引き込まれながらたびたび、すごいな、とも思ってしまう。
一作一作の構成力や仕掛けがよく考えられているし、アイデアも優れているのだけれど、連作としてその5編を通しての構成も「よく創ったなあ!」と著者の労力、大げさな言い方になってしまいますが、つまり全霊をかけたというか、心血を注いだというか、ほんとうにエネルギーを懸けたなあ、ということがわかり、賞賛とねぎらいの気持ちいっぱいになります。それはもちろん、作品世界を十分に堪能して楽しんだあと、気持ちが本書とシンクロするようにまで没入した読書体験を経てのものです。
5編を通しての構成について言うと、各々の物語で重なる人物がいることで、数珠のようにつながっていますし、魚というモチーフが貫かれていて作品を通しての色どりというか、本書一冊のひとつのトーンとして機能しているとも感じました。
ネタバレにするともったいないと思いながらも、本書の三篇目にあたる中編「波間に浮かぶイエロー」から印象的なセリフをいくつか引用して紹介します。これらの部分でストライクだと感じられた方ならば、本書を手に取って満足の読書体験を得られそうです。
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だからわたし、いままでずっと信じてきたの。自分に自信を失いそうになっても、高橋さんの言葉を思いだしたら頑張ろうって思えた。この世界のどこかにわたしのことを想って生きているひとがいるんだから、頑張って生きなくちゃって。(「波間に浮かぶイエロー」p151)
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いくら言葉を貰っても、それじゃ勝てるはずがない。力を尽くして得たものだけが、新しい力をくれるんだよ。誰かからもらおうとしちゃダメだったんだ。(「波間に浮かぶイエロー」p174)
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→名言には二種類あると僕は考えていて、それは、受け手に傷痕を残すものと、受け手の迷いを弱くするものとがそれ。このふたつは後者の名言。
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ホテルでキスされたときなんて死んでもいいと思ったって。都合よく使われただけなのに、最高の思い出のように語るのよ。(「波間に浮かぶイエロー」p199)
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→ここを読んで、男ってそういうものだよね、と思ってしまうように、僕もこのセリフを吐くような種類の男なのだよなあ、とちょっと目じりが下がる思いがするのでした。
なんていうか、生きていくことを描いていますね。応援であり、寄り添いであり、励ましであり、慰めであり。そういった「大変だけど生きていこうよ」というようなベクトルが、本書に息づいています。
とっても良かったです。