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『5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人』

2024-10-01 12:09:38 | 読書。
読書。
『5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人』 熊谷徹
を読んだ。

タイトルのとおりのことを書いてある、労働改革を考えるための内容です。「◯◯では、」が多く、「出羽守」と揶揄されるタイプなのは否めませんが、なんだこりゃっていう本ではないですし、そればかりかタメになりました。

日本人の労働時間が多いといっても、本書掲載のグラフを眺めるとアメリカや韓国に比べるとまだまだ少ない。ドイツと比べて1人あたりの労働生産性がだいぶ低いと言ってもアジア圏では最上位レベル。でも、もっとうまく労働しようという本は、本書以外にもちらほら本屋で見受けます。

少子化と高齢化がますます進んでいく今後、国力や生活レベルががたんと落ちて落ちぶれないためには、ドイツなどを見習うのはリスクヘッジなのではないか。労働時間を減らそうというのは、もっと怠けようというよりも、もっと労働を洗練させようという腹積もりのほうを強く意識して考えたらいいのでしょう。もちろん、人生そのもの、人間性そのものを考えるというような、ワークライフバランスを大切にする価値観を尊重する意味でも。

会社側、法人側の業績拡大だとかの論理を取る形で日本の政府や社会は動いているけれども、人間側の人間性を大切にする論理をないがしろにしてちゃ、疲弊してしまい、消費者としての面の機能が落ちるでしょうし、豊かな文化だとか人とのつながりだとかも育ちにくいかもしれない、と本書を読みながらいろいろと思い浮かべるように考えていました。

人間性をもっと大事にして、現状の、労働で拘束されながら時間の浪費を強いられる状況をよくできたら、人間の消費者としての面がもっと豊かに育つのではないでしょうか。すると、経済も回る。たとえそうやってみて同じ生産性で経済面は変わらなかったとしても、ウェルビーイングやQOLが高いほうがポテンシャルがありますよね。

また、けっこう深く感じたのですけれども、ドイツ人って、平均するともしかしてかなり孤独なひとたちだったりするのではないか。それは、すごく合理的だっていうからです。孤独についての本を読むと、合理的な考え方が進んだら、たとえば希望なんていう不合理なものをあまり持たないようになっていくっていうんですけ、実際のところはどうなんだろう。あと付け加えるのは、ドイツ人は、義理を欠くのがふつうですし、日本のようなおもてなしやサービスとは真逆のポジションにあることです。なんでもかんでもドイツ人が優れているわけでもないのです。


さて、ここからは引用とそれに対するコメントを。

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日本はドイツと違って、労働時間に関する法律の強制力が弱い。そのため、多くの企業で長時間労働が横行しており、有給休暇の消化率も低い。
端的に言うと、日本の法律は労働者の保護(健康や自由)より、企業側の論理(業績拡大)を優先させている(p15)
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→本書は2017年発行なので、前提としている日本の残業時間は月100時間未満です。現在は月45時間・年360時間まで引き下げられています。ドイツでは、一日の労働時間は多くても10時間までで、6カ月間の平均労働時間は1日8時間以下にしなければいけないそうです。つまり、8時間を超えて働いた日があったら、どこかで6時間にしたりして、トータルでは超過勤務は無しということにしないと法律を侵してしまうのでした。それでも、労働者一人当たりが1時間ごとに生み出すGDPは、ドイツ人が日本人よりも46%多いのです。とても効率的です。



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ドイツから見ると、日本の労働組合は「おとなしい」という印象を受けてしまう。
ドイツの法律で1日10時間を超える労働が禁止されているといっても、当局の監視が弱ければ形骸化してしまう。
その点、ドイツでは「事業所監督局」(Gewerbeaufsicht)という役所が労働時間や労働環境を厳しく監視しており、抜き打ち検査も行われている。(p50)
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→一日10時間以下の労働時間をきちんと守らせるために、こういった国家による強い監視がドイツにはあるのでした。これがないから、日本では労働で健康を害してしまう人が多いのではないかという話に繋がっていました。また、過労死や自殺者が多いことも、こういった点からの改善を望むのはまっとうではないかと思えます。



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なお、アメリカでは法律で最低有給休暇日数が定められていない。ドイツに比べると労働者の権利が制限された、経営者に都合のよ"休暇小国"である。
アメリカのサラリーマンは、休暇中に自分の仕事を同僚に奪われることを恐れる傾向があり、まとまった日数の休暇を取らないことでよく知られる。その背景には、法律で労働者の休む権利が保障されていないという実態がある。(p74)
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→このくだりを読むと、日本はもともとアメリカ型の労働タイプなんだろうな、という気がしてきます。「ビジネス!」「経済!」と仕事を優先してやっていくことにすると、自然とこうなるものなのかもしれません。また、アメリカ人が自分の仕事を奪われる懸念を持っていることについては、恐怖と不安で市民をコントロールする性格のあるアメリカ国家の性格とも一致しますし、経済が最優先という志向には必ずつきまとう強迫観念もはっきり見えていて、大きく言えば「お国柄」なんですが、刷り込まれて染み込んでいるような傾向なんだろうなと思いました。



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また、ある日本人の知り合いは、「日本は健常者でなくてはならない社会だ。身体を壊すと冷たい国だから」と言っていた。日本で有給休暇の消化率を100%に近づけるためにも、有給の病欠を認めるべきだ。(p87)
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→日本人は保っている「秩序」の性質ってこれだと思います。ヘンだと思うもの、まともじゃないとするものは排除する気質がある。ここはなんとか、みんなで克服していけたらいい部分ではないでしょうか。あまりに不当にいきづらい人たちが生まれさせられてしまいますので。


といったところでした。本書が書かれた頃よりも、労働環境は改善への道に乗っているような気がします。それがまだまだだとしても、もっと生きやすく、働きやすく、という方向を向いているのはちょっと喜べます。訴えかけた人や、その声を受けてプランを考えた人、関わった政治家の人たちなどなどの尽力ですね(まだまだ労働改革は終わっていないですが)。



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