読書。
『さがしもの』 角田光代
を読んだ。
「本」がテーマの短編集。世界を旅する本の話や、都市伝説となっているとある本を探すのがストーリーの支流みたいになっている話、もしかすると呪いがこもっているかもしれない本の話などなど、9編+エッセイそして解説というつくりでした。
どの作品に対しても、なんだか安心感を持って読めました。読み始めてぴんとくるわけです、これはほぼ間違いなく、おもしろいかどうかの境界線をしっかり飛び越えてくる作家だぞ、と。
軽めのテイストでわかりやすく、読者への負荷は少ない。でも、言いたいことはきちんと書いているし、表現だって上手です。短編作品だということがあるでしょうけれども、冗長さとは対極にある作品集です。丸くて軽くて柔らかい言葉でできているのに、無駄がない感じ。とってもおいしい水ベースのカルピスみたいです、いや、呑む人向けにいえばウイスキーの水割りでもいいのですけど。
そんな、気楽においしい本書から、いくつか引用を。
__________
「私、子どものころおばあちゃんに訊いたことがあるの。本のどこがそんなにおもしろいの、って。おばあちゃん、何を訊いてるんだって顔で私を見て、『だってあんた、開くだけでどこへでも連れてってくれるものなんか、本しかないだろう』って言うんです。この町で生まれて、東京へも外国へもいったことがない、そんな祖母にとって、本っていうのは、世界への扉だったのかもしれないですよね」(「ミツザワ書店」p164)
__________
→開くだけで別世界に連れて行ってくれる。これは、現実のつらさから逃れてそれを忘れていられるひとときを与えてくれる、っていう言い方もできると思うんです。本を読むことって、ほかにもいろいろな思いもかけない効能がある、そんな気がするときのことを思いだせてくれます。
__________
「あたし、もうそろそろいくんだよ。それはそれでいいんだ。これだけ生きられればもう充分。けど気にくわないのは、みんな、美穂子も菜穂子も沙知穂も、人がかわったようにあたしにやさしくするってこと。ねえ、いがみあってたら最後の日まで人はいがみあってたほうがいいんだ、許せないところがあったら最後まで許すべきじゃないんだ、だってそれがその人とその人の関係だろう。相手が死のうが何しようが、むかつくことはむかつくって言ったほうがいいんだ」(「さがしもの」p179-180)
__________
→たぶん、これを言ったおばあちゃんは、ウソや偽りが嫌いなんでしょう。ひねくれた人が放つ、ひとつの哲学的知見でしょうか。現実世界で接すると骨が折れそうですけれども、こうやって物語世界に登場すると、物語に生気が濃く宿る感じがします。
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「死ぬのなんかこわくない。死ぬことを想像するのがこわいんだ。いつだってそうさ、できごとより、考えのほうが何倍もこわいんだ」(「さがしもの」p183))
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→これもひとつまえのおばあちゃんとおなじおばあちゃんの哲学です。想像するから動けなくなるんだっていうのはよく言われます。つまり、「案ずるより産むが易し」の「案ずる」が想像ですから。でも、だからこそジョン・レノンは「イマジン」を歌ったのかもしれません。想像してごらんよ、と。そうすれば戦争なんかできなくなるから、と。
というところですが、やっぱり売り物としての文章であり作品だなあと思いました。プロフェッショナルです。読んでよかったので、角田さんの別作品も近いうちに仕入れようと思いました。
『さがしもの』 角田光代
を読んだ。
「本」がテーマの短編集。世界を旅する本の話や、都市伝説となっているとある本を探すのがストーリーの支流みたいになっている話、もしかすると呪いがこもっているかもしれない本の話などなど、9編+エッセイそして解説というつくりでした。
どの作品に対しても、なんだか安心感を持って読めました。読み始めてぴんとくるわけです、これはほぼ間違いなく、おもしろいかどうかの境界線をしっかり飛び越えてくる作家だぞ、と。
軽めのテイストでわかりやすく、読者への負荷は少ない。でも、言いたいことはきちんと書いているし、表現だって上手です。短編作品だということがあるでしょうけれども、冗長さとは対極にある作品集です。丸くて軽くて柔らかい言葉でできているのに、無駄がない感じ。とってもおいしい水ベースのカルピスみたいです、いや、呑む人向けにいえばウイスキーの水割りでもいいのですけど。
そんな、気楽においしい本書から、いくつか引用を。
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「私、子どものころおばあちゃんに訊いたことがあるの。本のどこがそんなにおもしろいの、って。おばあちゃん、何を訊いてるんだって顔で私を見て、『だってあんた、開くだけでどこへでも連れてってくれるものなんか、本しかないだろう』って言うんです。この町で生まれて、東京へも外国へもいったことがない、そんな祖母にとって、本っていうのは、世界への扉だったのかもしれないですよね」(「ミツザワ書店」p164)
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→開くだけで別世界に連れて行ってくれる。これは、現実のつらさから逃れてそれを忘れていられるひとときを与えてくれる、っていう言い方もできると思うんです。本を読むことって、ほかにもいろいろな思いもかけない効能がある、そんな気がするときのことを思いだせてくれます。
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「あたし、もうそろそろいくんだよ。それはそれでいいんだ。これだけ生きられればもう充分。けど気にくわないのは、みんな、美穂子も菜穂子も沙知穂も、人がかわったようにあたしにやさしくするってこと。ねえ、いがみあってたら最後の日まで人はいがみあってたほうがいいんだ、許せないところがあったら最後まで許すべきじゃないんだ、だってそれがその人とその人の関係だろう。相手が死のうが何しようが、むかつくことはむかつくって言ったほうがいいんだ」(「さがしもの」p179-180)
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→たぶん、これを言ったおばあちゃんは、ウソや偽りが嫌いなんでしょう。ひねくれた人が放つ、ひとつの哲学的知見でしょうか。現実世界で接すると骨が折れそうですけれども、こうやって物語世界に登場すると、物語に生気が濃く宿る感じがします。
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「死ぬのなんかこわくない。死ぬことを想像するのがこわいんだ。いつだってそうさ、できごとより、考えのほうが何倍もこわいんだ」(「さがしもの」p183))
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→これもひとつまえのおばあちゃんとおなじおばあちゃんの哲学です。想像するから動けなくなるんだっていうのはよく言われます。つまり、「案ずるより産むが易し」の「案ずる」が想像ですから。でも、だからこそジョン・レノンは「イマジン」を歌ったのかもしれません。想像してごらんよ、と。そうすれば戦争なんかできなくなるから、と。
というところですが、やっぱり売り物としての文章であり作品だなあと思いました。プロフェッショナルです。読んでよかったので、角田さんの別作品も近いうちに仕入れようと思いました。
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